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通り雨が歩く時間

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通り雨が歩く時間

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「どうする? もうアイスを買って帰るか?」
「まだ、足りねぇからもう少し買い物してから帰ろうぜ」
 双子は楽しそうに買い物中。見張られている事など一切気付いていない。
「やぁ双子、景気はどうだい?」
 孝明がにこやかに双子に声をかけた。
「……!!」
 双子は弾かれたように振り返り硬直。
「心配しなくても今日は別にお仕置きとかする予定はないよ? お望みならいくらでもしてあげるけど」
 相変わらず良い反応をする双子を面白がる孝明。
「いやいや」
「望んでねぇから」
 慌てて否定する双子。もうこの場を離れたくて堪らないのは見え見えである。
「……悪戯の素材の買出しをしてるんだね。面白そうじゃないか、俺も一緒に買い物しようかな。君達が悪戯した時の為に、俺も準備しようかな、と」
 孝明はひょっこり双子の荷物を覗き見て何気なく口からぽろり。
 途端、
「!!」
 双子の顔は真っ青。
「あぁ、冗談だよ。少し言ってみただけさ」
 孝明は怯える双子に笑みを浮かべながら言うが、冗談か本当か分からない事を言うのは相変わらずだ。
「それ絶対嘘だろ」
「何かマジだったぞ」
 当然、双子は迷いなく本当だと信じている。
「そんな事より、わたぼちゃんと白もこちゃんが君達に会いたがっていたんだよ。ほら」
 双子のいつもの反応を楽しんだ後、やって来る薫達を指し示した。
 しかし、双子が見たのは
「……!!!」
 『分身の術』を使用し高速で横切る事で生まれた孝高の残像だった。
「……いたよな」
「あぁ」
 双子は先ほど見た残像が気になって周囲を見回すも物陰に隠れた孝高を発見する事が出来ない。
「……なぁ」
「あの熊の奴……」
 孝明に孝高の所在を訊ねようと振り返った途端、
「ふぉっ!?」
 孝高が仕組んだドッペルゴーストと目が合い、思わず後退する双子。
「ちょっ、どういう」
「お、おい、あいつはどこだよ!?」
 怯えながらも必死に孝高の居場所を訊ねる。
「さぁ、それより、ほら」
 孝明は即誤魔化し、再度やって来る薫達に注意を逸らした。
「我も一緒にお買い物のお手伝いをするのだ」
「キュピッキュ!(双子のお兄ちゃん、わたぼと遊ぼう!)」
 白もこちゃんを連れた薫とわたぼちゃんが楽しそうにやって来る。
「……」
 すぐに薫達の所には行かず、孝明の方をにらむ。まだ何か罠でもあるのではと。
「そう、こっちを警戒しなくても。本当に何もないから、行っておいで」
 孝明はにこやかに言うのだった。ただし、孝高の事は話さない。わざとかうっかりかは不明だが。
「それじゃ、行くか」
「おう」
 双子は薫達の所に駆けて行った。
「……確かあそこだったかな」
 孝明は呑気に孝高が待機している物陰に視線を向けた。丁度、双子と薫達の間にある横道の物陰だ。
 つまり、
「おわぁぁぁぁぁ!!!!」
 こういう事である。双子の甲高い悲鳴が響いた。
 巨熊に姿を変えた孝高が『麒麟走りの術』で素早く双子に突撃し、眼前に立ち塞がるなり威勢良くがおーと鳴いたのだ。
「ちょっ、何でそっちの姿なんだよーーー−」
「来るなよーーー」
 怯える双子は傘や荷物を落とし、両手で身を庇おうとする。ちなみに風船はしっかり持っていたり。
「……」
 孝高は熊の爪で軽く双子の額を弾いた。
「いてぇ」
「何にもしてねぇのに酷くねぇか?」
 弾かれた所をさすりながら人の姿に戻った孝高に文句を言う。
「今日は説教ではなく双子の十八番である悪戯を自分もやってみただけだ」
 孝高はさらりとしらばっくれる。
「……説教って俺達何もしてないぞ」
「そうだぞ」
 双子は無実だと訴える。
 しかし、
「……いいや、学校で何をしでかしたのか知っている」
 孝高にはもうお見通しだ。なぜなら吹雪から情報は仕入れ済みなのだから。
「あっ、それは……」
「……オレ達の行動漏れまくりじゃねぇかよ」
 ヒスミは口ごもり、キスミは自分達の行動が筒抜けである事に不平を口にした。
「……些細な事じゃないか」
 孝明がさらりと流して双子を一層不満な顔にさせた。
「大丈夫なのだ?」
 薫は駆けつけるなり双子の荷物や傘を拾って渡してやった。
「キュピピ、ピキュッキュ(わたぼ、今日は色んなものを持ってきたよ)」
 わたぼちゃんは六連ミサイルポッドや加速ブースターを取り出して遊ぶ気満々。
「何だ?」
「何かするのか?」
 わたぼちゃんの言葉は分からないが何かある事は察し、好奇心を見せる双子。先ほどの怯えや不満はどこへやら。
「ピーキュ、ピキュピピッ!(見てみて、面白いでしょ!)」
 わたぼちゃんは、輝く雨を背景にブースターを使って双子の周りを素早く移動したり、ミサイルは安全を配慮して空中で小さく爆発させたりして見せた。
「すげぇ」
 双子は手を叩いてすっかりわたぼちゃんと遊ぶ事に夢中になっていた。
「ピキュピキュピ(他にはね)」
 わたぼちゃんは桜吹雪の傘を取り出し、『サイコキネシス』でくるくると回して見せた。
 まるで桜吹雪が起きているかのように見える上、輝き鈴の音を出す雨のおかげで一層幻想的に見えた。
「桜吹雪が起きてるみたいだな。俺にもやらせてくれよ」
「あっ、オレも」
 見ているだけで満足などしない双子は早速和傘をご所望。
「ピキュッ!(いいよ!)」
 わたぼちゃんは『サイコキネシス』で双子の前に和傘を浮かせた。薫がさり気なく雨に濡れないようフォロー。
「それじゃ……」
 和傘を受け取ろうとした時、双子は風船を手に持っている事に気付き、
「さっき、貰ったんだけどやるよ」
「オレのも」
 遊んでくれるわたぼちゃんに吹雪に貰った風船を差し出した。
「ピキュピキュ(ありがとう)」
 わたぼちゃんは嬉しそうに風船を二つ受け取った。
「わたぼちゃん、良かったのだ」
 嬉しそうなわたぼちゃんを見て薫も嬉しくなった。
 この後、少し遊んでから近くの店で買い物を始めた。

 近くの店。

「それも悪戯に使うのだ?」
 薫は素材を手にした双子を覗き込んだ。
「……まぁ、でもちょこっとだけだよ」
「そうそう」
 双子は弁解を含みながら言った。
 先ほどまで双子の周囲を歩き回っていた白もこちゃんが
「おっ」
「どうしたんだ?」
 双子が持つ素材に興味を示し、双子の肩に乗ってふんふんと素材のにおいを嗅ぎ出した。
「こいつ、可愛いけど、不思議だよな」
「面白いし」
 肩に乗る白もこちゃんをもふもふする双子。
「二人のお買い物はまだあるのだ?」
 薫は双子が大事な物を忘れていないか確認を入れた。
「あともう少しだけ。自分達のが終わったら頼まれたアイスを買わないと」
「忘れたら絶対ヤバイもんな。というか、あんなのちょっとした悪戯なのによー」
 双子はしっかりと覚えていた。
 その時、
「ヒースーミ、キースーミ。いーたーずーら、いーたーずーら」
 悪戯という単語に反応し悪戯したくなった白もこちゃんの口から人間語が飛び出し、双子達が付けている腕輪にかじかじとかじり付いた。
 そして、
「おいしくない」
 とつぶやき、双子の周囲を歩き始めた。
「……おいしくないって」
「前も見たけど本当に口とか表情とか動かないよなぁ」
 ヒスミは腕輪を確認し、キスミは白もこちゃんの顔をじっと確認。
「あ、言うのが遅くなったけど白もこちゃんもたまに悪戯するのだ」
 薫は遅くなった注意事項を告げた。
「可愛いし、いいんじゃね?」
「だよなー」
 双子は白もこちゃんの行動についてすっかり受け入れている。同じ悪戯好きとしてシンパシーでも感じているのだろう。
「……ん?」
「おいおい、何物色してるんだ?」
 双子は何やら素材を物色する孝明を発見。
「少し見ていただけだよ」
 孝明は手に持っていた素材を元に戻しながらにこやかに言った。当然、双子をからかうための行動だったり。
「……」
 双子は不信の目で孝明をにらんだ。何せ持っていた素材は悪戯に使用出来そうな物だったから。
「ほら、次の店に行くのだ」
 薫が場を和ませようと間に入り、双子に声をかけた。
「あぁ」
「分かった」
 双子はこくりとうなずき、次の店に向かった。
 この後、双子は薫達のおかげで無事アイスを買って帰った。丁度、雨が上がった頃で校長達もやって来て七人でアイスを楽しんだ。特に校長達は大好きなアイスだったらしくとても喜んだ。それだけでなく、ルカルカが幼い校長に持参した丸いケーキから飾りの大きな所を切り分けチョコの飾りを載せてあげたりしてたっぷりと喜ばせた。

 イルミンスールの街。

 双子と別れた後、長い通り雨は上がりとても綺麗な虹が空に架かった。
「とても綺麗なのだ」
 薫は思いっきり空を仰いで虹を楽しんでいた。
「キュピ、キュキュッピキュ(わたぼ、今日は楽しかったよ)」
 わたぼちゃんは虹から貰った二つの風船に視線を向けて嬉しそうに言った。
「……あの雨を面白がって悪さをしなければいいがな」
「それならきっと素敵な雨なのだ」
 孝高の危惧する言葉に天然な薫は別の事を想像していた。
「……おかしな事が起きた方が面白いと思うけどね」
 孝明は双子が聞いたら怯えるような事を口にした。

 双子の監視の任務を終えた吹雪は、
「……無事に任務完了でありますな」
 一服ついでに虹を楽しんでいた。

 双子は無事に皆の協力も得て無事に手伝いを終え、お咎めは買って来たアイスで何とかなったという。
 調薬探求会から集めた情報はイルミンスール魔法学校と調薬友愛会に報告され、対応に追われていた。
 そして、探求会は特別なレシピの捜索と同時に依頼された調薬にも精を出していた。友愛会会長のヨシノの言葉通り優秀さを見せていた。いずれ、依頼は完遂するだろうと。

担当マスターより

▼担当マスター

夜月天音

▼マスターコメント

 参加者の皆様ありがとうございました。
 様々な形で通り雨を楽しんで頂きありがとうございました。
 双子やその他の夜月のNPCと絡んで頂きありがとうございました。
 そして、調薬探求会への情報収集お疲れ様でした。今回の三人はそれほど悪人ではありませんが、特別なレシピや正体不明の魔術師を巡って対立するかもしれません。
 まだまだ長くなるかもしれませんが、よろしくお願いします。

 最後に少しでも楽しんで頂ければ幸いです。