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リアクション
第7章 追う根
「ワタシは思うんだけど、」
陣営で、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は佐々木 八雲(ささき・やくも)に言ったのだった。
「魔族化した方にオリジナルの『黒白の灰』を投与してみたい、と思ってたけど」
「あぁ、言ってたな」
「けど、抗体作りが行われているから、そっち方面で何とかなるかなと思うし」
「そんな感じだな」
「でも、思うにタァに何かあったら魔族化した人達を戻すのに困るんじゃないのかな」
「なるほど、タァの確保は確かに大切だな。抗体やオリジナルで上手くいくとは限らんし」
そのようなわけで、タァを追うべく要塞に潜り込んだ2人だったのだが、タァは鷹勢やネーブルに連れられて、意外に早く要塞を出ていってしまった。
タァが転移装置をいじっているところも、遠くから見つけて見守っていたのだが、そこから感じられたのは収穫がないことへの落胆と。
(……気の遠くなるほど長い間、何かを捜していたんだねぇ。
とても必死だけど、虚しさに耐えているような……そんな心を感じる)
弥十郎はそんな風に感じ取った。
八雲は何も言わなかった。ただ心の中で(よしよし)と返していた。
大転移装置は丘の中に在る。取り敢えず2人も、タァ達を更に追って丘に行くことにした。
丘の前に群がるコクビャク兵たちは、北都のアルテミスボウの連射、そしてその隙に一気に近付いてきたクナイの【煉獄斬】で薙ぎ払われる。
丘に走ってくる人影を見て、北都が【ホワイトアウト】を発動させる。周囲の兵士たちは、氷の光粒によって視界を乱され、氷結で足止めを喰らい、動きを崩される。
(今のうちに!)
合図を送ると、ルカルカとダリル、クリストファーとクリスティーに、卯雪とキオネといった、陣営から来た潜入組が穴にもぐりこむ。続けて、要塞から来た一同が潜入した。
さらに遅れて、弥十郎と八雲も穴を見つけて入ったが、先の2組が入ったのとは違っていた。
「……まぁいいや。どこかで通じ合うような気がするから」
「お前なぁ」
一方の北都は、足止めされて右往左往する兵たちの間に飛び込み、【百獣拳】を放って次々に兵たちを気絶させていった。
そして、その隙に捕獲して無力化させ、後方に控えた警察の機動班に引き渡していった。
さて、要塞組と陣営組が合流して、穴の中を行くとすぐ、壁に開いた穴が見つかった。
「ここから、地上階に入れるんじゃないかな」
つまり、コクビャクが守る扉の内側だ。コクビャクにしてみればずいぶんマヌケな話である。
一同はその穴をくぐって、室内に入った。
『このようになっているのか……』
感慨深げに呟くタァの声がした。が、すぐに改まったように、説明する口調になる。
『ここのきかいはおもに、しつないのしょうめいようのはつでんきだ。
バルレヴェギエけにもおなじようなきかいがある。
このけいきは……ちかのしつどやおんどのけいそくきのようだ。
じゅうようなきかいはここにはなさそうだ』
タァの声がする方向を、卯雪は、今一つ容量がつかめないという表情でぼんやりと見ている。
『……うゆき。いままでのひれいはわびさせてもらいたい。ただ、わたしのことはいい――』
「――長くなりそうな話なら後で。今は、急いでやるべきことがあるんでしょ?」
ばっさりと、さばさばと言う。
その言い方が、卯雪の思いやりだった。
『……わかった』
それが通じたのかどうかは分からないが、タァは首肯した。
「これは……」
何かに気付いたクリスティーが、キオネを呼んだ。
締まった扉の傍らに、鎧の残骸が散らばっていたのだ。
「ペコラ――!」
キオネの顔が青ざめる。拾い上げてみるが、やはりバラバラになった残骸は残骸のまま、生命力を感じさせることもなかった。
「……エズネルの気配はない。しかし、もし……死んだのだったら」
そう言って、心配そうに見ている卯雪を振り返った。
「卯雪さんにも異変があるはず」
『エズネルは、そこにはいない。おかのきから、エズネルのけはいがする』
突然、タァの声がした。
「どういうことだ」
ダリルの問いかけに、タァは答えた。
『おそらく、エズネルはきとしんわしたのだ』
「しんわ。……親和、か」
『このきのねのとつぜんのせいちょうは、エズネルがたましいをしんわさせ、おのれのエネルギーをおくりこむことでひきおこしているのだろう』
「どうやって?」
クリストファーが尋ねる。するとクリスティーが、
「セッション準備用生体システムに杭を打っていた機能の稼動している部分で、ペコラの魂を霧散させずにこの場にとどまらせているのではないのかな」
と推測を口にした。
だが、タァの口調は渋かった。
『いや、もうじゅんびシステムはきのうしていない。
うゆきをかりとうろくしていたのを、エズネルがじぶんでとうろくをうわがきすることで、じゅんびからせいしきなセッションモードにじどうてきにいこうしてしまっている。
せいしきなモードに入れば、じゅんびモードはしゅうりょうするから、くいもしょうめつするはずだ。
いま、エズネルはじぶんのいしで、きといったいかしているとかんがえるべきだろう』
「自分の意志」
考えるような声で、キオネがその言葉を繰り返した。
『きをせいちょうさせ、そのねをちかにのばすことで、エズネルはなにかをしようとしている』
――私は私に出来る事をする――
『だが……そのためにしょうひされるのは、エズネルのたましいのエネルギーだ』
「急ぎましょう!」
誰よりも早くルカルカが声を上げた。
エズネルも、卯雪も、タァも。誰一人犠牲を出したくない。そのためには一刻も早く、コクビャク幹部を止めなくては。
みしみし、と、音がした。
土くれが、天井から降ってくる。それは当たっても危ないような大きさではないが、なぜ突然落ちてきたのか。天井を見ると、太い樹の根が横切っている。みしみし、音はそこから聞こえてきた。
こうしている間にも、樹の根は成長しているのだ。
「かぱーっっ」
突然、画太郎が一同を呼ぶように声を上げた。
見ると、そこには下へと続く、階段がある……はずだった。だが、狭い階段を大きな太い樹の根が寸断するように横切っていて、これを切断でもしない限り、階段を下ってはいけそうにない。それを知らせようとしていたのだ。
「どうする?」
「樹の根は切れないわ。エズネルと親和しているんだもの」
壁を戻って、穴の道を行きましょう、とルカルカは言った。誰も反対しなかった。
「キオネ、どうする?」
クリストファーが、鎧を指差して訊いた。
「樹との親和を解くためにはどうしたらいいか、分からないけど……
ペコラが死んでいないのなら、諦めるべきじゃないんじゃないかな」
魔鎧を作ることのできるキオネ自身の手で、ペコラの蘇生を試みるべきだろう。クリストファーはそう促しているのだ。クリスティーも頷いた。
手の中の残骸を一度見て、キオネは頷いた。
「頼んでもいいだろうか」
キオネはそう言って、クリストファーに、ペコラ・ネーラの残骸を差し出した。
「これを、陣営まで持ち帰ってもらえないだろうか」
クリストファーは頷き、受け取った。
こうして、卯雪とタァ、そして彼女たちを守る一同は穴の道を先に急ぎ、クリストファーとクリスティーは、(扉から出たのではどれだけ戦力が残っているか分からないコクビャク兵の只中に出てしまう可能性があるので)入ってきた穴を使って外に出て、陣営に引き返した。
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