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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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リアクション

 
 
 
 修行あれこれ
 
 
 
 空京発上野行きの新幹線を降りると、生徒たちはそれぞれの目的地へと分かれて動き出す。
 進むたびその道は枝分かれしてゆき、同じ方向へ行く生徒の数は減ってゆく。
 ……のだけれど。
「おや、刀真も里帰りか?」
 同じ電車に乗り込む樹月 刀真(きづき・とうま)たちに気づき、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が声をかける。
「ん? 牙竜もこっちなのか。奇遇だな」
 どこまでかは分からないが、途中まで一緒に行こうと2組は電車に乗り込んだ。
「嫁さんを連れて来いって言われてるんだけど、口説いてる途中なんだよな。何やってるんだって小言を食らいそうだ」
「どこもそうなのかも知れないな。俺も帰るとあれこれ結構うるさいんだ」
 そんな会話をしつつ電車に揺られ、目的の駅まで来ると牙竜は立ち上がる。
「じゃ、俺この駅だから」
「奇遇だな俺もだ」
 刀真も同じくそこが降車駅。
「そんなこともあるんですね」
「世間は狭いらしいから」
 龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が言えば、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)も頷いた。
 けれど、駅を出て同じ方向に歩き出し、同じ角を曲がり。その頃になるともしや、という予感が兆してくる。
「案外同じ施設だったりしてな」
 冗談めかして牙竜が口にした施設の名前に、刀真はうむうむと頷き。
「同じ孤児院か。マジで奇遇……じゃねえよ!」
「マジで同じ施設かよ! 奇遇じゃねえよだと、こっちが言いてぇわ!」
 どういう巡り合わせなのかと2人は顔を見合わせた。
「……思い出した。ヒーローのお面かぶって『変身!』とか叫んだあげく、着替えようとして全裸で暴れてた緑の髪の毛はお前か!」
 その頃の刀真は他人に全く興味が無かった為に、一緒にいた孤児達の顔を覚えてはいない。けれど、その子供の緑の髪は確かに牙竜と同じ色合いのものだった。
「つか、年上のねーちゃんの胸をやたら鷲掴みしてた銀髪のエロガキはオマエか! 俺まで同罪扱いされてたんだぞ!」
 牙竜も思い出し、そうだったのかと刀真をまじまじと眺めた。
 そうこうしているうちに、育った孤児院に到着する。
 やはり目的地は同じだったのかと、世間の狭さを思いながら施設に入ってゆけば、そこここで遊んでいた子供たちが気づいて駆け寄ってくる。
「お、ガキども元気そうだな。おーい、帰ってきたぞ!」
 そう牙竜が呼びかけると、子供たちは一斉に声を揃えた。
「リアジュウシネー! マジシネー!」
「な……おいジジィ! ガキどもに何教え込んでるんだよ!」
 ぎょっとした牙竜が怒鳴ると、子供たちの後ろから悠然と孤児院シャングリラの副管理者が現れた。
 神父、あるいはジジイと呼ばれているが、その本名は知られていない。耳、歯、爪が鋭く尖っており、神父と呼ばれるのが不思議なくらい、不気味な威圧感を漂わせた老人だ。
 刀真たちの今回の帰省の目的はこの神父、そしてその妻であるシスターにあった。
「ジジイ、いや師匠。強くなる必要が出来た。だからもう一度鍛えて下さい」
 扶桑に取り込まれた封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)を救い出す為の具体的な案はまだ無い。が、その為にできることは全てやっておかねばならない。その時になって後悔することのないように。
「ジジィ……地下の冷蔵庫を使わせろ。……必要なんだよ」
 牙竜が言う『冷蔵庫』というのは、施設の地下にあるパソコンや書物が詰まった部屋だ。
「あの部屋が必要とはどういうことだ? 牙竜のキャラではないだろう」
「キャラとか言うな。知識付けなきゃいけない立場になったんだよ。現代戦における情報構築と戦術、戦略、それに過去のもな」
「うぬ。ではまず刀真の修行の相手をしてやろう。牙竜は後で見てやるから先に冷蔵庫で勉強しているが良い」
 神父は刀真に顎をしゃくると、修行部屋へと先に立って歩き出した。
 その間に月夜は、シスター……孤児院の管理者にして暗殺者、神父以上に年齢不詳な彼女に頼み込んでいた。
「おばあちゃん、お願い。もっと強くならないといけないの特訓してください」
「わーい、くーろ、黒ー」
 真剣な場面なのに、子供たちは月夜のスカートを引っ張って下着の色を言い立てて遊んでいる。
「脱げるからやめて……黒黒うるさい!」
「ふん、きちんと教えを守っているようだね」
 シスターはにんまりと笑ってから、月夜に問うた。
「月ちゃん……特訓は厳しいよ。覚悟はできてるかい?」
「うん解ってる。でも白花を助けなきゃ」
 銃器、投擲武器のスペシャリストであるシスターは、月夜の銃の師匠でもある。まあ、銃以外の諸々のこと……悩殺下着のノウハウ等を教えたのもこのシスターだったりするが。
「だったらおいで」
 シスターは月夜を伴って、射撃場へと向かった。
 
 
 修行部屋に入ると自然と気が引き締まる。
 条件反射……というか、そうしないと酷い目に遭うということを、身体も心も嫌という程知っているのだ。
 神父はただ飄々として立っている。
 だが、刀真が攻撃しようとするとそれに先んじて神父の攻撃が飛んでくる。
 斬ろうと意識するタイミングに合わせて攻撃されては、手を出すことも出来ず、身を守ることも出来ず、まさに神父の良いように扱われてしまう。
(完全に呼吸を読まれているとしか思えねえ……)
 身体の痛みを堪えながらにらみ付ければ、にやり、と神父が笑った。
「刀真、まだまだ鷲掴み方が甘いな」
「鷲掴み方?」
 剣を取って闘うのと鷲掴みとの間に何の関係が、と刀真は訝る。
「月夜の成長が右に偏っている。手だけでなく指も使え……お前は牙竜と違って見込みがある。掴みようのないモノが好みとは……」
「何の話をしてるんだ」
「当然胸のサイズだ。服の上からでも一目で見抜くのは情報を扱う者としての基本! しかし、灯の方はまったく成長しておらんし、月夜のは偏っている。一体何を修行しておったものか」
「そんな修行はしていない!」
 嘆く神父に斬りかかろうとするが、こんな無駄口を叩きながらも神父はその動きを察知して刀真の剣を跳ね上げた。
 そんな修行を見学する合間に、武神 雅(たけがみ・みやび)は修行部屋の中を見回した。こうして見ると、妙に充実した施設だ。まるで、こうなることを予測していたような……と考えた後、首を振る。
 深くは追及するまい。少なくとも牙竜と刀真の役に立ってくれているようだから。
「刀真が身動き一つできないくらいまで鍛え直してやってくれ」
 月夜や玉藻が寝込みを襲いやすいように、という部分は口に出さずに雅が声をかけると、分かっておると即座に返事が返ってくる。
「下手に抵抗されると困るだろうからな」
(読まれているのか?)
 やはり食えないジジイだと、雅は苦笑した。
 
 
 
「情報量の多さは相変わらずか……これは徹夜かね」
 一方、地下の冷蔵庫にこもっていた牙竜は、痛みを訴えてくる目を揉みながら呟いた。情報を読み取ろうとする余り、無意識に力が入っているのだろう。目がちかちかするばかりでなく、身体のあちこちも凝っていた。
 けれどこれも、惚れたセイニィに認めてもらう為。弱音は吐いていられない。
 徹夜をするなら今のうちに風呂に入っておこうかと、牙竜は時間を確かめた。この施設では時間ごとに男湯女湯が切り替わるのだが、今は男湯の時間だ。
 身体をほぐしがてら入って来ようと牙竜が部屋を出ると、シスターと灯が立ち話をしているのに出くわした。
「シスターが教えてくれた、男を落とす108の方法、実に役立ちました。一度は付き合うことが出来ましたからね」
 食事に精力をつける料理法が特に、と灯は楽しそうに笑う。
「必死で我慢している姿を見てると、色気のある下着を選ぶのが毎晩楽しみですよ」
 本命のセイニィへの想いの為、男としての本能を身もだえしながら抑えている姿は見ていてとても満足できる、と灯は言う。
「それに、諜報関係のスキルは本当に役に立ってます。不治の病で別れていましたけれど、神父様の教えで立派にストーキングができるようになり、牙竜について私が知らないことはありません」
 サポートにも使えますし、と明るく報告している灯に、牙竜は切れた。
「ババァ……灯と付き合う前に変なこと吹き込んでやがったな。灯の作る料理食べると、毎晩寝られなくなるくらいになるんだぞ! しかも、その時に限って俺のYシャツ着て部屋で過ごしてるんだぞ!」
 他のパートナーも同じようなことをしているから、本気で目のやり場に困ると猛然とシスターに食ってかかる。
「何言ってんだ牙竜。礼を言われることはあっても文句を言われる筋合いはないよ。灯ちゃんも喜んでるじゃないか」
「はい。これもすべてシスターのお陰です」
 これはもう何を言っても無駄だと、牙竜は諦めて風呂へと向かった。
 温かい湯に漬かっていると、疲れがどっと出てきて牙竜は眠りの中に誘われていった……。
 
 ちゃぷん。
 顔が湯に漬かったショックで目覚めた牙竜は、湯気の向こうに灯と雅の姿を見つけた。
「風呂で寝る癖を直さないと、そのうち溺れてしまいますよ」
「この癖は昔からなのか? 風呂で5時間とか寝るもんだから、近所の人から死んでるんじゃないかと噂されてるのだが」
「あれ、灯にみやねぇ。なぜ風呂場にいるんだ?」
 不思議そうな牙竜に、雅が今の時間は女湯なのだと教えた。
「しかし、見事なまでに動揺しないな。少し女として魅力に欠けるのか?」
 雅はまじまじと自分の身体を眺める。
「まぁ、昔は灯ともよく一緒に入った……訳があるか。付き合ってた頃だって、いつの間にか忍び込んでたから慣れた。みやねぇもしっかり温まれよ。俺はそろそろ出るわ」
 うっかり寝てしまったが続きをしなければならない。
 ばしゃっと湯を顔にかけると、牙竜は風呂からあがって再び冷蔵庫へと向かうのだった。
 
 
 
「おばあちゃん、Yシャツ1枚は恥ずかしいよ」
「何を言ってるんだね月ちゃん。今日の刀真はじいさんとの訓練で疲れているから、迫っても抵抗できないはず。アタシが精の付く料理で元気にしてあげたから……裸に刀真のYシャツ1枚で迫ったらイチコロさ」
 頑張ってきなと背中を叩かれてもやっぱり恥ずかしい。
 部屋に戻って、言われた通りにシスターが持ってきてくれた刀真のYシャツだけを羽織ってみたけれど。
「……パンツだけは穿いておこう」
 これでは廊下も歩けないからと、ごそごそと月夜が下着を身につけていると。
「月夜、今夜は一緒に寝ようぞ」
 ベッドに寝転がっていた玉藻 前(たまもの・まえ)が身を起こした。
「あ、玉ちゃん起きてたの」
「寝てはおらん。横になっていただけだ」
 落ち込んでいる時は誰かと一緒に寝れば少しは落ち着くだろう、と言いながら玉藻は立ち上がる。
「刀真も気負っているから丁度良い。皆で一緒に寝た方が月夜も嬉しかろう」
「玉ちゃん……ありがとう」
 気を遣わせちゃったねと月夜は申し訳なさそうに呟いた。
 
 刀真が疲れ切ってベッドに入った時、ノックの音がした。
「誰だ?」
「私と玉ちゃん。入っても良い?」
「ああ入ってくれ」
 そう言ってドアを開けたものの、入ってきた月夜の格好を見て刀真は仰天する。
「それ俺のYシャツ……ババアのヤツ余計な入れ知恵しやがって」
「……この格好似合う?」
「似合ってる。けどこんな時間にそんな格好で男の部屋に来るのはどうよ」
 玉藻も何か言ってくれ……と見れば玉藻の方も長襦袢1枚のしどけない姿だ。
「刀真、今日は疲れたろう? 我と月夜が添い寝してやるから喜んで受け取れ」
 ずかずかと部屋に入ってくると、玉藻は長襦袢の襟元をちょっと摘んでみせる。
「素肌に長襦袢1枚だけの我に欲情したら、月夜と共に相手してやるぞ?」
「イラネ……げふっ」
 そっけない返事のお返しは玉藻の鉄扇の一撃。
 普段なら耐えられる攻撃も疲労困憊の身体には厳しく、刀真は昏倒した。
「ほら月夜、ベッドに連れ込んで共に寝るぞ」
「うん……これで良かったのかな」
 シスターの望みとは違うような気もするけれど、殴り倒してしまったからには仕方がないかと、月夜は玉藻を手伝って刀真をベッドに運ぶと、一緒に潜り込んだ。
「今回だけの特別だぞ」
 玉藻は月夜を優しく抱きしめ、刀真ごと尾で包み込んで眠る。その温もりを感じながら月夜も眠りに落ちていった。
 
(朝か……)
 翌朝。まだ半ば夢の中にいる刀真は、何か柔らかくて温かい良い匂いのするものを感じた。
 あまりにさわり心地が良いから抱き寄せて、その手触りを楽しむ。と。
「あんっ」
 ソレは甘い声を挙げてすりついてきた。この声は……月夜?
「刀真、おはよう」
 寝乱れたYシャツ姿で月夜が挨拶してくる。そして玉藻まで一緒のベッドにいて、おはようと声をかけてきた。
「結局優しく抱きしめただけか、このヘタレが」
「げっ、玉藻。手を出すとか、そんな余裕ねえよ。……だが尾まで出させて気を遣わせたな、悪い」
 自分がこんなことではいけないと、刀真は気合いを入れ直した。
「急いては事をし損じるだよな、気をつけるよ……月夜も安心しろ、白花は必ず救い出す」
「うん。一緒に白花を助けよう」
 月夜は嬉しそうに頷いた。玉藻はふんと鼻を鳴らす。
「アレの事は好かんがお前や月夜が元気ないと我もつまらんからな。さっさと扶桑から引っ張り出すぞ。良いな?」
 朝の光の中、3人は白花を救い出すとの誓いを新たにするのだった。