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リアクション
chapter.3 対美女陰陽師軍団(2)
美女陰陽師軍団が優勢のまま進むかに思われたこの戦いであったが、生徒たちもやられっ放しのままではいなかった。
「くっ……なんて卑怯なの……!」
周囲で苦しむ生徒たちを目の当たりにして闘志を燃やしていたのは、遠野 歌菜(とおの・かな)だった。自身が呪法を受けていることも当然ながら、パートナーの月崎 羽純(つきざき・はすみ)が腹痛で苦しめられていることが歌菜の怒りを買ったのだろう。
「もう許さないんだから!」
「へえ、許さないの。それでどうするの?」
完全にナメてかかっている陰陽師たちに、歌菜は真っ直ぐな眼差しを向けて言い放った。
「魔法少女として、アイドルとして、断じてこんな腹痛には負けられませんっ! 今こそアイドル根性と魔法少女魂を見せてやります!!」
どうやら歌菜は、魔法少女アイドルというポジションで暴れる気満々のようだった。さらに、そんな歌菜の言葉に触発されたのか、神崎 輝(かんざき・ひかる)も前へ飛び出してきた。
「ボクも、負けていられません! 同じアイドルとして!」
「……そこ? 何を競ってんの、あんたたち」
そもそもなんでこんなにアイドルがここに揃ってるんだよ、と陰陽師たちは思った。コンサート会場かよ、と。
「あなたも、アイドルなんですね! よしっ、じゃあここは一緒にアイドルの底力、見せてやりましょうっ!」
「そうですね、だってボクたちアイドルですもん、粗相なんてしてる場合じゃありません!」
陰陽師たちのそんな冷たい視線を物ともせず、歌菜と輝は瞬く間に意気投合し、アイドルとしての戦いを始めた。まず最初に打って出たのは、輝の方だった。
「ボクが盾の役になります! 他の方たちはその間に攻撃を!」
前衛の位置についた輝は、言いながら周囲に視線をやった。が、喜ぶべきか悲しむべきか、輝の知名度がなまじあったばかりに、輝は呪法の餌食となっていた。当然、腹痛を堪えながらの防衛戦となる。
それをすかさずフォローしたのは、3人のパートナー、シエル・セアーズ(しえる・せあーず)、神崎 瑠奈(かんざき・るな)、一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)たちだった。
「一応私もアイドルなんだけどなぁ、まだ有名じゃないのか……まぁいいか」
苦笑を浮かべつつ、シエルが輝の横に立ち禁猟区とイナンナの加護を発動する。おそらく腹痛に対しては気休め程度のものだろうが、何もしないよりは、と言ったところだろう。
「マスターがかなり苦しそうで……見てるこちらも心苦しいです……許せないです! みんなまとめてぶっ飛ばしてやるっ!」
シエルが補助スキルを使用すると同時、瑞樹は戦闘モードに切り替わっていた。口調を荒々しく変化させた彼女は、魔導砲と六連ミサイルポッドを陰陽師軍団に向けた。
「瑠奈ちゃん、私が弾幕で援護するからその隙に!」
言うが早いか、瑞樹が一斉にその圧倒的な火力を開放する。放たれた何発ものミサイルが、陰陽師たちに向かって飛ぶ。
「ちょっと……物騒じゃない!」
さすがに術では迎撃不可能と感じたのか、慌ててそれを回避する陰陽師たち。直撃は避けたものの、彼女らの陣形は瑞樹の一撃で完全に乱される形となった。
それを、瑠奈は見逃さない。
「ボクの出番だにゃ〜」
すっと死角に潜り込んだ瑠奈は、ブラインドナイブスで陰陽師のひとりを仕留めた。
「うっ……!」
敵味方入り乱れた戦場で、陰陽師のひとりが地に伏した。それを好機と見たのか、輝とシエルがさらに接近戦を仕掛けた。
「輝、苦しそうだし、無理しないでね」
シエルはそう話すと、輝の分まで張り切るようにサンダーブラストで広範囲の攻撃を繰り出した。が、魔術の類は元より陰陽師の得意分野だったのか、容易く打ち消されてしまう。
「やっぱり接近戦で直接攻撃を狙うしか……でも……っ」
輝が動きづらそうに下半身をもぞもぞとさせる。どうも、腹痛がかなり限界にきているようだ。止む無く防御重視のスタンスへと切り替え、周囲へのサポートに戦術を変えることにした輝。
だが、なまじ反撃を食らわせたばかりに、陰陽師たちの怒りはヒートアップしてしまっていた。
「あんたら、よくもアツコを……! そんなに腹を壊したいの……!?」
血相を変えて呪いを強める陰陽師たちだったが、それを歌菜が逆に叱り飛ばした。
「どーして、腹痛なんですかっ!?」
「は? そりゃ、あんたらの苦しむ顔を……」
答えようとしたマリコの声にかぶさるように、歌菜は次なる言葉を吐く。
「腹痛って……全然ロマンチックじゃないじゃないですか!!」
「……は?」
思っていたのと違う反応に、マリコは一瞬戸惑った。しかし歌菜はそんなことお構いなしに、持論を展開する。
「ココはアレでしょう! 腹痛じゃなく、発熱させる方が美しいに決まってるんです!」
「ちょ、ちょっとあんた、さっきから何言って……」
「いいですか!? 腹痛に苦しむイケメン……そんなものにはときめきません! ときめきなメモリアルはできません! でも発熱し、高熱にうなされているイケメンなら……!!」
腹痛があまりにも酷くて暴走してしまったのか、歌菜はもう完全に自分の趣味を主張したいだけの人になっていた。そんな彼女に、羽純は溜め息を共に言葉を吐いた。
「はぁ……歌菜のヤツ……」
自由すぎる彼女の言動に、羽純はお腹だけでなく頭まで痛くなってきた。とはいえ、このまま放っておくわけにもいかない。
「……仕方ない」
羽純はちら、と陰陽師たちを見る。彼女らは歌菜の突拍子も無い発言にひそひそ声で「あの子ヤバくない?」と言い合っていた。
「要はあいつらの呪法を止めればいいんだろ」
言って、羽純は陰陽師たちが話している隙に、ヒプノシスを発動させた。睡眠効果のあるその技に数人が当てられ、ドサドサと地面にそのまま寝こむ陰陽師。
「トモミ! ユウコ!」
マリコが名前を呼ぶが、深い眠りに落ちてしまったのか、返事はない。「あんたら……」と憎しみの篭った瞳で歌菜と羽純を睨む陰陽師たちだが、歌菜はそれを睨み返す。そしてまだ独自の主張を続けていた。
「今からでも遅くないはずです! 腹痛じゃなく、発熱にすべきですっ! できるはずでしょう!? 今すぐ変更しなさーい!!」
そう叫ぶと同時に、歌菜はバーストダッシュで陰陽師たちに突っ込んでいった。彼女たちからしたら、わけのわからないことを言いながらアイドルとか魔法少女とか名乗る女が突撃してくるのだ。たまったものではない。
「うわっ」
「ちょ、こないでよ」
陰陽師たちはそのポニーテールやシュシュを風になびかせながら、歌菜の突進をひらりと回避した。何度か突撃を繰り返す歌菜だったが、お腹がいよいよ危なくなってきたのか、明らかに速度が落ち始めた。
「……限界だな」
色々な意味で、と羽純は思った。タイミングを見計らい、歌菜を離脱させようとしていた彼のところに、これ幸いとばかりに加勢が入った。
「こんな呪いごときに……屈するわけには……!」
輝や歌菜たちの前へと飛び出し、陰陽師らと向かい合ってそう苦しそうに声を上げたのは戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)だ。その皮膚には脂汗がこれでもかと浮かんでいる。
「やられたままでは癪です。こんな時はこれを……」
言って、小次郎が手にしたのは芭蕉扇だった。その大きな扇で一体、何をするつもりなのだろうか。同じことを陰陽師たちも思ったのか、首を傾げる。
しかしその疑問は、すぐに解決した。
「せえ……の!」
勢いをつけて扇を振り抜く小次郎。するとそこから凄まじい音と風が生まれ、まるで暴風域に入ったかのような強風が陰陽師たちを襲った。
「……っ!」
突然の風に、とっさに目をつむる彼女たち。が、小次郎の狙いはそんなものではなかった。美女と突風。この組み合わせが生むものと言えば、もう答えは明白である。
そう、パンチラだ。
いい具合にひらひらのスカートをはいていた陰陽師たちの下半身は、なんともセクシーなことになっていた。さらに、予想以上の風の威力で、上半身の方も服がめくれてきていた。
「ちょっと、やめなさいよ変態!」
「こんなことしていいと思ってんの!?」
当然美女からは非難轟々だが、そのセリフを待っていたとばかりに小次郎は言い返す。
「こちらだって、腹痛を我慢しながら戦っているのです。そちらだって、はだけるのを押さえるか、そのまま色々見せて羞恥心と戦えば良いでしょう」
やや強引な主張だが、それなりに筋は通っていた。要するにやられたらやり返せ理論である。そして小次郎は遠慮無く、美女たちの服をはだけさせ続けた。
「まだまだ!」
「きゃっ……」
美女たちのスカートがひらりとめくれ、思わず声が上がる。これには一部の男性陣も興奮せざるを得なかった。
「あんた何してくれてんのよ……!」
怒ったマリコが小次郎に向かって集中的に呪法をかけるよう数人に指示すると、陰陽師たちは一斉に小次郎に手をかざした。
すると、途端に小次郎の腹痛は激しさを増し、意識が朦朧としてきた。
「……!」
しかし、小次郎はそれでもいいと思った。自分に注意が向けば、その分周りの支援になる。彼の思惑の内のひとつだった。とはいえ、集中呪法はあまりにも彼の体力と精神力を削りすぎていた。
早くも限界を突破しそうになった小次郎の様子を遠くから見ていたパートナーのアンジェラ・クリューガー(あんじぇら・くりゅーがー)は、時間的余裕がそこまで残っていないことを悟り、急いでスナイパーライフルを構えた。彼女のいる地点から陰陽師たちがいる場所までは、少なく見ても50メートルは離れている。
そう、アンジェラは呪法の影響がなかったため、あえて戦場から離れた場所にポジションを取り、遠くから正確な狙撃をする作戦に出ていたのだ。
「あっちに集中していてくれるから、だいぶ狙いやすいかな」
言ってアンジェラがトリガーに指をかけた時だった。
「……?」
戦場に、異変が起きたのを彼女は感じた。咄嗟に銃口を下げ、目を凝らすアンジェラ。
するとそこには、美女たちの群れの中に単身飛び込み、四面楚歌状態の瀬島 壮太(せじま・そうた)がいた。何やら壮太は、陰陽師らに話しかけているようだった。
「揃いも揃って、こんな術しか使えねえのかよ。ブラッディ・ディバインも大したことねえヤツらばっかりだな」
「あ? あんた何上から言ってんの?」
堂々と喧嘩を売る壮太に、マリコは舌打ちをして返事をした。壮太は思う。
たしかに、美女なんだけどなあ、と。
年上好みの壮太にとって、目の前の陰陽師たちの大半はストライクゾーン真ん中のお姉さまたちだった。が、露骨に敵意を向けられている上、この呪法である。相手が女性ということと腹痛が自分に起きていることが相まって、壮太は手を出せず、啖呵を切るので精一杯だった。
「大体なんだよ腹下しの呪法って。そんなもんが効くとでも……」
言いかけて、壮太のお腹がギュルギュルと音を立てる。どうやら既に彼はリミットが近いようだ。マリコが笑みをこぼしながら壮太に言った。
「ふふっ、なに強がっちゃってるの? 痛いんでしょ?」
「は? こんなもん腹痛のうちに入らねえよ」
「……へえ、じゃあもっとやってあげる」
「え、いやちょっと待ておい、複数人でかけてくるとかやめろよマジでちょっと痛い痛い痛い!」
一斉に呪法をかけられた壮太は、途端にうずくまり、お腹を両手で押さえた。今にも肛門から何かが出そうだった。しかも壮太は変に格好つけて「札なんていらねえよ」と晴明に言ってしまっていたため、漏らしてしまったが最後、その下半身は悲惨なことになるに違いない。
壮太のパートナー、フリーダ・フォーゲルクロウ(ふりーだ・ふぉーげるくろう)と上 公太郎(かみ・こうたろう)もそれを充分理解しているのか、急ぎ前もって準備していた作戦を実行に移すことにした。
「壮ちゃんは私の大切なパートナーだし、醜態を晒させるわけにはいかないわ」
そう言ったフリーダは、リングの形状というそのサイズの小ささを生かし、公太郎に自分自身を運んでもらっていた。ちなみにその公太郎も、ハムスターの獣人ということで、手のひらサイズという不意打ちにうってつけである。
さらにブラックコートで念を押すようにその身を隠した公太郎は、陰陽師たちが壮太や小次郎に気を取られているうちに、神経を研ぎ澄ますようにして死角へと潜り込む。
壮太の腹痛は決してモーションだけではなかったが、彼の言動で陰陽師たちの気が引きつけられたのも事実である。
「全員の下の具合が改善されねば、落ち着いておやつも食べられぬゆえ、この戦いは早急に終わらせたいところであるな」
「そうね、公太郎さん。壮ちゃんも限界みたいだし。ここまで運んでくれてありがとう」
公太郎の歩みは順調に進み、フリーダと公太郎は見事陰陽師の足元まで辿りついていた。ここからはフリーダの出番である。
「これでもおみまいしてあげる」
言って、フリーダが放ったのはファイアストームであった。それも、ある程度火力を調整し、衣服以上に炎が燃え広がらないような。
「えっ!? ちょっと、やだ、燃えてるじゃない!」
「消火! 早く消火!」
火をつけられた陰陽師たちは慌てて術を用い火を払おうとするが、小次郎の扇が依然として風を起こし続けているため、火が下手に勢いを増し、なかなか消火できずにいた。
「あら、どうしたの? そんなに慌てて。よほど体に自信がないのね。うふふ」
フリーダがしたり顔で口にするが、陰陽師たちはそれどこではない。熱い熱いと火を消すのに一生懸命だ。
ようやく炎を消した時には、彼女たちの衣服はところどころが焦げ付き、良く言えばワイルド、下世話に言えばちらちらと裸体がのぞき下半身が反応しそうなレベルになっていた。
「くっ……お腹じゃねえとこにも異変が起きそうじゃねえかよ……!」
腹痛のあまり錯乱したのだろうか、壮太が手で押さえながら言った。どこを押さえたのかは想像に任せたい。
「ていうかあんたらがやったんでしょ、この変態!」
「何さらっと下ネタ入れてんのよ!」
小次郎やフリーダ、公太郎のセクハラめいた攻撃により、陰陽師の中の数名は「もうやってられない!」と捨て台詞を残し逃走していった。
が、幸いにも衣服がまだ無事だった者、風や衣服の損傷くらいではめげない者らは依然呪法をやめることはなかった。
「別にこのくらい、たいしたことないし。蘆屋系なめんなっつーの。なんなら全裸になっても呪い続けてやるし」
陰陽師たちのひとり、リコが喧嘩腰で言うと、それに応じるように残りの陰陽師たちも力を込める。人数こそ減ったものの、その力は生徒たちを苦しめるに充分なものだった。
「う……やべえ」
とうとう限界が来た壮太がトイレへと逃げ出すと、同調するように羽純も歌菜を連れてその場から引き下がった。
しかし、彼らの安息の地はそこにはない。
そう、トイレは今現在、リュースとハデスが使っていて満室なのである。彼らの禁断の門は、ついに開かれてしまうのだろうか。
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