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狂信者と人質と誇り高きテンプルナイツ

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狂信者と人質と誇り高きテンプルナイツ

リアクション

「これは……何が起きたというのだ」
 人質を助け追え、グリーンパークの表道へ出た途端エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は目を見開きながら驚いた。
「あれは警察と……警察……警察が味方同士で争っているね」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は興味深そうに話した。
「なるほど……ありがとう、麗しきお姉様」
 エースは木々に「人の心、草の心」で話していた。
 すると興味深いことが分かった。
「マリアどころではない、助けに入った契約者達が心配だ。それに人質も」
「どういうことかな?」
「どうやら、テロリスト達だけでは無く警察、軍隊までもが自我を無くし襲いかかってくるらしい。無差別に」
 エースとメシエは、あたりを見回す。幸いその場所には人質はもう居ないようだった。
 しかし、向こうからやってくるたくさんの人影が見えた。
 管理棟へ向かっていたマリア達だった。エース達はそちらへと駆け足で向かう。

「無事でなによりだ。ところで何がおきたんだ?」
「主犯はグランツ教の教徒だけではなかった……エッツェル・アザトースも一枚かんでいたんだ」
 エースの質問に答えたのは早川 呼雪(はやかわ・こゆき)だった。
 マリアはその後ろに居るヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)に肩を担がれていた。
「人質の方は……全員脱出できたのでしょうか」
「それは――」
「人質なら全員救出完了だぜ! あとはお前たちだけだ」
「彼方! と、それにく、熊?」
 脇の茂みから、彼方と熊が出てきた。
 マリアは目をぱちくりさせたまま、熊を遠目で見つめる。
「にゃ〜んっ」
「今、にゃ〜んって鳴いたよな?」
 熊の鳴き声に呼雪は怪訝そうに熊を観察し始める。
「え、やっぱ変? じゃあ――」
 熊の腹部から、人間の手が伸びる。さながら、スプラッタ映画を思い出させる光景が突然始まった。
 そして、数秒後中から出てきたのは裸姿の変熊 仮面(へんくま・かめん)だった。
「なんでそんなの来てるんですか……」
 その場に冷たい空気が流れる。

「もうきてしまったか」
 ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)は後ろへ振り返ると、そこにはたくさんの軍隊がいた。
 いや、正確には先ほどまで軍隊で味方だった人間が、契約者達に襲いかかろうとしていた。
「よくわからないが、味方、的関係なく襲ってくるということかな?」
 軍隊同士で剣を刺し合っている様子を見ながらエースは、エルに聞く。
 ヘルは、肩を一瞬竦め、ため息をついた。
「ああ、そうらしい。で、思ったんだけど回復系のスキルなんかで治るんじゃないかな?」
 閃いたとばかりに人差し指を立てながらヘルは、小雪を振り向いた。
 しかし、小雪の表情は極めて厳しいものだった。
「無理だ。さきほどやってみたんだが、跳ね返されてしまった」
「それじゃあ。『ヒプノシス』で……」
 ヘルは、ヒプノシスを暴れる軍隊達にかけようと試みる。
 しかし、変化はまったくなかった。
「どうなってるんだいこれは」
「……あの娘、ロザのやったことはそれほど強力ということですね……」
 マリアは先ほどのエッツェル、そしてロザの行動を思い出した。
 部屋中を巻き込んだ、ロザのモヤ。あれが、すべての原因なのは確かそうであった。

「どうするだい? このままだと私たちも同じようになってしまうんじゃない?」
 笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)は手元にライフル銃を構え、前に出た。
 呼雪も同じように前に出ると、弓を取り出す。
 すでにグランツ教のテロリスト達もこちらへ向かって歩み寄ってきていた。
「ここまでくると、もはやグランツ教の人たちを殺さずにというのは無理です……よろしいですか?」
 呼雪は後ろを振り向き、マリアに聞く。
 マリアは答えも、頷きもせずただ黙っていた。

「……前、後ろ、左右にまで居るか……くるよ!」
 テロリストや警察達は次々とマリア達に襲いかかってくる。
 メシエは行動予測を使い、あらかじめテロリスト達や警察が出てくるところを予測し、全員に伝える。
「……あまり良い気はしないね、一般人を弓で撃つというのは。それにマリアとかいうグランツ教の幹部を守るのもあまり好ましくない」
「私達の命もかかっているのだ仕方ない……相手に女性も混じっているのがいささか気にくわないけど」
 エースは元々、グランツ教の協力をするのは嫌だった。
 しかし、罪の無い一般人を助けるためならと、ここに来ていたのだった。
 エースはサイドワインダーで横に並ぶ敵を一掃、メシエは裁きの光を頭上から与えながら、自分たちの周りに居る警察、軍隊をを次々と倒していった。

「どわあああっ!?」
 変熊の声が突然響く。
 いつの間にか変熊は、先ほど脱ぎ捨てていたはずの「ゆる族の抜け殻」を再び着て戦っていた。
 が、それが仇となった。「ゆる族の抜け殻」の裾に足を取られ、見事に地面に尻餅をついていたのだった。
 好機とわかってなのか、無防備な変熊めがけてつぎつぎと、テロリストや警察達はおそってきた。
 紅鵡は、遙か後ろからしゃがみ込み1人1人、狙いをつけ「スナイプ」で次々と倒していく。
「な、何をやってるんだよ!」
「助かった〜!」
「そんなこと言う暇あるなら、早く起き上がって!!」
「はいっ!」
 呑気に立ち上がろうとする変熊に、紅鵡は怒るように叫ぶ。
 変熊は思わず背筋を伸ばしながら、勢いが余りジャンプするくらいに素早く立ち上がった。」
「囲まれたか……」
 紅鵡はライフルから目を離すと、周りを見渡した。
 気がつけば5メートル以内まで敵は歩み寄ってきていた。
 近づいてくる敵を、スナイプではなく近距離射撃で対応していく。
 そして、倒し終われば再びスナイプで、他の人を助けるの臨機応用の繰り返しだった。


「このままだと、拉致がこちらが先にやられてしまうぞ!」
 思った以上の数に呼雪達は苦戦していた。
「入り口まで脱出できれば……」
「お、入り口まで脱出できれば良いんだな!」
 マリアのつぶやきに、変熊はにやりと笑みを浮かべながら答えた。
 変熊は、右腕を上に上げると指パッチンにより音を響かせた。

「ガルルルルーッ!!」
 黒い、体長18メートルはあるであろう巨大な熊が、木々を切り倒してマリア達の前に現れる。
「ニャァアアアアオオオオンっ!」
 巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)はまるで気分が高まってるかのように高らかと鳴いた。
「熊の鳴き声って「にゃぁ〜お〜ん」だっけ」
 エースがあごに手を乗せながら、首を傾げた。
 それをヘルが「ないない」と、手を左右に振って否定した。
「むう……熊だって鳴き声なんてなんでも良いとおもうんじゃがの……」
「あ、しょぼくれた」
「で、わしは何のためによばれたのじゃ?」

 変熊が、今までのいきさつとここから脱出したい旨を伝えると、イオマンテは再び「にゃぁああおおおおおんっ」と鳴いた。
「任せるんじゃ! わしの牙と爪さえあればこんなところは一発じゃ」
 そう言って、イオマンテは自慢の爪と牙を武器に、入り口までマリア達を導いてくれたのだった。