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進撃の兄タロウ

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進撃の兄タロウ

リアクション

スヴェトラーナより先に空大へ向かっていたキアラ・アルジェント(きあら・あるじぇんと)は、ばったり出くわした遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)に事情を話し、協力を要請していた。
 快諾しキアラと別れた歌菜は、K.O.H.を探すのでは無く先程居た場所へ踵を返す。
「どうしたんだ歌菜?」問いかける羽純に、歌菜は考えを話しながら庭へと向かう。目指していたのは彼女の友人ディミトリアス・ディオン(でぃみとりあす・でぃおん)の双子の兄アルケリウス・ディオンだった。
「ハァイ」と先に挨拶してきたのはアルケリウスの隣に寄り添うトーヴァ・スヴェンソン(とーゔぁ・すゔぇんそん)だ。
 歌菜が挨拶をしている間にも、今回の騒ぎの原因はの一端は此処に有る、と羽純は気を引き締めている。
「――実はさっきキアラちゃんに会ったんです」
「キアラに?」
 どうして百合園生で家もヴァイシャリーに住んでいるパートナーが此処に居るのかと不思議そうな表情のトーヴァを横目に、歌菜は真っ直ぐの視線でアルケリウスを見上げた。
「アルケリウスさんはキアラちゃんと会った事ないんですよね」
「……ああ」
 思いきり不機嫌そうな顔と返事だが、歌菜はそれが何時ものアルケリウスだと分かっているので気にしない。アルケリウスの方も、歌菜たちには大分苛立つことも無く済むようになったようで、これは素直な返答だった。
「アルケリウスさん、キアラちゃんにちゃんと挨拶とかしました?」
「……いいや」
「トーヴァさんと良いお付き合いを続けるためにも、周囲の……特に家族同然のパートナーとの良好な関係は必要です。
 仲良くなるには挨拶から!
羽純くんと結婚する際、羽純くんは私の家族に挨拶してくれました
お手伝いしますから、挨拶に行きましょう!」
「……わかった」

 こうして、初対面をする事になったキアラとアルケリウスだったが、いざ顔を付き合わせてみると歌菜には目に見えない火花が二人の間に散って見えるかのようだった。
「お前がフェルリフォリアのパートナーなのか?」
 ぶっきらぼうな声で吐かれたアルケリウスの言葉に、キアラの眉が思いきり顰められる。聞いた事の無い単語にキアラの顔を見ると、キアラは不機嫌です!!と言葉に出しているような顔で歌菜と羽純へブツブツと説明を始めた。
「お姉様は昔、自分を変える為に名前を捨てたって……。
 私はその『話』しか知らないっスけどその名前が――」
 フェルリフォリアという名前なのだ、と二人の合点がいっている間に、アルケリウスはふんと鼻をならしてみせた。
「なんだ、知らなかったのか」
 彼の性格を考えれば煽るつもりは無い、純粋に「なんだ」だったのだろうが、この状況でそんな言葉を口にされてカチンとこない訳が無い。案の定顔から火炎放射器宜しく火を吹きそうな勢いのキアラに、歌菜はこのままでは状況が逆に悪化してしまうと間に割って入った。
「キアラちゃん、アルケリウスさんは一本芯のある、とても格好良い方ですよ!」
 その一本芯が通っているお陰でかつて復讐に走った単純な部分は、今は隠しておくべきだろうと、羽純は頭の中に考えを押し込んで、男としてアルケリウスにアドヴァイスする。
「トーヴァのためにも、それにこの騒ぎの原因の一端なんだから何とかしろ」
 二人の言葉は、キアラとアルケリウスを詰まらせるには十分な効果があったらしい。第三者からは息が合っていると評価出来るくらい同じタイミングで「うっ」と声が聞こえると、その場は長い沈黙に包まれた。
(どうしよう羽純君)
(どうしようって言ってもな)
 目でそう言葉を送り合っている二人を助けるようにそこへやってきたのは、歌菜に「一先ず隠れて見守ってて欲しいんです」とお願いされたトーヴァの明るい声だった。
「挨拶終わったー?」
 四人が振り向くと、トーヴァはすっと手を伸ばしてキアラの手とアルケリウスの手を右と左で握り、はにかむような笑顔を見せた。
「改めて紹介するね」そう言って、「こっちはアタシの大切な妹」「こっちはアタシの大切な恋人」と二人の顔を交互に見る。
「仲良くしてくれると、おねーさん嬉しいわ」
 何処か茶化すような言葉になってしまうのは気恥ずかしさからだろう。トーヴァの何時もより可愛らしい雰囲気に、キアラもアルケリウスも剥き出しの剣を心の中に収めた。
「…………そういえば、名前も名乗っていなかったな。アルケリウス・ディオンだ。よろしく、頼む」
「キアラ・アルジェントっス。お姉様のパートナーで、百合園で、地球人の16歳。魔法少女で、個人的には豊美ちゃんリスペクトっス。あと……プラヴダの一等軍曹で被服で…………いっぺんに言わなくてもいっか」
「ゆっくりで構わない……どうせ、長い付き合いになるんだろう」
 アルケリウスが何気なく返した言葉にキアラの睫毛が揺れる。
(あ、そういう事か。そうだよね……うん)
 パズルのピースが嵌まるように、何かがかしっとかみ合った気がして、キアラは一人頷きアルケリウスの目を見て、そこに初めて共通点を見つけた。
「グリーンアイ、同じっスね」
 別に笑いもせずに自分の目を指差して言って、それからぽつりぽつりと会話を始めた二人に、歌菜は羽純を見上げにっこり笑った。
「これで一件落着だね。
 キアラちゃんがアルケリウスさんと仲良くなったから、トリグラフさん達も止まってくれるよね」
「ああ。でも……」
 言い淀む羽純に、歌菜はちょこんと首を傾げる。
「それをあいつらにどうやって伝えるかなんだが」
 それで歌菜はハッと気が付いた。確かにキアラ達の問題は解決したが、トリグラフにそれを伝える術は今のところない。まず見つけなければならないが、この広い大学の構内であの小さな生き物達を捕まえる、それが至難の業なのだ。
 一難去れば又一難だと、歌菜は溜め息をつくのだった。