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2021年…無差別料理コンテスト

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第5章 甘さも辛さも無差別

「ルカルカじゃないか。1人なのか?」
「―・・・団長!えぇ、ちょっと今日は・・・っ」
 突然金 鋭峰(じん・るいふぉん)に声をかけられ、驚いたようにルカルカ・ルー(るかるか・るー)は金色の目を丸くする。
「ほう、珍しいな」
「たまには1人で来てみようと思いまして・・・。それで、その・・・団長・・・・・・」
「何だ?言いたいことがあるなら、はっきり言え」
「先日は失礼しました」
 もしかしたらお許しをいただけないかと思いつつ、深々と頭を下げ目をぎゅっと瞑る。
「―・・・ふむ。気にすることはない」
「団長、お許しをいただけるのですか?」
「その代わり・・・そのなんだ。―・・・ゴホンゴホンッ、この辺りを案内してくれ」
 独りが寂しいのか許す代わりと称して案内を命じる。
「はい!喜んでご案内いたします!!」
「ところでルカルカ、浴衣を着ているようだが?」
 天の川をイメージした光点と、流線型の模様の白地の、品ある雰囲気の浴衣を着ている彼女を見る。
「お祭り気分に合わせてみたんです」
「そうなのか・・・」
 鋭峰は自分も祭りに合わせた格好をすべきだったかと考える。
「あのー・・・よろしけば、浴衣をお選びしましょうか?」
「ほぉ、借りれるのか?」
「えぇ、レンタル出来ると思いますよ」
「では頼むとしよう」
「えっと・・・ここですね!僅かに灰がかった、白地に黒の変わり縞模様などいかがでしょう?」
 和室の近くでレンタルし、コーディネートしてあげた浴衣を渡す。
「これが私に似合うと・・・?」
「お気に召しませんでしたか?」
「いや、これでいい。せっかく選んでくれたのだからな」
 彼女から受け取ると和室へ着替えに行く。
「―・・・どうですか、サイズあってます?」
「あぁ、丁度いい」
「とってもお似合いですよ!」
「そ、そうだろうか・・・」
「団長、向こうで美味しそうなのを作ってますよ。買わさせてください」
「オススメでも見つけたか?」
 涼介とアリアが和風クレープを作っている屋台へ行く彼女の後についていく。
「ルカルカ、1ついいか」
「はい?」
「その浴衣の下にあるものは、こういう場に相応しくないな」
 彼女の太ももへ視線を移し、眉間に皺を寄せてため息をつく。
「―・・・っ!?」
 そこに剣を隠していることに気づいたのだ。
 思わずルカルカは得物を隠したところに片手で触れ、鋭峰の言葉と思えないセリフに驚く。
「たまには気を楽にして休息することも必要だぞ」
「―・・・はい、団長っ!」
 戦いを忘れることを許可され、ぱっと笑顔になる。
「いろんな具がありますね。どれにしますか?」
「甘くないものにしてくれ」
「了解しました。このチリビーンズとか入っているやつ、2つください!」
「2人前だな」
 涼介は白玉粉と薄力粉を水で溶き、油を引いた鉄板で生地をクレープのように薄く焼く。
「こし餡で胡桃とメープルシロップ、それに蜂蜜もた〜っぷり欲しいですぅ♪20個作ってくださ〜い」
「そうそう・・・あま〜くっ・・・て!?」
「あら、ルカルカさん。試食、楽しんでいますかぁ〜?」
「えぇ、まぁ・・・」
 堂々と注文するエリザベートに対して、いつもの笑顔で笑えず、思わず作り笑顔をしてしまう。
「(そっちの方がいいのに・・・)」
 焼け生地の上に具と生地を横一列に並べている様子を見て、ルカルカはあまそ〜な餡子の方を見る。
「(これも美味しそう・・・でも辛そう〜)」
 それを芯に巻かれていくのを眺め、口に入れた時のことを想像する。
「もうすぐ出来るから待っててくれ」
 よっぽど早く食べたいのかと思った涼介は急いで作る。
「よし、出来たぞ」
 クレープのような生地で巻き上げたのを、ヘラで1口サイズにカットしていく。
「すごーい!本格的ね」
「何かつけるか」
「んー・・・蜂蜜とかもあるのよね?」
「あまあまで美味しいですぅ〜♪」
「(むぅ〜っ、食べたい!でも・・・我慢、我慢よ・・・ルカ!)」
 今日だけは団長に合わせなきゃと耐える。
「いや、そのままいただくとしよう」
 チーズとソーセージ、チリビーンズを生地で巻いたそれを摘み、鋭峰が口へ放り込む。
「その中身、ボクが用意したんだよ!」
「ほう、そうか。ニンニクや香辛料がきいていて美味いな」
 得意そうに言うアリアに、メキシコ風の味を気に入った様子で言う。
「じゃあルカもそれにするわ。ちょっとぴり辛だけど美味しい♪」
 指についたチリビーンズを舐めて、ルカルカは満足そうに味わう。
「(この2年、いろいろあったわね・・・)」
 団長の理解者であり、団長をずっと支える者で在りたい。
 私は貴方にとって必要か・・・本当に役立ってるか・・・。
 思わず目で聞いてしまったが、彼は懐深く答えてくれた。
 恐縮しとても嬉しかった。
 でも、本当は想いを溢れさせてはいけないのに、そんな自分が恥ずかしいと思ってしまった。
 お詫びも兼ねて楽しんでいただけたら・・・。
「ゆっくり過ごすのも、いいものだな」
「えぇ。たまにはのんびりするのも・・・いいですよね」
 楽しんでいる彼を見つめて嬉しく思った。



「コンテストに出場してみたかったんだけどね・・・」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はお祭り気分を楽しもうと、可愛らしい薄桃色の浴衣を来てやってきた。
 本当はそれを着て気合を入れて参戦しようとしていたが・・・。
 “大雑把加減が災いして出場見送り”になり、せめて食べ歩きでもしようと、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)と一緒にきたのだ。
「(セレンが出場なんてしたら、何人病院送りになるかしら・・・)」
 彼女の方は対照的に大人びた雰囲気で、オーソドックスな紺地に花柄をあしらった浴衣を着ている。
 結い上げた髪に花をあしらったかんざしなどを差し込み、黙っているだけのセレンフィリティは、可愛らしい清楚なお嬢さんに見える。
 繰り返す・・・。
 “黙っていれば”、だ。
「見てあれ、美味しそう〜っ。ねぇ、行こう!」
「えっ?ちょっとセレン、引っ張らないで・・・っ」
「早く行かなきゃ、なくなっちゃうかもしれないじゃないの?あんこ巻き2つちょうだい!」
「具は何がいい?」
「そうね〜。餡子は粒餡で、胡桃とメープルシロップいっぱい入れてね。セレアナはどうするの?」
「こし餡と胡桃にしようかしら。それと蜂蜜は少しでいいわ」
「ふむ、分かった」
 涼介はヘラで生地を広げ、2人分焼き始める。
「へぇ〜、そうやって焼くのね・・・」
 生地の香りだけでも食欲をそそる匂いに、セレンフィリティは生唾を飲み込む。
「見た感じは職人技っぽいけど。味はどうかしら?」
 “食べたい!”というふうな彼女と違いセレアナの方は冷静な態度で眺める。
「もうすぐっぽいわね」
 具を乗せて巻き、2枚のヘラを使って1口サイズに切る様子を、セレンフィリティが観察する。
「出来立てだから少し熱いかもしれない」
「えぇ。餡はあっつあつの時、気をつけなきゃね。ふぅ〜ふぅ〜・・・。和風クレープっぽいわね!」
「好みに合わせてくれるから、高カロリーにならないけど。もうふた味くらい欲しいかもね」
「(―・・・えっ!?割とグルメだったのね・・・。あんまりそういうのって興味ないと思ってたけど・・・)」
 淡々と食べつつ突っ込みを入れる恋人の意外な一面を見て、ニンマリと笑みを浮かべる。
「でも、餡の甘さとかはしつこくなくって、食べやすいわね」
「まぁ、いつも通り美味しいものを、皆に楽しんでもらえればと思ってな」
「料理は心だもん。だよね、兄ぃ」
「はははっ。そいうことだな、アリア」
「それもスパイスってことね。こし餡のやつ、10個ちょうだい」
 涼介とアリアになるほど、とセレンフィリティは頷き追加注文する。



「フッフフ・・・。この丈の短い浴衣をアヤに・・・」
 クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)は彼に着せようと、黒い笑みを浮かべる。
「ふきゃっ!?」
 しびれ粉を背後からぶっかけかれ、動けなくなってしまう。
「クリス・・・、またそういうのを僕に・・・」
「アヤ・・・待ってくださいっ。私は着せ替えされるより、着せる方がいいんです!」
「たまには逆パターンっていうのも、いいんじゃないかな?」
「ひやああぁぁあああーーっ!!」
 冷酷に言い放つ神和 綺人(かんなぎ・あやと)に服を無理やりひっぺがされ、浴衣に着せ替えられてしまう。
 ぱっと見ただけだと通報されてしまいそうだが、幸いなことに和室へ誰も通りがからず、無事に着せ替え終わった。
 本人に罪の意識はもちろん・・・。
「ひ、酷いです、アヤ・・・」
「え?何がだい?」
 無い!
「僕もクリスみたいに浴衣を着たかったけど。夏物の服と、一緒に仕舞いこんじゃったんだよね」
 彼の方はそれの代わりに単衣の着物を着て来た。
「しくしく・・・」
「この前のコンテストはお菓子だけだったからね。どんな料理があるか楽しみだよ」
「しくしくしく・・・」
「って、聞いてる?クリス」
「せっかく用意しましたのに・・・」
「(ふぅ、まったくこりてないみたいだね)」
 諦めきれないという様子のクリスに、眉を潜めてふぅと息をつく。
「ほら、いっぱい出店があるよ。どこから行こうか・・・って、いないし」
「アヤー!早く来ないと、置いていっちゃいますよっ」
「―・・・切り替え早いな〜」
 すっかり元気になった彼女の後を追いかけていく。
「辛いのと甘いのを1つずつください」
「甘い方はこし餡と粒餡、どっちがいい?胡桃とかもあるから、好きなのを選んでくれ」
「う〜ん、どれにしましょうか。えっと粒餡にします!後、胡桃と蜂蜜もたっぷりでお願いしますねっ」
 クリスはうきうきしながらメニューを眺めて涼介に注文する。
「ちょっと辛いのと、あま〜い香りがほどよくミックスされている感じがします♪」
「2つとも渡せばいいのか?どうするんだ」
 綺人に1つあげるのか、クリスに両方渡すのかというふうに、彼女に聞く。
「粒餡はアヤに渡してください。辛い方は私に♪」
「熱いから火傷しないようにな」
「はいっ。トマトやスパイスがきいていますね」
「シンプルっぽいけど、とっても美味しいよ」
「はむはむ・・・。アヤ、そっちのください」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます。あむっ、こっちもいけますっ」
「兄ぃ、もう具も材料もないよ!」
 中身の具を入れていた空っぽの器をアリアが涼介に見せる。
「ん?あー・・・完売か」
「いっぱい作ったのに、何でかな?」
「う〜ん・・・あっ」
「―・・・兄ぃ」
 小さな声音で言い、食べ続けているセレンフィリティとエリザベートへ視線を移す。
 これじゃすぐなくなるわけだ、と2人は心の中で呟いた。