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蒼空学園の長くて短い一日

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蒼空学園の長くて短い一日
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リアクション

 おばかさんのマーガレットが屋上で空を舞っていた頃、花壇の前にもバカ二人。
「はろーん♪
 蒼空学園ナンバーワンアイドル(自称)のラブちゃんよー♪

 いやーこの嵐の中本気で出て行っちゃったんだハーティオン。
 何時も思うけど、あいつバカよねー。
 花壇なんて嵐の後に片付ければ良いのに。
 え? 手伝いに行かないのか? って行く訳無いじゃん。
 普段デカすぎ重過ぎで校舎にすら碌に入れなくて、外で授業受けてるハーティオンは兎も角、
あたしみたいに小さくて可愛い妖精が出て行っちゃったらパラ実まで飛ばされちゃうわよー」
 コロコロと笑うラブの話しを、しかし鈿女は相槌すらうっていない。
 事件(?)のあらましは大体ラブが話した通りだ。



 雷雲が現れ暴風雨が吹き荒れ始めたその時、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)はパートナーの龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)を尋ねた。
『ガオオオオン!』
 と、ハーティオン以外の人間……というより常人には何をいっているのか全く分からない声で話すドラゴンランダーなので、ここは対訳でお楽しみ下さい。
『私のパートナーよ! 龍心機 ドラゴランダーよ! 緊急事態だ! 起きてくれ!』
『(何事だハーティオン。
 せっかく『いい天気』で寝ていたと言うのに……』
『そうだ。その良い天気が問題なのだ。
 校舎の中は皆安全だが、余りに急だった為に外の花壇や危惧の片付けがなされていないのだ。
 私は今から、皆の大切な花壇がこの暴風雨で荒れてしまわないように
 ブルーシートを敷きに行って来る』
『何? つまりそれはあの飛んでくる器具から花壇を守るということか?
 全くそんな事で……ぬん!』
 不機嫌に尻尾をバシーンと打ち付けるドラゴンランダーだが、ハーティオンの誠実な訴えは続く。
『危険は承知だが、誰かがやらなければ皆が心を込めて作った花壇が散ってしまうのだ』
『仕方が無い、手を貸そう。
 必要になったら呼ぶがいい』
 ハーティオンは頷いて、カメラ目線でこう叫んだ。

蒼空戦士ハーティオン! 花壇の防衛に……参る!!



『ぬう!』
 いざ移動してみれば、風はハーティオンが思っていたよりも強いものだった。
「なんという暴風……これは最早台風と呼ぶべきか……」
 如何に重量のある身体とはいえ、この風に吹き付けられると進むのは難儀だ。
 ハーティオンは吼える。
『ぬうう、おおおお負けぬぞおおお!!』
 余り意味があるのか分からないが顔を両腕で庇い、体勢を低くして進み続ける。
 ところでハーティオンのその隣、というか下を、何食わぬ顔で進む男が居た。というかアレクだった。
 大学部から高等部へ移動をするのに、この男はこの天気の中、当たり前に外を通っていたのだ。そしてバカなりに頭が回るらしく、アレクはハーティオンを壁として利用していた。花壇の事で頭がいっぱいのハーティオンは、その存在にすら気づいていない。
『ぬおおおおおおお』
「Go for it!(頑張れー)」
 気の無いエールを送りながら、アレクは涼しい顔で傘をさして歩いている。
『私はなんとしても花壇まで辿り着いてみせる!
 花たちを守るのだ!!』
 ――考え自体は殊勝で素晴らしいと思うが、今花を護っても余り意味無いんじゃないかな。
「You are really stupid(あんたバカだろ)」
 思わず口をついて出たが、ハーティオンははた迷惑なくらい大きな声で叫んでいたので、やはり全く気づいていなかったのだ。


 
 で。そんな風に自分が上手い事利用されたのも気づかないまま、ハーティオンは遂に花壇へ辿り着いた。
『時間がかかってしまったが、こういう時は普段校舎にも入り辛い私の体重の重さが有り難いな』
 表情の分からない顔だが、ハーティオンは笑っていた。
 だが、その笑顔も花壇の前で消えてしまう。
『いかん!』
 体育の時間に外に出されていた器具――ボールやロープ、それにゴールネットなどが空を舞っていたのだ!
『このままでは花壇を直撃してしまう!
 かくなる上は!』

竜心咆哮! ドラゴンランダー!

『ドラゴンランダー!
 共にあの器具達から花壇を護ってくれ!!
 壊さぬ様に、うまくキャッチせねば……!』
『……壊すなと言われてもだな。
 我のサイズであんな小さなものをキャッチできんぞ』
 ドラゴンランダーはこう見えて空気が読める奴らしい。
(それに、花壇に被害がいかんようにする事を優先したほういいのではないか?)
 という考えは、心の中にしまって、二人は正義の作戦を開始した。

『は!』ボールをキャッチする。
 空かさず反対側から飛んで来たボールももう片手で『はあ!』とキャッチする。
 両手が塞がった。
『ゴールネットが飛んで来ているぞ!』
 ドラゴンランダーが尾で折れた木を飛ばしながら叫んだ。
『しまった! 花に当たってしまう!!』
 ハーティオンは走った。
『うおおおおおおお!!!』
 そして自らの肉体(?)を犠牲にし、ゴールネットの前に立ちはだかったのだ。 
『ぬうおっ!』
 大きな音がして、ハーティオンの装甲にゴールネットが当たる。
 どこまでも純真で、誠実で、公明正大なこの白く輝くメタルボディは、こうして雨が止むまで、花を護り続けたのであった。