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学生たちの休日12

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    ★    ★    ★

 雑貨屋いさり火の前の雪かきも終わり、やっと、しなければならないこともなくなりました。御近所への挨拶も終わりましたし、後は、のんびりと寝正月です。
 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)が家の中に戻ると、ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)が野生の欠片もない狼の姿でのんびりと寝ていました。あおむけにひっくり返って、前足を可愛く揃えて後ろ足は大胆に大きく広げています。つくづく、狼形態でよかったとハイコド・ジーバルスは思いました。
 とりあえずは、スマホで写真でも撮っておきましょうか。
 そう思って、カメラのレンズをむけたときです。息子のシンクが、これまた仔狼の姿でソラン・ジーバルスのお腹のあたりをよじよじと登り始めたではありませんか。とは言っても、なかなかうまくはいかず、よじよじ、ころん、よじよじ、ころんと、ちょっと見ていると面白いです。これは、静止画よりも、ぜひ動画で撮るべきでしょう。
 がんばれー、お母さん起こさないように登るんだぞー。
 思わず声援したくなってしまいます。
 やがて、ついに登頂に成功しました。そこで力尽きたのか、ソラン・ジーバルスのお腹の上で眠り始めてしまいました。母親であるソラン・ジーバルスの白い毛並みとは違って、黒に赤毛が混じってるからよく目立ちます。
「おねむか〜。よしよし」
 思わずなでてあげます。親ばか爆発です。
 一方、ソラン・ジーバルスの格好もやっぱり面白いままです。ついつい肉球をぷにぷにしてみますが、いっこうに起きる様子がありません。調子に乗って、ちょっとブラッシングまでしてしまいました。
「何をやってるのハイコド。あら、ソラちゃんったら、ずいぶんと面白い格好で寝ているのね。ちょっとポッペ引っぱって遊んじゃおうかしら」
「これこれこれ……」
 手をワキワキさせるニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)に、ハイコド・ジーバルスが自分のことは棚に上げて止めました。
「んっ、何してるの、二人共……。なんでスマホをかざして……。あーっ、撮らないでよ!」
 上に乗っかっているシンクをかかえるようにしてソラン・ジーバルスが身体を起こしました。
「そういえばハコくん、引っ越しどうする?」
 なんだか、唐突にニーナ・ジーバルスが引っ越しの話を持ち出してきました。
「えー、なんだ、それ。俺、聞いてないぞ」
 どういうことだと、ハイコド・ジーバルスが聞き返しました。
「えっ? 聞いてない? ちょっとソラ、これどういうことよ。私は、ハコくんがいいって言うから話に乗っていたんだけど……」
 今度は、ニーナ・ジーバルスがソラン・ジーバルスに詰め寄りました。
「ごっめーん言うの忘れてた」
 あっけらかんとソラン・ジーバルスが言います。
「おっ、相変わらず仲いいな、狼共」
 そこへ、藍華 信(あいか・しん)がやってきました。
「なんだ、引っ越しのことか? 俺は知ってたぞ。知らなかったのは、ハイコドだけだったんじゃないのか。まあいい、理由ならたくさんある。夜中、隣にいるお前の部屋がうるさい。夜がうるさい。夜がうるさい。夜がうるさい。夜がうるさい。夜がうるさい。ほら、理由が六つもある」
「実質一つだけじゃないか!」
 藍華信の言葉に、思わずハイコド・ジーバルスが言い返しました。なんだか、かなり恨まれています。
「それに、別にハイコドがいつも店にいなくても、困るというわけじゃないからな」
「いや、何かあったらどうするんだよ。誰もいなかったら……」
「勘違いするなよ。引っ越すのはハイコドたちだけで、私はここに残る」
「うん、引っ越すのは私とハコくんとソラと双子ちゃんだけだよ」
 藍華信の言葉に、ソラン・ジーバルスがうなずいた。
「それに、引っ越し先は目と鼻の先の森だし、ハイコドの裳之黒なら十五分ってところだ」
「うん。場所はツァンダ東にある森の中のジーバルスの里の……私たちが幼いころに住んでいた家だよ。いさり火より広いと思うし、うん、ダイジョブ!」
 ニーナ・ジーバルスが、藍華信の言葉を補足しました。
 参りました、完全にみんなで外堀を埋めてきています。今さら決定事項は覆せそうもありません。だいたい、発端は、族長がニーナとも結婚しろと言ってきたことからでしょう。手許に引きよせて、是が非でもうんと言わせるか、既成事実にしてしまうつもりなのでしょう。
 なんだか呼ばれた気がしたのか、裳之黒がハイコド・ジーバルスの影から顔を出そうとしました。
「いや、大丈夫だ。お前には関係ないよ」
 ハイコド・ジーバルスが言うと、裳之黒がまた影に引っ込みました。そう、関係があるのはハイコド・ジーバルス自身です。それは正月そうそう大問題でした。さて、どうしましょう。まあ、選択肢はほとんどなさそうですが。

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「ごちそーさん。うまいそばだった」
「どうも、お粗末様」
 自宅でのんびりと年越しそばを食べて、山葉 涼司(やまは・りょうじ)山葉 加夜(やまは・かや)は、水入らずの大晦日を迎えていました。今年はいろいろとありましたが、来年はなんとか落ち着ければ嬉しいところです。そうでなくとも、山葉涼司はいろいろと忙しいので、ゆっくりと夫婦の時間を持つのも難しくなります。
 とはいえ、さすがに今日は大晦日、もうじきお正月です。一年の節目ぐらいゆっくりとしましょう。
「おっ、そろそろかな」
「ええ、そろそろですね」
 時計の秒針が12に近づきます。そろそろ、カウントダウンです。
「10」
「9」
「8」
「7」
「6」
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「あけましておめでとう!」
 声を合わせてカウントダウンをすると、年明けと共に二人揃っておめでとうを言い合いました。
 ……。
 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0……。
「あけましておめでとう……。むにゃむにゃ……、あれ?」
 なんだか、もう一度カウントダウンをした山葉加夜ですが、どうやら初夢の中でもカウントダウンをしていたようです。
「なんだか同じようなことしているなあ」
 ベッドの横に寝ていた山葉涼司が、おかしそうに言いました。どうやら、似たような目覚め方をしたようです。
「でも、やっぱり、カウントダウンは、一緒に数えなくちゃ」
「そうだな」
 ピッタリとくっついてくる山葉加夜に、山葉涼司が答えました。
 そして、三度一緒にカウントダウンをすると、元気よくベッドから跳ね起きます。本当は、山葉加夜としてはもう少し山葉涼司にぺったりくっついてぬくもりを感じていたかったのですが、山葉涼司の方はこのくらいの寒さはまるで平気なようでした。
「今日の予定は、初詣かな」
「ええ。でも、時間はたくさんあるから、あわてなくても大丈夫」
 そう言うと、山葉加夜はおせちの用意を始めました。初詣には着物を着ていく予定ですし、出発は、まだまだ後のことになりそうです。