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2021年…無差別料理コンテスト

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第9章 心あっつあつ料理で勝負

「さぁ、いらっしゃい〜いらっしゃいっ。美味しいおにぎりはいかが?」
 カティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)は肩が露出し胸元が開いた、セクシーな丈の短い浴衣を着て客を呼び集める。
「そこ行く貴方、少し寄って行かないかしら?後悔はさせないわよ?」
 髪を結い上げたスタイルに項を見せる。
「1つちょうだい」
「―・・・あら、カップルさんね」
 綺人の隣で怖い顔をしているクリスをちらりと見る。
「そんな顔しないでちょうだい。あっちで歌菜たちがおにぎりを作っているの。よかったら食べに来て♪」
 誤解している彼女のために“客寄せのために声をかけただけよ♪”と言う。
「おにぎり・・・ですか?」
「行ってみない?クリス」
「えぇ、アヤが行くなら・・・」
「こっちよ!歌菜、羽純。お客様、2名ご案内よ」
「は〜いっ」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は手に水をつけ、月崎 羽純(つきざき・はすみ)が炊いたご飯を俵型に握る。
「そこのカップルさんもどう?」
「セレアナ、行ってみよう!」
「はぁ〜、ポン菓子も食べてるのにね」
「フレーバーをかけてさくさくした食感・・・。たまらないわよね〜っ!でも、それは別腹よ!」
「いったい、いくつお腹があるのかしら」
 大食いの本性を現したセレンフィリティに呆れ顔をする。
 2人の会話を聞きながら歌菜は・・・。
「食べるのが大好きなんですね♪」
 砂糖と醤油、清酒、みりん、水の順番にボウルに入れて、カシャカシャと混ぜ合わせる。
「作り方もメモさせてもらっていい?」
「えぇ、いいですよ」
 ご飯に牛肉を巻きながらセレンフィリティに顔を向ける。
「私もいいですか・・・?」
「はい、どうぞ♪」
 涼司の隣にいる加夜に微笑みかける。
「あら〜。彼氏に作ってあげるのかしら?」
「―・・・ちょっと勉強してみたいなって思ったんですっ」
 ニヤニヤと聞くカティヤに加夜が頬を赤く染める。
「なんだよ、作ってくれないのかよ・・・」
「えぇっ!?涼司くんが食べてくれるなら・・・」
 しょんぼりとする彼に顔を俯かせて言う。
「涼司くんはどういうのが好きなんですか?」
「和風も好きだけど。美味いもんならなんだって食うぜっ。それに、加夜が作ってくれるなら、全部食べたいしな!」
「―・・・聞いているこっちが恥ずかしくなりそうだな」
 包丁で大葉を細かく刻みながら羽純は、天然なのかと思いつつ、醤油にわさびを溶く。
「他のやつがいる前で堂々と言うとは・・・」
 わさび醤油を作り、ぼそっと歌菜に言う。
「あはは、言ってる本人は分かってないのかもね」
 彼女は可笑しそうに笑うと、サラダ油をひいたフライパンに火術を放つ。
 シュボォオオオッ。
 赤々とした炎で熱したフライパンで、お肉を巻いたご飯に焼き色をつける。
「すげーっ!魔法を料理に使うなんてな」
「こういう使い方もあるんですね、キレイです・・・」
 絶妙な炎の調節に涼司と加夜が驚たように目を丸くする。
「うっ!」
 ほかほかのご飯に、わさび醤油と刻んだ大葉を混ぜ合わせたとたん、羽純は思わず目がツーンとなる。
「羽純くん、大丈夫!?」
「あぁ・・・ちょっとわさびがさ・・・」
「私のハンカチでよかったら使って」
「ありがとう、それより歌菜・・・」
「うん?」
「そっち、いいのか。そのままにして」
「―・・・えっ?きゃぁあ!?」
 歌菜は慌てて調味料をかけて裏返し、弱火にして蓋をする。
「ふぅ〜セーフ」
「無事か?おにぎり。大焼けどしてないといいんだけどな」
「んもぅっ!おにぎりの心配だけなの!?」
「冗談だって。まったく歌菜は面白いな」
「人で面白がらないでっ」
 からからわれたと分かった彼女はムッとした顔をし、フライパンをゆすり全体にタレを絡ませる。
「はいはいっと」
 口に出さないものの、“そこも可愛いところなんだけどな”と心の中で呟いた。
「よし、1つ出来たけど。チャレンジしてみたいやついるか?」
 手に塩をつけておにぎりにする。
「つーんときそうだな・・・」
「涼司さんには大人の味はまだ早いですわね」
 彼じゃ大人向けおにぎりは食べられないと、ラズィーヤがクスっと笑う。
「海苔を巻いてくださる?」
「あぁ・・・って、涼司!」
「俺だって食えるって。あむっ・・・・・・うぐっ!?」
「どうしましたの?お顔から汗が出てますわよ」
「―・・・はははっ、めっちゃ美味いぜ!」
「とっても美味しい大人の味ですこと。ホホホ♪」
「(この人・・・・・・わざとか)」
 さらに目の前で平然と大人向けおにぎりを食べるラズィーヤを、恐ろしい人・・・というふうに羽純が見つめる。
「肉巻きおにぎりどうぞ。こっちは辛くないですよ」
「うん、いい香りだね。半分こしよう、クリス」
「いただきます」
 歌菜からもらった肉巻きおにぎりを綺人と半分こする。
「まぁまぁかしら。タレが染み込んでるところは評価出来るわね」
「えー?結構、いけると思うのに」
 セレアナのコメントにセレンフィリティが首を傾げる。
「ふむふむ、ちゃんと浴衣を着ているようですし。髪もアップにして、いるんですねぇ〜。あら、エプロンもつけてるんですかぁ」
「校長先生!?」
 チーズをハートや星印に歌菜がカットしているその時、いつの間に現れたのかエリザベートが肉巻きおにぎりを食べている。
「加夜、全部食べられるか?」
「うーん・・・」
「俺に半分くれ」
「はい、涼司くん」
「ありがとう、ボリュームたっぷりだな」
「ご飯の炊き具合もいいですね」
「(こういう格好も似合うのか・・・)」
 髪をアップにして、紺色の生地の裾に、花が舞っている柄の浴衣を着た彼女をじーっと見つめ・・・。
「うん・・・キレイだ。俺の彼女なんだよな」
「―・・・え?」
 見惚れて言葉に出してしまった彼を見上げる。
「ちょっとじっとしてて」
 聞こえなかった様子で、背伸びをして彼の襟元を直す。
「浴衣・・・、似合ってますね」
「そ、そうか?」
「えぇ、とってもかっこいいですよ」
「加夜も・・・キレイだぜ」
「ありがとう、涼司くん」
「ふぅ〜、まったく熱いわね。カップルも3組いると熱すぎるわ」
 カティヤは遠くから聞きながら手でぱたぱたと扇ぐ。
「涼司くんって料理したりするんですか?」
「んー・・・たまにな。でも一般家庭レベルだからなぁー・・・」
「そうなんですか?(一緒に作る機会があったらいいですね)」
 ほかほかのおにぎりを手に、彼と料理を作ってみたいな・・・と思った。
「(わぁ〜っ。撮影されてると、緊張しちゃしそう・・・)」
 デジカメで録画している加夜を気にしつつ、歌菜はご飯に鰹節と醤油を入れて混ぜ、チーズは潰さないように混ぜる。
「可愛いおにぎりですね」
「フフッ、ありがとう♪焼海苔と味付海苔、どっちにする?」
「そうですね・・・焼海苔で巻いてください」
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきます。―・・・チーズとおかかってマッチするんですね!」
「味もケンカしてなくって食べやすいな」
「写真撮ってあげようか?」
「お願いします」
「もうちょっとくっついて、2人とも笑って!は〜い、ポーズ♪」
 パシャリ。
 2人の大切な思い出をデジカメに映した。



「派手に演出してる人もいるね〜。でも!ボクたちはスパイスで勝負だよっ」
 向日葵の刺繍の入った浴衣を借りた赤城 花音(あかぎ・かのん)は気合を入れて作る。
「鳥モモ肉とジャガイモ、それとニンジン・・・カブを、ざっくりと♪」
 うきうきと楽しそうに、包丁で大きめに切る。
「うぅ〜、目にしみるよ・・・。ぐすんっ、それとこっちは・・・適度にっ」
 玉ねぎはざくっと櫛切りにしておき、しめじの根元を取り除きバラバラにする。
「こうしておくと、灰汁を引く手間が減るんだよね」
 たっぷりの水を入れたボウルに、ジャガイモとニンジンをとぽんと入れ、水にさらして濁り吐き出させる。
「お鍋はこれを使おうっと」
 トンッと背の高い鍋をコンロの上に置く。
「―・・・もういいかな?」
 それにドボボッとトマトジュースを入れ、水気をきったジャガイモとニンジン、カブを入れて火にかける。
 ぐつぐつ・・・。
「ん、沸騰してきたね。鳥モモ肉を入れてっと♪」
 もう一度沸騰するのをゆっくりと待つ。
「入れすぎないように気をつけなきゃ・・・」
 鍋に白ワインをトポポ・・・と入れる。
 さらに沸騰させて玉ねぎとしめじを、ぽちゃんっと鍋に投入し、細かい泡の立つくらいの弱火にする。
「口あたりが悪くならないように、丁寧に取らないとね♪」
 おたまできちんと灰汁を引く。
「もう入れてもいいかな?」
 ぱらぱらとバジルも入れ、花嫁修行も兼ねて一生懸命に作る。
「フフッ、頑張ってお料理しているようですねぇ」
 にゅっと現れたエリザベートが鍋を覗き込む。
「えへへ♪もうちょっとかかるけどね。40分くらい煮込まないとね」
「僕もそろそろ作り始めましょうか」
 彼女のポトフが完成する時間に合わせようと、朝顔模様の浴衣を着たリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)は、りんごを水でキレイに洗う。
「これくらいの深さでいいですね」
 りんごの芯を底の手前までくりぬくと、甘酸っぱい香りがする。
 バターと砂糖を混ぜ、くりぬいた場所ところにレーズンと一緒に入れる。
 170度に温めたオーブンに入れて20分ほど焼く。
「どっちも待ち遠しいですぅ〜」
 数十分後・・・。
「青物も用意しておこっと」
 花音はポトフを作っている方の火を止め、カブの葉とサヤインゲンを別の鍋に入れて塩湯にする。
「煮過ぎちゃうと見た目も食感も、よくなくなっちゃうからね」
 湯をきって冷水で色付けをする。
 塩をポトフに加え、味を調えている頃、リュートはオーブンからリンゴを出す。
 シナモンステックをくりぬいた部分に挿し、とろ〜りと甘いメープルシロップをかける。
「テーマは“気軽に一手間焼きりんご”です」
「とても美味しそうですぅ〜・・・」
「あ〜っ、そっちはデザートだよ!」
 デザートから食べようとする校長を止めた花音は、スープと具材を分けないで盛り付け、ミルで黒コショウをまぶす。
「青物を添えて・・・完成っ」
「さっそくいただきますぅ♪もぐもぐ・・・素材の味がしっかりと出てますねぇ〜。丁寧に作っていることもポイントが高いですぅ〜っ」
「わ〜い、嬉しい♪イメージは家族の団らんだよ」
 校長に褒められた彼女は無邪気に喜ぶ。
「ぽっかぽかな感じがしますぅ〜。それではお楽しみのデザートも・・・」
「どうですか・・・?」
「りんごとシナモンの香りをバターが邪魔をしてませんねぇ〜。シンプルですけど、とても美味しいですよぉ〜」
「喜んでいただければ・・・幸いです」
「少しもらえます?」
「僕も欲しいな」
「うん、いいよ!」
 ラズィーヤと静香にもポトフと焼きりんごをあげる。
「着ている浴衣に合った感じがしますわね。心が温まる感じですし」
「焼きりんごは定番っぽいのに、味に華やかさがあるね」
「ねぇ、工夫している点とかあったら教えて欲しいな」
「んーとね。多くの人の元気になれる・・・そんな料理を作ってみたいと思ってね。スパイスは秘密♪」
 ポトフの写真撮影をした北都に、スパイスだけナイショにした。
「そっか・・・残念だね」
「(本当は想い人への愛情が、一番のスパイスだよ!・・・ひっそりこっそり・・・ライバルさんに無い武器にするんだ!)」
「写真と味の感想を、レポートにして後でネットにあげる予定なんだけどいい?」
「全然おっけーだよ!」
「じゃあ試食させてもらうね。―・・・うん、口あたりがとてもいいよ。クナイはどう?」
「野菜とトマトの甘みのような香りが、食欲をそそりますね」
「お腹にも優しそうだよね。焼きりんごはすっきりとした甘さだし」
「こんにちは、北都さん。さっきも会ったけど、あいさつしそびれちゃった」
「ううん。人がたくさんいたし、僕たちもすぐ他のところ見に行ってたし」
 無視してないんだけどごめんね、というふうに言う静香に、ふるふると首を左右に振る。
「こってるの作っている人もいるけど。こういうシンプルなのもいいよね」
「そうだね。ちょっとした工夫で、美味しいものが出来ちゃうなんて凄いね」
「何か反応がいいね!」
「えぇ・・・他のところばかり、集まってしまうと思いましたけど・・・」
「(ひょっとしたら、高評価もらえちゃうかも!)」
 5人の反応に花音はニヤニヤが止まらない。