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壊獣へ至る系譜:機晶石を魅了する生きた迷宮

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壊獣へ至る系譜:機晶石を魅了する生きた迷宮

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■ 機晶石を魅了する生きた迷宮 ■



「変に不気味ね……、音もなく、殺気も感じないんて」
 奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)の囁きに、雲入 弥狐(くもいり・みこ)は同意と頷き、ぷるぷると細かく顔を横に振った。
「無音が……なんだか耳がちょっと痛いよ」
「殺気看破は意味が無さそうね」
「そうだね。みんな何かと遭遇したって連絡無いしね。でもうーん、気配はしてるんだよね」
「え?」
「すっごく見られてるよ」
 野生の勘故にその視線の感触はとても強く、弥狐は誰が見てるのかときょろきょろと周囲を見回し、こっちから視線を感じる、あっちから視線を感じると周りを検分するが殺気看破には何も反応が返ってこないうえに誰かが居る気配もしない。
「殺気がない……悪意はないのね」
「でも、見られているのは気持ち悪いよ」
 と、超感覚で鋭敏になった二人の耳が響く靴音を拾った。
 互いに顔を見合わす。
「音が聞こえるってことは道が繋がっているってことよね」
「分かれる前に合流しよう! 調査員か救助隊の人ならいいね」
 上の方に続いている道に向かって、沙夢はバーストダッシュで駆けた。



 静かに動く迷宮同然の洞窟内で、上手い具合に他の人間と離れることができた佐野 和輝(さの・かずき)は一緒に行動していて前を歩く破名の肩を軽く叩いた。
「ずいぶんと面白い状況に巻き込まれているものだな」
 顔を知っている者同士の話をするつもりだったのに、驚き振り返った破名の表情に和輝はむっとした。
「あ、ああ、すまない。呆けてしまった。これだけの機晶石の量なら報酬が期待できそうで交渉しようかどうか悩んでいた」
 お金の話だと気づいた和輝が、なんだ本当に仕事で来ていたのかと呆れる。
「孤児院か?」
「耳が早い。と、アニスそこ足元気をつけて。『ダンタリオンの書』も。っておまえは本当にルシェード側だなぁ。あんまりあの女に関わるなよ。碌な魔女じゃないんだから。それと、孤児院の事は絶対に言うな」
 にやにやと機嫌よくアニス・パラス(あにす・ぱらす)と不機嫌に無言のままな禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)とに注意を促したり、悪魔は饒舌である。
「てもなぁ。あの黒髪の男にも聞かれたけど、本当に何もわからないからなぁ。面白い状況って茶化すわけにはいかないぜ?」
「お得意の転移があるだろう。どうせそれで一番先に出てきたんだろうが」
「あー、あれは本当に偶然だ。偶然というか、出された」
「出された? どうして?」
「さぁ、どうしてだろうなぁ」
 それに条件が悪くてにここじゃ飛べないと肩を竦めた破名はアニスに視線を向けた。
「アニス、グラビディコントロールで上の通路に行けるか?」
 聞かれてアニスは和輝の影に心持ち隠れるように身を寄せて、こくりと頷いた。
「随分と断定的なのだよ。本当は何か知っているのではないか? それとも罠にでも嵌めるつもりか?」
 元々目的の一つ喋らない悪魔に疑惑の眼差しを向けてくる『ダンタリオンの書』の言葉は直球である。
「そう言われると返答に困るが、まぁ、例えば向こうにさ」
 破名は指さした。その動きに三人は同時に後方に振り返った。振り返って破名の台詞の続きが聞こえず、視線を戻すと、その場に破名の姿は無かった。
「(破名!)」
 勝手な行動をとテレパシーを送る和輝に、
「(一緒にいると出される可能性が高いだろうし、行けるなら俺の代わりにちょっと奥まで行って欲しいと思ってな)」
なんて、声が続いた。
 他者に掛ける迷惑度は魔女となんら変わらない悪魔である。



 洞窟調査の任務。それに従事していたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は動くために出鱈目なマッピングを繰り広げる末端をぐりぐりと弄っていた。
 彼女は一向に帰れる道の発見どころか現在地の把握すらできず、複雑になっていく内部構造に焦りを覚え始めていた。
「んー、出鱈目なのは位置情報かしら」
「完全に迷ったというより、迷わされたというか……嫌な感じね」
 周囲の安全を確認したセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に、セレンフィリティは「よーし」と言わんばかりに一度大きく伸びをした。
「行こう」
「え?」
「考えたって仕方ないし、一箇所に居るよりは、進むなり戻るなりした方がマシと思わない?」
 トレジャーセンスを展開させるセレンフィリティに、確かにそれは正論だけどでも無謀では? とセレアナは進言した。
「触りだけだけど殺気看破には何一つ引っかからないし、トラップ解除しようにもトラップも見当たらない。ぶっちゃけ何も判らないなら、こっちから飛び込んで進展でもしたら儲けものじゃない?」
「…………そうね。じゃぁ、一度皆と連絡を取りましょう。私達二人だけが道に迷っているわけじゃないし」
「集団でバラバラ迷子かぁ。心強いのか、心許ないのか、変な感じね」
 考えは前向きになってるが、帰れる確信が持てない今、不安は決して拭えない。
 進んでも進んでもどこかで見たような光景に、もしかして同じ場所を歩かされているのか、または、深入りしすぎて戻ることが出来ない場所まで来てしまったのではと焦燥感が募る。
「セレン?」
 突然セレアナがセレンフィリティの腕を掴んだ。
「大丈夫?」
 労う恋人に、自分一人でないことに気づいたセレンフィリティは大きく深呼吸して、頷いた。
 同時にトレジャーセンスが方向を指し示した。



「にしても本当に綺麗ー」
 感嘆の息すら漏らしたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の動向にハッと我に返った。
「あっあっ、救助が先、救助が先だよっ」
 無言で機晶石を採取しようとハンマーとメスを握り締めるダリルの腕に飛びついて、引き止める。
 止められて、ダリルはルカルカを見下ろした。
「俺の興味は救助よりも洞窟の正体に有る……まるで生物の内部を連想させる」
「ま、まぁ、わからなくもないけどぉ」
 ルカルカの眼差しにダリルは軽く咳払いをした。
「……が、少なくとも同僚の危機より調査を優先はしない……つもりだ」
 言うが、最後にちらっと機晶石に視線を配ってしまった辺り、完全に信用できない。
「むー、せめて梅琳と合流してからね。ね?」
 とりあえずハンマーとメスをしまってとルカルカに促され、渋々と道具を隠しに入れるダリル。
 再び機晶石に視線を移したルカルカは思案に首を軽く傾げた。
「梅琳達と合流したら脱出しないとだけど」
「容易には出られないだろうな」
「これなら思い切って奥まで行って道が変わっちゃう原因を突き止めた方がきっと早いよね」
「それはなんだ、提案か?」
「考えの一つね。伴うリスクはきっと高いわ」
「俺が反対するとでも?」
 頭脳担当のパートナーにお伺いするも、ダリルのしれっとした表情に、余程興味があるんだろうなとルカルカは察した。
「ここまで安全だったけど、安全とは限らないし。指示を出してるのは梅琳だから相談しないとーってやつだけどね」
「行くか」
 ダリルの呼びかけにルカルカは再び歩き出した。