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【4】2021年、男尻神輿バトル開催!……4


 神輿バトルも中盤戦。
 コースは第2チェックポイントの交番まではほぼ直線、ここでどれだけ引き離せるかが勝負の行方を握る。
『ここで中継から本部に戻します。姫宮さんありがとうございました』
『依然1位はヒーロードッグみてぇだな。おいおい、このまま独走で終わっちまうんじゃねぇか?』
 王の言う通り、ヒーロードッグはぶっちぎりであった。この直線に来るまでは……であるが。
「よーし、ここで一気に引き離そう。僕が後押しするから、コース取りは2人に任せるよ」
「しょうがないわね。行くわよ、行人」
「おう! このまま優勝しちまお……あれ? なんだこの感じ……、や、ヤバイぞ!」
 行人の禁猟区に異様な反応。しかし、結界の外からの悪意のため、位置までは特定出来ない。
 次の瞬間、狙撃によってヒーロードッグの神輿は吹き飛ばされた。
「うわああああっ!!」
 ゴロゴロと転がる3人。ここに来て、優勝候補の一画があえなく脱落となってしまった。
「よし……!」
 ビルの谷間を小型飛空挺ヘリファルテで移動するのは、ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)
 冒険屋のメンバーであるスナイパーだ。
 続いて直線に入ったタシガン馬術部やおっぱいイズジャスティスにも狙撃を行う。
 ヒーロードッグの転倒で警戒されていたため、直撃は叶わなかったが、両チームを物陰に隠れさせることは出来た。
「これでしばらく足止めになればいいが……。さて、もうひと組来たな……」
 次の標的は流れ☆首。
 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は隠れることもなく、ひたすらにゴロツキどもに爆進を命令する。
 彼女に逃げの姿勢は皆無。殺気看破で位置を見破り、むしろ打って出る。
「売られた喧嘩は買わないわけには参りませんね♪」
「わっしょい♪」「ひゃっはー♪」「わっしょい♪」「ひゃっはー♪」「わっしょい♪」「ひゃっはー♪」
 空飛ぶ魔法↑↑で神輿ごと急上昇。
「な、なに……!? そ、そんなデタラメな……!」
「デタラメなことは得意分野ですから。さぁ、空飛ぶ首狩り神輿の姿をとくと御観覧くださいませー」
 必殺のボディアタック。神輿に括られた数々の刃物が、ヘリファルテの動力部を斬り裂く。
「しまった……!」
「ジ・エンドですね♪」
 バチバチと火花を散らし、撃墜されるザミエル。
 気を良くした優梨子はそのまま爆進命令を継続発信、飛行状態のまま一気にゴールを目指す……とその時。
「奈落の鉄鎖……」
「え?」
 突如、見えない力に引っ張られた神輿は、くるくると錐揉み回転しつつ、地面に激突。
 無論のこと神輿は粉砕。ゴロツキどもの下に潰され、優梨子も失神……流れ☆首、ここで無念のリタイアである。
「上手くいきましたね、カジカ」
「そのようだな……」
 奈落の鉄鎖の犯人は、かよわい乙女のカジカ・メニスディア(かじか・めにすでぃあ)
 寝ることと食べることにしか興味のない獣人であるが、今回は優勝後のごちそう目当てにちょっとやる気のようだ。
「悪いがメシのためだ」と潰れた優梨子の神輿にポツリ呟く。
 障害が取り除かれたところで、ここから熾烈なトップ争いが始まる。
 直線を制するものがゲームを制す、ここでのトップが優勝への足がかりとなるのは、誰の目にも明白だった。
 そうなると、未だこのエリアに到着していない冒険屋は絶望的と言えるのだが……。
 とその時である。ふと、交差点の大型ビジョンにノイズが走った。
 しばらくして画面が安定すると、そこに謎の女性の姿、電波ジャックである。
『はい! 空京センター街の羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)です!』
 ニッコリ笑顔。
『今年の神輿バトルはものすごい盛り上がりをみせてます! 中でも期待のチームと言えば、勿論冒険屋ですよね!」 
 実は彼女も冒険屋のメンバー、実況担当の盛り上げ担当である。
『あれ? もしかして先頭集団にいないからって油断してます? あーそういう余裕は敗北フラグですよ』
 チッチッと指を振る。
『それでは今彼らがどうなっているのか、見てみましょう。シニィさ〜ん?』
 画面が暗転、映像が切り替わる。
 そして、映ったのはまゆりのパートナー、シニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)
『現場のシニィだ。スクランブル交差点の出口にいるが……おおっと、なんじゃあれは!?』
 ぐるりとカメラが向いて、画面に神輿が映る。
『一際異彩を放つ神輿があるのう、近寄って見てみるのじゃ。ううむ……屋根の上で黄金の男が土下座をしておる! 見事な土下座じゃ! 360度一部の隙もない! これほどの土下座を見たのは久しぶりじゃ……。土下座神輿じゃな!』
 その土下座神輿を囲む面々は新たな法被に着替え心機一転。
「さぁここからがあたしたちの根性を見せるところだよっ!」
 茅野 菫(ちの・すみれ)は神輿の上に立ち、命のうねりで全員の体力を初期状態に引き戻す。
 みるみる生気を取り戻す彼らに、菫は拳を振り上げて闘志を煽る。
「トップ争いに参加も出来ずにビリまっしぐらなんて、冒険屋の看板に鼻くそを塗りたくるようなもんよ!」
 そして小声で。
「優勝の暁には、むすめカンパニーの宣伝をしてパパゲーノに恩を売るんだから……!」
「へ?」
「こまけーことはいいのよっ! さぁあたしが導いてあげるんだから、気合い入れて担ぐのよ、野郎どもーっ!」
「うおおおおおーっ!!」
 菫はちぎのたくらみで幼女化(軽量化のため)すると、屋根の上に居座ったままあれこれ命令を始めた。
 重役ばりの態度であるが、別に彼女は冒険屋コミュの人間ではない、どこにでも無闇に偉そうな人はいるものだ。
 一方こちらは、ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)閻魔王の 閻魔帳(えんまおうの・えんまちょう)
 2人とも身長が足らないため、応援のサポートに回っている。
 熱を持った担ぎ手たちの身体に水をかけて冷やし、スポーツドリンクを配ったりと彼女たちなりに忙しい。
「皆、ここまで来たら優勝だよっ。一緒に担げないけど、応援してるからね、頑張ってっ!」
「……私から皆さんにプレゼントがあります」
 不意に閻魔帳はサングラスを取り出すと、メンバーに配り始めた。
「あの……なんでサングラスなの?」
「……だって冒険屋と言ったらサングラスでしょう?」
「なんだかよくわからないが……、まぁ折角だからもらっとくよ。アリアもありがとうな」
「兄ぃ、頑張ってね」
 アリアの頭をくしゃり撫で、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)はグラサンを装着。
 パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)に向き直り、2人は頷く。
「準備はいいかい、パビュータ?」
「ええ。ここからがうちのチームの真骨頂。盛り上げて行きましょう」
 それから、2人は他のメンバーと共に神輿を担ぎ、リズミカルにその場で足踏みを始めた。
「よーし、行くぞ! 皆、声出せ! 呼吸を合わせろ!!」
「ソイヤッ!、ソイヤッ!」「ソイヤッ!、ソイヤッ!」
「まだまだよっ! ぜんっぜん気持ち伝わってこない! あなた達の優勝したい気持ちはそんなものなの!?」
「ソイヤッ!、ソイヤッ!」「ソイヤッ!、ソイヤッ!」
はい今死んだ! 今君の気持ち死んだよ!
「本気になれば自分が変わる!  本気になれば全てが変わる!  さあ皆さん! 本気になって!! 」
「ソイヤッ!、ソイヤッ!」「ソイヤッ!、ソイヤッ!」
Never Give Up!!
 涼介とパビェーダはパワーブレスでメンバーの力を一気に引き上げる。
 疲れたメンタルに活を与える魂の呼び水。今、チームの心はひとつに……!
『ここからが冒険屋の快進撃と言うわけじゃ! さて、面白くなってきたのう!』
 シニィの言葉とともにジャックが終わる。
 そして、直線コース。
 我先にとトップを奪い合う先頭集団の後方……いや、すぐうしろに地面を揺るがす地鳴りが迫っていた。
 法被にグラサンと言う、よくわからないけどDQNっぽい冒険屋勢はものすごい勢いで先頭にまで躍り出た。
「は、早い……!」
 タシガン馬術部の鬼院 尋人(きいん・ひろと)は思わず呟いた。
 唇を噛み締める尋人……しかしふと見た見物客の中に先輩・黒崎天音を発見し、はっと目を見開く。
 天音は尋人の担ぐ動物神輿を見つめ、かすかに口元を緩ませる。
「まるでサーカスだね。どんな神輿かと思ったけど、鬼院らしいな……」
 それから、徐々に視線が下に移動する。
「ふぅん……鬼院も意外と良い尻してるよね。やっぱり乗馬やっているせいかな?」
「むぅ……我とて、尻では負けんぞ」
「……え?」
 天音の言葉に軽くジェラシー。
 ブルーズ・アッシュワースは浴衣を脱ぎ捨て、褌ひとつになると尋人の神輿に飛び入り参加。
「て、手伝ってくれるのか……?」
「ふん、おまえ達ばかりに良い格好はさせんぞ。さぁ、わっしょいわっしょいっ!」
 オレたちのために自分のパートナーを手伝いによこしてくれるなんて……!
 教導団に行っても、やっぱり先輩は先輩だ。ここは先輩の為にも負けられない……、負けるわけには行かないっ!
 尋人の瞳に漢の魂充填完了。気合いの炎を身に纏い、みるみるタシガン馬術部は加速する。
「見ていてくれ、先輩! オレ達が勝利をこの手に掴む……その瞬間を!」
 しかし、天音はケツを見ていた。


 【このエリアでの中間順位】
 【1】冒険屋
 【2】タシガン馬術部
 【3】梨ガリくん
 【4】かよわい乙女
 【5】おっぱいイズジャスティス
 【ー】ヒーロードッグ
 【ー】流れ☆首