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湯けむりお約束温泉旅行

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湯けむりお約束温泉旅行

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2.湯けむり温泉 ――すてき発見御一行様

「えぇ、混浴!?」
「そうじゃ。せっかく温泉に来たのじゃ。皆とわいわい楽しむのじゃ」
 アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)の驚愕を余所に、神凪 深月(かんなぎ・みづき)はさくさくと混浴風呂の貸切手続きを進めていった。
 かくして、『世界すてき発見』の御一行様、湯けむり温泉にご案内。
「あ、分かってると思うけど水着やタオルを巻いて入るなんて温泉に対する冒涜だからね?」
 そう宣言して、糸一本身に着けず、全身で温泉を堪能するのはエメリアーヌ・エメラルダ(えめりあーぬ・えめらるだ)
(そうは言っても、野郎のポロリなんて誰も見たくないだろうしな……)
 無難にそう考え、水着を着用する十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)のような者もいる。
 せめてもの良心で、湯けむりがいつもより多めでがんばっております。
「ふふ……いいお湯だね〜、深月ちゃん」
「そうじゃのう」
 最初は恥ずかしがっていたものの、次第に状況にも慣れ、リラックスして温泉を楽しんでいるのはオデット・オディール(おでっと・おでぃーる)
「あ、レナートさん……ですよね。はじめまして」
「やあ、はじめまして」
「こんな恰好で失礼します」
「いやいやお互い様だし」
 初対面のフェレス・レナート(ふぇれす・れなーと)に、お湯の中でこんにちは。
 お湯が揺れて、オデットの際どい所が見えそうになったりするがフェレスはあくまでも紳士的。
(あぁもう、オデットったらもうちょっと緊張感を持ちなさいよ!)
 傍で見ているフランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん)の方がはらはらする始末だ。
 そんなフランソワの心配をよそに、オデットと深月たちは洗い場の方へ。
「アリア、一緒にオデットの背中を流すさー!」
「深月も一緒にオデットさんの背中を流すですのー」
「わ、わ、ありがとう……でもそんなに大勢で流してもらうのって、なんだか恥ずかしいような……」
 深夜・イロウメンド(みや・いろうめんど)アリア・ディスフェイト(ありあ・でぃすふぇいと)がオデットの背中を洗おうと、揃ってスポンジを泡立てる。
「ふにゃー!」
「あれ?」
 スポンジから変な声が聞こえた。
「大丈夫? なんだか変な声聞こえたけど」
「問題ないよー、それはワタシの分身だから……」
「ち、違うでふ……」
「ありゃ?」
 黒猫かと思っていたスポンジがしゃべりだしたので、深夜は目を丸くする。
 よくよく見ると、それはスポンジでも黒猫でもない、リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)だった。
「スポンジと間違えるなんて、ひどいでふ……」
 うるうる涙目で深夜たちを見上げるリイム。
「ひゃぁあ、ごめんごめん!」
「……!?」
 深夜は慌てて泡を流そうとするが、驚いて深夜に隠れようとするアリアに腕を捕まれ上手くいかない。
「め、目に泡がはいるでふ〜」
「ご、ごめんなさいね……」
 オデットと深月も慌ててそこに加わり、最終的には全員で丁寧にリイムを洗ってブラシをかけてあげることでなんとか落ち着いた。

「さあ、今度こそオデットさんの背中をごしごしするんですのー!」
「きゃっ、アリアちゃん、抱きついたら洗えないよう……」
「深月ー、胸、またおっきくなったー?」
「ふぉ!? 深夜め、よくもやりおったな……!」
「うひゃあ!」

「……どうしてこうなったんや……」
「……そういうのは男女別風呂のときにしてちょうだい……」
 オデットたちがきゃっきゃと泡にまみれているのから必死で目を逸らし、その視線を茫然と宙に彷徨わせているのは狼木 聖(ろうぎ・せい)とフランソワ。
「ま、あれだ。一杯どうや」
「あらありがと」
 色々なものを諦め、聖はひとまずフランソワに酒を差し出す。
「ん。いいお酒ね」
 エメリアーヌと宵一が用意してきた酒。
 中でも宵一の酒は、超有名銘柄の日本酒だったりする。
 温泉に入って、とびきりの酒を酌み交わしながらの裸の付き合い。
 おまけに傍らには楽しそうな仲間がいる。
 それが楽しくないわけがない。
「……たまには、こんな一日も悪くないわな」
「そうねえ」
 しみじみと、杯を交わす2人。
(ぐ。ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……)
 そんな二人を余所に、苦悩する男が一人。
(見ちゃ、見ちゃならねえ! 煩悩を振り払え!)
(いやいやいやこんな好機はもうないぞ! 見るんだむしろ見てくださいお願いします!)
 アルクラントの中で、2人の紳士が戦っていた。
 一人は確固たる紳士。
 もう一人は、変態紳士。
(ええい俺がこんなにも苦しんでるってのに、なんで! 何故にあいつはああも平然としていやがる!)
 腹立ち紛れについ睨みつけてしまうのは、玖純 飛都(くすみ・ひさと)
 一人のんびり温泉に浸かり、タオルを頭に乗せ空など見上げ、堪能している。
(ええいくそ、飲むんだ飲まないとやってられるか!)
 一人、酒を注ぐとぐいと飲み干す。
(あ、アル君お酒飲んでる……)
 こそりと、アルクラントの苦悩とその内訳などには気付きもせず、彼の様子を見ていたシルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)
 彼女は彼女で、いまだに混浴の恥ずかしさに慣れず、ずっと温泉から体を出せないでいた。
(お酒……私も、お酒を飲んだら少しは気が大きくなるかな? アル君と、その、裸の付き合い……って変な意味じゃなくって! が、できるかな)
 そう考えた彼女は、酒に手を伸ばしてみる……
「うにゃー」
「し、シルフィア?」
 苦悩していたアルクラントは、突然シルフィアが温泉から飛び出してきたのを見て慌てて彼女から目を逸らす。
 一応、紳士が勝ったらしい。
 しかし、酔っぱらったシルフィアにその気遣いは全く通用しなかった。
「にゃによう、ありゅくん、わらしのからだにみりょくぎゃにゃいっていうにょ?」
「ちょ、シルフィア!?」
 アルクラントの両手を持ち、覆いかぶさらんばかりに彼の視界を占拠する全裸のシルフィア。
「はじゅかしいけど……わらしをみへよー」
 ぎゅ。
「ぷほー!?」
 シルフィアの攻撃に、争っていたアルクラントの中の紳士、二人揃ってダウン。
「ありゅえ? ありゅくんうごかにゃい…… うにうに。そうりゃ、おれっとひゃんも、みじゅきひゃんも、みんにゃにあいしゃつしてにゃかった……」
 ふらりと、歩を進める。
「みんならいすきりゃよー!」
 両手を広げオデットと深月たちの方に行くシルフィア。
(あれは……あれでいいか。ま、予想通りね)
 そんなシルフィアを横目で見ながら、エメリアーヌもまたお酒を持つと友人らの方に歩き出す。
 彼女もまた、気になっている人物がいたのだ。
「やってるかしら? お代わり、どう?」
「ふぁは!?」
 一糸まとわぬ姿でお酌に来たエメリアーヌを見て思わず変な声が出た。
 のんびりしていたフランソワは、自分の身に降ってわいた事態に対応しきれていない。
「どうぞ」
「ああああら、どうも……」
 エメリアーヌの注ぐ酒を受けつつ、その杯は揺れて揺れて大半が零れていく。
 フランソワ、はじめてのピンチだった。

(広い風呂は、いいな……)
 そんなこんなを全て超越して温泉を楽しんでいるのは、飛都。
 女の子のハダカもきゃっきゃうふふも全く気にしない、気にならない。
「――あれはあれでどうかと思うんですよね」
「はあ、まあ、なるほどね」
「時々、思うんです。もしかしたら一生あのままだったりするんでしょうかと……」
「いやそんな事ぁないやろ」
 矢代 月視(やしろ・つくみ)は、そんな飛都の反応が年頃の男の子らしくないと余計な心配を募らせ、思わず近くにいた宵一と聖に愚痴る。
 そんな月視の気遣い? に気付くことなく、飛都は一足先に温泉を出ると浴衣に着替えている。
(浴衣!)
 それにいち早く反応したのは、フェレス。
 お湯につかるオデットにも全裸の飛都にも反応を見せなかった彼だが、飛都の浴衣姿になると俄然妄想を膨らませてしまうあたり業が深い。
(浴衣……飛都の浴衣! あの胸の隙間に手を突っ込んであれこれ……)
「もしもし」
(裾から見える足にあれこれ……)
「もしもし!」
「……そこで紐で吊し上げてあれこれ……あ」
「やはり、よからぬ妄想をしていたようですね」
 フェレスの様子から、彼がまたよからぬ妄想をしていると判断した月視。
 つい口に漏らしてしまった彼の妄想に、月視のこめかみがぴくぴくと痙攣する。
「心配するな。まだ何もしてないから」
「何かしてからでは遅いんです。そんなに紐が良ければご自分で堪能なさってください」
 それ以上は何も言わず、フェレスを縛って吊り下げる。
(吊るす……これもいいな。こう縛っていると手足の自由が利きづらいからそこを狙って……)
 吊るされた位では、彼の妄想を断ち切ることは無理だったようだ。
 飛都の浴衣姿を長めては妄想を続けるフェレス。
 女の子たちのきゃっきゃうふふを背に繰り広げられる光景に、月視はただ頭を抱えるしかなかった。

 すてきな御一行様の時間は、続く――