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【創世の絆・序章】イレイザーを殲滅せよ!

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【創世の絆・序章】イレイザーを殲滅せよ!

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11.戦いを終えて

 イレイザーとの戦闘が終了して間もなく、橋頭堡ではもう一つの戦いが始まっていた。
 負傷者の収容とその治療だ。イレイザーとの戦闘中も、彼らを信じて陣地の構築を続けていたため、多くの箱物が並んでいる。兵舎として利用する予定だったプレハブ小屋は簡易入院施設として現在は利用されていた。
「長曽禰少佐の許可取ってきたぞー」
 ぱたぱたと手を振りながら、久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)が診療所に戻ってきた。プレハブ一つをまるまる割り当てた診察室には、医療の知識がある人間を総導入しており、そのうえ負傷者もいるので大変賑やかな事になっている。
「お疲れ様です」
 カルテとにらめっこしていた一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)は顔をあげる。顔には少し疲れがでている。
「イレイザーと戦闘した人間の検査については、すんなり。ただ、ここじゃ道具が足りないから、運ぶ手段が必要だ。確かその辺りの準備は進んでるって話しだから問題ないだろ。それと、少佐も検査に同意させといたぞ、パワードスーツの検査もすぐに始めるそうだ」
「自分でやるんですか……」
「一応、戦闘に参加してない技術士官と合同でな。こっちも検査に治療に大忙しだし、分担できるところは分担しようや」
 イレイザーと戦うのはこれで二度目になるが、最初の戦いを目撃したアリーセはイレイザーが人間に擬態もしくは憑依することができるのではないかと考えていた。
 ここには施設も設備も無いため、触診や聴診を入念に行いながら異常が無いかを調べているが、順次アルカンシェルでの精密検査になるだろう。今のところ、体内に未知の生物が、という場面には遭遇していない。
「最近働き詰めでしたし、少しは休息を取らしてあげたいのですけど」
「でも今は、疲れたから休むなんて言える状況でもないだろ」
「わかっていますよ。アルカンシェルへの搬送手続きの方を進めましょう」
「それと、メルヴィア大尉の取り扱いについてもね」
 やぁ、とブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は言いながら適当なベッドに腰掛けた。
「取り扱いなんて言い方はしなくてもいいんじゃないかな」
「事実を言ったまでだよ。病人よりも運び出すのに苦労するような代物じゃないか」
「ですが……」
「それより、大尉の調査結果知りたくないの?」
「終わったのか。で、どうだったんだ?」
「真面目な話し、よくわからないってだけだけどね。ただ、呪いの一種じゃないかなんては言われているよ。過去にもパラミタで同じ事例があったそうだから、たぶん生きてるんじゃないかなって事にはなってる。イレイザー戦に参加した連中は、同じ症状の人は発見されなかったし、戦った人は物理的に殺そうとしてきたって話しだし。趣味なのか意味があってなのかは知らないけど、わざわざこんな事をするぐらいだから、意味があるんじゃないの。っていうのが、みんなの見解だよ」
「呪いですか」
「たぶんアルカンシェルに運んだぐらいじゃどうにもならないから、ニルヴァーナで治療方法を探す事になるだろうね。早々にリタイアってわけだ、厳しい展開だよ。未だに屋根のあるところで寝ることもできないしね」
 イレイザーとの戦闘に参加した者は、万が一の事態に備えて隔離されている。治療もあるため、できた兵舎が隔離病棟扱いになり、健常者は相変わらずのテント生活だ。彼らの隔離には、ブルタも同じ意見であったため反対はしないが、外からプレハブを見ながら眠りにつくのは、それはそれで面白くない。
「というわけで報告おしまい」

 ぽいぽいカプセルの中には、可愛いウサギのぬいぐるみとメッセージカードを入れてある。中身を見るのは大尉が元に戻った時だ。これだったら、
「心配なのでしたら、しばらく一緒に居ても構いませんよ。施工管理技士を呼んだ手前、私は戻らなければなりませんが」
 ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)の申し出を、シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)は断った。
「休憩時間が終わったら仕事に戻るさ。大尉のためにも、少しでも快適にしとかないとな」
 医療に関わるあれこれが足りないのは、今はという話しであって、急ピッチで整えている最中だ。負傷者の手当てや、搬送などによって人手をさかれている今、動ける人間はその人達の分まで仕事を進めなければならない。
 イレイザー戦闘経験者に行われる検査も、この場所できるようになれば、アルカンシェルとの往復の手間も無く、効率的になるだろう。少なくとも、最低一体はまだイレイザーは残っているのだ。準備を進めない理由は無い。
「少しは頼れる男を演出しようというわけですか」
「そういう打算的な事は考えても口にしちゃだめだろ。ああ、そういや軍医じゃない医者とかって呼べるのかな、ここに」
「純粋な医療従事者ですか……ここの安全性が高くなれば、そういう方たちに常駐してもらえるか交渉もできるかもしれませんが、現状は難しいでしょうね」
「そうか、じゃあやっぱり早く工事を進めないとだな」
「今回の被害も大きかったですしね。医療の専門家を招いて、前線に出る人達の不安も解消したいものですね」
「だよな。手配ができるようになったら少佐に頼んでみるわ。軍医にも女の子いるけどさ、戦う為に鍛えてるからか、天使とはちょっと違うんだよな。看護婦ってのは、もっと線が細くないとやっぱだめだろ?」
「……はい? やれやれ、いいのですかそんな事をここで言って。あとでメルヴィア大尉に何か言われても知りませんよ」
 シャウラが意味がわかっていないように首を傾げるので、ユーシスが視線でその場所を示す。
 メルヴィア大尉は、ここにあるもので作った専用のケースに安置されている。このままアルカンシェルに運ぶために、できる限りの衝撃対策が施されている。とてもじゃないが、女性を寝かす場所では無かったが、我慢してもらうしかない。
「大尉の意識が眠っているとは限らないのですよ」
「いいのいいの、そしたらこれもなんかの話題になるでしょ。つっても、あんまりサボってると思われるのも問題だな。仕事に戻るか」
「わかりました。二階建てのプレハブを作る準備が整ったので、これでやっと入院施設が本格的に用意できますね」



 搬入口は未だに大量の物資で溢れ返っている。消耗品は言わずもがなだが、イレイザーとの戦闘によって必要なものが膨大に増えたからだ。
「あったあった」
 鶴 陽子(つる・ようこ)はパワードスーツ整備場宛の荷物の前に立っていた。
 山になるほどの量のない一角の中身は、パワードスーツの整備に必要な機材などだ。細かい調整などをするのに必要な計器など、パワードスーツを運用するのには整備ができる環境は必要だ。
「早く、小隊規模で運用できるようになればいいのだけど」
 こうして運び込まれている計器は、あくまで個人用となる。パワードスーツに対して、ある程度知識を持っていなければ、使えないという事だ。つまるところ、個人でパワードスーツを所有している人間向けという事になる。
 パワードスーツ部隊を運用、整備するための足場はまだ準備中なのだ。
 白河 淋(しらかわ・りん)の姿を見つけて挨拶をすると、荷物を運ぶのを手伝ってもらうことになった。陽子と淋は、今後に向けてパワードスーツ整備場を作ろうと考えているため、何かと話し合いをする場面が多かった。
 今回のこの荷物も、パワードスーツ運用を開始するための一環だ。ただ物資を無心するだけでなく、ニルヴァーナでの試験運用を行いその有用性を証明することによって、許可を少しでも早く取り付けたいと考えていた。
「うまくいきそう?」
「許可そのものは取れると三船さんは言ってました。良くも悪くも、イレイザーの件は武装強化の必要性を訴える理由としては大きいものになったみたいです」
「そう。問題に直面してから対応ってのは、いい事じゃないけど」
「ただ、やはり時間はかかりそうですね。専用の機材ともなるとそのまま搬入できないのも多いので、ここまで来てくれる技術者探しが必要らしいです」
「パワードスーツを整備するための技術者が使う設備を準備するための技術者って、にわとり卵の話しみたいよ」
 この問題は、同じくイコンの運用にもひっかかっている。パワードスーツ関連はまだ人形サイズだが、イコンの本格的な整備となると、イコンよりも大きなクレーンやらが必要になってくる。これらを分解して運びいれ、そして組み立てる必要があるというわけだ。
「みなさんが、少佐ぐらい万能だったら問題ないんですけどね」
「あれは別格よ」
 そんな中、自分のパワードスーツを持ち込んでいる少佐は、ほとんど道具が無いというのに万全の状態を保っている。本人の溢れる知識と技術によってのみなせるわざだろう。
 搬入物を、敷地のみ確定しているパワードスーツの整備場まで運ぶと、そこには三船 敬一(みふね・けいいち)が待っていた。
「いい知らせだ。やっと許可が取り付けたそうだ。今後の運用試験と併用しつつ、順次パワードスーツが運用できる状態にもっていくように、と少佐から任務を言い渡された」
 荷物を片付けるのを待って語った敬一の知らせは、まずは最初の一歩と言ったところだ。
 これから順次、常時運用できるパワードスーツを備えていかなければならない。まだ整備が可能な状態が目標であって、部隊そのものが設立されたわけではないのだ。それでもこれが大きな前進であることには変わりはない。
「これから忙しくなりそうだ」

 トラックの組み立て作業は、思ったよりも困難を極めた。搬入できるようにトラックを分解し、それを組み立てることでニルヴァーナで使えるようにしようと考えたクローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)は、さっそく少佐に陳情を出して分解されたトラックを持ち込むところまでは、うまくいった。
 苦労したのはその組み立て作業だ。ニルヴァーナにはロボットアームもベルトコンベアも無い。全部を組み立てる作業を人間の手でするのは、かなりの重労働だった。
「次に何をすればいいのかわかっているのに……中々うまくいかないものだな」
 丁寧にも組み立て説明書が付属していた。それがなくとも、クローラにはトラックを組み立てる工程はわかっている。だが、何十キロというパーツを組み立てていくというのが問題だった。
 大変な作業の時は声をかけて手伝ってもらいながら、なんとか組み立てていくのは、学園祭の準備をしているかのようだった。おかげで一つ組み立て終わった時にはものすごい達成感があったが、あと一台残っているという現実には絶望を感じずにはいられなかった。
 それらもなんとか片付けて、今は任務をこなす自作トラックの勇士を見ていられるのは感慨深くもある。できれば、危険な任務には使わないで欲しい。
「少佐のパワードスーツの調査、終わったよ」
 セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)に肩を叩かれて振り返る。その様子から、問題が発生しなかったのは読み取れたが一応尋ねた。
「少佐も少佐のパワードスーツも、異常無し。こっちで最初にやった簡易検査じゃなくて、アルカンシェルの精密検査の結果だから信頼できるはずだよ。他にも該当者は無し、誰か寄生されたってことは今のところ無いみたいだ」
「何かあったらどうなるか決まっていなかっただけに、朗報だな」
 検査そのものは早い段階で行われていたが、検査結果で陽性が出た場合にどうするのかは決まっていなかった。過去の事象と照らし合わせると、殺すべきなのか隔離しておけば大丈夫なのかも判断がつかない。
「いやぁ、やっぱり少佐は凄かった。やってる事は基本的な点検なのに、横から見てて何しているかわかんない時があるんだよ。いっぱい勉強させてもらったよ」
「そうか」
「まだクロは少佐の決定に不満なのか?」
「俺を猫のように呼ぶな。シャンバラ側からでは不可能なのだという話しは聞いた。回廊の拡張には、ニルヴァーナ側からアプローチを仕掛ける必要がある、そうだな」
「わかってるじゃないか。だったら何で不満そうなのさ」
「それぐらいわざわざ言われなくてもわかっている。これはあれだ、オクタゴンの制御室を詳しく調べたいという性分みたいなものだな、気になるだろ?」
「そう? ならいいけどさ。それより、工事の人達がもう一台欲しいって言ってるけど、陳情だす?」
「……俺も兵員輸送車も必要と聞いているし、兼用できるものをもう一台は用意しておくべきだな」
 大体組み立てるのに、順調で二日かかる計算だ。搬入手続きも考えて三日あれば完成するだろう。



「見事に崩れてしまっているのだ」
 イレイザーの巣と思わしき場所はリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)の言葉通りに、見事に崩れてしまっていた。もともと、しっかりとした巣穴ではなく、横穴のようなものだったらしい。
 暫定ではあるがイレイザーが住んでいた場所だ。何かあるかもしれない、お宝とか地下施設の入り口とかお宝とかお宝とか。そんなわけで、こっそりと巣穴に調査にやってきたのだが、何かがあるかを調べるには、まずこの瓦礫をどかす必要があるだろう。
「報告では、大尉以外にめぼしいものは無かったとのことなのです」
「極限状態だったのだから、見落としの一つや二つはあるものなのだよ。けど、これを掘り返すのはちょっと……」
 ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)と二人で、土木作業をする気にはなれない。そもそも、ここには無断でこっそりやってきているのだから、あまり時間をかけることもできない。
「そう言えば、逃げたイレイザーはどこに行ったのだ?」
 この巣はとても大きなものではあったが、イレイザーが二体入るとしたら手狭のようにも思える。二体居たのなら、他にも巣がある可能性は十分にあるだろう。そちらはまだ手付かずだろう。
「危険なのではありませんか?」
「お宝と危険はいつだってセットなのだよ。それに、あの戦闘の報告はリリだってちゃんと見たのだ。無茶をするつもりはないのだよ」
 そういう事を言う奴に限って、安全と危険の境界線を気付かずにまたいでしまうものである。とはいえ、個人レベルで戦ってどうにかなる相手ではないのは先刻承知だ。
 幸い、あとを追うこと事態は報告もあるが、なにより翼によって埃や砂が吹き飛ばされている部分を辿ればいいだけなので、難しいものではない。視界がやたら開けている事を覗けば、問題なく追跡は可能だ。
 しばらく進んで、二人は途中で足を止めた。相変わらずめぼしいものは何も見当たらなかったが、代わりのものを見つけることができた。
「ここで、イレイザーは着陸したようなのですよ」
「見ればわかるのだ。それよりその、周りにある跡は、たぶん」
 何かを引きずったようなあとが、大地に無数に残されていた。太い一本の線が、あちこちに延びている。一つ一つがかなりの大きさのため、それが何であるか気づかない事もありうるだろうが、二人にはそれが何か判別できた。
 イレイザーの尻尾が地面をこすってできた跡だ。大きさから見て、間違いない。
 あの戦闘のあと、イレイザーの追撃は行われなかった。だが、調査のために追跡は行っている。だとすれば、これを発見できないわけがない。
 これは一体のイレイザーがうろうろした結果なのか、それとも多くのイレイザーが移動したあとのなのか。一つ一つを追っていかなければ、その判断はできない。追跡部隊は果たして、これをどう判断したのだろう。だがそんな情報は、目にした記憶は無い。
 追跡部隊もあまり奥地に足を踏み入れれば、大尉の隊と同じ目に会う可能性があるため適度なところで引き返した。敵が居るとわかっているだけに、その行動は慎重だったはずであり、このイレイザーの痕跡も発見しただけで止まっており、推測も調査もできない段階なのかもしれない。
「これ全部が別々の個体なのだとしたら、一体どれだけ居るのだろうな」
 だがつい考えてしまう。
 ここには数多のイレイザーが存在しているかもしれないと公表した場合、この大規模な遠征に対して不満を持つ者の格好のネタになる。その為に事実はごく一部の人間が握り、むしろイレイザーを倒したという事実を宣伝する。
 巣は放置しているのに、イレイザーの死骸に関しては人を置いて監視しているのも、邪推の一旦を担っている。前者はまだ調査段階だから、後者はイレイザーという生き物の生死を判別する確実な方法が無いから監視せざるえないのが実情だろう。これはただの邪推だ。
 さすがに、藪をつついて蛇を出すことはしたくない。
 ここでイレイザーに遭遇するなんてもってのほかだ。そろそろ時間も厳しいこともあり、リリは戻ることにした。
「今日見たものは、誰にも内緒なのだ」
「内緒なのですか?」
「そうなのだ」
 どうせ、探索を続けるのならばこのイレイザーの痕跡も公になるだろうし、まだ見ぬイレイザーとも遭遇することになるだろう。人よりちょっと先に、考える時間を得られたのだから調査としては十分だ。
 ここに残るか否か、お宝はいつだって危険と隣り合わせだが、いつでもお宝が危険に見合う価値があるとは限らない。