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失われた絆 第2部 ~ゴアドー島の記憶喪失者たち~

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失われた絆 第2部 ~ゴアドー島の記憶喪失者たち~

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■幕間:探究者

 
 シャンバラ教導団とは別に、事件に対して乗り出す者たちがいた。
「本日7体目の白骨が郊外の森で発見、シャンバラ教導団が解決に臨む……か」
 新聞を読み進めながら玖純 飛都(くすみ・ひさと)は過去に遭遇した事件を思い浮かべる。件の事件で残された品々がヒラニプラに運ばれたという話を耳にした記憶があった。
「シャンバラ教導団か。新聞によれば長曽禰が主導で調査に乗り出しているとのことだが……たしか彼はニルヴァーナとヒラニプラを行き来していたな」
 玖純がゴアドー島に来たのは過去に遭遇した事件の調査でニルヴァーナへ向かうためであった。ニルヴァーナの調査にも参加している長曽禰から話を聞くのは自分の目的とも合致している。
「この事件のことも気がかりだしな、会いに行ってみるか」
 彼は呟くとシャンバラ教導団が駐屯している施設に向けて歩み始めた。



「旭くん、入管の資料あたったよ」
 山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)がファイルを戸棚に戻す。
 事件発生前後に回廊施設を利用した者と行方不明者とが一致しないかを調べていた山野が、該当する氏名をメモに認めて青葉 旭(あおば・あきら)に手渡した。
「何人いた?」
「一人もいなかったよ。行方不明者は島民だけみたいだにゃぁ」
「まあ……行方不明者の数を考えれば偶然の可能性も高いな。あまり有益じゃないか」
 玖純が長曽禰と出会う頃、青葉たちはシャンバラ教導団から得た情報を確認しながら入星管理局で調べ物をしていた。メモを手近な机に置くと、彼は教導団から提供された書類を読んだ。
「現在身元が判明している白骨、その人種もバラバラだ。遺品から容疑者の後ろ姿が確認されているが特定には至っていない。白骨に残された歯形が人のものであることからこいつが重要参考人になりそうだな」
 こいつ、と青葉は容疑者と目されている『後ろ姿の老人』と書かれている部分をコツコツと叩いた。
「長曽禰が拾ってきたという男……記憶喪失らしいが気になるな」
「その子の身元も捜査のついでに確かめてるみたいだよ?」
「記憶喪失になったから行方不明者になった、という可能性もあるか。だが捜索願が出されている人たちの中に該当するものはなかったらしいな」
「まだ捜索願が出ていないだけかもよ」
「そうかもな」
(記憶喪失のやつは若い男、老人じゃないが……)
 考えるように天井を見上げる。
 目に映るのは乳白色の蛍光灯だ。
 よく見れば壁の一部が剥げていた。
「ここも建ててから結構時間が経ってるな」
「旭くんの髪はまだ大丈夫にゃ」
「……誰も頭の心配はしていない」
 はあ、と青葉はため息を吐く。
 何か見過ごしている、彼はそんな感覚を覚えながら窓の外を見た。
 どこかで見たような集団が施設の中にやってくるのが見えた。



「大尉に手伝ってもらえるのはこちらとしては大助かりだ」
 調査に向かおうとしていた長曽禰に、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の二人が協力を申し出た。互いにシャンバラ教導団に所属していることもあってか見知った仲のようであった。
「ルカルカなりに色々調べてみます。何かあったらHCで」
 ルカルカは言うと腕を持ち上げて籠手型のHCを見せる。
 わかった、と長曽禰は頷いた。
 そこへ教導団員の一人が駆け寄ってきた。
 彼は駆け寄り様に口を開く。
「こ、郊外の廃墟にて戦闘行為が行われています! 建物の一部が倒壊して危険です。幸いすでに使われていない建物でしたので人的被害は出ていませんが……」
「現在の状況は?」
「被害拡大を想定して近隣住民への避難を進めています。郊外へ調査に出ている者たちには現状維持を、他の者には避難誘導の方へ」
「人手は足りているの?」
 ルカルカの言葉に男は答える。
「避難と調査に人員を割いているため廃墟の方にはまだ……」
「避難の方は足りてるのね」
「それならオレが出向こう……その前にお客さんが来たようだけどな」
 長曽禰が告げ、ロビーに入ってくる人物に視線を送った。
 現れたのは玖純である。
「それじゃあルカルカたちは回廊施設へ向かいます」
「ああ、青葉たちが管理局の立場から協力してくれている。分かったことがあったら連絡をくれ。ダリルも頼んだ」
「わかっている」
 二人は玖純の脇を抜けて外へ出た。
 長曽禰と玖純は互いに歩み寄る。
 手が触れられる距離になると足を止めた。
「数か月前に、石女神の遺跡で起きた事件は知っているか?」
「パラミタ古代種族を利用した兵器の研究と開発がニルヴァーナのとある施設で行われていた……その成果が封印されていた話だな」
「あの事件の真相はいまだに不明だ。オレはそれを調べるためにニルヴァーナに向かうところだが、知っていることがあるなら教えてほしい」
「あの施設には警備兵らしき機晶姫の姿が確認されている――」
 玖純を品定めするように見ると続けた。
「玖純の腕じゃあ怪我をしかねんぞ。オレは調査団を結成するためにこれからヒラニプラに報告へ向かうところだったんだが……この状況だ」
「施設に行ったのか?」
「ああ、オレと数名でな。インテグラルやイレイザーほどの脅威は感じられなかったが、それでも危険であることに変わりはない」
「他に知っていることは?」
「そうだな……」
 長曽禰が何かを言おうとした矢先にいちごが口を開いた。
「あー、エンキと喧嘩してたやつらのな。あれ頭ないから言葉つーじないんだよね」
「いちご、お前記憶……」
「んー? あれ、なんでだ?」
 自分で言ったことが不思議なのかいちごが首を傾げている。
「これは……」
「何が起きているんだか……」
 二人の疑問にいちごは答えなかった。
 いや、答えられなかったのだ