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ふーずキッチン!?

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ふーずキッチン!?
ふーずキッチン!? ふーずキッチン!?

リアクション



【通り】

「ただいま、店内入場制限を行っております。
 ここからですと入店まで一時間の……」
 鮪と女の子の絵、の横に「もうちょっと待ってね♪」というファンシーなのかおたくっぽいのか良く分からない最後尾札を持っている北都の横で、
リオンが声を張り上げて頑張っている。

「これで何とか一旦落ち着くといいけど――」
 息を吐いたジゼルの目に、見知った顔が映った。同じ学校に通う高峰 雫澄(たかみね・なすみ)だ。
 ただし学年が違うこともあって近頃めっきり顔を見ていなかったから挨拶はこうである。
「やぁジゼルさん、久しぶり。……元気だった?」
「……元気に見えるの?」
 選択肢を間違えました。
「…………うん、良かったら僕にも手伝わせて貰えるかな?」
 ジゼルの目が光った。気がした。これは正解らしい。
「難しいことやろうとするとかえって邪魔だろうけど、雑用っぽいことなら出来る、かな」
「…………雑用」
「完全に飛び入りだし、大した事出来ないだろうけどね。あははっ」
「出来るわよ」
「へ?」
「雑用。たーっくさんあるわよ。テーブルリセット、皿洗い、皮むき、足りない食材の買出し、足のマッサージ」
「最後のほう最早雑用ですらないよね」
 突っ込みを無視して、ジゼルは続けた。
「取りあえず倉庫に行って厨房に玉ねぎとミネラルウォーターを運んで欲しいの」
「どのくらい?」
「玉ねぎ10箱ミネラルウォーター20箱」




「うん?」

「出来るわよね、契約者なら、出来るわよね」
「……よーし、ぱぱがんばっちゃうぞー」



【バックルーム】

「詩穂ちゃんって本当に凄いね、さっきもあんな大きな鮪運んじゃうんだもの」
「そんなこと無いです、あれは気合、気合」
 休憩に入っていた寿子と詩穂がお茶を飲みながら談笑している。
 詩穂は、プライドにかけて大量かつ巨大な鮪を会場から厨房に運ぶという諸行を、ほぼ一人でやってのけたのだ。
「私なんてもう完全に疲れちゃって……」
「バイトも経験です。
 懸命に打ち込めば寿子さんの作品を描くためのヒントやネタも転がってるかもしれませんよ」
「ネタ? えびとかサーモンとか?」
「え、いや、寿司のネタじゃなくて……
 しかも鮪じゃないし」
「あ、ネタといえば、北都くんとリオンくんってどんな関係なのかな!?」
「……え?」
「あの二人さっき入り口で列整理してたのね。それでリオンくんががんばって、列を二列とか三列とか凄く細かくやってくれて
新しく着た人もわかりやすいなーとかおもってたんだけど、それでも間違っちゃった人がいて。なのにリオンくんってばそういうお客さんにも
きちんと笑顔で対応できてて、その笑顔がまたきゃわわって感じなんだけど、そこはまあおいといて。北都くんもお茶入れたりとかそういう担当
してくれてたでしょ。でもリオンくんが一人で頑張ってるのみつけたら、入り口に行って颯爽とヘルプしちゃって。え? まさかの?
年下攻め? 的な? けど女房的な、包容力高くて「もうだめなだなー」みたいな事言いながらもアレな時は「あっ……だめ……」みたいな
関係も滾るっていうか大体あの二人なんなの!? なんで犬耳もふもふしたりとかしてもうっもうっはううううう」
「おっ落ち着いて寿子さんっ!」



【ホール】

 ホールの中に、控えめなメールの着信音が聞こえてきた。
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)の娘、セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)は、画面を開いて受信したメッセージを確認する。
 彼女は蒼空学園へ書類を届けに行ったあとだった。
『Sub:お使いご苦労様でした

 こちらは作業が予定の時間よりも押し気味です
 昼食を買ってくる時間が惜しいので、何か買ってきては頂けませんか?
 揚げ物以外であれば、ボクが食べられそうなものなら何でもOKですよ

 Alt』
(パパーイからだわ。
 ……今からお店を探して買っていくのも大変だし、ここのマグロ丼でもいいかしら)
『Sub:Re:マグロ丼はどう?

 丼?…チャイナボールですか?
 でも、話を聞く限りでは日本食のようですね
 箸は苦手なので、スプーンがあれば食べられると思います

 Alt』

(スプーンね)
 セシリアは周囲を見回して、近くでテーブルをリセットしていた男性店員に声をかける。 
「おにーさんすいませーん、注文良いですか?」
 携帯はなおも受信を告げている。
『Sub:ありがとうございます
 入試書類の一次選別が終了しました、やっとです
 今はコーヒーを飲んで休憩しているところですよ
 ところでシシィ、ツァンダから海京まではかなり距離がありますよ
 生ものでは傷んでしまうのではありませんか?
 昼食は火の通っているものや、パンで構いませんので
 無理や無茶はしないで下さい
 
 Alt』

 店員はすぐにセシリアに気づいたようで、隣に立っていたようだ。
「すみません、注も……」
「ういす、何にしましょ……げ、ツェツェ!」
 画面から慌てて目を離すと、店員は意外にも彼女がよく知っている人間だった。
「……あれ? タイチ?
 何でここにいるの? しかも変な服……」
「いやあのその何だ……バイトだバイト、ちょっと入り用があってな」
「入り用?
「ま、いっか、注文注文っと」
「マグロの漬け丼さび抜きで一つ、と持ち帰りでマグロ丼一つ。
 ……スプーンつけて」
 どうしてもさび抜き、に反応してしまう。
「……ぶっ
 お前まだわさび食えねぇのかよ!」
「ワサビは鼻につーんと来るのが……うん、苦手だわ
 イヤなものはイヤなのよ!」
「あーわかったハイハイ、さび抜きね、あとおみやげ用丼一つ」


 暫くして、太壱が帰ってくる。
「ほれ、注文したヤツな
 それと、おみやげはこっちだ
 ご飯と具は分かれたセパレート式らしいぜ
 氷術かけて冷やしてあるから、安心してオヤジさんの所に持ってけ」
「やは〜ヅケ丼だぁ!
 ミタラシソースに漬かっているマグロが美味しいのよね」
「ミタラシソースって甘いんだろ?
 ……そんなにいいのかねぇ」
 セシリアのテーブルから去っていくタイチの姿を、ジーナと新谷が見守っている。
「ニヤニヤしてやがりますねぇ」
「あからさまに嬉しそうだな」
「ジーナ、マモル、お前達は何やってるんだ?」
 後ろから現れた樹に慌てて弁解しようとしているジーナ達に、樹は何かを察しているようだ。
(あ? ……バカ息子の様子を観察していたんだな)
「……そう言えばわざと「クリスマスパーティー」の時に二人きりにしたのだが

 あの後何かあったのか?」
「えっと、それは何もありませんでした! ええ、何も!」
「ジナ……確かに何もなかったけどよう……」
 二人のことを思って色々な考えがめぐらされているのを知らずに、太壱は仕事へ戻っていく。
 セシリアは、メールの続きを打ち終わっている。 
『Sub:ヘリファルテですか…

全く、キミらしい行動です、シシィ
傷んでいたらどうするかは、シシィに全てお任せしますよ
…ところで、今月の17日は誕生日と言っていましたね
何かプレゼントを準備した方がいいのでしょうか?

Alt』

 誕生日。
 その言葉で、セシリアは思わず小さく呟いていた。
「タイチ、わたしの誕生日、覚えてる?」

 太壱が、セシリアの為のプレゼント資金を稼ごうと、必死でアルバイトをしていることを知らずに。