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学生たちの休日12

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    ★    ★    ★

「みんなも来ればよかったのにね」
 空京神社の参道を、高天原 水穂(たかまがはら・みずほ)に手を引かれて上りながら、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が言いました。
「小さい子たちはもうおねむでしたし、それを見る人も必要でしたから」
 高天原水穂が、言いました。それもあって、今日の二年参りに来たのは高天原水穂と常葉樹 紫蘭(ときわぎ・しらん)とネージュ・フロゥの三人だけになったのでした。
「あー、何かお店がでてるよ!」
 振り袖風の和風ミニドレスを着たネージュ・フロゥが駆け出そうとして、高天原水穂に掴まれました。
「ねじゅちゃん、ここは人が多いですし、駆け出したりしたら、裾を踏んで転んでしまうかもしれませんよ。他の方にも御迷惑になりますから、ゆっくりと歩いてくださいね」
「はーい」
 高天原水穂に注意されて、ネージュ・フロゥがお行儀のいい返事をしました。
「そうですよ。せっかく水穂さんとお揃いの綺麗なおべべ着ているんですから、怪我したら大変ですわ。もっと、わたくしによく見えるように、ゆっくり歩いてください。走るのは、わたくしだけで充分……」
「あなたもですよ、紫蘭さん」
 自分は平気みたいに言う常葉樹紫蘭に、当然のように高天原水穂が注意しました。
 高天原水穂はちゃんとした晴れ着ですが、尻尾を出せるように後ろに大きくスリットを入れてあります。走ろうとすれば走れますが、ちょっとはしたないので、なるべくなら避けたいところです。そのためにも、この二人には目を離さないようにしておかないと……。
 そんな高天原水穂の緊張を表すかのように、お尻のあたりでふさふさの尻尾がめまぐるしく左右にゆれています。
 境内に入ると、さすがに人の密度が増してきました。はぐれないようにと、しっかりと手を繋ぎあいます。
 屋台で甘酒や焼きそばを食べながらその時を待ちます。やがて、人々の間からカウントダウンが始まりました。0のかけ声と共に、あちこちで太鼓や笛が鳴らされ、シャンバラ宮殿の方から花火がいくつもあがりました。微かに、ライブの音楽も聞こえてきます。
「水穂さん、紫蘭さん、去年は一年ありがとう。今年もよろしくね」
「こちらこそ。ねじゅちゃんも紫蘭さんもよろしくね」
「今年もよろしくですわ」
 三人で、新年の挨拶を交わします。さあ、次はお参りです。ところが、本殿の方は凄い人だかりで、背の低いネージュ・フロゥには、お賽銭箱の姿すら見えません。
「大丈夫です。こうすればいいのですわ」
 そう言うと、常葉樹紫蘭がネージュ・フロゥを肩車しました。
「大丈夫? 私の方が……」
「水穂さんだと背が高すぎて怖いですもの。わたくしがねじゅちゃんにはちょうどいいのですわ」
 心配する高天原水穂にそう主張すると、常葉樹紫蘭がネージュ・フロゥを肩車し続けました。
「もうちょっと、もうちょっと……」
 お賽銭を握りしめたネージュ・フロゥが、狙いを定めようと常葉樹紫蘭の肩の上でもぞもぞします。そのたびに、ぷっくりとした太腿で常葉樹紫蘭の首筋を締めつけるものですから、その感触に常葉樹紫蘭が酔いそうになります。ああ、ねじゅちゃんのぷにぷにふともも……。
「えいっ。やったあ、お賽銭投げられたよ!」
 ついにお賽銭を投げたネージュ・フロゥが、常葉樹紫蘭の上ではしゃぎました。
「ああ、また、至福の感触が……」
 常葉樹紫蘭が、どんどん危ない方向へと転がり堕ちていきます。
「きゃっ、紫蘭さん、大変!」
 高天原水穂が、常葉樹紫蘭の鼻の穴から血がつつつつーと垂れてきているのに気づいて、あわてティッシュを詰め込みました。
「どうしたの、のぼせたの?」
「あはは、まあ、そんなところですわ」
 一年の計は元旦にあり、今年もこんな一年になりそうな常葉樹紫蘭でした。

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「ここが、空京神社ですか。さすがに人が多いですねー」
 タンサ・メルポメネが、鈴を転がすような美しい抑揚のある声で言いました。
「そうです。なので、翼はたたんでください」
 すかさず、テンク・ウラニアが突っ込みました。
「えーっ、ステイタスなのにー」
 怒られて、タンサ・メルポメネが背中から飛行翼を外して荷物にしまいました。
「タンサちゃんは、ここは初めてですからあ」
 まあまあと、テンコ・タレイアがとりなしました。
「さあ、早くお賽銭をあげてしまいましょうよ」
 そう言うと、華麗なステップで人を避けながらチュチュエ・テルプシコラがどんどん先に進んで行ってしまいます。
「ああ、待ってよー、チュチュエちゃん」
 あわてて後を追おうとしますが、たっゆんがつっかえて人混みをすり抜けられないテンコ・タレイアでした。
「だから、飛んでけば楽なのにー」
 タンサ・メルポメネが再び飛行翼を出そうとごそごそします。
「みんな、勝手な行動しない。ちゃんとお参りして」
 テンク・ウラニアが苦労して一行を一箇所に纏めていきました。やれやれ、大変です。
「早くコウジン・メレ様が戻ってきますように……」
 四人で揃って願かけをすると、ちゃんとお賽銭を投げ入れました。

    ★    ★    ★

「だから、ムハ、言ったじゃん! 年末年始の番組なんてそんなに内容ないから、早く寝ろって! おかげでもうお昼じゃん!」
 昼過ぎの混雑する空京神社で、ラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち)ムハリーリヤ・スミェールチ(むはりーりや・すみぇーるち)に文句を言っていました。
 ミーハーな年末年始番組を見いていたムハリーリヤ・スミェールチにつきあわされて、全員ちょっと寝坊気味です。おかげで、ムハリーリヤ・スミェールチの晴れ着の着付けなどでいろいろ時間がかかってしまい、空京神社に辿り着いたのはお昼過ぎになってしまったのでした。
 すでに、安徳 天皇(あんとく・てんのう)の祝賀が始まっていて、空京神社は凄い人混みです。
「わーあ、着物を着た女の子がいっぱい。これって、帯の端を持って、テレビで見たみたいにくるくるくるあーれーしていいんだよねー」
「だめに決まっているだろが!」
「えー」
 思いっきりラヴィーナ・スミェールチにだめ出しされて、ムハリーリヤ・スミェールチがむくれました。さすがにここでそんなことをしたら、警備の人たちに連行されてしまいます。
「まったく、だから普通の格好をしてくればよかったんだ」
 ぼそりと御空 天泣(みそら・てんきゅう)がつぶやきました。ラヴィーナ・スミェールチも羽織袴なのに、御空天泣は黒いダウンジャケット姿で、いつもとほとんど変わりありません。
「えー、だって、せっかくのお正月じゃん。天泣もおめかししてくればよかったじゃん」
「おめかしー、おめかしー」
 もったいないとラヴィーナ・スミェールチが言い、ムハリーリヤ・スミェールチがそれに合わせるように歌いました。
「ふっ、理系男子の衣装に、そんなにバリエーションがあると思うな。この季節、一定値以上の断熱効果さえあれば、このダウンだけで全てことたりるのだ」
 自慢げに御空天泣が言います。
「そうなんだー。ラヴィちゃんも機嫌直してよ。千歳飴探してあげるからー」
 ツッコミばかりするラヴィーナ・スミェールチを、なだめるようにムハリーリヤ・スミェールチが言いました。甘い物を食べれば、少しは落ち着くかもしれません。
「千歳飴なんかあるかあ!!」
 ムハリーリヤ・スミェールチの言葉に、ラヴィーナ・スミェールチがキレました。どうやら禁句だったようです。なんでも、小柄なラヴィーナ・スミェールチの着付けをした人がバイトらしく、七五三の写真を見ながらやっていたと言うことなのですが……。
「じゃあ、あの甘酒飲もー」
「お賽銭すませてからだよ!」
 屋台の甘酒を見て叫ぶムハリーリヤ・スミェールチに、ラヴィーナ・スミェールチが突っ込みました。
「お賽銭箱どこー?」
「ええっと、あ、あそこにいる巫女さんたちに聞いてみよう」
 そう言うと、ラヴィーナ・スミェールチが連れ立って歩いているテンコ・タレイアたちに道を訊ねました。
「それなら、あっちですわー」
「どうも、ありがとうございました」
 テンコ・タレイアにお賽銭箱の方向を聞いて、ラヴィーナ・スミェールチがお礼を述べました。
「またここの巫女さんと間違えられましたね」
「仕方ありません。格好が格好ですから」
 苦笑するチュチュエ・テルプシコラに、テンク・ウラニアが答えました。チュチュエ・テルプシコラとタンサ・メルポメネはワンピースドレス姿ですが、テンコ・タレイアとテンク・ウラニアはしっかりと巫女服姿です。これでは、間違えられても仕方ありません。
「あっちだって」
 ラヴィーナ・スミェールチが、教えてもらった方へと先頭に立って進みます。
 人波に流されつつ、なんとかお賽銭箱に近づきました。
 ぴょんぴょんとジャンプしながらなんとかお賽銭を投げたラヴィーナ・スミェールチとは違って、長身のムハリーリヤ・スミェールチは楽勝です。かわりに、頭に他の人のお賽銭がボコボコ当たって、痛い痛いと騒いでいます。
「お賽銭って、痛かったー。だから、甘酒飲むー」
 なんだかよく分からない理由で、ムハリーリヤ・スミェールチは全員に甘酒を強要しました。
「じゃ、かんぱーい。いっきだよー」
 ちょうど飲みごろの熱さだったので、ムハリーリヤ・スミェールチが、みんなに一気飲みを強要します。これ以上騒がれても大変なので、御空天泣もラヴィーナ・スミェールチも従うことにしたのですが……。
「あー、この甘酒、アルコールが入ってる!」
 思わずラヴィーナ・スミェールチが叫びました。あたりまえのこととはいえ、所詮は甘酒なので大したことはないはずたったのですが……。
 バタン。
 御空天泣がぶっ倒れました。アルコールの許容量を超えてしまったようです。
「やっちゃったー」
 どうしようかと、ラヴィーナ・スミェールチが頭をかかえました。
「しかたないねー、じゃ、リーリちゃんがはこんでくー」
 そう言うと、ムハリーリヤ・スミェールチがひょいと御空天泣をお姫様だっこして、嬉しそうに運んでいきました。