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アリサ・イン・ゲート -Rest Despair

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アリサ・イン・ゲート -Rest Despair
アリサ・イン・ゲート -Rest Despair アリサ・イン・ゲート -Rest Despair

リアクション

 オリュンズゲート前に【グリーク】軍の第一陣輸送機が降りる。
 第一陣の構成員にほとんどのパラミタからの参加者が配属されている。
 理由としてはゲートをくぐれるのは外世界から来た者のみであることから、必然と彼らが調査員の候補にあげられるため。
 そして、ここのゲートを使い【第三世界】に来ている者達の交渉役として同じ外世界の者が選ばれた。
 捨て身役のように思えるが、前例により【第三世界】の人間ではゲートを潜る際に次元の境界で消滅する可能性がある。だからこそ、くぐれる可能性のある外世界の彼らが選ばれるのは当然のことだ。
 また、交渉役としても彼らが一兵の戦闘力の枠に収まらない力を持っているため、戦闘になる場合に対してもほかの一兵卒よりも生存率が高い。
 それらを加味した上での人選であるのは彼らも承知の上だ。
 さて、ゲート周辺の様子はというと、調査用のテントと機器類が砂埃にまみれているものの、太陽電池パネルからの供給電力によって今なお無人のまま計測を行っている。そしてそれらのアンテナが扉のない鉄組の門に向けられている。
 戦艦一つが潜れそうなほど大きな鉄の門はおそらく外世界とのゲートを再び繋ごうとして作ったものだろう。
 戦艦伊勢に詰め込まれていた彼らも地上に降りその様子を見る。
 操艦手のコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は、
「この船居住性が最悪なのに人入れてどうするのよ!」とわめいていたが、詰め込みの船内から開放されて背を伸ばす。
 降りてすぐ、湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)高嶋 梓(たかしま・あずさ)設置されている計器の状態を伺う。
 亮一が言うに、
「計器をいじられた跡はあるが、壊されてはいない」とのことだ。
「おそらくは使い方がわからず放置したのでしょう」と梓が推測する。
 付近には人はいないものの、乾燥した地面にはゲートから基地に向かって幾つもの足あとが続いている。
 靴底の形状の統一性を葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が見る。
「ゲートをくぐったのはやはり軍隊でありましょう。この足跡は見覚えが有ります」
 吹雪は傭兵家の知識からこの軍隊がWLO―世界開放機構―であると悟る。
 WLOはパラミタに多く混在する兵器、イコン、兵力から世界(地球)を守り、それらの兵器を根絶させるために設立された私設軍事組織。武力による武力の排除を掲げており、現在はNSF―名もなき軍隊―という軍事派遣会社と結託している。
 亮一は言う。
「WLOでしたら交渉の融通が利く。あそこは抑止優先の思考だ。基地に行った向かった富永さんたちに任せれば大丈夫だろう」


 調査隊の第一陣は二手に別れ、ゲートと基地に別れる。
 ゲート側は設置計器類の状態を確認しつつ、ゲート内から出てくる軍隊の引き止め、もしくは応戦の為に、辺りを囲むよう配置指令されている。
 一方、基地へ向かった方は斥候部隊に基地内部の様子を観測させ、地上部隊にて基地を囲みつつ、空戦部隊の第二陣を待つ。第二陣以降が到着するまでに交渉役の彼らを基地に遣わす。
 圧倒的武力に寄る圧迫交渉としか言い様がないが、交渉役が彼らであるということ考えると、交渉が破綻した場合の処理に対して自軍兵士の被害を抑える様に仕組まれているとわかる。
 協力を要請しつつ、危険な役回りが彼らに押し付けられた形になっている。
「要は交渉を成功させればいいんでしょ」
 と村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)が完結に言うのに対し、アール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)が返す。
「失敗すれば双方から攻撃を受けることになる。……わざわざ志願してなんだが、そうならないことを祈ろう」
 基地入口前に至り、見張りに止められる。彼らが近づいてくるのは見張り塔から見えていたので、無闇に攻撃をしては来なかった。
 アサルトライフルの銃口を向け、マスク越しに見張りが言う。
「何のようだ? 要件を言え」
 蛇々が書簡を差し出す。
「これをあんたたちの指揮官に渡して。場合によっては後ろのがここを私らごと更地にするから、すぐに」
 物騒な物言いだが、事実彼らの後ろには軍が控えている。そしてその数はこの後に増えていく。
 見張りは無言で奪うように書簡を受け取ると、基地内部へと走る。
 数分後、見張りが戻る。
「そちらの要件を飲む。基地を解放すると伝えろ」
 基地内が慌ただしくなっていく様をみて、アールは「わかった」と短く答えた。軍支給のAirPADで交渉成功を伝える。
「《根回し》が上手くいったようね」
 蛇々がどのような《根回し》をしたのかというと。彼女は作戦結構前に【グリーク】軍の最高司令であるカーリーに紙による書簡を認めさせた。
 紙にインクという旧書式に対しカーリーは難癖を付けていたが、交渉相手が古いタイプの人間であるが故に、最高司令官直筆の書簡というのは効果的だと口説いた。
 書簡には基地の解放と返却、およびそれらを却下した場合の報復勧告。ゲートを利用した地球への攻撃をしない旨。そして、基地解放後の次作戦の概要とそれに対する協力要請が記されていた。
 しかし、書簡の内容に関して蛇々は知る由はなく、見張りから告げられた「ルイス・サイファー司令官がお前たちを呼んでいる」という言葉に従い、アールとともに先行して基地内に入るのだった。


 程なくして、第一陣の臨戦態勢は解かれ、基地内に待機していた【グリーク】軍が入り技術士官たちによる基地防衛系統の復旧作業が開始された。WLO隊員たちの処遇については拘束処置はせずに、基地内待機に留めていた。
 彼らはかつてマシュー・アーノルドやフィンクス・ロンバートとともにオベリスク奪還作戦をまとめた作戦室にて、ルイス・サイファーと面会した。
「俺と君たちとでは縁があるらしい。特に、そこの二人が駆け引きにくるとは」
 ルイスが蛇々とアールを見る。
 佐那が尋ねる。
「いろいろと聞きたいことがあるわ。まずは、どうやってここに来たの? そして、目的はなに?」
「順を追って答えよう」
上座の椅子に座り、ルイスが語り始める。
「列車での事件後、この世界から地球に帰った後にWLOはNSFと結託し、パラミタ内海に基地を併設した。実践と訓練はWLOが仕切り、人員とマネージメントをNSFが担当する形で紛争鎮圧を行っていた。それは君らも知っていることだろう。
 NSFには独自の技術開発部門がある。そこがこの世界をつなぐゲート装置の開発をし、偶然にもここ近場にゲートを繋いだ。
 装置をくぐり放置された基地を見つけ、ここを調査拠点として利用していた所に君たちがやってきたというわけだ」
「にわかに信じがたいはなしです。本来ならあのゲートはティル・ナ・ノーグに通じているはず。それに、パラミタには【第三世界】にゲートをつなぐ技術はないはず」
 イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)の言うとおりだ。
 しかし、現実にはゲートの先はWLO及びNSFの海上基地に繋がっている。それも確認済みだ。
 ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)が言う。
「なぜかはわからないとしても、ゲートの位置が変わってしまったとしか言い様がないわ。技術に関しては宝石店に設置したゲート技術の漏洩があったと見るべきだわ」
 地球側に技術はなくとも、【第三世界】にはその技術がある。それをNSFに持ち込んだのが誰かは定かではないにしろ。
 イーリャがルイスに尋ねる。
「あなたは調査と言ったけど、その調査目的はこの世界の技術じゃないの? 放置されたこの基地を拠点にしたのもそのためじゃ?」
 イーリャはあえて「あなた」とルイスを名指しで質問したが、勘ぐるに技術を欲しているのはWLOではなくNSF、その背後に居る者達ではないかと予想している。NSFがゲート開発技術を得たのもその後ろ盾のおかげに違いない。
 ルイスが答える。
「技術がほしいのは確かだ。だが、俺達がここを拠点としたのは必然的にそうなっただけだ」
「必然的?」
「俺達はまずこの基地ではなく、ここから見える摩天楼の都市を目指した。だが、俺たちはあの都市の防衛システムらしきものに侵入を阻まれた。都市部に入るための対策を建てるため、無人だったこの基地を使っていた。とはいえ、基地内の武装類は俺らには使えないような施しがされていたが。言ってしまえば屋根を借りだけにすぎない」
 彼らはオリュンズに防衛システムがあると聞かされ驚きを顔に出す者もいた。
 以前訪れた時にはそのようなものは一つもなかった。というよりも、このトロイア基地が都市防衛の要であるため必要がなかった。
 なにより、無人の都市で何を防衛するというのか。検討がつかなかった。
 
 思考を遮るサイレンが鳴る。

「何事でありますか?」
 吹雪が騒然とする基地の空気に反応する。
 ルイスは椅子から立ち上がり告げる。
「どうやら、敵が来たか?」
「都市の防衛システムとかいうやつでありますか?」
 ルイスは眉を寄せ言った。
「君たちは今から行われる防衛作戦の事を聞かされていないのか?」
 ここでようやく、彼らはこの調査の主目的を知ることになった。

 この出兵の本来の目的は、ゲートを【ノース】軍から守ることだ。
 そして、彼らは対戦力として利用されるために集められたと、これも今更ながらしるのだった。