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リアクション
十
東 朱鷺子と第六式・シュネーシュツルムの取り調べに当たったのは、リブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)とアルビダ・シルフィング(あるびだ・しるふぃんぐ)の二人だ。無論、ハイナと紫月 睡蓮も立ち会っている。
「ここに、ある人物の証言がある」
リブロは調書を読み上げた。
「『東 朱鷺(あずま・とき)さんを漁火の一味と思い込み、仲間と調べた。しかしながら、漁火に協力していたなら、予め何らかの対策を取っていたはずなのに、ああもフィンブルヴェトの影響と思われる暴れ方をしていたのを見ると、無実であったとしか思えない。確かな物証もなく、敵である漁火に通じていると疑ってしまったこと、まことに申し訳ございませんでした』」
これは、新風 燕馬の証言である。
「いえいえ、そんな、誤解が解ければいいんです。朱鷺も、いけなかったです」
「だが貴様は、東 朱鷺ではあるまい?」
「朱鷺ですよ?」
「自称、な」
リブロは明倫館の在校生名簿を見せた。
「ここに、東 朱鷺子という名がある。東 朱鷺の自称未来の姿らしいな」
「自称だなんて……本当ですってば」
「フザケるな!!」
怒鳴りつけたのはアルビダだ。よせ、とリブロが制する。
「すまない。私のパートナーは、少々、気が短い。だがな、データにある身長体重その他諸々を見ると、少なくとも『この時代の葦原明倫館に所属している東 朱鷺ではない』。そうだな?」
朱鷺子は渋々と、「そうですけどぉ」と頷いた。
「お聞きになったな、総奉行。東 朱鷺が漁火に協力している疑いは、まだ晴れていない」
「疑わしきは罰せず、でありんすよ」
「いいでしょう。ならばもう一人に尋ねることにしましょう」
第六式は、朱鷺子への尋問の間、パイプ椅子の背に肘を乗せ、そっぽを向いていた。我関せず、といった態度にカチンと来たのはアルビダだった。
「ッの野郎!」
長く伸びた足が、第六式の椅子を勢いよく蹴り上げた。
「ヒャー!!」
飛び上がった第六式の襟元――と言っても、服はボロボロだが――を掴み、アルビダは怒鳴りつけた。
「あたしはハイナやリブロと違って気も長くねぇし、優しくねぇんだっ。いっその事適当に理由付けてお前らを殺して始末した方がマジで楽だと思っている。だから、あたしを怒らせるな!」
「暴力よくないネ!!」
「ンだとォ!?」
「よせ、アルビダ」
「けどリブロ!」
「まだ質問をしていない。殺されたら困る」
「……命拾いしたな、えっ?」
アルビダは第六式を睨みつけ、踏ん反り返るように再び座った。
「……さて」
リブロは冷たい笑みを口元に浮かべた。
「正直に話せば、こちらにも慈悲はあるぞ」
「話? オゥ、オレ様はファンを大事にするネ! オーケーオーケー、ちょっとだけなら話をしてやるネ!」
「それはありがたい。では訊こう、貴様たちは漁火の仲間か否か?」
「漁火?」
第六式は首を傾げた。骸骨なのでカタン、と乾いた音がする。
「いさりびイサリビ……朱鷺子、それ誰だっケ?」
「知りません」
「知らないそうダ!」
「この女だ」
リブロはベルナデットの写真を見せた。「白い着物を着て、目の色は紫のはずだ」
「オー! この女なら知ってるネ!」
朱鷺子は内心、嘆息した。漁火については何も話さないと決めていたのだが、第六式の中では漁火の名前と彼女が結びついていなかったらしい。
「どういう関係だ?」
「朱鷺の友達ネ!」
「――だ、そうだが?」
これ以上、第六式と話しても仕方がない。リブロは朱鷺子に視線を移した。朱鷺子は深々とため息をついた。
「分かりました。朱鷺子が知る限りのことをお話しましょう。朱鷺は、その漁火という女に弱みを握られているのです」
「どんな?」
「それを言ったら、元も子もありません。他に知らされたくなければ、手伝えと言われているからです」
「脅迫か」
「ですが朱鷺は、転んでもただでは起きません。彼女に近づくことにより、情報を探ろうとしました。朱鷺の話によれば、漁火さんも被害者だと。助けたいのだと」
「ハッ!」
アルビダが笑い出した。
「そんな与太話を信じろって?」
「そう言われても、私が知っているのはこの程度ですから。後は皆さんに判断をお任せします」
「ふざけるな!」
今度は朱鷺子の襟元を掴み、無理矢理引っ張り上げる。
「何なら野良犬の餌にしてやってもいいんだぞ? 吠え面らどころかさぞかし可愛く鳴くんだろうな?」
「そこまでにするでありんすよ」
ハイナが顔をしかめながら窘める。
「黙ってろよ偽善者! 本当は混ざりたいんだろ!?」
「ほう……?」
ぴたり、とアルビダの首筋に扇子が当てられた。その瞬間まで、アルビダはハイナが息のかかる位置まで近づいたことに気付かなかった。音も気配も、全く感じられなかった。
「アルビダ、手を離せ。さもないと、お前を野良犬の餌にするぞ」
リブロの声で、アルビダは我に返った。両手を離し、後ろによろけると、そのまま自分の椅子にどすんと腰を落とした。
パートナーなしでマホロバを旅した実力は、伊達ではない。アルビダはそれを痛感した。
「お許しを、総奉行」
「気にしてないでありんすよ」
ハイナは微笑み、「しかし、主らのおかげで一つ、真相に近づきんした。――東 朱鷺子及び第六式・シュネーシュツルム」
朱鷺子の背筋が伸びた。第六式は「オーケーオーケー、サインならあげるネ?」と文字を書く真似をする。
「二人の処分は追って沙汰する。が、その前にまだ知りたいこともありんす。覚悟しておくでありんすよ」
ハイナは厳しく言い渡し、朱鷺子らは再び牢へと戻された。
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