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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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 極道一家へ里帰り
 
 
 
 海京から出ている定期船で榊 朝斗(さかき・あさと)は実家へと向かった。
(ほんの少し離れただけなのに、結構昔に感じるなぁ……)
 変わらない風景を眺めつつ、潮風の香りを確かめる。そうするとじわりと、帰ってきたのだという感慨が湧き上がってきた。
 実家が見える所まで来ると、地球に連れてくるのは初めてのアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)に、朝斗は前方を指し示してみせる。
「あれがうちだよ」
「この屋敷に戻ってくるのはなんだか久しぶりね……」
 ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)は懐かしさを感じながらも、そっと朝斗の方を見やる。朝斗が急に実家に戻りたいと言った時にはびっくりしたけれど……色々な出来事が起きていたこともある。気持ちを切り替えるにはちょうど良かったのかも知れない、そんなことを思いながら。
「話では聞いていましたがかなり広いようですね」
 塀に囲まれたどっしりとした屋敷を、アイビスは確認するように見渡す。
「そうだね。大所帯だからそれなりに広いよ。……組の皆元気にしてるかな」
 懐かしさに速まる足で朝斗が家に近づいてゆくと、表の掃除をしていた舎弟が気づいてはっと顔をあげる。
「お帰りなさいませ!」
「ただいま」
 朝斗の返事に素速く礼をすると、舎弟は朝斗の帰宅を知らせる為に家に駆け込んでいった。


 屋敷内に入って組頭の榊 重三と再会の挨拶と言葉をかわすと、朝斗は今までパラミタで体験したことを報告した。
 現組頭の重三は朝斗の養祖父でもある。73歳になる重三は小柄だがその醸し出す雰囲気は、自然と向かい合う者たちの背筋を伸ばさせる。厳しい人だが、組員に対して暴力をふるうところを、朝斗はほとんど見たことがない。
 朝斗からの報告に重三は身じろぎもせずに聞き入った。
「あちらさんも一筋縄では行かん場所のようじゃのう」
「うん。似ているところもあるけど、地球とは違う場所なんだってつくづく思うよ」
 一通り報告をすませると、朝斗とパートナーたち、組頭は連れだって出かけた。もう一カ所、報告をしなければならない大切な場所……朝斗の養父、そして重三の息子でもある榊 流夜の眠る墓へと。
「父さん……ただいま……」
 好きだった日本酒を供えると、朝斗は静かに黙祷を捧げる。
(あれから僕は様々なことを体験したよ。イコンに乗ったこと、シャンバラ東西戦争、それと……新たな家族と共に過ごしたこと……)
 そう思ってアイビスを振り向けば、皆が墓に手を合わせるのを見て、これが墓参の流儀だろうと判断したのだろう。合掌の形を真似ていた。
 父親への報告を終えると、朝斗は重三に尋ねてみた。
「じっちゃん、父さんのあのコート、何処にあるのかな?」
「馬鹿息子のコートなら奴の箪笥にしまってある」
 あの時の朝斗は、父の紅色のコートを着ることを拒んでた。けれど、今は。
「あれを持っていくよ。これからも道を歩く決意を忘れない為に。覚悟を背負っていく為に……」
 そう言う朝斗を重三は改めて見直した。
「朝斗よ……暫く見ないうちに良い顔になったの。流夜も喜んでおるじゃろうな」
「そうかな。自分じゃ自分の顔なんて分からないけど」
「お前さんが海京に向かう時はどことなく不安があったのだがな。どうやら自分の迷いに向き合ったようじゃな」
 重三は祖父の顔で目を細めると、朝斗に向き直る。
「朝斗。――自分の決めた道、最後まで貫き通せ――良いな?」
 それは流夜が朝斗に残した言葉だ。
 その意味するものをもう一度しっかりと心に刻み、朝斗は頷くのだった。
 
 
 今日は実家で泊まることにして、朝斗は自室で足を伸ばしてくつろいだ。
 アイビスは良い機会だからと朝斗の実家を詮索して回っている。時折屋敷の者とトラブルを起こし、暴力沙汰になったりもしているようだが、実家側も極道一家なだけにその辺りの対応は手慣れたものだ。
 ルシェンは朝斗の身の回りのものを整理したり、実家の家事を手伝ったりしていたが、そのうちにパラミタに行く前のアルバムを見つけ、部屋まで持ってきた。
「一緒に見ましょう」
 朝斗とアイビスと共にアルバムをめくれば、写真として残された過去の思い出が次々に現れる。
(あれから8年も過ぎてるのね……朝斗と出会ってから)
 アルバムをめくる手を止めて、ルシェンは朝斗に目をやった。
(いずれ、朝斗に打ち明けなきゃ……私の……)
 その視線が真っ向から受け止められる。
「ん? どうかした?」
 問いかけられたルシェンは、何でもないと首を振りかけてやめる。
「……朝斗」
「何?」
「聞いて欲しいことが……あるんです……」
 言わなければならないことが、とルシェンは目を伏せた。