リアクション
▼△▼△▼△▼ トラックの荷室は、機晶兵器のメンテナンスを行える救急処置室になっていた。 移送用の簡易ベッドに寝かされたヅェオールの外骨格はすべてパージされ、様々なセンサーが内部機構へ直結されている。 ダリルの肩幅を残した他のスペースは、一面が機材で埋め尽くされている状態だった。ディスプレイはすべてが眼前に表示されるHUD式だ。 「メモリー・デバイスに異常を認めず。蓄積されたデータや学習内容に破綻をきたしている部分はなく健常、と。過負荷によって歪められたネットワークも、全く見受けられない。トラウマを抱えてないのは良いことだ。運動系の減耗率は31パーセント。オーバーホールが必要になるのは、随分と先の話だ。年を取っているのは外見だけと言うことだな。毒物や未知の病原体なども検出されず。彼を稼働状態へ戻すためには、機晶石からエネルギーを取り出すための器――クレイドル――を交換しなければならない」 ヅェオールのクレイドルは損傷を受けた時にエネルギーがバーストし、粉々になっていたのだ。 「この殿方に合ったクレイドルって、どこかで手に入るの?」 ルカの質問に、ダリルは顔を横に振った。 「むずかしいな」 「ちょちょいのちょーいって、やってみたらダメかなあ?」 「飛行機晶兵の小さなクレイドルをかき集めて、機晶石を保持する。それぞれのクレイドルをつなぎ合わせて、エネルギーを中継させる……か」 ダリルの表情は、いまいち冴えない様子だ。 「確率はゼロなの?」 「いや。だがお互いに、それ相応のリスクを背負わなければならない。元の出力を100として考えると、待機させてある小型機晶兵6体をすべて充当するとして、クレイドル1枚あたり6〜8が限度。上手くやっても供給できるエネルギーは40前後という線だな。恐らくはもう、激しい動きはできなくなるだろう」 「それでも、メイド長を務められるようになった方が幸せだって、ルカは思うよっ」 「ああ、違いないっ。それなら大義名分が立つな」 ――数刻の後。 車イスに腰をかけたヅェオールが、皆の前に姿を現わしたのである。 ▼△▼△▼△▼ 「どうも、お久しぶりでございます。キャセルさん」 「ヅェオールっ、いっ……生きていたのかっ」 「あなた様も、相変わらずでございますね。ところでキャセルさん。わたくしの片眼鏡をご存じありませんか」 「いえええ、ちょちょっと、見かけませんでしたけど」 「左様でございますか。あれがないと、どうも落ち着かなくて。困りましたなあ。ところであれから、どれほど経ちましたか。確か、かれこれ7年ですか」 「たた確か、そそのぐらいだと思いますがっ……」 「お屋敷の姿は、影も形も残っていませんねえ。今やすべてが、地中に没したまま。この有様でございますか」 「はいその通りです。ヅェオールの仰るとおりです」 泡を食って動揺を隠しきれないキャセルを落ち着かせた騎沙羅 詩穂は、ドリル・ホールが掘り当てたという片眼鏡をヅェオールに差しだした。 「かたじけないお嬢さん」 「どういたしましてっ」 ヅェオールと対面したドジックは、これまでの経緯をすべて説明した。 すると彼は、グレドール家にまつわる話を語りはじめたのである。 「はてさて、どこから話せばよろしいか」 「この場所に建っていた屋敷について、教えて欲しい」 「承知いたしました。ここには奥方さまであるソリオン・グレドール様が営んでおられました、ドラゴンの生態を明かすための研究施設がございました。7年前、アトラスの傷痕に棲むドラゴンの間で奇病が蔓延した時のことです。奥方さまが作り出した治療薬が功を奏して、彼らは助かりました。しかし奥方さまも、その病に冒されてしまったのでございます。旦那さまとお嬢さまをヴァイシャリーへ移された後、奥方さまは自らを治療する薬を開発してお飲みになられました。しかし既に体力の衰えは著しく、治療薬の効果が充分であったかを判断することは難しくなっていたのです。そして最後に、仕えの身であるわたくしたちにソリオンさまは命じました。屋敷の裏手に連なるアトラスの傷痕を爆破し、屋敷諸共、自らを葬って欲しいと、仰せになったのでございます」 「それでお前さんとキャセルも、ここでソリオンと一緒に眠っていた、というワケか」 「その通りでございます」 「なるほどな。これで俺たちの相手にしているモノが、ハッキリとしたワケか」 彼の頭の中では、明日からの作業方針が固まりつつあった。 |
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