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夏のS-1クライマックス

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リアクション


【六 色モノ対決】

「はぇ〜……みんな、強そうだなぁ〜」
 入場ゲートの陰から、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は何故か嬉しそうな表情で、勝ち名乗りを受けているろざりぃぬを遠目に眺めている。
 ミルディアは、次の第七試合に登場することになっていた。
 相手は謎の覆面レスラー、パンツマシンである。
 一体、どんな具合に責め立ててくれるのか、などと変な期待に胸を膨らませるミルディアだったが、しかしこの大会は一応、プロレスなのである。
 それなりにちゃんと戦わないと、後で叱られてしまう。
 ミルディアはついついにやけてしまう顔を無理矢理にでも引き締めて、入場を待つことにした。
 一方、謎のパンツマシンの方はというと、パンツのシルエットらしき模様が入った奇怪極まりないマスクを惜しげも無く披露しながら、リングイン早々に腰クネダンスを実演するなど、その外見のみならず、行動そのものまでが怪しさ一杯であった。
 パンツマシン、即ち国頭 武尊(くにがみ・たける)は、S−1クライマックス優勝よりも、パンツマシンの名を世間に知らしめることを第一に考えていた。
 それ故、相手が強い方が好都合だったのだが、緒戦の相手がミルディアということで、どうしたものかと内心で若干、悩んでいた。
(女子相手にパンツを色々絡ませるのは、下手すりゃセクハラだしなぁ。どうすっぺかなぁ)
 しかし、あれこれ考えていても仕方が無い。
 次はミルディアの入場である。ここは当初の予定通りに、奇襲を仕掛けてヒールらしさを演出するしかないであろう。
 パンツマシンは、ミルディアが花道を抜けてリングサイドに姿を現した時、すかさずリングを跳び下りて鉄柵の向こう側に手を伸ばし、観客のひとりからパイプ椅子を強奪した。
「ミルディア・ディスティンッ! おまえを倒すのに3分も要らねぇッ! 5分で十分だッ!」
 全くもって意味不明の叫びを吐きながら、パンツマシンはまだリングサイドに到達したばかりのミルディアにパイプ椅子攻撃を敢行する。
「ちょっとッ! いきなり何すんのよッ!」
 数発、パイプ椅子攻撃を浴びてから激昂するミルディアだが、何故かその瞳には、嬉しそうな色が浮かんでいた。
 何だかやりにくいなぁ、などと内心で頭を掻きながらも、パンツマシンはミルディアをエプロンサイドから強引にリング内へと押し込み、自らもコーナーポストを跳び越えてリングイン。
 レフェリーを務めるラブが、ここでようやく試合開始のゴングを要請した。
「あんな攻撃程度でへこたれるミルディアさんじゃないわよッ!」
 高らかに宣言するや、いきなり一直線のタックルで突っ込んでゆくミルディア。
 対するパンツマシンは勢いに乗った相手には反則は使いづらいと判断し、ミルディアの突進をかわしながらローキックを叩き込む。
 勢い余って倒れ込んだミルディアの足を取り、パンツマシンはすかさずヒールホールドへと入った。
 ミルディアは先程までの勢いはどこへやら、その美貌を苦悶に歪め、何故かいやらしそうな喘ぎ声を絞り出す始末であった。
「な、何、やってんのよ……もっと、ちゃんと極めないと……満足出来な……じゃなくって、降参して、あげない……よ……ッ!」
 この反応にはパンツマシンのみならず、レフェリング中のラブも、思わず眉をひそめてしまった。

 ミルディアが見せた予想外の反応に嫌な予感を覚えたパンツマシンは、正攻法は何だか怖いとの変な恐怖心を覚え、凶器攻撃に切り替えることにした。
 うつ伏せに倒れたままのミルディアの背中に馬乗りとなるや、自身のパンツの中からストッキングを引っ張り出して、ミルディアの首に絡めて締め上げる。
 ラブが反則のカウントを取り始めた。
 ところが――。
「あふぅん……もっと、もっと……じゃなくって、な、何するのよ、この卑怯者……ッ!」
 パンツマシンの背筋に、嫌な悪寒が走った。
 やっぱりこの女、どこかおかしい。
「えぇい、こうなったら……」
 パンツマシン、カウント5前にストッキングを手放し、ミルディアを無理矢理引きずり起こすと、バックドロップへと繋いだ。
 ところがミルディアは宙空で体を入れ替え、パンツマシンと抱き合う格好になってマットに倒れ込むと、素早く位置を変えて腕ひしぎ十字固めで切り返した。
「ほらほらほらッ、何スカタンやらかしてんのッ!? このまま腕をへし折っちゃうよ〜ッ!」
 再び高飛車に戻ったミルディア。
 一体どういうキャラなのかと、パンツマシンは必死に防戦しながら思わず考え込んでしまった。
 何とか肘が伸び切る前に腕ひしぎ十字固めから逃れ切ったパンツマシンは、スタンディングポジションに戻るや否や、パンツマシンラリアット(いかにもな技名だが、要は普通のラリアット)でミルディアを薙ぎ倒しにかかる。
 ところがこれが盛大に外れてしまい、ミルディアは背後を取ってチョークスリーパーを完成させた。
 ミルディア、意外に怪力である。
 このままでは絞め落とされてしまうと判断したパンツマシンは、ミルディアを背負ったままトップロープを跳び越えて、場外へ逃れた。
 砂浜が剥き出しの場外に落ちると、流石にチョークスリーパーは外れた。
「これでも喰らえぃッ!」
 パンツマシンはナックルパート、のふりをして、拳に握り締めた砂をミルディアの顔面に浴びせかけた。
 思わぬ目潰しを喰らって視界を奪われてミルディアは、パンツマシンに担ぎ上げられて、今度こそ間違いなくバックドロップをお見舞いされてしまった。
 場外の柔らかな砂地だった為、ダメージは然程には乗ってこない。
 それでもミルディアは、相変わらず嬉しそうに顔がにやけてしまいそうになるのを、何とか苦悶の表情で誤魔化すのに必死だった。
(こいつ、やっぱり何か、おかしいぞッ!)
 とにかく嫌な予感しか感じないパンツマシンは、試合展開で観客を喜ばせることよりも、早々に決着をつけてしまうことを選んだ。
 未だに視界が回復しないミルディアを強引にリング内へと押し戻し、自身も一緒になってリング内に戻る。
 ふらふらと足元がおぼつかないミルディアに、組み付き魔神風車固めを敢行。
 この一瞬の隙を衝かれて、ミルディアは3カウントを奪われてしまった。
「ちょっと……何で3カウントな訳ッ!?」
 試合終了のゴングが鳴った直後、ミルディアは何故かレフェリーのラブではなく、勝者パンツマシンに猛然と食ってかかった。
「極め技でギブアップを狙ってくれなきゃ、駄目じゃないのッ!」
「いや、ちょっと待て……何の話だ……?」
 流石にもう、これ以上は相手に出来ない。
 パンツマシンは勝ち名乗りを受けるや、半ば逃げるようにして控室へと駆け戻っていった。


     * * *


 ―― 選抜予選、第七試合 ――

 ○パンツマシン (11分37秒、魔神風車固め) ミルディア・ディスティン●