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名もなき声の囁き

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名もなき声の囁き

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闇への入り口


「この中から感じる!」

かつみが声を出す。 捜索に向かった一行の目の前には、謎の施設があった。
古びた外装には草木が覆い茂り、付近の背の高い木が、陽光を遮断する。

「なんだか、すごく…不気味ですねえ……」
「どうしたユウ。 自分が決めた事のはずだ。 腹をくくりたまえ」
「あまり時間もないだろう。 この中に感じるものがあるのであれば、我らも早く突入しよう」
「あーごめん。 ちょっとタンマ」


ヒュン!ピン!


「タンマ? っていった…なっ!?」

正臣の目の前をボウガンの矢が通過する。
セレンの放った銃弾は、足下の草に隠されたピアノ線を正確打ち抜いていた。

「大丈夫?」

セレアナが正臣を気遣う。

「うん、ありがとう。 今のは…ボウガンかな?」
「正臣大丈夫? ケガとかしてたら私が治療するわ」
「ロゼは医療の心得がある、遠慮しないで頼るんだ」
「先生もカンナもありがとう。 助かるよ」

九条とカンナも正臣に近づき助け起こす。 一方セレンとセレアナはトラップを調査していた。

「どうやらここは人が入り込むことを歓迎してないようね。 どうセレン?」
「そうみたいね……ほら見て、このボウガン。 つい最近設置されたばかりみたいよ」
「なら、この中は未だに使われているということになるのかしら? だとするとこの外見とは随分合っていませんのね」
「で、そんな施設にジョバンナとナオが潜り込んでしまったと……これは大変だな」
「でもこんなトラップ、いったい誰が…」

エリシア、羽純、歌菜も混じって話していると後ろから声が聞こえてくる。

「誰が仕掛けたにせよ、この中にお探しの人がいるのよね?」
「誰って……あっ、ルカさん! ダリルさんも一緒ですか!」
「久しぶりね、歌菜! セレン、呼ばれて来たはいいけど間に合ったのかしら?」
「問題ないわ。 というかちょうどいいって感じ?」
「そう、良かったわ!」
「……これは、中々面白そうな調査対象だな」

やってきたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)。 2人はセレンのHCの通信を受けてやってきたらしい。

「正臣、不安だと思うけど落ち着いて。 皆で手分けして探そうね」
「ありがとう、心強いよ」
「さ、巽君のいうように私達には時間がない。 こんな危険な所に迷い込んだならなおのことだよ」
「エヴァルトさんの言う通りだ。 さぁ皆、入ろう! きっとアンナとナオが待ってる!」
「待て正臣、俺が前に立ってナオの気配を探る」
「ルカはダリルとトラップ排除のために前へ出るわ。 いいわよね?」
「了解した」
「私は治療を担当するわ…って、勇? 大丈夫?」
「は、はい! 大丈夫です、ただちょっと気分が、その〜…」
「無理はしないでね?」
「はい、ありがとうございます。 九条さん」



そうして中に入っていく一行。 イーリャと通信で連絡を取り、奥深くへと潜り込んでいく。
中にはまだ明かりがついており、かろうじて視認できるがそれでも光としてはとても心細いものだった。

「中はとても薄暗いみたいだね… アンナ、どうしてこんなところに…」
「だが、ナオの思念は確かにこの奥から来てる!急がないと!」
「とりあえずスマホ位しかないけど」

カンナがスマホの明かりをともす。その光によって木の棒が不自然に落ちているのが見えた。
明かりがあまり広範囲でなかったため、その木に巻き付いたピアノ線もキラリと反射する。

「いくらなんでも分かりやすすぎ。 こんなの教導団の訓練でよくある練習トラップレベルじゃない」
「確かにセレンが言うのも一理あるわね。 こんなにコテコテな罠、何だか不自然だわ」
「よっ、と…… ルカ、解除完了だ」
「ありがとうダリル」
「その木の棒、ちょっと貸して下さる?」

エリシアは、そういってダリルから棒を受け取ると【フレイムインスール】を使い、松明の様にする。

「これで幾分かは、マシになったのではなくて?」
「ああ、そうだね。 ありがとう」

カンナはスマホをしまいながら話を続ける。

「それにしてもこの施設、何のための施設なんだ? あの噂と関係があるのか?」
「あの噂って?」

九条の問いには、羽純が答えた。

「ああ。 あの【禁断の果実】ってやつだろう? イルミンでも、この研究会に参加したやつの間では、噂になってるよ」

【光源の指輪】を使いさらに明かりを増やす。

「うちの学校でもその話は聞いたことありますっ! ねぇ、正臣さん?」
「そうだね、この施設と何か関係がある…?」
「おっとストップ、ここは我がなんとかしよう」

目の前では山積みになった段ボールが道をふさいでいた。
巽は【羅刹の武術】を用いて、拳聖としての力をいかんなく発揮する。

「はああっっっ!」

目の前にある段ボールの山を吹き飛ばす巽。

「さて、こんなところかな?」
「ふむ。中々にできる男のようだろうね」

フエンも感心した様子でそれを見つめる。

「でもどうやってジョバンナさんとナオさんはこのトラップ達を突破して…?」
「恐らく、彼女達が突破したというより、彼女達が入ってからトラップが作られた、または作動したと考えるのが自然だ」
「歌菜の質問にはダリルの言うのが正解だとして、それよりこの施設一体何のために使われてたの?
 パソコンとかはあるけど、何をやってたんだかさっぱりね」
「机の上に残されてる資料も一般的な薬物の研究資料みたいだわ。 ここの資料はとても最近のものとは言えないけど」

セレアナの分析の通り、いたるところにある罠は最近仕掛けられた形跡の物が多いのに対し、辺りの資料や物は古臭いものばかりだ。


そうして、罠を潜り抜けながら一行は、3つの分かれ道に遭遇する。





――――――――――――――――――――――――――――――





悪魔の研究1


「なんだろうね、ここで3つに行き先が分かれてるみたいだ…?」

彼らが発見した場所は3つの道に分かれていた。
左側の扉には「研○○材保○庫」と書かれているが、○の部分は擦り切れてしまって読むことが出来ない。
一方右の道にも扉があり、南京錠が取り付けられていた跡があったが、肝心の錠は、壊れたまま床に転がっていた。
そして目の前には仄暗く地下へと続く階段があった……


それまでは不気味な雰囲気を漂わせていただけで、罠はあるものの特別な気配はなかったのだ。
しかし分かれる部分の広場に入った瞬間、全員が何かを感じた!


「!? 今のはなんだ? ジョバンナなのか?」
「いや違うよ、ナオ君でもないのかい?」
「ああ!」
「頭に響きますっ…」
「取り敢えず長居しないにこしたことはないようですわね……」

【殺気看破】のスキルを使っていた者は右の道の危険をいち早く察知する。

「道が3方向に分かれている以上、早く発見するためにもそれぞれに分かれるべきね」
「ナオの思念は前の階段下から感じるんだ。 おれとエドゥアルトは前の道にいかせてもらう」
「アンナもきっとナオ君と一緒だ。 オレもそっちに行くよ」

ルカの提案にかつみと正臣が答える。

「右の扉からここに来て急な殺気を感じる。 我はこちらの道に進もう」
「あなたは前線に立つ戦い方を得意とされているようですわね。 ならばわたくしの後方援護が役に立つと思いますわ」
「正臣さんは前の道を行くんですね。 少し心配ですけど、私も右の道を進みたいと思います…!」
「あたしは左。 この扉、かすれて伏字みたいになってるけど、何が眠っているか予想がつくわ」
「ん、扉に何か書いてあるのかい? 読んでみな。 ……いいか、別に身長が足りなくて読みにくいわけじゃないよ。
 私はネズミにしちゃでかい方なんだ」
「これは……保管庫?」
「研究材料とでも言ったところか」
「かもしれないわね、取り敢えずルカ達も左の道へ行くわね」
「なら私もそっちへ。 もし保管庫だっていうなら、もしかしたらこの施設の地図とかもまとめてあるかもしれないわ」
「えっと、あの、それじゃ…僕も左の方へ向かいますね」
「分かった、それじゃ皆気をつけて、アンナやナオ君を見つけたらHCで連絡してくれると助かるよ」

こうして、
かつみ、正臣が前の道へ。(HC上の呼称はAチーム)
セレン・ルカ・勇・九条が左の道へ。(同様にBチーム)
エリシア・巽・歌菜が右の道へ。(同様にCチーム)
それぞれのパートナーと共に進むこととなった。

「じゃあ行くぜ!」
「皆、気をつけて!」

正臣、かつみ、エヴァルトは階段をどんどんと駆け降りる。

それを見送った後、左の道へ【壁抜けの術】で扉を通り抜けて入ろうとするルカ。しかし、扉が変に歪んでしまっているせいか抜けることが出来ない。

「んんっ…! はぁ、どうやらこの壁は通り抜けれないみたい」
「ならもう壊せばいいんじゃない? 早くいかないとまずいでしょ?」

そういうとセレンは【シュバルツ】【ヴァイス】を適当にドアノブ付近を連射する。
そうして一発彼女が蹴りを入れると転々と風穴の開いた扉は倒れさった。

「ほら?」
「ほらじゃないわよ! ルカは壊さないように行こうとしてたのよ?」
「まぁ、古びた施設だし、私もあんまり激しくないほうがいいとは思うけど…」
「あわわわわわわわ………」
「やることはマトモなんだけどやり方がね…」
「ちょ!? セレアナまでそう言うの!?」
「開いたんならさっさと進もうよ」
「カンナに賛成だ」
「私もだよ」

そしてBチームは左の道を進んで行く。


「さて、こっちも進むとしようか。 歌菜、危ないから変身しとくんだ」
「分かったよ羽純くん。 ……変身っ! 【アルティメットフォーム】!!!」

そういうと歌菜の姿が一瞬にして持っていた魔法少女コスチュームSに包まれ、更に姿が変化していく…!

「私が皆さんを守ります! 私から離れないでくださいねっ! 【トリップ・ザ・ワールド】!」

歌菜の周囲半径1メートル程度のフィールドが広がる。

「あら、素晴らしい魔術を持っているようですわね」
「我も……いや、様子を見てからだな」

そうして、巽が先頭に立ちながらCチームも先へと進んで行く。


別れた一行。 それぞれの進む道には、一体何が待ち受けているのであろうか………


≪来た、ね…≫
≪…そうね。 …早、く。 …ここまで≫