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第59章 甘い時間

 賑やかな街が見える場所に、シンプルだけれど清潔感溢れていて、居心地の良い、女の子達に大人気のお店がある。
 そのお店のメニューは苺ケーキに、チョコケーキに、チーズケーキ、シフォンケーキにモンブラン……そう。ケーキバイキングのお店だ!
「ケーキバイキングって種類が豊富なのが嬉しいですよね〜」
「ケーキだけではなく、パスタやカレーもありますね。甘いものに飽きても楽しめそうです」
 桐生 ひな(きりゅう・ひな)御堂 緋音(みどう・あかね)は、ブッフェボードの前で、まずは何から食べようかと迷っていた。
「よし、今日はチョコ系のケーキを中心に攻め立てるですー」
「そうですね。私は色々な種類のものを食べてみたいです」
 ひなはチョコケーキにザッハトルテ、ホワイトチョコタルトにロングエクレア……と、チョコ系ケーキをがんがん皿に乗せていく。それからチョコレートフォンデュも。苺とバナナにチョコをたっぷりつけた。
 緋音はキューブタイプの小さなチョコケーキ、小さな容器に入ったカップイチゴケーキやオレンジケーキ、バニラとメロンのアイスもちょっとずつ、皿に乗せる。
 互いに、皿から落ちそうなほど乗せて、一旦テーブルに戻った。

 大きな窓に目を向けると、バレンタインフェスティバルで賑わう街を歩く人々の姿が見える。
 ひなと向かい合って腰かけながら、緋音は窓の方もちょっと気になる。
 自分が今、どんな顔をしているのか。ガラスに映る姿を確認してしまう。
 幼馴染で大好きで、大切なひなと一緒にいることがとても幸せで……。
 そして、街にカップルがあふれていることや、今日がバレンタイン当日だということに、鼓動が高鳴っていく
 普段と変わらない外出なのに。特別な感じがして。
 そんな気持ちが、顔に現れていないだろうかと、にやけてしまってはいないだろうかと、ちょっと気になって窓ガラスの方にちらちら目を向けてしまう。
「こんなにチョコ尽くしだと幸せで堪らないのですよー」
 ひなの方は、最初から幸せいっぱいな表情で、美味しそうにケーキをパクパクパクパク食べている。
「次に何を食べるのかももう決めてあるんですよー」
「実は、私もです」
 最初の皿で、ひなはチョコレートを、緋音は様々な甘い味を存分に楽しんだ。
「バレンタインフェスティバル特別ケーキが出来ました」
 声と鈴の音が響いた途端、2人は立ち上がって再びブッフェボードにGOする。

「このケーキすごく凝ってます。中に入っているフルーツまでハート型です」
 ハート型のチョコレートが乗ったフルーツケーキの中に、ハート型にカットされたフルーツが入っている。
 ぱくりと食べてみると、味もとても美味しい。
「このシフォンとか美味しいですよ〜、緋音ちゃんあーんなのですっ」
 ひなはシフォンケーキをフォークで刺すと、唐突に緋音の口に運んだ。
「えっ?」
 ちょっと驚きながらも、緋音は口を開く。
 窓も近いし、店の人達もいるし。
 ちょっと気後れしてしまうけれど。
 今日は特別な日で、寄り添っているカップルや、食べさせ合いっこをしているカップルの姿もあるから、いいの、かなと思いながら、ひなが運んでくれたケーキを食べていく、
「はい、とても美味しいです。ひなが食べさせてくれた物なので、更に美味しいですね」
 そう微笑んだ後、緋音もフルーツケーキの残りを、ひなの口へと運んだ。
「お礼です」
 本当は自分からもしたかったけれど、照れ隠しで、お礼という理由づけをして。
 緋音はひなよりも多く、ケーキや果物をひなの口に運んでいくのだった。
「美味しいです―」
「それに、可愛いですよね」
 先ほどのハート型のケーキの他にも、ピンクや白のお花のようなケーキや、果物が敷き詰められ、そのまわりを生クリームで綺麗に飾り付けた、可愛らしいケーキなど、心を和ませてくれるケーキが沢山あった。
「よぉし、これも食べますよー!」
 ひながチョコレートのような固形物に、フォークを刺した。
 ぱくん。
 しかし、半分口に入れた後、何とも言えない顔で首を傾げる。
「ひな……それって、もしかしてカレーのルーじゃないですか?」
 残り半分を見て緋音がそう言うと、ひなはぽん、と手を叩いた。
「辛いと思いました……口直しです!」
 そしてダッシュで甘い甘いスイーツを取りに向かっていく。
「どこから持ってきたのでしょう……」
 くすりと笑いながら、緋音は大切な人が楽しそうに選ぶ様子を見ていた。
 一緒に食べている時間も。
 こうして、待っている時間も。
 とても幸せだった。

「満腹ですよー。もう食べられませんー」
「ですね」
 お腹いっぱい、溢れるほどに食べた後。
 ひなと緋音は店を後にした。
 手を繋いでゆっくりゆっくり歩いて。
「プレゼントですー」
 少しお腹が落ち着いた頃に、ひなは緋音にリボンのついた袋を差し出した。
 緋音はとても驚きながら、差し出された袋――チョコレートを受け取った。
「今年は生チョコを薄いラクスで包み込んだやつですっ」
 料理が苦手ということもあり、そのチョコレートは手作りではなく空京で購入したものだ。
 さっくり、もっちりで、とろとろ。ほわーんなカンジになれるチョコだと、ひなは説明をしていく。
「ありがとうございます。……ありがとう、とても嬉しいです」
 すごくすごく嬉しかった。
 緋音は袋をぎゅっと握りしめて、僅かに赤くなり微笑みを浮かべる。
 愛情表現はそれだけしか出来なかったけれど、本当に本当に嬉しかった。
「それじゃ、帰りますー。お家はもうすぐですよー」
「はい」
「今度の週末はカラオケに行きたいですね〜、新しいレパートリーが増えたのでっ」
「いいですね。楽しい一日になりそうです」
 手を繋ぎながら、他愛もない話をして。
 2人は一緒に家へと帰っていく。
 明かりはついていなくても、火はともっていなくても、お風呂が沸いていなくても。
 2人一緒の帰宅だから。
 家に帰ってからも、幸せが待っている。