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進撃の兄タロウ

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進撃の兄タロウ

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「ジゼルさんイェ〜イ!」「イェ〜イ!」「イェイ!」「イェイ!」「むぎゅー!」「きゃー!」
 次百 姫星(つぐもも・きらら)とジゼル。ハイファイブをしたりハグをしたりと盛りだくさんな挨拶が終わるか終わらないかの所で、スヴェトラーナ・ミロシェヴィッチ(すゔぇとらーな・みろしぇゔぃっち)は嗜める様に咳をしてみせた。
「あ、ごめんツェツァ」
「いえ、挨拶はいいんですが……もうちょっと省略して頂けると有り難かったですね」
 スヴェトラーナの組んだ腕の上で指先がトントンと動いているのに気付いて、姫星は首を傾げる。
「そんなに慌ててどうしたんですか?」
 質問に、二人は経緯を話し始めた。時間は惜しいが仲間は多い方がいいし、アレクを知っている姫星なら、K.O.H.を見ても直ぐにそれが件の生き物だと分かるだろう。
「なるほど、それは大変です! そういうことなら、私も協力しますよ。
 えっと……もう時間が経ってるし爆弾は設置された可能性が高いですよね。
 私はこのまま此処で探してみます。ジゼルさん達は別の場所を!」
「有り難う、ご免ね折角バイト終わったところだったのに」
 申し訳なさそうにするジゼルに、姫星は苦笑して首を横に振った。
「友達ですから!
 それに食品扱うところでフェロモン爆弾とか営業停止ものじゃないですか!? マジで勘弁してください! そっちの方がヤバいですって」
「それじゃあ! お願いします!」
 後ろ髪を引かれる様子のジゼルの背中を押してスヴェトラーナが食堂から――珍しく――去って行くのに、姫星は「任せて下さい!」と力こぶを作るポーズで送り出す。
 しかし……状況を頭の中で整理すれば、至るのは
(まぁ、たぶんアレクさんにはとっくにバレてそうですが……)という事実だった。アレクは頭の悪い人物では無い。彼が戻ってきた時点でK.O.H.、それの世話を頼んだトゥリンとスヴェトラーナが基地内に居なければ、何か起こったのだと直ぐに気付くだろう。姫星の印象の中のアレクだったら、そんな展開だろうと目に見えたのだ。
 まあそれはそれ、これはこれと切り替えて、姫星は集中する。
(兎に角どうにか爆発する前に見つけたいですね)
 要はトレジャーセンスの応用だ。
 本来は金品財宝を見つけるためのスキルだったが、そんな出鱈目な使い方でも案外見つかってしまう物だ。何と言う事は無い、漫画で描いたような見たままの爆弾は冗談のようなピンク色に塗られて兎が描かれていた為これ見よがしだったし、よりにもよって姫星が立っている目と鼻の先に仕掛けられていたのである。
 スキルを使う程でもなく、むしろわざとかと思う程だ。
「あっけないですね……。でもえ〜と、どうしましょう」
 そう、問題は此処からなのだ。
 見た所フェロモン爆弾は時限制のようだが、対する姫星は素人だ。解除方法が分かる訳でも無し、どうしたらいいものか……。
 考えに考えたのは、時間に換算すれば数十秒程だ。何故なら爆弾に表示されている残り時間を見る限り、そんな時間は残されていないと判断されたからだ。
「あと三秒しかないッ!」
 それからは姫星は猪突猛進窓へ突撃し、
チェストー!
 と気合いの雄叫びを上げながら二階から飛び降りて行ったのである。
 斯くして爆弾は勇気ある姫星によって外へ運び出され、安心、安全。
「食堂の平和は守られました!」

 



 ――残念ながら然うは問屋が卸さないのが世の常だ。
 何故なら姫星はフェロモン爆弾をモロに浴びていたのである。
 姫星の飛び降りた先、周囲を取り囲む植栽がガサガサ揺れると「キキッ」「キュッ」と小さな高い鳴き声が聞こえてきた。
 幾つも、幾つも。
 それはもうとんでもない数では無いかと危惧した彼女は、あるスキルを発した。
「私は波羅蜜多実業高等学校所属、次百姫星です!
 契約者としてそこそこ実力は有るつもりです! 武器も持っているので――」
 その警告の途中、遂に植栽から姿を現した小動物達が姫星に襲いかかる。姫星は気がついた。
(アレ、この技は言葉通じないと駄目なんじゃ?
 アレ、これ詰んでませんか?)
 そう。詰みだった。

「キャー、やめて!?
 イヤー!?
 服は、服は、らめぇ〜!」
 
 艶かしいのか、本気でヤバいのか。そんな声が食堂下の裏庭に木霊して暫く。
 食堂アルバイトのエプロンごとぼろぼろになった服――かどうか最早分からない代物を纏った姫星は、自らの涙で足下の芝生を濡らすのだった。
「うぅ、もうお嫁にいけない……ぐすんっ……」