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学生たちの休日12

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「新年おめでとー、お誕生日おめでとー」
「おめでとー!」
 みんなが源鉄心に唱和して、元日が誕生日の三人を祝います。
「ハッピーバースディ、白羽、アンド、虚空、アンド、ロゼさん♪」
 鬼龍貴仁が、マジカルファイアワークスで花火を打ちあげてから、幸せの唄を歌います。伴走は、鬼龍愛の叩くカスタネットです。
「ぷはー。甘酒、美味しいでうさー。ぷっはー」
 甘酒を一気飲みしたティー・ティーが、早くも顔を真っ赤にして言いました。
「いい飲みっぷりだね。これは、負けちゃいられないな。せっかく二十歳になったんだから。九条ジェライザ・ローズ、缶ビールの一気飲み行きます!」
 いきなり宴会芸に突入して、九条ジェライザ・ローズが炬燵から立ちあがって叫びました。
「おいおい、大丈夫か?」
「まあ、見てなって」
 そう源鉄心に言うと、九条ジェライザ・ローズが缶ビールを逆さにしました。そして上になったビール缶の底の方にボールペンで小さな穴をあけました。少しだけ、プシューッと炭酸ガスがもれます。けれども、逆さにしたので、とりあえずビールは噴き出さないようでした。そこを、すかさずボールペンを引き抜いて、代わりに口をつけて穴を塞ぎました。ビール缶をひっくり返して正位置に戻すと、プルトップを外します。すると、一気に缶の中に空気が入ってきて、穴からビールが喉へむかって吹き出してきました。
「ごくごくご……むぐぐぐぐぐぐ!?」
 飲みつけてないビールを、しかも一気に胃に流し込んだりするものですから、さすがに九条ジェライザ・ローズがひっくり返りました。
「うわあ、衛生兵ー!!」
 あわてて、源鉄心が叫びました。
「はーい、おまかせー」
 すぐに、鬼龍愛がナーシングで九条ジェライザ・ローズの様子を見ます。
「これは、胸元を緩めるのがお約束だよね」
 鬼龍黒羽が、便乗して九条ジェライザ・ローズの胸元のボタンに手をかけようとします。
「ふっかーつ! プハァーッ。イェス、イェスッ!」
 その瞬間、九条ジェライザ・ローズが息を吹き返して勢いよく起きあがりました。撥ね飛ばされた鬼龍黒羽が尻餅をつきます。
 どうやら、事前にリジェネレーションをかけていたようです。
「まったく、無茶しすぎですわ」
 酔っ払って暴れられてもかなわないと、イコナ・ユア・クックブックが清浄化で九条ジェライザ・ローズの急性アルコール中毒を中和しました。
「すかさずのナーシング、同じギフトとしてナイスでござる、愛殿。これで、もう少し胸があれば……」
 いきなり変な目で見られて、巫女服姿の鬼龍愛が、あわてて小さな胸元を押さえて顔を赤らめました。
「浄化!」
 不謹慎なことを言うスープ・ストーンを、イコナ・ユア・クックブックがサラダに命じてこんがりとさせました。
「それにしても、みんな、こんな苦い物よく飲んでるわよねえ」
 元気になった九条ジェライザ・ローズが、ぽつりとビールの感想を述べました。
「やっぱり、ビールよりはこちらの方がいいのだ。さあ、これを飲むのだあ」
 そう言って、屋良黎明華がコップ酒を九条ジェライザ・ローズに勧めてきました。
「それと、これは誕生プレゼントなのだあ。受け取ってほしいのだあ」
「わあ、ありがとう。ごくごくごく……」
 屋良黎明華からぷりかる人形をもらった九条ジェライザ・ローズが、懲りずに日本酒をごくごくと飲んでいきました。それをきっかけにして、みんながお誕生日を迎える三人に、それぞれのプレゼントを渡します。
「お子様たちには、当然お年玉よね。黒羽たちには、はい、プレゼント」
 鬼龍白羽が、タイムちゃんの橇に乗せたラクシュミサンタのプレゼント袋からプレゼントを取り出して鬼龍黒羽たちに渡しました。ちょっとタイミング遅れのサンタさん気分です。
「えー、白羽だって誕生日なんだから……。そうだ、これを用意していたんだっけ。じゃーん、誕生日ケーキじゃあたりまえすぎるから、僕からは誕生日プリンだよ。さあ、一緒に食べよー」
 鬼龍白羽からプレゼントをもらった鬼龍黒羽が、お返しにと鬼龍白羽にプリンケーキを炬燵の上に載せました。
「わー、プリンだー」
 鬼龍愛が、それを見て歓声をあげます。
「さあ、年越しのお鍋と言えば、やっぱり鍋焼きうどんですうさ。年越しうどんになって、一石二鳥ですうさ。さあ、みんな食べるうさ〜」
 一段落つくと、ティー・ティーが、大量のうどんを運んできました。
「さすがだ。年越しそば……のようなものをメインに持ってくるとは……」
 変に、ウィル・クリストファーが感心します。ここ感心するところではないです。
「うどんか……。スープ、任せた」
 源鉄心が、山盛りの年越しうどんをスープ・ストーンに押しつけました。
「なぜ、また拙者に……。拙者も、プリンの方が……」
「ほら、もっと食べて大きくならないといけないだろ」
「そうです。食べないと撃ちます!」
 酔っ払ったティー・ティーが、源鉄心の持っていた魔銃ケルベロスをいきなり奪って構えました。とうの源鉄心は、屋良黎明華の接待攻めに遭って、どんどんお酒を飲まされています。屋良黎明華、源鉄心を酔いつぶしてお持ち帰りする気満々です。
「食べられないんだ……」
 なぜか、鬼龍愛がジーッとスープ・ストーンを期待のこもった目で見つめています。
「ひー、食べるでござるよー」
 泣きながら、スープ・ストーンが、富士山と化したうどんをちびちびと食べ始めました。
「わあ、すごいすこーい」
 パチパチと手を叩いて喜ぶ鬼龍愛の手前、うどん地獄から逃げだせなくなってしまったスープ・ストーンでした。
「こういうときは、緑茶を加えると、なんでも美味しくなるのだあ」
 ちょっと酔いが回っているのか、屋良黎明華が緑茶を持ってやってきました。
「うわああああ、やめて、やめてでござる……」
 うどん汁に緑茶を混ぜられて悲鳴をあげるスープ・ストーンでした。
 一部阿鼻叫喚の宴は、楽しく進んで行きます。
「そろそろ、初日の出の時間だぞ」
 イコナ・ユア・クックブックに酔いを抜いてもらった源鉄心が、雲海の先を指さして言いました。
 みんなで、じっとそちらを見つめて初日の出を待ちます。
 やがて、太陽が昇ってきました。雲海を茜に染める、綺麗な新しい年の太陽です。
「綺麗なのだ。今年は、ぜひてつごころといいことがありますようになのだ……」
 初日の出に感激した屋良黎明華が、そうお日様に祈りました。
「さあ、とりあえず、タイタニックはじめをするのだ」
 そう言って、屋良黎明華が源鉄心を翠花の舳先の方へとズルズルと引きずって行きました。
「うーん、私も今年は恋人と結婚したいなあ」
 屋良黎明華と源鉄心を見て、九条ジェライザ・ローズがつぶやきました。
「いつ見ても美しい景色ですね。初日の出というのは……」
 ウィル・クリストファーも感激しています。
「あれ? 翠花がもう一隻いる?」
 雲海の中に、もう一隻翠花によく似た艦が浮かんでいるのを見つけて、ウィル・クリストファーが首をかしげました。
「あれは、フリングホルニ? ああ、みんな考えることは一緒みたいだな」
 その艦がフリングホルニであることに気づいて、源鉄心が言いました。
「さて、初日の出も見たし、みんなで空京神社へむかうぞ!」
 そう言うと、源鉄心は翠花の進路を空京へとむけました。

    ★    ★    ★

「あれは、二番艦の、ええっと翠花でしたか。そのようですね」
 メインモニタに映し出された黒と緑の縞模様のフリングホルニ級空母を見て、グレン・ドミトリーが言いました。
「パラミタで一番最初の初日の出を見ようとここまでやってきましたが、みんな、考えることは一緒のようですね」
 クスリとエステル・シャンフロウ(えすてる・しゃんふろう)が笑います。なんだか、未だにパラミタで一緒に戦った者たちの近くにいるような気がしたのでした。
「まあ、お正月ぐらい、政務から逃げだしてもいいですよねー」
 へヘっと笑うフレロビ・マイトナーに、ニルス・マイトナーが、やれやれと肩をすくめました。
「一応、今日だけですぞ」
 デュランドール・ロンバスがしっかりと釘を刺します。建前としては、恐竜騎士団が作った遊園地の視察と言うことになっているのですから。はめを外すのもほどほどにということになります。
「ええ、分かっています。みんな、ありがとう」
 なんだかんだ言いつつも、黙認してくれた側近たちに、エステル・シャンフロウがお礼を言いました。
「翠花は、空京方面に転進するようですね」
 移動を始めた翠花の進路を確認して、グレン・ドミトリーが言いました。
「空京には、空京神社とかいう物があるようですな」
「見て見たい!」
 デュランドール・ロンバスの言葉に、エステル・シャンフロウが間髪入れずに叫びました。
 予想通りと、ニルス・マイトナーとフレロビ・マイトナーが顔を見合わせます。
「取り舵いっぱーい。進路、空京へ!」
 確認することもせず、グレン・ドミトリーが進路変更を告げました。

    ★    ★    ★

「あけましておめでとうリラ」
「あけおめーリン♪」
「華やかな年明けナウ」
「みんなおめでとうミラッ!」
 アトラスの傷跡近くの遊園地では、パビモン リラード(ぱびもん・りらーど)パビモン トレリン(ぱびもん・とれりん)パビモン ナウディ(ぱびもん・なうでぃ)パビモン ミラボー(ぱびもん・みらぼー)たちが、園内のお客さんたちの間を走り回っておめでとうを言い合っています。
「なかなか盛況だな」
 浦安 三鬼(うらやす・みつき)が、魔威破魔 三二一(まいはま・みにい)に言いました。恐竜騎士団によってこの遊園地はできたばかりですが、魔威破魔三二一の大いなる野望の第一歩です。
「まだまだよ。実質私が仕切っているとはいえ、この遊園地は私の物というわけではないもの。ふふふふ、そのうち完全に私の物にして、どんどん拡張していくわよー」
 新年そうそう、さらなる野望に燃える魔威破魔三二一でした。