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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!

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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!
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                              ☆


 その頃、ウィンター・ウィンターとスプリング・スプリングが守る『情熱クリスタル』本体を守るべく集まっていたコントラクター達はまだまだいた。
 ノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)もその中の一人。


「ガジェット・ビィィィィィィムゥ!!!」


 機晶姫である彼はモニターレンズから強力なビームを発射する。
 光を発する『情熱クリスタル』はやはり目立つのだろうか、多くのパラミタ電気クラゲが飛来してきていた。
「むぅ……なかなか数が減らない、これはピンチであるな!!」
 ツァンダの街に買い物に来ていたルイ・フリード(るい・ふりーど)の荷物持ちとして付き合わされていたノールは、スプリングを頭の上に乗せて遠くを見せてやっていた。
「ほう……なかなかいい眺めでピョン!!」
「ふふふ……可愛い子に乗ってもらえるのは幸せなのである!! 張り切ってビームを撃つのである!!」
 ノールはこう見えて可愛い子が大好きで、逆に言えば可愛い子しか好きではないド変態である。
 日中はシュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)がいたからまだいいが、いよいよ停電となるとパートナーのルイが張り切ってしまうので、ノールには暑苦しいことこの上ないのだ。

 そして、そのルイは何をしているのかと言うと。

「……まだですか、セラ?」
「うん、もうちょっと……レモンをしっかりタオルで擦って〜っと」


 日頃からツルツルの頭を、セラがさらにピカピカに磨いているところだった。


「……何してるでスノー?」
 その様子を不思議そうに眺めるウィンター。まあ、じょうねつクリスタル本陣を守りに来たはずの人間が、いきなりタオルとスライスレモンで頭を物理的に磨き始めれば、それは不思議だろう。
 しかし、セラは不敵な笑みを浮かべて、ルイの頭を軽くはたいた。
「大丈夫、任せてよ!! これがセラの秘策だよっ!! ……よし、これでツルッツルのピッカピカ!!」
 仕上げにルイに空飛ぶ魔法をかけたセラは、満足そうにルイの頭を見上げた。

「おお、これならば期待できそうですね……!!」
 ウィンターから情熱クリスタルを受け取ったルイは、そのまま空を飛んで、一人クラゲの群れへと突っ込んで行った!!
「行ってらっしゃーい、たんと光ってねー!!」
 セラに見送られながら、クラゲの群れに突進するルイ。
「うおおおぉぉぉっっっ!!!」
 ノールの援護射撃を受けつつも中心部にたどり着いたルイは、ギリギリまで溜め込んだ情熱を、一気に開放した!!


「ルイ……フラァァァァァァァァァッッッシュ!!!」


 クラゲの群れの中心地で、激しい閃光が発せられた。限界まで磨かれたルイの頭は鏡のように輝き、放ったビームがクラゲに当たり、その反射をさらに乱反射で返すほどの輝きを見せたのである!!
 あっという間に消え去っていくクラゲの群れを見つめながら、ウィンターは呟いた。
「……無茶もいいとこでスノー」
 そのウィンターに、セラは笑う。
「まあ、いつものことだよね」

 と。


                    ☆


「……なるほど、これは使えるな」
 ツァンダの街をバイクで走りながら、レン・オズワルド(れん・おずわるど)は自分の位置情報を確認した。
 パートナーのメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が構築したシステム元に、レンはツァンダの各地を回ってコントラクターのサポートを行っていた。
 人員が分散したり、無駄に集結しすぎないように、街の地図と位置情報を確認しながら誘導していく。

 本来であれば、ウィンターが分身を飛ばして街中に散らばり、その防衛計画をさらにサポートする予定だったのだが、ウィンターは『情熱クリスタル』本体の機能を維持するために、現場を離れるわけにはいかなかったのである。
 分身が可能なウィンターといえども、分身の数が増えればそれだけ能力が分散されてしまう。
 何が起こるか分からない状況だけに、できるだけクリスタル本体の力を維持することに努めたのである。

 そこで役に立ったのが、影野 陽太がネット上にアップしたデータであった。
 リアルタイムに集められた情報を更新していく中で、それをメティスが独自のシステムに組み込むことで、より完璧に近い防衛計画を練ることが可能になったのである。

「よし……これで、異常があればすぐに駆けつけられるだろう。街の非常時だ……俺も参戦するとするか」
 レンは、懐からひとつのサングラスを取り出した。
 それは、普段からレンが掛けているサングラスと同じものであったが、しかしそれはある意味では違うもの……思い出の品であった。

 先日、ブレイズとカメリアが起こしてしまったフェイク事件の際、レンは過去の自分の名を名乗る男と対面した。
 幾多の危険をかいくぐるうち、そのフェイクは消滅してしまったが、彼が掛けていたサングラスだけは残ったのである。
 レンは思い出していた。その時の彼――憂内 干斗の言葉と、その技を。

「さあ、行こう。この街を――人々の平和を、いつも通りの日常を、守るために」
 レンはサングラスをかけ替え、情熱クリスタルを強く握りしめた。
「憂内 干斗……借りるぞ、お前の技をッ!!」
 サングラスの奥の瞳が赤い光を発したかと思うと、それは瞬く間に強い光線となって、サングラスから2本の赤いビームとなって夜空に轟いた!!


「目からビィィィーーーーーームッッッ!!!」


 レンの気合と共に発射されたビームは、かなりの射程距離を持ってパラミタ電気クラゲを撃ち落していく。
「いくら数が多かろうと、これだけの仲間が集まっているんだ……勝てない道理はない。
 本能に従って戦う者と、意思を持って戦う者の違い。俺たちで証明してやろう!!!」


                    ☆


「おかしいですね……かなりの数の電気クラゲを倒しているはずなのに……数が減っている様子がありません」
 キリカ・キリルク(きりか・きりるく)は呟いた。場所は『情熱クリスタル』本体の根元、多数のコントラクター達と共にウィンターのいる本陣を守っている。
 影野 陽太が立ち上げ、メティス・ボルトが流用して完成させたシステムで可能な限り電気クラゲの動きを追う。
 しかし、各地のコントラクターから相当数の撃破報告がされているにもかかわらず、相変わらずツァンダの街の上空には巨大なクラゲ雲が存在し、いまだ電力は回復していない。
「非常用電源は最低限必要な施設分だけ、確保できているようですが……気力切れでビームが撃てなくなったという報告も、多数挙がっています」
 いかなる状況でもキリカの冷静な表情が崩れることはない。しかし、一抹の不安を感じ、キリカは夜空を見上げた。そこには、停電が始まってからずっとツァンダを覆い続けるパラミタ電気クラゲの群れがいる。
 そんなキリカに、パートナーのヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)は声をかけた。

「大丈夫だ、キリカ。この街を守ろうとして皆が懸命に動いている。俺たち冒険屋以外にも、本当に多くの人々が。
 レンの言うとおり――俺たちが、勝てない道理はない」
 背中合わせに立って周囲を警戒するヴァルの言葉に、キリカは微笑みを浮かべた。
 表立って感情を出した覚えはなかったが、ひょっとしたら一抹の不安を見抜かれてしまったのだろうかと、キリカは内心ドキリとしていた。
 最近、こういうことが多くなった気がする。最初は少し頼りなげな少年であったヴァルを導く立場として契約を結んだキリカだった。しかし、時の流れは人を成長させる。それがパラミタのような場所ならば、そのスピードは尚更だろう。
 今は、互いの背中を守る者同士として、絶対の信頼を預ける相手となった。いつの間にか、キリカの心の機微にまでも心配りができるようになっていたのかと思うと、嬉しくもあり寂しくもある、そんな複雑な心境だった。

「ところで、ヴァルはビーム撃たないでスノー?」
 と、『情熱クリスタル』本体を守っているウィンターは尋ねた。
 その言葉通り、ヴァルとキリカはいち早くクリスタル本体を守るためにやって来たものの、まだクリスタルを使って攻撃をしてはいなかった。
 ヴァルは、両腕を組んで構え、クリスタル本体の前に立って一歩も動かない。
「――ああ、まだだ。まだ俺が動くには早い。このまま俺たちの出番がないまま事態が収拾できるならば、それも良しだ」
 はるか一点を見つめるようなヴァルの視線。キリカは、その言葉を背中で聞きながら頷いた。
「――はい、ヴァルが動かないならば、僕もまだ動くべき時ではありません」

「そういうものでスノー? あ、それはそれとして義理チョコのお返しありがとうでスノー!!」
 ウィンターはヴァルの前でくるくると回った。
「ふふ、良く似合っていますよ」
 キリカは微笑む。それはヴァルとキリカが選んだ耳あてのプレゼントだった。
 ここのところ多忙を極めていた二人はツァンダのウィンターを訪れている時間はなく、2月にウィンターからヴァルがもらった義理チョコのお返しを渡すことすらできない状況だったのだ。
「……すまないな、だいぶ遅くなってしまって」
 と、ヴァルは少しだけ目を伏せるが、ウィンターは嬉しそうにヴァルの足にしがみついて、感情を表現する。
「そんなことはないでスノー、こういうのは気持ちが大事でスノー!!」
 二人がウィンターに会わない間に、先日ウィンターは冬の精霊の資格を失うかもしれないという試練に耐え、結局は皆の力でそれを乗り越えていた。しかしヴァルは、その場に立ち会うことはなかったのだ。
「……信じていたからな。俺と共に戦ったウィンターなら、試練を必ず乗り越えることができると」
 そう言って、ヴァルはウィンターの頭をわしわしと撫でる。
「……へへ、ありがとうでスノー」
 二人は、まるで父と娘のように笑い合うのだった。
 それを微笑ましく見つめるキリカ。だが、その心の中でちょっとだけ、誰にも聞こえないように呟いた。


「本当に……ちょっとだけ、妬けてしまいますね」
 ――と。