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リアクション
第九章 シャンバラ宮殿――大掃除――
観光ガイド一行はシャンバラ宮殿の建物内に入っていた。
成田 樹彦(なりた・たつひこ)に『空京ミスド』で逆ナンをしていた女性二人がまた声を掛けている。
仁科 姫月(にしな・ひめき)をナンパしてくる男性たちを言葉を発することなく、無難に退けてきた樹彦だが、自分自身がナンパされることには不慣れで困惑している。
姫月がそっと女性2人に近づく。二人はニット帽をかぶっているのだが……姫月は二人のそのニット帽に何かをつけるとすばやく一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)のところに戻ってきた。
樹彦に言い寄る女性にまた仁科 耀助(にしな・ようすけ)が声をかける。耀助には用はないのだと二人の女性は背を向けた。
耀助が二人のニット帽の後頭部を見て笑い出す。樹彦も吹き出して彼女らから離れてしまった。
耀助が笑いながら言う「えーなにこれ『つけま』? 地球で流行ってんの? 帽子にも”つけまつける”のー!!」
姫月がニット帽にくっつけたのは「つけまつげ」だった。あたかも帽子の後頭部が笑っているかのように2個ずつくっつけてやったのだ。
悲哀のとなりで姫月がしてやったりと笑っている。
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「リコに何してくれるわけ? このピンクモヒカン野郎!」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が叫ぶ。
「てめぇに理子っちが自分のおっぱいを誇りに思えるように出来るのかよっ! ああ?」
『ピンクモヒカン野郎』と呼ばれたゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が美羽に言う。
「――あのね、その……あたしの『心の闇』を掃除するって何?」
高根沢 理子(たかねざわ・りこ)はゲブーの申し出に引きまくっている。
「シャンバラ宮殿の掃除だろ? 宮殿の住人理子っちの『心の闇』をキレイに掃除してやるのが先だぜ!」
「『心の闇』とか『おっぱいへの誇り』って! そんな掃除必要ないの、あたしには!!」
そう言う理子に美羽が訊ねる。
「リコ、胸にコンプレックスとかあるの?」
「ないわよ!」
「だよね」
「俺様は知ってるぜ、理子っちー」
「――なにを?」
「ふっふっふ、忘れたのか。砕音のことだせ! あのヤロウ、『巨乳が好き』とか言いながら男と結婚したよな?」
「はぁ?」
「俺様はあのルシファー、ザナドゥの大悪魔のおっぱいを揉んで邪悪を揉みだした腕前の持ち主!
『【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路〜抗戦か、降伏か〜(第1回/全2回)P3』を参照だぜ!」
「なに、その活躍!?」理子と美羽が思わずつっこむ。
エステ用ローションを手にしたゲブーが理子に迫る。
「理子っちのトラウマ、《ミード・エステサロン G.O.D》で鍛え上げた”おっぱいエステ”で揉みだしてやるぜーー!!」
理子と美羽の二人が手にしている掃除用モップの柄をゲブーのモヒカン頭にこつんと当てた。
「あ・べ・し」
と言ってゲブーが床に倒れこむ。
「もう。倒れるほどじゃないでしょ、ゲブー。壁のお掃除、お願いね」
そう言った理子を床に転がったまま見上げるゲブーが言う。
「このアングル。いいもん見たぜー、おっぱいちゃん」
ゲブーの視線は理子の制服の上着とその下に着ているシャツの間にできた空間――つまり胸――に注がれている。
「えい」
理子と美羽は床のゲブーをモップで押し離した。
「リコ、今回はモップがけで競争だよ!」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と高根沢 理子(たかねざわ・りこ)がモップを構える。
「負けないわよ、美羽!」
蒼空学園制服を着た二人が左右に分かれて走り出した。
超ミニのスカートをはいた美羽は緑のツインテールをなびかせて走る。
美羽の走った後の床は美しく磨かれていた。
一方”理子っち”はというと、走るのは早いのだが、その走った床には磨き残した部分が出ていた。
理子は掃除がヘタなのだ。
しかし、理子っちの磨き残しは、しばらくするとなくなり、理子っち側の床もきれいに磨き上がっている。
ブラックコートで気配を消した紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が磨いていたのだ。
美羽と理子っちの勝負に加担しているわけではない。唯斗はひたすら無心に掃除していた。
天井と壁を歩けるようにモンキーアヴァターラ・レガースを装備している唯斗は、
ゲブーと理子っちの”おっぱいエステ騒動”が終わるまでに天井を磨き終えていた。
競争に熱中している理子は自分の磨き残しをなくしている唯斗の気配に気が付いていない。
美羽と理子っちはほぼ同時に終着点でモップを突き合わせた。
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が二人に言う。
「今回の競争は引き分けです。綺麗になりましたね。美羽さんも理子さんもお疲れ様でした」
「やるわね、リコ」
美羽が理子側の磨き上げられた床を見て言う――実際は唯斗が大いに貢献しているのだが。
「美羽、あなたもやるわね」
理子が美羽の磨き上げた床を見ながら美羽の健闘をたたえて言う。
唯斗は美羽が磨いた側の床を見て
『こっちは綺麗になっているな。あとは壁か。さ、お仕事お仕事。今年の汚れは今年の内にってな』
と壁の掃除を始めた。
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は宮殿の壁にかけられている絵の額縁を拭き掃除しながら言った。
「高価そうな絵であります。もし市場に出て競売にかけられれば……車両の1台分はまかなえるのではないかと推測してしまうのであります」
コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が吹雪に答えて言う。
「出所がこのシャンバラ宮殿だとすぐに足がついてしまいますよ……」
「この陶器も高価そうであります。この大きさ、緻密な彩色……中古のイコンならば」
「吹雪――あなた、さきほどからずっと値踏みばかりしてますよ」
コルセアが少し呆れ顔で吹雪に言う。
「シャンバラ宮殿には初めて入ったのでありますが、さすが高そうな物ばかり置いてあるであります」
吹雪がシャンバラ宮殿内の掃除に志願したのは、まだシャンバラ宮殿に入ったことがなかったからであった。
「この立像も立派なものでありますが……この人物は?」
吹雪の疑問にコルセアが答える。
「こちらは”前シャンバラ女王アムリアナ・シュヴァーラの像”になります。
古王国最後の女王にして、現在のシャンバラを国家として復活させた偉大なる国家神です」
「じゃあ、こちらの吸血鬼の立像は――」
「お察しの通り、”現シャンバラ女王アイシャ・シュヴァーラ”の立像です。
アイシャ様が現在、国家神としてこの宮殿の地下にある『祈りの間』にいらっしゃるのはご存知ですよね?」
「それで今現在、西シャンバラは高根沢理子様が。東シャンバラはセレスティアーナ・アジュア様が代王となっておられるのでありますね」
「そうです。お二人ともアイシャ様とは契約者の関係です」
「それではこの立像は重要な記念碑とも言えるわけでありますね」
「はい。このシャンバラ宮殿そのものも歴史的モニュメントであるとも言えます」
「ますます掃除に気合いが入るのであります! それではアイシャ様の像を……」
吹雪がアイシャの立像を拭き掃除しようとしたその時、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)がアイシャの像の胸に飛びついた。
「理子っちの大事な契約者、アイシャのおっぱいを綺麗にするぜ!」
吹雪とコルセアが思わず悲鳴をあげる。
すると、アイシャ像の背後から、柄付きハンドモップを手にした紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が姿を現して言った。
「”アイシャ様”は俺がもうきれいにしてありますよ……」
ゲブーはアイシャ像の胸のふくらみを指で確認する。
「おっぱいに全然ほこりがついてねぇ」
「”アムリアナ様”も掃除、終わってます」
唯斗がゲブーと吹雪たちにそう言った。
吹雪とコルセアの悲鳴に理子っちと美羽とベアトリーチェもやってきた。
「ゲブー、またおっぱいさわってるわけ?」
理子っちがそう言うとゲブーはこう答えた。
「このアイシャほど大きくねぇ理子っちのおっぱいにもセレスティアーナ・アジュアみたいなつるぺたなおっぱいにも
どんなおっぱいにも価値はあるもんなんだぜー理子っち。
自分のおっぱいの大きさを愛せるようになるまで、俺様が揉みまくってやるからいつでも声をかけるんだなー」
「おっぱいはもういいから。ゲブー、壁の掃除は終わったの?」
この理子の問いには唯斗が答えた。
「壁の掃除も、天井も床も、陳列品もみんな終わってます。立像も今、終わりましたよ」
唯斗がひらりと床に着地する。
「それでは、宮殿内の掃除、完了!!」
理子っちが掃除の終了を宣言して、みんなを連れて宮殿前公園に移動した。
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