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第57章 大スキ

 空京のチョコレートショップでは、カップル向けの催しが行われていた。
 メインイベントである、棒チョコゲームでは、優勝者に素敵な賞品が贈られるとのことで、沢山の人々が参加している。
 その中に、可愛らしい女の子の2人組みの姿があった。
「がんばれ!」
 観客席では応援している女の子……いや、少女のような可愛らしい容姿の緋桜 ケイ(ひおう・けい)の姿もある。
「優勝の高級チョコレートもらおうぜー!」
 優勝賞品は、高級チョコレートの詰め合わせだ。日本円で10万円相当のものだとか。
 棒チョコゲームは、ペアで棒チョコの端と端をそれぞれ咥えて、食べていくゲーム。
 触れ合う寸前まで食べて、一番某チョコの長さが短かったペアが優勝となる。
 尚、相手に触れてしまった場合は失格となってしまう。
「それにしても……なんだかちょっと変な気分だな。とはいえ、2人ともすっごく可愛らしいぜ」
 ケイは両想いのヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)と、幼馴染で冒険仲間のソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が徐々に顔を近づける姿に、ちょっとだけ妬けてしまう。
 だけれど、男の自分と2人のどちらかがやるより、女の子同士の方が可愛いしなーなどと思って、このゲームは2人に譲ったのだ。
 尤も、ケイ自身の外見も相当可愛い女の子なのだけれど。
「がんばれー。もう少し大丈夫そうだぞ〜! 優勝だー」
 ケイは大声で応援していく。
「もぐ……」
(優勝って……ど、どうすればいいんですかっ)
 ソアの顔が赤く染まっていく。
 一緒に参加しているヴァーナーは、ちゅーやハグが大好きな子だ。
 随分慣れたとはいえ、こうゆっくりゆっくり相手の顔が近づいてくるとなると……やっぱり、純情なソアは恥ずかしくなってしまう。
「……あと少しです」
 ヴァーナーはソアを見て、天使のような可愛らしい微笑みを浮かべている。
「そ、そろそろですね」
 ソアは歯を軽く某チョコに立てて止めるが、ヴァーナーの方は柔らかな唇でチョコを覆いながら、まだゆっくり、ゆっくりとソアに顔を近づけてくる。
「ヴァーナーさん、だ、だだだだめですーっ。はっ判定お願いしますっ」
 唇が触れる寸前で、ソアは力いっぱい係員を呼んだ。
「んー……」
 ヴァーナーはかなり残念そうな顔で、動きを止める。
「2センチです!」
 係員が2人の距離を測り終えたところで、ほっとソアは某チョコから口を離した。
「……ソアちゃん、嫌でしたか?」
「そ、そうじゃなくてね。ヴァーナーさん、ゲームを忘れて……えっと、ちゅーしてきてそうでしたから!」
「そのつもりでした」
 にこっと笑うヴァーナー。
 ヴァーナーは色々と一緒に遊んでくれているソアが大好きだ。
 もっともっと仲良くなりたいと思ってる。
 だけれど、今までちゅーもハグもソアが照れてしまって、あまりできていないから。
 棒チョコゲームは良いチャンスだと思っていた。
 ヴァーナーの言葉に、ソアはドキリとして顔を赤らめている。
「そ、そういうのはケイと……で、ではなくて、今日は3人一緒なので、3人で一緒に……って、3人で一緒にはできないですよね」
 慌てているソアに、ヴァーナーはただにこにこ笑みを向けている。
 今日は無理だったけれど、また今度と思いながら。
「じゃ、次は3人で参加できる催し探そうな!」
 ケイがそう言い、2人に近づいてきた。
 ヴァーナーは明るく元気に、ソアは少し照れを残したまま嬉しそうな笑みを浮かべて、「はいっ」と返事をする。

 お菓子のつかみどりに、抽選会。
 記念撮影に、ぬいぐるみショーと、沢山のイベントを楽しんだ後。
 3人は甘い匂いのする喫茶店の中へと入った。
 ちょうどケーキが焼きあがったところのようだ。
 3人はそのシナモンケーキと、紅茶を注文して。
 今日の事や、学校のこと。
 毎日のちょっとした出来事を微笑み合いながら語り合っていた。
「さて」
 会話が途切れたチャンスに、ソアが鞄の中から取り出した物をバーンとテーブルの上に置いた。
「実は、2人にチョコを用意してきましたっ!」
 机の上に並べたのは、2つの箱。
「一口サイズのチョコが沢山入ってます!」
 そして、ケイとヴァーナーそれぞれに箱を渡した。
「かわいいです」
 箱の中を見たヴァーナーは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「凝ってるなー。なんか楽しい気分になる!」
 ケイは中に入っている小さなチョコレートを取り出して、そう感想を言った。
「見た目はハート型、星形、四角。そして中身はホワイトチョコやイチゴジャム入りもありますよ!」
「どれから食べるかまようです。ほうせき箱のようです」
 ヴァーナーはチョコレートをつまんで、どれから開けてみようか迷っている。
「ええと、俺もチョコを作ってみたんだけど……」
「ボクも作ってきたです!」
 ケイ、ヴァーナーもそれぞれ鞄の中から、包みを取り出した。
 出そろったチョコレートを見て、3人は同時に笑い声をあげた。
「同じこと考えてたんだな」
「サプライズのつもりでしたけど、これはこれでサプライズです♪」
「チョコレート交換ですね。嬉しいです」
 ケイ、ヴァーナー、ソアは笑顔でチョコレートを交換していく。
「俺のは、『モップス直伝魔女のトリュフ』だ!」
 食べると元気が出るチョコレート。
 魔女のイメージであるキノコを掛けたネーミングだ。
「疲れた時には甘いものがいいといいますが、こちらのチョコはふつうの甘いお菓子より、ずっと効果がありそうですね」
「だいじに、たべるですー」
 ソアとヴァーナーは喜んでケイのチョコレートを受け取った。
「どうぞです」
 ヴァーナーも自分が用意してきたチョコレートを2人に差し出していく。
「サンキュー!」
 ケイはさっそくリボンをほどいて、箱を開けてみることにした。
 箱の中に入っていたのは、厚いハート型の純チョコ。
 シンプルだけれど、チョコレートの上では、ホワイトチョコで文字が書かれている。
 ケイが受け取ったチョコレートに書かれていた文字は『大スキなケイへ』。
「あ、ありがとうございます」
 ソアが受け取ったチョコレートには『大スキなソアちゃんへ』と書かれていた。
「ありがとう、ヴァーナー」
 ケイも礼を言って、照れくさそうな笑みを浮かべた。
 ストレートチョコに書かれた白い文字は、ヴァーナーの心をストレートに表していて。
 食べてもいないのに、心が温まっていく。
「私もサプライズ2つ、うれしいです」
 ヴァーナーなNO1大スキなケイからもらったチョコレートと、とっても可愛くて大スキなソアからもらったチョコレートを嬉しそうに、眺める。
「それにしても、全員手作りなんて……。すごい偶然です」
 それぞれの手に渡ったチョコレートをソアは感慨深げに見ていた。
「みんな、同じような気持ちで作ったんだろうな。それじゃ、皆で食べようぜ」
 ケイは2人のチョコレートをテーブルの上で広げた。
 ソアと、ヴァーナーも包みや箱を開いて。
 紅茶のお代わりをすると、その場で色々な味と……互いの想いを堪能していく。
 それはケイが作ったチョコレートのせいなのか。
 体の奥から熱と力が湧きだしてきて。
 3人の顔がまぶしい程に輝いていく。