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機甲虫、襲来

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機甲虫、襲来

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 時は少しばかり遡る。
 アルト・ロニアが機甲虫の襲撃を受けた直後、ルカルカは携帯電話を通じてセレンフィリティとセレアナの二人に連絡を入れた。
「今、宿屋の二階から飛び降りたところ! すいません、虫に襲われてる真っ最中なので通信切ります!」
 ルカルカは携帯電話を懐にしまうと、背後を振り返った。
 アルト・ロニアの街は炎に包まれていた。ありとあらゆる建物は倒壊し、住民は逃げ場を失い、悲痛な声を上げていた。
 ここアルト・ロニアには公務で出張に来ていたのだが――とんだ事件に巻き込まれてしまったようだ。
「実に興味深い素材だ」
 足下に転がる機甲虫の死骸を調査していたダリルが、そんなことを言った。
「外骨格に当たる部位は金属めいた装甲で覆われている。装甲の素材は分からないが、硬さはイコン並だ。
 装甲に包まれた内部器官は有機体のように見える。いや、丸っきり生物の臓器だな」
 装甲が取り外された機甲虫の内部には、様々な臓器が詰まっていた。
 中心部には心臓のような物も見える。心臓を中心として全身に血管が張り巡らされており、損傷した部位からは緑色の血液が溢れ出ていた。
「それでいて、レーダーやセンサーの類にも反応しないのだから不思議なものだ。面白い。実に面白いな」
 そう告げる間にも、ダリルは手袋を填めた手でメスを振るい、夢中で機甲虫を解剖し続ける。
 ダリルが機甲虫を解体していく傍ら、ルカルカは胸中の疑念と向き合った。
(一体、どこからこんな虫が出てきたんだろう?)
 このような虫は今まで見たことも無ければ、聞いたこともなかった。シャンバラ教導団の資料にも、この虫に関する情報は一切載っていなかったはずだ。
 不意に、背後から足音が聞こえた。
 ルカルカは振り向くと、前方の人影に声を投げかけた。
「そこで何をしているの?」
 ルカルカの視線の先には、機甲虫の破片を鞄一杯に詰め込んだアリスの姿があった。

 もう少し解剖を続けたかったが、突然の闖入者が現れたとあっては無視するわけにもいかない。
 ダリルは顔を上げると、アリスの鞄に視線を向けた。
(やはり、この虫に興味を持った奴がいるか)
 研究を生業としている者にとって、この虫は興味をそそられる対象だ。死骸を回収する者が現れても不思議ではない。
 持ち帰って詳しく研究をする必要がある。それだけの価値が、この虫にはあるのだ。
「知っていることは全て話して?」
 あまり事がこじれるのは嫌だと思ったのだろう。ルカルカの問いかけに対し、アリスは洗いざらい話した。自分が見た白衣姿の男と、彼を追う契約者たちのことを。
「なるほどね。その男の名前は分かる?」
 アリスは頷くと、男の名を告げた。
 全てを聞いたルカルカは、こちらを振り返るとこう告げた。
「ヨルクという男を追うわ」
 ダリルは深く頷いた。