シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

ヒュズクデンゲラブンゲリオン

リアクション公開中!

ヒュズクデンゲラブンゲリオン

リアクション


2.ヒュズクデンゲラブンゲリオンとは!

 部室内では体験入部のメンバーが、ルールを知っている者たちから教えを受けている所だった。
「それでは、ここに集いし皆に教えよう。ヒュッケバインガンダムガオンを」
「コーチ、ヒュズクデンゲラブンゲリオンだよ」
 意気込んで教えようとするアルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)に、体験しに来たミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が即座に突っ込む。
「おお、すまんすまん。では改めて、ヒューズフットンダエヴァンゲルヲンについて教えよう」
「だから、ヒュズクデンゲラブンゲリオンだって……」
 突っ込みもアルクラントの耳には届いていないようだ。全く気にせず、説明に入る。
「まず、最初に、ゲゲバイスの説明だ。ギフケーン製。パソイクスに良く似ているね。ところがこいつにはアセキララキルルンが付いている。これがある事でクィイイイセガユカワが可能になっているわけだ。次に、構えだが……」
「そうそう、コンニャニコンニャニリャイオンガのことを忘れちゃ駄目よ。チカシュギチャッテドォオシヨップァラミッタサファリプァァークで有名ね」
 アルクラントとエメリアーヌ・エメラルダ(えめりあーぬ・えめらるだ)の口から次々飛び出す専門用語に、体験入部員たちの間に動揺が走る。
 走りまくる。
「ど、ど、ど、どうしましょう……正直、さっぱりわかりません。分かりますか?」
 真面目に話を聞いていた杜守 柚(ともり・ゆず)は涙目で、友人のキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)の方を見る。
「あ、あー、専門用語が多くて分かるような分からんような……」
「何が何だかさっぱりよ」
 彼らの認識も似たようなもの。
 3人顔を突き合わせて困り顔。

「ヒュズクデンなんとか…… 名前だけじゃなく、ルールもあんなにややこしいものだとは思わなかったぜ……」
「ヒュズクデンゲりゃびゅ!」
「……ユリナ?」
「ヒュズクデンぎゃ!」
「……ユリナ、舌、大丈夫か?」
「あうぅ、舌かんじゃいました……」
 黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)は涙目で口元を押えているユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)の方を向き直る。
 ヒュズクデンゲラブンゲリオンの説明中、何度か小さな悲鳴が聞こえた。
 ユリナが舌を噛んでしまった悲鳴らしい。
「ヒュズクデンゲラブンゲリオンなんて、聞いたことありませんわぁ。でも、知らないままは嫌なので挑戦してみますぅ」
「史織でさえ知らないなんて……」
「噛まずに一度で言えるなんて、すごいです……」
 悔しげな御劒 史織(みつるぎ・しおり)の言葉に、竜斗とユリナはそれぞれ種類の違ったため息をつく。
(ヒュズクデンげ……覚えられん! こんな胡散臭いものなど相手にして……んん?)
「ミリーネは知ってるか?」
 ミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)は、突然自分の方に振られたことで焦りを見せる。
 竜斗からの問い。
 これに、知らないと答えるのは主殿の期待を裏切ってしまうことになる!
「……も、勿論知っていますぞ! 私にお任せ下さい!」
(……やってしまったぁー!)
 ミリーネの内心の叫びを余所に、竜徒たちはこれで安心と言った様子でどんどんと話を続ける。
「さすがはミリーネだな! おかげでなんとか楽しめそうだぜ!」
「ミリーネさんがご存知でしたら、安心です。早速ですが、運動が苦手な私でもできますか?」
「さすがはミリーネ様! いろいろ教えて下さいぃ。私みたいに小さいと不利だったりするんですかぁ? ハンデがあると助かりますぅ」
(うわあああ、こ、こうなればヤケだ!)
「そうだな。運動が苦手なユリナ殿でも小柄な史織殿でも十分に楽しめるものだ。ハンデは開始前に話し合えば良かったと思う……」
 ミリーネの口から出まかせの説明は続く。

「ヒュズクデンゲラブンゲリオン……以前にレセプションで聞いたことがあるかな」
「エースは知ってるんですか」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)の意外そうな声ににこりと笑うと準備を始めた。
 まずは白い紙を取り出すと、それに赤い鳥居とたくさんの文字を記入する。
 テーブルの上にその紙を広げ、銅貨を上に置いた。
「さあ、準備はこれだけさ」
「ん?」
 にっこり笑うと、エースは銅貨の上に指を乗せる。
「こうして降りてきた精霊に聞きたい事とか尋ねるんだったかな。ヒュズクデンゲラブンゲリオンさま、ヒュズクデンゲラブンゲリオンさま、おいでください……」
「ちょ、エース! それは日本の簡易降霊術という奴ではっ!」
 それまで黙って聞いていたエオリアが、たまらず突っ込む。
「10中8、9、間違ってますから!」
 そこに部長からの声。
「……素晴らしい、その通りだ!」
「……1、2来ましたー!?」
 部長が感極まった様子でエースに告げる。
「よく覚えていてくれました! これはゲーム開始前に行う儀式です。これでチーム分けや詳細なルールが決まるんですよ!」
「そうか。間違ってなかったようで何よりだよ」
 終始にこやかなまま、エースが頷いた。

「駄目だよ! いきなり専門用語ばっかり使っちゃったら!」
「む?」
 まだまだ独自の説明を続けようとするアルクラントに、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は諌めるように肩を叩く。
「もっと、初めての人にでも分かりやすいように……簡単に流れだけ教えるから、あとは実地で覚えるといいよ!」
 ネージュの言葉に、アルクラントの説明に頭を抱えていたミルディアと和泉 真奈(いずみ・まな)、そして柚たちはほっと胸を撫で下ろす。
「まあ、言っちゃえば料理の格闘技だよね。あっつあつの半熟卵を用意するんだよ。そして相手陣地のココナッツの皮を剥いて、ココナッツミルクを取り出すの」
「そうなんだー、楽しそうだね!」
「思っていたのとちょっと違ってたよ」
 ネージュの説明に、ふむふむと頷きながら小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は真面目に聞き入った。
「私の知っているヒュズクデンゲラブンゲリオンとは若干異なっているようですね」
 そう言うと、説明側に回るのは御神楽 舞花(みかぐら・まいか)
「未来で嗜んだことがあります。簡単に言うと、雪玉の代わりにボールを利用するフラッグ争奪雪合戦ですね……」
「あれ、あれれ、そうなんですか?」
 若干混乱気味に話を聞いているのは遠野 歌菜(とおの・かな)
 彼女は月崎 羽純(つきざき・はすみ)と共にルールをメモしていたのだ。
「ドッヂボールのように、相手のボールを体に当てられたら失格、一定時間フィールド外に退去です」
「あー、そうそうそう! 相手にボールをぶつけるっていうか、むしろそっちのがメインっていう話もあるよね」
 舞香の説明に割って入ったのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
「ヒュズテンプラパンゲリオンなんて乙女のたしなみよ! 知らない筈ないじゃない」
「ヒュズクデンゲラブンゲリオンだと思うけど……」
 ミルディアが本日3回目の訂正をする。
 さすがにそろそろ自信がなくなってきたのか元気がない。
(ああまたセレンってば調子に乗って……)
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がはらはらとセレンフィリティの様子を伺う。
 セレンフィリティは全く気にする様子もなく、舞花と共に説明を続ける。
「ヒュズテングダケガングリオンはね、手は使用禁止。足を使って頭上のリングにシュートするのよ」
「また名前違うしそもそもさっきの彼女の説明と違うじゃない。雪合戦だって……」
「あ、私のは現行のルールと少し違う可能性があります」
「ほらー」
「えー、にしても……」
「それもあります!」
 言い合うセレンフィリティとセレアナに、部長が割って入った。
「舞花さんの説明も、セレンフィリティさんの説明も、どちらも非常に的を射たものです。後で実際にゲームをして、体感してみるとよく分かるでしょう」
「そうですか、良かった」
「ほらーほらーあたし間違ってなーい」
「はいはい……」
「現代のルールも楽しみにしています」
 セレンフィリティに舞花は満足そうに頷いた。

「えーとそれで、足はNGだったかな……」
 ミリーネの探り探りの説明はまだ続いていた。
 いつの間にかそれを聞きながらメモしていた歌菜が首を傾げる。
「あれ、あれれ? 何かさっきの話と違っているような……ねえ、羽純くん」
「そうだな。先程は足しか使ってはいけなかったような」
(ぎっくう!?)
 歌菜たちに突っ込まれ、化けの皮が剥がれるのではないかと飛び上がるミリーネ。
 しかし。
「そうか! ローカルルールっていうヤツだねっ!」
「成程、奥が深いな……」
 2人は納得すると行ってしまった。

「うむむむむ……集めれば集めるだけ情報が広がりますよ!?」
 鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は歌菜と同じく、各ルールをメモにまとめていた。
 彼はヒュズクデンゲラブンゲリオンのルールブックを作成しようとしていたのだ。
 しかしその量はとどまる所を知らず、どんどんとメモが厚く厚くなっていく。
「一体どれが正しくて間違っているのやら……」
 ひたすら情報を打ち込む彼に、いつの間にかやってきた部長が答える。
「どれも全て正しいのです! 全てがヒュズクデンゲラブンゲリオンなのです!!」