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争乱の葦原島(後編)

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争乱の葦原島(後編)
争乱の葦原島(後編) 争乱の葦原島(後編)

リアクション

   十二

 先の暴徒鎮圧の際、家屋を薙ぎ倒し、踏み潰したセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)マネキ・ング(まねき・んぐ)は、葦原藩及び明倫館から多額の賠償金を請求されてしまった。
「どうするんだ一体っ!?」
 セリスは頭を抱えたが、マネキは平然としたものだった。
「フフフ……請求書だと? 我がそのようなチンケな端金だけで済むとでも?」
 マネキはぱちんと指を――招き猫の癖にどんな造りになっているのやら――鳴らした。
「は〜い」
 メビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)が、闇のケースを五つほども持って現れた。
「準備できてますよ〜」
「なっ……それどうする気だ!?」
「これはある意味、予定通りなのだよ。なぜなら我は、最初からこの土地を狙っていたのだから!」
「はあ?」
「『暴動を迅速に、周囲の人的被害を最小限に抑え込むために最短時間で収拾させる為』の建前を以てして仕方なく破壊するに至ったが、これで正統的に土地を手に入れる条件を得た……まさに争乱様様であるな!」
「って、この土地を買い占める気か!?」
「素晴らしいです、師匠」
 メビウスがぱちぱちと手を叩いた。
「ついてこい、メビウス!! 我が全世界アワビ養殖場化計画をもう一歩進めるぞ!」
「はい師匠!」
 セリスは呆然とパートナーたちを見送った。もしかしたらこいつら、今までも同じことを……? と考えるだけでぞっとし、セリスは自ら思考を停止した。
 さて、結論から言おう。この計画は半分成功し、半分失敗した。
 マネキの【根回し】と【甘い囁き】により、役所の上層部と商人たちは敢え無く陥落した。城下町のど真ん中にアワビの養殖所が出来る――となったとき、それを聞いた町人たちの怒りが爆発した。
 マネキたちによって壊された家屋には、彼らの住む長屋も含まれていたのだ。それなりの金を貰って引っ越せば済む話であるが、中には新しい店を出したばかりという者もいて、その土地から離れるのを頑なに拒んだ。
 何より金で動かされるのは葦原っ子の名が廃るとばかり、座り込む者も出て来た。
 その頃にはハイナの耳にも、騒動が届いていた。賠償金は払うべし――との命令に、結局マネキは周辺の家屋を以前と寸分違わぬ姿で復元することを約束させられた。メビウスが【値切り】をしたが、こればかりはどうにもならなかった。
 一方で、アワビの養殖場についてはそれなりに色よい答えを貰えた。
 城下町の外れに建設許可を得たのである。
 外れとはいえ、ほぼ希望通りの広さだ。従業員も、周囲から通ってくるという。夜加洲で仕事にあぶれた者も雇い入れることになった。
 かくて暴動から一か月後、葦原城下町外れアワビ養殖場は開業と相成った。


「やーれやれ。どこ行ったかと思えば……」
「GPSを付けた方がいいかもしれんぞ」
「つけたらつけたで、それをどっかにやっちゃいそうなんだよねえ」
 笠置 生駒(かさぎ・いこま)ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)は、前の晩から行方不明だったシーニー・ポータートルが奉行所にいると聞き、迎えに行った。
 手続きを済ませると、役人が困ったように言い出した。
「実は起きてくれなくて……」
「えっ? それ、生きてるの?」
「それは無論!」
 役人は慌てて、医者にも見せたと付け加えた。ただ、揺すっても叩いても、頑として目を覚まさないらしい。
「本当に困った酔っ払いじゃの」
 とにかくも連れてくるので待っているようにと言われ、生駒とジョージは奉行所の表で時間を潰すことにした。
 すると、しばらくして、どこかで聞いたような笑い声が響いた。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス! おのれ、明倫館を裏から支配する悪代官ハイナ・ウィルソンめ! 我が部下ヘスティアとアイトーンを捕らえた上、悪代官の圧政から民衆を解放しようとした英雄、九十九雷火殿をも捕まえるとは、なんたる非道! かくなる上は、この俺が救出する!」
 奉行所の塀に立ち、両手を腰に当てて高らかに笑っているのは、間違いなく、ドクター・ハデスである。自分でもそう名乗っているが。
「あー、まだフィンブルヴェトの影響受けてるとか?」
「らしいの。……あまり普段と変わらん気もするが」
 生駒とジョージは呆れて嘆息した。
「フハハハ! さあ、我が部下の戦闘員たちよ! 夜陰に乗じて、牢に夜襲をおこなうのだ!」
 曇っているだけでまだ夜ではなかったが、ノーマル戦闘員、エリート戦闘員、オリュンポス特戦隊、ポムクル戦闘員さんらがわらわらと雪崩れ込んできた。困ったことにこの男、指揮力だけはあるのだ。
 来襲の報に、奉行所内から侍たちが刀や刺叉を持って飛び出してきた。
 それを見て妙だなと生駒は思った。戦闘員は確かにそれなりに戦えるだろうが、契約者が相手でなくとも人数が多ければ鎮圧は可能だ。本気で仲間を救う気なら、パートナーをけしかけるはずだ。
「つまりこれは囮――」
 騒ぎに乗じて、生駒とジョージは奉行所の裏手に回った。牢の位置は定かではないが、表に人を集めたなら、当然、その正反対の場所が怪しい。
 果たして、ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)がその場にいた。
「ここを通りたければ我を倒してから行くがよい!」
 ジョージが両手を広げ、立ちはだかった。
「どいて下さいっ、私は先生に恩返ししなくちゃいけないんですっ。機晶変身!」
 かけ声と共に、ブレスレットに収納されていたパワードスーツが装着される。ペルセポネは拳を構えた。
「さあっ、来い!」
 ジョージはペルセポネの攻撃を巧みに捌きながら、少しずつ移動していく。防戦一方のジョージに、ペルセポネは苛立った。一刻も早く、ヘスティアちゃんたちのところへ行かなければならないのに……!
「時間がないので失礼します!」
 ペルセポネは機晶爆弾を取り出した。同時にジョージも、目的の位置に辿り着いた。
「今じゃ、生駒!」
 大きな爆発音があった。
 奉行所の表にいた者は、空から黒焦げになった腰布が飛んで来たと証言した。