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【猫の日】猫の影踏み――消えたお菓子と契約者――

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【猫の日】猫の影踏み――消えたお菓子と契約者――

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『猫の襲撃をかいくぐり、屋敷の中へ』

●町外れの屋敷

 町外れに佇む屋敷は、今ではすっかり猫屋敷と化しているようであった。
 外からでは敷地内に住む猫の数を把握出来ないが、決して1匹2匹ではないようであり、正面から入ろうとすればたちまち襲われ、消されてしまう。

「屋敷の中、外に猫がたくさんいたら、あっという間に消されて調査に支障が出る……。
 というわけで、ボクと兄さんは猫ちゃんの快適空間を作るよ! みんなはその間に屋敷の調査を進めてね♪」
 そこで赤城 花音(あかぎ・かのん)リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)は、屋敷に住み着いている猫がついつい来たくなるような環境作りに着手し始める。
「猫ちゃんの快適空間と言えば! やっぱりコタツだよね!
 頭だけちょこん、って出して幸せ〜♪ な表情が可愛いんだよ〜」
「それは僕も同意はしますが、炬燵を選んだ理由は花音がそんな猫を見たいからではないですか?
 僕はご飯を用意します。用心深い猫の気を少しでも引けるといいのですが」
 屋敷に隣接する物陰に、花音が炬燵を設置する。電熱器は使用出来なかったので代わりに湯たんぽを入れ、余った分を周りに置いておく。リュートは別の場所に、猫のご飯や煮干し、ミルク、真水をそれぞれ小分けにして配置する。
「イルミンの学生寮だと、猫を飼う訳にいかないからね。この機会に猫ちゃんを一杯、モフモフしたいよぉ〜。尻尾の付け根を撫でた時の、微妙な、複雑な表情……あぁ、やっぱり可愛い♪」
「花音、気持ちは分かりますが、迂闊にモフろうとすれば触られて消されてしまいますよ。
 ……事件が解決したら、猫の面倒を町の住民が一緒になって行える仕組みが作られるといいですね」
「そうだ、『豊浦宮』で猫の里親探し、って出来ないかな? 後で豊美ちゃんに相談してみよう!」
 準備を終え、見つからないように離れた位置から見守る花音とリュート。リュートの言う通り猫は用心深い生き物ゆえ、設置した当初は猫の姿を認められなかったが、それでも辛抱強く待っていると1匹、2匹とやって来て置かれた湯たんぽを抱いたり、ご飯に口を付け出す。
「少しずつ増えてきていますね。これで屋敷の調査が楽になるでしょう」
「うぅ〜、こんなのを見せられて触れないなんて、生殺しだ〜。
 絶対、後でモフモフするんだからね!」
 見ていてほっこりとする光景を、リュートは微笑ましく、花音は悶えつつ見つめる。

百魔姫将キララ☆キメラ! 姫子さんがお呼びとあらば即参上! ですよっ。
 むむむ、ここが件の屋敷ですか。こう、禍々しい雰囲気が漂ってきますね」
 屋敷の正面入口に立ち、次百 姫星(つぐもも・きらら)が奥の屋敷を見つめている。
「……姫星、聞いていいかしら。何故あなたは猫の着ぐるみを被っているのかしら?」
「それはですね! ……えーっと、何かカッコいいこと言おうとしたんですけど思いつきませんでした。
 実はたまたま祭りがあると聞いて、来ていたんですよ。そうしたら契約者が消えてしまいました、姫子さん皆さん来ています、って話だったんで」
 何とも可愛らしい猫の着ぐるみを着て、あはは、と笑う姫星に、姫子がはぁ、と呆れるようにため息を吐く。
「……ん? どうした、リカイン。猫の着ぐるみが気になるのか?」
「ええ、まあ……気になる、といえば気になるわね。
 私が着たいんじゃなくて、あなたがこれを着たらどうかなぁ、って話で」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)に言われ、馬宿が複雑な表情をする。
「いや、俺が着ても似合わないだろう。いくら猫のお祭りとはいえ――」
「あら、そうとは限らないんじゃない? 試してみるのも一興じゃないかしら」
「…………、その機会があればな」
 話を切り上げ、馬宿は屋敷の方を見る。先程豊美ちゃんと魔穂香が消された時に比べれば、猫の気配は少なくなっているようであった。
「契約者が対策をしてくれたのか、今なら屋敷に潜入出来そうだな」
「そうね。……ひとつ気になるんだけど、馬宿君猫の声、聞こえないんだっけ」
「……俺がそんな設定だったか俺自身覚えてないが、流石に心の声は聞けないぞ。
 もし俺が心の声が聞けるようになったら、リカイン、君は困るのではないか?」
「それは……そうだけど。そこはほら、都合よく聞こえる時と聞こえない時があるって感じでいこう」
「簡単に言ってくれる。……まあ、おば……豊美ちゃんを見ていれば、多少の無茶振りも叶ってしまうのだろうと思える。
 力を高める事それ自体は、好ましい事だろうからな。……では行きましょう、姫子様、皆様」
 馬宿の言葉に一行が頷き、屋敷の入口へ向かう。豊美ちゃんと魔穂香が消された場所を過ぎ、枯れた噴水を通り過ぎ、着実に近付いていく。
「豊美さんも魔穂香さんも居ない今、姫子さんと讃良ちゃんが魔法少女をやられてはどうでしょう?」
「讃良はともかく、私は魔法少女という柄ではないぞ」
「いいのではありませんか? 豊美ちゃんも『魔法少女になりたいと思う気持ちが大切』と言っていましたし、相応しい相応しくないはないでしょう」
「…………、そこまで言うなら、私とてなりたくないわけではない」
「ホントですか? じゃあ姫子さんも――」
「ただし! 姫星、おまえが私と讃良の魔法少女な二つ名を考えられたら、だ」
「ええっ!? 姫子さんサラリと無茶振りしましたね!?
 うーんうーん、ああでもないこうでもない……」
「考え事してると、豊美や魔穂香のように消されるわよ」
 そんな会話を交わしつつ、一行は無事、屋敷の入口へ到着する。
「開けるわよ、いいわね?」
 リカインが扉に手をかけ、押し開く。中から漂う特有の香りに混じり、不快感を覚える匂いに一行が顔をしかめる。
「中で何かあった、と見ていいな。さて、どこから調査する?」
「皆さん、ここに屋敷の見取図があるみたいですよ」
 姫星が玄関脇に掲げられていた見取図を指さす。そこに描かれていたのを大まかにまとめると、以下のようになる。

・地下1階:実験場
・1階中央:広間
・1階左 :研究員の研究室、書斎
・1階右 :食堂やトイレ、風呂、倉庫
・2階左 :私室等

「2階右は、ここには無いわね。いかにも怪しい」
「他の契約者次第になるが、調査候補ではあるな。
 ……先を行きましょう、豊美ちゃんと魔穂香さんの事もあります」
 見取図の情報を覚え、一行は広間を階段を目指して進む。