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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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「ミサイルの発射はありましたが、声明が一切ないというのはどういうことでしょう」
 そう言ったのは教導団の大尉である戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)だ。
「ブライトシリーズがキーであり、この空京に向かっていることは確かなようです。そう、例えば……空京に呼び寄せる物がある可能性はありませんか?」
「確認します」
 すぐに、リアは屋上に向かったアレナと連絡をとる。
「……アレナさんの話では、そういったプログラムはなかったとのことです」
「そうですか。でしたらやはり何者かが乗り込んで、何らかの目的の為にこちらに向かっていると考えるのが順当ですね」
『わかりました。私も注意します。そちらは大丈夫ですか? 宮殿を落とすことが目的ということも考えられます、ので』
 フレデリカの電話からは、ルイーザの声が響いてくる。
「うん、大丈夫。ロイヤルガードや契約者達で防衛する計画が立てられてる」
 フレデリカはそう答えて、拳を握りしめる。
「不審者を発見したり、何か異変を感じた際には、すぐにこちらにも連絡をくれるようお願いして。こちらからの情報も多方面――信頼できる組織に送るから」
 狙いが何であっても、防衛に迅速に動ける体制が必要だ。
 電話を終えたフレデリカがアイシャを見ると、アイシャは頷いてリアに指示をだし、主要組織との情報伝達体制の構築を急いでもらう。
「では女王陛下、集まった情報を元に方針の決定を」
 空京に居を構える冒険屋ギルドの一員として会議に加わっていたレン・オズワルド(れん・おずわるど)が口を開いた。
「よろしくお願いします。既にギルドのメンバーは多方面に動いています」
 彼の隣にいるノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が冒険屋ギルドの代表として頭を下げる。 
「映像切り替えます」
 さらにその隣にいるメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が、シャンバラの地図と現時点の浮遊要塞の場所、進行方向、速度などを現した図をスクリーンに映し出した。
「まず、本作戦の優先順位と要塞の処置の確認をさせてもらう」
 聞き取りやすい、はっきりとした口調でレンは言う。
 要塞の阻止や空京住民の安全確保が優先なのか。
 あくまでブライドシリーズの確保が優先なのか。
 要塞は今後使用する可能性も考えて可能な限り破壊せずに機能停止を目指すか。
 それともいっそ完全に機能停止させるのか。
 撃墜し、破片一つ地上に落とさぬよう、消滅させることを目指すのか。
「一般人の安全確保が最優先です。その為にどのような手段をとるかは、国軍と現場にいる探索隊にお任せいたします」
 そう答えたのはアイシャだった。
「それは、完全な破壊もやむを得ないと?」
「はい。ブライドシリーズも傷ついてしまうでしょうが復元を試みることが出来ます。しかし、人の命は復元できません」
 アイシャのその答えを、メティスが冒険屋ギルドの仲間を通じて、多方面に伝えていく。
「教導団でも行われているだろうが、こちらでも到達予想時間の割り出しは頻繁に行った方がいいでしょう。また、進路上に何があるのかの確認も急ぎましょう」
 小次郎に頼まれ、メティスは地図を拡大し空京を映し出す。
 要塞はまっすぐシャンバラ宮殿に向かっているようではあった。
 宮殿や傍には重要施設がある。
「空京駅や……天沼矛が狙いの可能性もありますね。その下の海京の可能性も。あとは、大使館や結界の破壊の可能性も」
 小次郎は唸りながら、地図に見入る。
「これらの施設は、要塞と何か関連はありませんか?」
「ないとは思います」
 アイシャが自信なさそうに答えた。
 アルカンシェルと空京の施設は出来た時代が違う。おそらく関連はないはずだ。
「インターネットや文献に要塞の情報は?」
「……調べていますが、アルカンシェルという要塞があったということくらいしか、載っていないようです。それ以上のことはイルミンスールの大図書館などで時間をかけて調べてみなければわかりません」
 小次郎の問いに、おそらくはそこまで詳しいデータが残っていることはないだろうと、リアは続ける。
「アレナさんと繋がっています。質問のある方はお願いします」
 中央のテーブルに通信機が置かれた。
 簡単に自己紹介をした後、小次郎は通信機に向かって問いかける。
「自動操縦システムはついていましたか? 要塞に何らかの目的がプログラムされている可能性はありますか?」
『自動操縦はありますが、誰かが乗り込まなければ起動することはないはずです』
「では、プログラムで動いていたとしても、乗り込んだ人物がいるということですね。その人物の目的を知るには……やはり突入が最善、でしょうか」
 小次郎もフレデリカと同様に、何かひっかかりを感じていた。
「……次に自陣営の戦力についてだが」
 レンが発言を続ける。
「既にこの会議に出席しているメンバー、探索隊のメンバーのうち把握している人物については、調べさせてもらった」
 言った後、レンはテレパシーやユビキタスで集めた情報……契約者の素性のデータをメティスに命じて宮殿のコンピューターに転送する。
 レンの後方、壁際にはザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)が立っている。
 彼女の携帯にもデータは転送してある。ザミエルは密かに素行に問題のある者、素性が確かではない者に目を光らせていた。
 また、エリュシオン側にも情報開示を要求し、龍騎士団員と同行者の名前と所属の情報くらいは得ている。
「助かります。こちらはここの防衛と、空京大学生指揮の作戦できっと役に立つわ」
 アイシャは鮪に転送するように、リアに指示を出した。
「アレナ・ミセファヌスさんと、神楽崎優子さんの通話が途切れた件ですが」
 今仲間から入った情報を見ながら、メティスが報告する。
「追跡中に乗り物が揺れたため、神楽崎さんが携帯電話を落として壊してしまったことが原因のようです。現在は他の方の携帯電話を借りて通話をしたり、電波がつながる場所では連絡は他の方に任せているようです」
「あ……はい。コロンと飛空艇内の足下に落としただけのようですけれど……」
 ノアも電話で仲間と通話をしながら、皆に話す。
「頑張って」
 そして彼女は仲間に応援の言葉をかけて、電話を切る。
「落したから、か」
 他人の携帯電話を借りてでも、パートナー通話は可能だ。
 だから、大きな問題はない、はず……だが。
 何かひっかかりを感じるレンだった。
(敵の目的は不明だが1つだけ確信していることがある)
 ザミエルはスクリーンに映し出された浮遊要塞を見ながら、思う。
 それは――『次』があるということ。
(神楽崎たちの目の前でお世辞にも『狙いを定めたとはいえないミサイルを放ち』、『非常に判り易い』脅威として姿を現した)
 おそらく敵の目的は空京の破壊ではない。
(本気で空京を落すつもりなら、初撃のミサイルで事が済んでいる)
 射程が足らず、落とせないのなら撃つ必要はない。
(『わざわざ脅威として登場し、こちらが対処せざるをえない状況にもっていった』……その裏に何があるのか)
 まだ情報が不足している為、迂闊な発言は出来ない。
 少なくとも、今回の作戦に主だった契約者が出張ったのは事実だ。
 ロイヤルガードが少ない今、女王と宮殿の身辺警備くらいはしっかりやらねばと、ザミエルは油断なく警戒に務めていた。
「草原に落下したミサイルの回収や、未到達だった理由の分析は?」
 知り合いとしてアイシャの近くに腰かけて、黙って話を聞いてた源 鉄心(みなもと・てっしん)がスクリーンに映し出された映像を見ながら質問をする。
「回収できる場所まで到着している部隊はいるようですが、要塞が迫っている為そちらは後回しになっているようです」
 リアが鉄心の質問に答える。
「なんの為に撃ったのか、空京を狙ったのだけれど射程が足らなくて届かなかったのか……。分析するのには、時間がかかりますでしょうか」
 鉄心の隣にいるティー・ティー(てぃー・てぃー)が、心配そうな目をアイシャに向ける。
「そうですね、数分、数時間では終わらないでしょう」
「軍の方も、頑張ってはいるみたいですけれど」
 2人、そして鉄心のもう一人のパートナーのイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は、リアとは別に国軍の連絡を受けていた。
 それとは別に、イコナは鉄心の頼みでヴァイシャリー家の子息だという、ミケーレ・ヴァイシャリーについても調べていた。
「どこにもそのお名前は載っていません」
 本人に悟られないよう、彼の顔は見ずにそっと鉄心に報告する。
 ヴァイシャリー家の子息は、後継者争いを避けるためか、その存在すら隠されている。
 噂によると、本人たち同士でも、合ったことのない兄弟もいるとか。
「ただ、パートナーだと仰る錦織百合子さんは、とても有名なお方です。地球の百合園女学院理事長の娘でもあるそうですので、彼女がそうだというのなら、ミケーレさんがヴァイシャリー家の子息であることは間違いがないでしょう」
 百合子には他にもパートナーがいるようであり、百合園女学院パラミタ校に通っていた時には、そのもう一人のパートナーを自分のパートナーとして皆に紹介していたようだ。
「ありがとう」
 小声で礼を言った後、鉄心はもう一つ質問をしてみることに。
「十二星華絡みであれば、シャムシエルに情報提供の協力を求めることは出来ませんか? ……要塞そのものの情報だけでなく、多少は反シャンバラ勢力との接触もあったものとして……と言うことでですが」
 減刑材料になればと思う面もあった。
 エリュシオンとも協力関係にある今、実際にもっとも厄介な敵は地球を本拠地にする反シャンバラ勢力だと、鉄心は見ていた。
 シャムシエルは一時的にその組織と協力関係にあったため、何か聞き出せればとも思ったのだが……。
「彼女はご存じのとおり生粋の十二星華ではありませんので、十二星華として教えていただけることは何もないですし……まだ要塞を操っている者のこともわかりませんし、反シャンバラ勢力の仕業だとしても、反社会組織も数あると思いますので」
 アイシャは得られる情報はないと判断し、静かに首を横に振ってこう続けた。
「連絡を取ることは出来ないわ」
 刑務所の最下層えのアクセスは危険であり、基本的に出来ないのだ。
「そうですか」
 吐息をついた後、鉄心は隣のイコナのノートパソコンに目を向ける。……ふりをして、ミケーレと百合子を視界に入れた。
 ミケーレは穏やかな普通の青年に見えるが、こんな時でもどこか余裕のある表情であることから、意外と大物なのかもしれない。
 百合子の方はこの場ではキャリアウーマンのような表情、及び姿勢だった。
「皆さんの発言に嘘とかはないようですね」
 嘘感知の能力や、殺気看破で警戒を払っていたが、会場内の人物から悪意は感じられず、虚偽の発言もないように思えた。
「ここだっていつパニックになってもおかしくないからな。引き続き頼むな」
「わかりました」
 鉄心の言葉に頷いて、ティーは警戒を続ける。
「女王陛下、ひとつお願いがあります」
 ルイーザから混乱していく空京の様子を聞いていたフレデリカが立ち上がる。
「なんでしょうか」
「空京市民に向けて、現在全力で対処中ですから、落ち着いて行動するようにと演説をしていただけないでしょうか」
 誰の言葉よりも、国家神であるアイシャの言葉が一番市民に安心を与えるだろうから。
「わかりました」
 アイシャは快諾して立ち上がる。
 少しでも多くの人に、その姿をも見せる為にバルコニーへと出ることにした。