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【原色の海】樹上都市の感謝祭

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【原色の海】樹上都市の感謝祭

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第8章 空に咲いた花


 ぽーん、ぽぽぽーん。
 お腹に響く音と一緒に、軍艦から花火が上がった。
 鮮やかな紺色の空を背景に、赤、青、紫、黄色、緑、オレンジ……海とは違う鮮やかな色の大輪の花が咲いては消えていく。
 軍艦を敵を倒すためだけに使うのではなく、それ以外の用途もあるのだと示せた方が、心が和むだろうな……と、フランセットは使用を快く許可してくれた。
 これには副次的な効果があり、それで考案者ものんびり、時間を気にせずごろごろ昼寝ができたわけである。


「じゃーん、オレは酒持ってきました! ビール・日本酒・ワイン・ウーロン茶の基本セット。飲み会セットとも言う」
 持ち寄りだから、とユウ・アルタヴィスタ(ゆう・あるたう゛ぃすた)はバッグから次々に、お酒の瓶や缶を取り出した。
「パーティーって言えば酒だよね酒? 学生向けにじゃないよ! 町のみんな用にだよ! あとオレ用にだよ!」
「……ていうことは、ボクの分は?」
 口には出さず……そうとでも言いたそうな皆川 陽(みなかわ・よう)は、ユウから10メートルは離れてこちらを眺めているだけだった。
(うざいなぁ)
 ユウは立ち上がるとずんずん近寄って、真正面に立つと、
「学生だろ、しかも未成年! キミはお子様用のお茶、はいこれ!」
 ユウは、自分からオーラを出しながらも戸惑っている陽の手の中に、無理やりグラスを持たせると、麦茶をどぼどぼ注ぎいれた。気分だけはビールだろうか。
 ちなみに、ユウは見た目こそ陽と変わらないが、その実二倍は生きているのだった。だからお酒は問題ない。
「足りなかったら酒割る用の烏龍茶も持ってきてるからな!」
 そんなおまけみたいな。とちらりと思ったのが顔に出たのだろうか。ユウはますます勢いを付けて言葉を並べ立てる。
「しゃべれっつーの、酒飲んで饒舌になってしゃべり合えば、とりあえず解決! 酒があれば万事解決! 解決しなくてもオレは飲む!」
 一人だけ酔えないのにどうしろというんだと……これも、顔に出ていたのか。
「しゃべらないであーだこーだ考えてるから、どんどんズレてくんだっつーの。ほらほら!」
 煮え切らない陽の背中を押して集団の中に押し込むと、ユウは通りかかった人にお酒を注いで回り、宴会のようなものを始めた。
 小さな子供たちはもう家に帰ってしまったり、家の前やデッキでまったりお菓子とジュースで花火を眺めていたりして、もう周囲の大人はお酒とおつまみに移っていた。違和感はない。
 陽が場になれてきてようやく、契約者たちをどう思っているのか、と効くと、一人の花妖精が、蜂蜜酒を満たしたコップを揺らしながら応えた。
「……害虫と益虫って知ってるよね?
  まぁ大体人間のある場面にとっての、って注釈が付くけどね。花の蜜をミツバチが運ばなきゃ受粉できない花って結構あるから、益虫。アブラムシは枯らすから嫌い! でもテントウムシは食べてくれてーとか、聞いたことあるでしょ?」
 だけどねぇ、と花妖精は続ける。顔が少し赤い。
「虫って一口に言っても色々だし、だけどミツバチだって大量発生したら痛いでしょ? 蜂蜜取るときは欲しいけど。それが悪いって言ってるんじゃあないのよ。あたし達は、長い目で見るの。何十年も何百年も先をよ。人間だって同じ、関係がいい時も悪い時も、いい人も悪い人もいる。
 お互い分かり合えたり、喧嘩したり、分かり合えなくても誰か助けてる人だったりね。苗木盗んだ奴らは正直許せないけど、」
「そうそう、死んじまえとか食われちまえとか」
 隣から守護天使の老人が口を出した。
「……そんな人ばっかりだったらもっと悪くなってるでしょ? 。だからあたしたちは何年も先を見るのよ、ここの樹々と同じ目線になりたいから」
 と、話していると、向こうの枝の上から、通りかかりの花妖精の青年がこちらに手を振った。大声で呼びかけ、大声で返し合う。
「おーい、仮装大会の優勝者決まったってー」
「えー。だれだれー?」
「大根役者ー!」
「大根ー?」
「うん、商品は大根の種一年分。今からでも秋きまきは間に合うなー!」
 花妖精の女性は、お酒をあおると、一言、蜂蜜交じりの息と一緒に。
「あーあ、冬にはふろふき大根たべたーい」



 6組のふかふかお布団の隅っこで、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は、遊び疲れて眠っていた。
「うーん、むにゃむにゃ……」
 さわさわ。さわさわ。手の中には柔らかくて暖かい、毛足の長い……発熱体。
 さわさわされたミケがうみゃうみゃと抗議して、次にアキラに一緒にぎゅむーっと抱きしめられたタマが、抵抗を諦めてがっくりし。タマに押されたトラが、まだねむいのみゃ〜 とお布団の中にばたんきゅーすると、ポチが、ご飯食べれなかったなぁと思っているうちに、目をぱちくりして、体を起こした。
 ポチの前に食事を差し出したのは、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)だった。仮装しているので、まるで花妖精のように見える。
「さ、ミャンルー隊の皆さんもどうぞ」
 見せたお皿をテーブルに置いてから、
「アキラさんもそろそろ起きてください。もう花火が始まってますよ」
 パートナーをゆさぶると、すっかり寝こけていたアキラはふわあああと大きなあくびをして目をごしごしこすった。
「……んー、もうこんな時間かー。お腹空いたな。まだお菓子残ってるかー?」
「ええ、食事も残ってます。というかアキラさん、お布団に入りっぱなしでしたね」
 と言っても、テンションが低かったわけではない。むしろアキラはハイテンションで、

「この出会いはもはや、運命と言わざるを得ない! ひゃっはーーー!!」

 と言ってお布団に飛び込み、うにゃうにゃむにゃむにゃ感触を十分全身で、頭のてっぺんから足の先から堪能しながら、コタツむりならぬ布団ツムリになっていたのだ。
 単にお昼寝が好きなのではない。
 このヴォルロスで購入した高級ふかふかお布団、結局中に使われている素材が素材なので、返品してしまったのだ。
 一度は失われた感触がバージョンアップして戻ってきたのだ、これが嬉しくないはずがあろうか、いやない。
 しかもこれが「試し眠り」であった。満足して合格点を与えた彼は、布団の手触りを確かめながら、今改めて購入を決定した、という念の入れようだ。
「食事ってセレスが……?」
 「我が家」の料理人であるセレスティアが包丁を握るのはいつものことだが。今日は腕によりをかけて作った。
 もちろん、周りをうろちょろしているミャンルー隊に大変だったが、アキラと一緒のお布団に入っていつのまにか寝てしまっていたのだ。
 そのうちに食事を作り、お菓子を作り、用事を済ませ自分の分の布団を選んで(コタツ布団にシーツにと、生活感のあるチョイスであった)、足りないお食事の補給をしていた。
「わしも手伝ったぞ」
 横から、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が片手を腰に当てて現れた。布団から顔だけ出しているアキラを見下ろして、
「わし自慢の毒沼のスープ……は、今日はやめておいた」
 ルシェイメアのスープは味は悪くない、というが、何分ギャザリングへクスなので見た目が毒の沼、華やかさに欠けて場違いになってしまうと自重した。
 アキラを見る目も緩い。こんな時間まで昼寝とは何事か! と、いつもならアキラを叱る係のルシェイメアだが、今日は無礼講にしてやろう、と思っている。
 借金生活のアキラだが、このお布団だって、「契約者特価」に「協力特別価格」のくせに「でもお高いんでしょう?」の決まり文句を肯定するレベルの布団を、アキラがローンで組んで五人分、購入することになっている。ミャンルー隊のものは特注で郵送になるだろうが……。
 別に事件解決のお祝いだからだけではない、それほどルシェイメアは甘くない。海軍の傭兵になった報酬がたっぷり出たので、これで一応賄えたのだ。
 もう一人、アキラとミャンルー隊を挟んで眠っていたアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)も、専用の布団を遂にゲットしていた。
 ヌイ族はゆる族だけあって、大から小まで、人形サイズのゆる族用の布団も充実していた。
 さらにゆる族専用の、追加のいい綿や布も一緒に購入している。明日も営業中だそうなので、あとで布団購入する時にもう一度、見せてもらってもいいかもしれない。というのは、回り切れていなかったのだが、お店には人形用の洋服も各種充実していたのである。
(ルシェイメアがイイって言うナラ、着替え、買いタイワ)
 しかも、安眠に欠かせないパジャマやお休み靴下まで揃っていたのである。
「……ん、じゃあそろそろお菓子取りに行くかー。みんなは窓から花火見て待ってろよー」
「ワタシも行クワ!」
 アリスはもぞもぞと布団を這い出すと、ぴょん、とアキラの肩に飛び乗って、二人一緒に出掛けていくと、お皿に山盛り、お菓子を持って帰って来た。
 アキラは小さなお皿の上にチョコやクッキーや取り分けて、アリスのために割ってやる。
 空と地上と二種の花をパートナーたちと並んで見ながら、アキラは口に、枕みたいなふわふわマシュマロを放り込んだ。

担当マスターより

▼担当マスター

有沢楓花

▼マスターコメント

 こんにちは、有沢です。
 シナリオご参加ありがとうございました。
 樹上都市のお祭りは2回目ですが、事件前と事件後で、大分、人も街も雰囲気が変わったように思います。ですが事件前よりも、何故か書いていて色々な色が見えてきたように思えました。
 おまけの仮装コンテストですが、優勝は周囲の人を笑顔にしたレキ・フォートアウフさんにさせていただきました。
 商品は大根の種一年分です。百合園の庭の一角を畑にしてもいいかもしれません!
 また、私信ありがとうございます。時間の関係であまりお返しできず申し訳ありません。

 それではご縁がありましたら、次回もよろしくお願いいたします。