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曲水の宴とひいなの祭り

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曲水の宴とひいなの祭り

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 姫と殿上人の宴
 
 
 
 とっても素敵なところに連れて行ってあげる、というジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)の言葉に、たまには気が利く時もあるんだなぁ、と思いつつやってきたのはホテル『荷葉』。
 いきなり着替えの場所に放り込まれて、赤羽 美央(あかばね・みお)は何事かと面食らった。
「……曲水の宴?」
「そうデース! 十二単、お姫様、大和撫子デスネ!」
 ジョセフは拳を握って力説する。普段から美央には女性としての淑やかさが足りない、と痛感していたジョセフだ。これで美央も淑やかになると確信している。
「むー、雛祭りですら、みんなでわいわいとかやったことなんてないんですけど……」
「ハハハ、それで良いのデース」
 こういう経験はしたことないだろうとふんで、わざわざ曲水の宴に誘ったのだ。美央が戸惑うのもジョセフの計算のうち。
(これに懲りたら普段からお淑やかになるのデース!)
 胸の内にそんなことを呟くと、ジョセフは自分も衣冠束帯に着替えにいくことにした。
「ミーも着替えなくてはなりませんネ。では仕上がりを楽しみにしてマース!」
 ジョセフの態度は不審だけれど、まあいつものことと言えばいつものことか、と美央は言われた通りに十二単を着付けてもらった。
 よく鎧を着ているから十二単の重さは気にならない。けれど、ずるずると長い丈が歩くのに邪魔になる。
「むー、それにしても普段からこんな格好じゃ、家の中でも動きたくなくなりそうですね……」
「オウ、お淑やかデース」
 動きにくそうに歩く美央の様子にジョセフは満足そうに頷いた。
 窮屈な格好ではあったけれど、美央は指定された緋毛氈まで行くときちんと座った。衣装の重みで足がしびれそうだけれど、雪だるま王国の女王を名乗る者としては、無様な姿は見せられない。
「盃が自分の前を過ぎる前に、俳句を詠むんデスヨ」
「え、俳句?」
「お題は『花』なのデース」
「私、語学とか苦手なんですけれど……」
 花、花、花……と美央は懸命に考えた。美央にとっての花と言えば、やはり雪の結晶のことを指す六花だ。
 『 街中や 溶けぬと六花 ひとり旅 』
 無事に詠みあげると、美央は盃の甘酒を口元に持っていった。
 ケーキ等では味わえないこの優しい甘みが、美央は大好きだ。ごくごくっと飲みたいのを我慢して、そろーりそろーりと飲み干した。
「次、ジョセフの番ですよ」
 美央に促され、ジョセフはアウチと片手で顔を覆った。
「全く考えてませんデシタ! ここはミーのスペシャルな美的センスに頼るしかないという事デスネ!」
 即興でひねりだして、ジョセフは読む。
 『 月の雨 当たりて会釈す 秋薔薇や 』
「オウ、やっぱりミーの美的センスは惚れ惚れする程デース」
 うっとりと自分の読んだ俳句の余韻にひたっているジョセフの横を、盃が通り過ぎてゆく。
「……。お腹が減ってきましたね」
 自分の世界に浸りきっているジョセフは残して、美央はさっさと立ち上がるとひな料理のふるまいをしている方へと歩いていったのだった。
 
 
 
「こういうきらびやかな衣装も時には良いものですね」
 十二単を身に纏ったレジーナはその色彩と模様の美しさに目を細めた。
 普段は着ることのない衣装だけれど、女の子としては憧れのお姫様装束だ。
 自然と立ち居振る舞いもしとやかになり、向けられるカメラにも笑顔で応じられる。
 そんな上機嫌のレジーナとは全く逆に、金住 健勝(かなずみ・けんしょう)はぎくしゃくとぎこちなく手足を動かしていた。
 曲水の宴に参加するにはこの衣装に着替えるのが必要だからとレジーナに言われ、衣冠束帯を着込んではいるのだけれど、慣れない服装と注がれる視線……そして何より、これから句を詠まなければならないことに緊張はうなぎのぼりだ。
 曲水の宴というものに参加してみたいとレジーナにせがまれて、つい引き受けてしまったものの……。
(やっぱり流し雛にでもしておけばよかったであります)
 それならばこんなにプレッシャーを感じることも無かっただろうと、今になってつくづく後悔したけれどもう遅い。
 何をどう詠めば良いのかと、頭の中でぐるぐると文字が渦を巻く。
 そちらに気を取られてしまっている為に、せっかくのレジーナの十二単姿や庭園の優雅な風景も健勝の目には入らない。
「情緒のある眺めですね」
「はっ、そうであります!」
「普段余りこういうものに触れる機会がないので、興味深いです」
「はっ、そうであります!」
「……私の話、聞いてます?」
「はっ、そうであります!」
「もう……今からそんなに緊張してどうするんですか。ほら、落ち着いて座って下さい」
 レジーナは苦笑して、健勝を緋毛氈に座らせた。
 遣り水はさらさらと流れ、ゆるやかな風が頬を撫でる。
 その心地よさを楽しんでいたレジーナだったが、やはりいざ盃が流されると緊張した。
 何かおかしくないだろうか、自分の作品は恥ずかしくないだろうかと心配になってくる。そして目を閉じ集中して、ぎりぎりまで考えた句を口にした。
 『 ひまわりや 陽(ひ)追う姿の 頼もしき 』
 太陽は明るい希望。そしてひまわりは健勝をイメージしたものだ。
(……もっともこの場では全然当てはまってない気もしますけれど)
 そんなことを考えながらレジーナはゆっくりと盃を取り上げた。
「えー……あー……」
 健勝はうわごとのように唸っていたが、流れてくる盃が目に入ると焦りは最高潮。もうどうにでもなれと大声で叫んだ。
 『 チューリップ どの花見ても きれいだな! 』
 そしてダッシュで盃を取った。
「……ふぅ」
 一仕事終えたことにほっとしている健勝を、レジーナが睨む。
「なんですかあの句は。歌そのままじゃないですか!」
「ちょんと五七五になっているから、これでいいのであります。流してしまったら甘酒もったいないし」
 レジーナは呆れているが、健勝はあまり気にしないことにする。とにかく句は無事に詠めたのだから。
「そういう問題じゃないでしょう。ああ、恥ずかしい……」
 自分のことのようにレジーナは恥ずかしがる。その彼女が詠んだ句の意味を考えることもなく、健勝はゆっくりと甘酒を飲み干したのだった。
 
 
 
 早春の日本庭園での優雅な宴。
 芦原 郁乃(あはら・いくの)たちもパートナーこぞって参加を決めて、しとやかに緋毛氈に座っていた。
「郁乃様の故郷では、このような催しがあるんですね」
 秋月 桃花(あきづき・とうか)に言われ、郁乃はううんと笑った。
「雛祭りは私もしたことあるけど、曲水の宴なんてはじめて。ずっと昔とか、特別な行事とかでしかやらないと思うよ。十二単も実際に着るのははじめてだし」
 まるでお姫様気分、と郁乃は十二単を眺めた。この衣装を着ているだけで気分が浮き立つ。
「いやはや美少女3人はべらせての宴とは、こいつは春から縁起が良いってもんだ!」
 衣冠束帯姿のアンタル・アタテュルク(あんたる・あたてゅるく)は満足そうに居並ぶ3人を見やった。
 郁乃の十二単は華やか、桃花のはしっとりとした風情、荀 灌(じゅん・かん)のは可愛らしく。同じ十二単でも重ねる色彩によって、雰囲気は随分違う。けれどそれぞれ愛らしい。
 普段ラフな格好をしているアンタルにとって束帯は窮屈だけれど、こんな特典付きならば我慢もしようかという気になるというものだ。
「そうそう、曲水の宴のルールはちゃんと分かってる? 自分の前に盃が流れてくるまでに俳句を詠むんだよ」
 郁乃はパートナーたちにそう確認すると、自分の盃が流されるのを待って句を詠んだ。
 『 色匂う 君と睦みし 桃色の季(とき) 』
 桃花と仲良く過ごしたい、という素直な気持ちを詠んだのだが……何故か周囲の反応がおかしい。
 喜んでくれると思った桃花は、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしているし、アンタルはヒューヒューと口笛を吹き、にやにやと郁乃を見ている。普段通りなのは荀灌だけだ。
「どうしたの?」
「い、いえ……何でもありません」
 尋ねてみても桃花は真っ赤になるばかりで、その理由を教えてはくれなかった。同じく、意味の分かっていない様子の荀灌と顔を見合わせると、郁乃は微妙な空気を散らすように声をあげた。
「もう! 今度はみんなが詠む番だからねっ!」
「は、はい……」
 盃が流されたのを見て、桃花は呼吸を整えた。
 まだ頬が熱くて考えがまとまらないけれど、郁乃が想いをこめて詠んでくれたのだから、返句を詠まなくては。
 確か郁乃の『郁』の字には『香りが良い』という意味があったはず……と桃花は考える。ではそれを織り込んで詠んでみようか。
 『 香り良い 惹かれる想い 桃の花 』
「ほう。なかなかやるな」
「アンタル様……冷やかすのは止めて下さい」
 アンタルに肘でつつかれて、桃花は恥ずかしさをごまかすように盃に口をつけた。
「えっと、えっと……」
 荀灌は何を詠もうかと回りをきょろきょろと眺め、ちょうど目に留まったものを題材に詠む。
 『 お着物と 色が一緒の 梅の花 』
 無事に間に合った荀灌は、嬉しそうに盃を拾い上げた。
 最後はアンタルの番だ。
 『 拒まれぬ 香り豊かな 花と酒 』
 今を盛りと咲く梅も、花に劣らず咲き誇る乙女たちも目を楽しませてくれる。これを肴に飲む酒はどんな酒よりも美味しく飲める。そんな気分でアンタルは3人に目をやると、美味そうに盃を飲み干すのだった。
 
 
 
「十二単、かわいいですよう!」
 綺麗な色を重ねた衣装に、シシルは上機嫌だった。
「うん、よく似合ってて可愛いよ」
「えっへへ〜♪ 師匠もかわいいですよう」
 シシルに言われ、終夏は自分の衣装に目を落とした。色とりどりの衣を重ねた衣装は確かに可愛いけれど、やっぱり自分にはあんまり似合っていない気がする。
 格好いい、とか、可愛い、とかだったらいいのに、自分の目から見るととりわけ普通に見えてしまう。
(こういう格好は可愛かったり綺麗だったりする子たちが着てこそ、目の保養になるんだよなー)
 シシルなんてまるでお人形が歩いているようだ。ちょっと重そうにしているさまさえ可愛く見える。
「うーんうーん……よっこらしょ」
 苦労して緋毛氈に座り、シシルは慌てて口を手で押さえた。誰にも見られていないかと、あわあわしながら周囲を見回す。
 終夏はその後ろに長く引いた裳を整えてやった。
「随分重そうだね」
「こんな服を着て生活してただなんて、地球の昔の女の人は凄い力持ちさんなんですね〜。師匠のは少し軽そうですけど、それはどういう服なんですか〜?」
「ああ、これ? 十二単はさすがに重いだろうと思って、小袿を借りたんだよ」
 単、重袿、打衣、表着までは同じだけれど、正装である十二単がその上に唐衣と裳をつけるのに対して、小袿を羽織るだけの准正装だ。その分、十二単よりも動きやすい。
 けれど逆に、平安時代は身分の高い方ほどくつろいだ衣装を着るため、小袿姿と十二単姿なら小袿を着ている方が身分が高い人となる。自分の方が身分が高いからこそ、略式の格好が出来る……という考え方らしい。
「……あっ! 流れてきたですよう!」
 衣装の話をしているうちに、遣り水には盃が流されていた。
 シシルに言われ、終夏の方は何を詠もうかと考えて。
 『 紅白が 空に舞い交う 梅の花 』
 紅梅と白梅の花弁が風に吹かれて、空で楽しく舞っているようだった。
 あんな風に皆で楽しくやれたらいいよね、という気持ちを込めた句を詠んだ。
 シシルもえーとえーとと懸命に句を考える。
 『 テーブルに 並ぶ草餅 皆で食べ 』
 昨日のおやつの時間、皆で一緒に草餅を食べた。邪気を祓うというよもぎの入ったお餅は、皆で食べると一層美味しく感じた。その時のことを思い出して詠んだ情景だ。
「ふー、何とか間に合ったです〜」
 シシルは遣り水から拾い上げた甘酒をこくんと飲んだ。
 歌を詠んだ緊張が、口の中に広がる甘い味にゆるんでゆく。
「ほっとしたらお腹すいてきたですよう」
「誰か知り合いが来てるかも知れないな。着替えて見に行こうか」
 一仕事終えた満足感を胸に、2人は緋毛氈から立ち上がった。
 
 
 
 十二単はかなり重い衣装だけれど、契約者である神代明日香は一般の人よりもずっと体力がある。着物に慣れていて立ち居振る舞いのコツも掴んでいるから、十二単を着ての移動や動作も苦にならない。
 ノルンの方はそこまでではないから、いつもより足下が覚束ない。けれどその仕草がまた可愛くて、明日香の顔はついほころんでしまう。
 よちよちと歩くノルンを連れて緋毛氈に座り、ゆったりとした気分で盃を待つ。
「今年も白酒が飲めるのですね」
 去年飲んだ白酒が美味しかったことを思い出して、ノルンはうずうずして遣り水の上流を見やった。
 そんなノルンの様子を眺めつつ、まずは明日香が詠む。
 『 待ちきれず 落ち着かざるも 愛おしい 』
 子供扱いをいやがるノルンだけど、子供らしくしてもいいのにと明日香は思う。
(だってノルンちゃんは、大切な〜家族? 妹? ……もしかしたら我が子? みたいなものなのですから〜)
 そんな明日香の詠んだ句の意図にも気づかず、ノルンは白酒を飲みたい一心で俳句を詠む。
 『 桃の花 咲き始めては 訪れる 』
 春の季語でもある『桃の花』を詠みこんでの句だ。
 逸る気持ちで盃を拾い上げ……たけれど。
「あ……」
 盃の中身は白酒でなく甘酒だった。見た目5歳のノルンだから仕方がないとは言え、楽しみにしていただけに落胆も大きい。けれどここで中身が違うと騒ぎ立てたら宴の雰囲気を乱してしまう。
 しょんぼりと肩を落としてノルンは甘酒を飲んだ。隣の毛氈の人は白酒を飲んでおり、余計に飲みたかったという気持ちが強まってしまう。
 その様子に明日香はしまったと後悔した。ノルンが未成年でないことを伝えて、片方は白酒にしてもらうように根回ししておけば良かった。
「ノルンちゃん、白酒を貰いにいきますか〜?」
「はい」
 良い返事をしたノルンに明日香はにこりと笑った。
「事情のわかる人に言った方が面倒がないですから、琴子先生を捜しましょうか〜」
「そうします」
 スタッフに白酒を要求して拒否されたらしょんぼり感が倍増してしまう。ノルンは琴子を捜して庭を歩き始めた。
 早く白酒が飲みたくて、大急ぎで歩くノルンはとても危なっかしい。
 大丈夫かと明日香が心配していると案の定、十二単の裾を引っかけてつんのめる。それをちょうどホテル側から歩いてきた七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が受け止めた。
「わわ、危ないよっ」
「あ、ありがとうございます」
「衣装重いから大変ですよねー。気を付けてー」
 ノルンと明日香にそう言うと、歩は案内してきた客へと曲水の宴の様子を指した。
「ここでやっているのが曲水の宴です。上流で盃を流しているのが見えますか? あの盃が自分のところに来るまでに俳句を詠んで、詠めたら流れてきた盃の中身を飲めるんですよー」
「俳句とはどういうものなのだね?」
 客から質問されて、どう言ったら分かりやすいかと考えながら歩は説明する。
「五七五と言って、5文字・7文字・5文字の17文字で詠まれる定型詩です。季語を入れなければならないとか、一カ所『切れ』を入れるとか、余韻を残すとかの決まり事があるんですけれど、それにとらわれない無季俳句、自由律俳句とかもあるんですよー。あと、同じ17文字でも、季語も切れもなくて余韻を残さずに言い切る『川柳』というものもあります」
 説明は憶えてきたけれど、実際歩もきちんと俳句の作り方を習ったことはない。
 なかなか自分で詠む機会がないものだけれど、五七五の音韻は耳に馴染んで心地よいものだ。
「有名なのは……松尾芭蕉の『古池や 蛙飛び込む 水の音』とかでしょうか。えーっと、これは小さなカエルが池に飛び込む音までしっかり聞こえるくらい、周りが静かだってことを表してるんですよー」
 句には直接芭蕉の思想や感情は詠みこまれていないけれど、それを知らしめるのが句の余韻だ。慣れていないとどう受け止めていいのかさっぱり分からないけれど、俳句の世界を知れば知るほどそれが見えてくるものらしい。
「えっと……たとえば今のこの雰囲気を俳句にしてみると……」
 歩は沢山の人々が雛祭りを楽しんでいる様子を眺め、そして詠んでみた。
 『 ひなあられ 色の数だけ 楽しみを 』
「人のよって興味を持つものは違うと思うんですけど、どれも素敵なモノですよね。見てるあたしたちも色んな楽しみあるなぁって分かりますし。あ、この場合は『ひなあられ』が季語になって、ひなあられ、のところで『切れ』となるんですー」
 何をするかは人それぞれ。けれど雛祭り自体を楽しんでもらえたら、それだけで嬉しい。
 そんな気持ちを込めた句を詠むと、歩は思い思いに楽しむ人々に優しい表情を向けるのだった。
 
 
 
 衣冠束帯に身を包んだ樹月刀真は十二単をまとう月夜を支えながらゆっくりと歩いた。
 昨年は月夜にこうすると喜んでいた気がした……。
 そっと月夜を見ると、目を伏せて、けれど嬉しそうに刀真に寄り添っている。
 ……うん、きっとこれで良い。
 写真を請われれば、見栄えのよい構図になるように意識して位置取りを決めた。ホテルの行事として参加しているのだし、折角撮ってくれるというのなら、出来るだけ良い写真になるように協力したいから。
 指定された緋毛氈まで来ると、刀真は月夜に手を貸して座らせ、自分もその前に座った。
 穏やかな早春の風景。けれど共に来たかった封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)の姿は此処に無い。一緒に来られたらきっと喜んでくれただろうに。
 盃がゆるゆると流れてくる間に、刀真は白花を思って句を詠んだ。
 『 桜樹に 取り込まれてる 君想う 』
 来年こそは一緒に来よう。心に誓って甘酒を飲む。
 と、その背中が温かくなった。
「……大丈夫、私達がいるから必ず救い出せるよ」
 後ろから抱きしめてくる月夜の手に、ぎゅっと力がこめられる。それに背中を預けるように刀真はもたれかかって目を閉じた。
「……ああそうだな」
 来年の今頃は、こんなこともあったと懐かしく思い出しているだろう。そのときにあるのは白花の笑顔と幸せな時間。
 やがて訪れると信じている日々を夢見るように、2人は玉藻が呼びに来るまでそのままじっと互いの温もりを感じていたのだった。