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リアクション
chapter.19 おっしゃれおしゃーれ♪……9
「僕よりお洒落な奴がいると聞いて来たが……」
佐々木 八雲(ささき・やくも)は呆れたように言った。
「金ラメビキニにハートニップレス、これを変態と言わずしてなんと言おう」
「初対面で失礼ね。あんたこそこの肉体美と限られたアイテムで魅せるこの高度なお洒落テクがわからないの?」
「フッ、僕にはどうも理解出来そうにない」
それから八雲は式神の珠ちゃん(金の卵)に話しかけた。
「珠ちゃん、可哀想な人だね。こんなお洒落加減で、本当にお洒落な僕と戦うことになるんだから」
「あんた、卵とお話してるくせに、あたしを変態よばわり!?」
「君、珠ちゃんをただの卵と一緒くたにしないでほしい。僕と珠ちゃんは強い信頼関係で結ばれ……」
「説明は求めてないわ! 御託はいいからとっととかかってきなさい!」
「僕もすぐにお洒落勝負したいところなんだけどね。弟がどうしても勝負したいそうだ」
「弟……?」
「こんな感じでいいのかなぁ……」
うーんと唸りながらあらわれたのは佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)。
エンペラーローブとエンペラーブーツ、振袖を重ね着しつつ、天狗の面でトラディショナルに決めている。
お洒落のポイントはなんといっても、その手に装着したキノコハンド。
正直、なんのつもりなのかまるでわからないが、とにかく異常なまでの迫力は兼ね備えていた。
「な、なんなのそのコーディネートは?」
「なにって『キノコの皇帝』だよ。このキノコの色艶は、本物のキノコにも劣らないだろ?」
なにを言ってるかわからねぇと思うが、筆者もなにを言ってるのかわからねぇ。
しかし、道満には理解出来た。
「な、なんて斬新なスタイルなの……!」
「!!!」
「既成の概念に囚われない奔放さ。一度見たら忘れられない強烈な個性。ま、マーベラス……マーベラ、ほぐっ!!」
次の瞬間、お洒落カーストの反動で、道満の肋骨がバキボキ音を立てて折れた。
(よし、いいぞ。もっと奴の気を引き付けるんだ)
「兄さん……」
(あと、天狗はキノコ皇帝と関係なくないか?)
「兄さん……」
八雲のテレパシーを受けて、弥十郎は襲いかからん勢いで跳躍した。
「ゲオホゲホホ……な、なによ、あたしとバトルする気?」
と見せかけて、弥十郎はふわふわと天井付近まで浮かび上がった。
超感覚でキツネザルの尻尾を生やすと、上を走るなにかのパイプに巻き付け、ぶーらぶらとぶら下がってみる。
無論のこと、道満は「???」と困惑の表情。
とその隙に、八雲が生卵を投げつけた。
「ちょ、なにするの! やめて!」
「なに、君はこうしたほうがお洒落だよ。多少、卵臭いぐらいが分相応じゃないかな」
にしても、生卵を投げつけられる半裸のおっさんというのはなんとも切ないものである。
「兄さん!」
弥十郎は言った。
「何をするかと思えばもったいない。料理したらすごくおいしくなるのに。見てよ、こんなにべちゃべちゃだよ」
「う、うん……」
「こんな男なんかどうでもいいけど、生卵に謝ってよ」
「あんたらにとって、どんだけ卵の存在大きいの!?」
「……って、さっきからたまご、たまごってうるせえな!」
846プロ所属の落語家若松 未散(わかまつ・みちる)はしびれを切らして登場した。
空京万博コンパニオンコンテストでグランプリを穫った時の賞品、真打ちの和服に差布団十枚を着用。
そして落語家には付き物の扇子に鉄扇【木花咲耶姫】、極めつけに実はパンツも専用装備だったりする。
その姿を見るなり、パァンと風船が弾けるように軽く道満の片肺が破裂した。
「伝統とカジュアルの融合。なにより落語って言う着眼点。女の子のための落語家スタイルなんて革命だわ!」
「それだけじゃねぇ。おまえほどの実力がありゃ見えるだろ。後ろにあるものが」
「こ、これは……ま、まぶしい!」
未散の傍にフラワシのアメノウズメが立つ。
その美しさに道満の目も眩んだ。あと、腎臓がひとつパァンと弾けた。
「はっきり言うけどおまえダサいんだよ」
「なっ!?」
「高価な物で着飾っても中身が良くなるわけじゃねぇ。大事なのは内面に滲む魅力だ。それが人をお洒落に見せんだよ」
「ちょっとお洒落で勝ったからって調子にのらないで! あたしもちゃんと服を着てればあんたなんか!」
「残念ながら、未散くんの言うとおりです」
家令スタイルで決めたハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)は言う。
「大切なのは内面から滲み出る魅力でございます。服はそれを引き出す足がかりに過ぎないのですよ、道満さん」
「そうそう。この服もハルが見繕ってくれたんだよな」
「ええ、未散くんにはアイドル落語家としての魅力が一番引き立つ装いをしてもらいました」
まぁ肝はミニスカから覗く太ももですが……。
ハルは微笑を浮かべる。
「むむむ、言わせておけば!」
放たれた拳がハルに直撃……した刹那、霧隠れの衣の力で自身を霧散させ攻撃を回避。
反撃に斬り掛かるとダメージが通った。流石に半裸生卵男よりイケてないということはなかったようだ。
「むしろ、今のあなたにお洒落負けするほうが困難至極でございますね」
「ええい、どきなさいっ!」
強引に突破しナックルバズーカ・エレガンスを未散に叩き込む。
しかし座布団を盾に防御。四次元スカートから取り出した苦無を滑らせ、道満を十字に斬り付ける。
「落語家だからって舐めるなよ! こちとら武闘派文化人自称してるんだ!」
「くっ……!」
「こいつで終いにしてやる!」
未散は鉄扇で突風を巻き起こすと苦無を放つ。
風はすぐさまぐるぐると渦を巻き、風の中を泳ぐ鋭い苦無が、擬似的なかまいたちとなって襲いかかる。
その時である。
自らが巻き起こした突風によって、彼女のスカートがふわりと持ち上がったのだ。
「み、未散くん……」
「え!? ちょ、ちょっと待って! わっ、バカバカ! おまえらこっち見んなっ!!」
見るなと言われりゃ、俄然まじまじと凝視してしまうのが、男の中の男。
スカートの中身出てこいやっと男性隊員たちは食い入るように見た。
慌ててスカートを押さえるも、風が強すぎて前を押さえりゃ後ろが、後ろを押さえりゃ前がってなもんである。
ちなみに、そのパンツには勘亭流のフォントでデカデカと『パン亭』と書かれていた。
「……そ、そこまで落語で合わせて来てるとは!」
そのお洒落度の高さに道満は驚愕。
同時に術の反動で、バキボキと両手両脚がへし折れ、動悸息切れ立ち眩みに襲われた。
「だーかーら、見るなっ!!」
頬を赤らめる未散の鉄扇が、道満の脳天をしとどに打った。
流石の彼もこれまでに積み重なったダメージがあったのだろう、その一撃で道満の巨体はゆっくりと崩れ落ちた。
蓄積されたダメージは想像を絶する。おそらく常人では激痛で発狂するレベル。
けれども道満の表情はどこかうっとりとしていた。
「……なんか今ひとつ、倒してやった感を得られないんだけど」
不満の残る未散だったが、ともあれ一件落着のようだ。
「……さて、終わったのは結構なのですが、道満さんは如何致しましょう?」
「まぁ一応メルヴィア大尉の指示を仰いだほうがいいんじゃないか? 勝手に決めると絶対怒るだろうし」
「当たり前だ」
「あ、大尉……」
道満の気絶とともにお洒落カーストも消失。メルヴィアも正気に戻った。
「この男は私が調教してやる!」
ぴしゃんと鞭で床を打った。
「この私に散々恥を掻かせてくれた礼をしてやらねば! 地獄がこの世にあることをおしえてやる!」
意気込む大尉であったが、道満の性癖を考えるにむしろご褒美なってしまいそうである。