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空京センター街の夏祭り

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空京センター街の夏祭り

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【3】スーパードクターのサマーホリデイ……1


 医学の最前戦で戦う戦士にも夏休みは訪れる。
 空京大学病院精神科権威【スーパードクター梅】はお祭りを見物に来ていた。
 普段のカッチリ決めた白衣姿とは違い、白衣の下にTシャツ、短パン、サンダルのラフな出で立ちである。
「あれ……? もしかしてドクター?」
 浴衣姿でお祭りに着ていた五月葉 終夏(さつきば・おりが)は彼に手を挙げた。
 と、ふと何かを思い出し、挙げた手をすっとドクターに突き付ける。
「ドクター! 余命が! 減っています!」
 意義あり、とばかりの勢いで出会い頭に言うと、ドクターは缶ビールをぐいっと煽る。
「ミス・ポテトヘッド。また余命を減らされたいのかね?」
「……うえええ、じょ、ジョークですよ、ジョーク」
 気をとり直し。
「今日はお祭り見物ですか? アエロファン子さんがいらっしゃらない見たいですけど今日はお一人ですか?」
「いつも私のお守りをするほど彼女もヒマではないさ。彼女もしばしの夏休み中だ、休暇を楽しんでいるだろう」
「お休みもあまりとれなさそうですもんねぇ」
「うむ。しかしこんなところで君と会うのも奇縁だが……もしかしてまた診察の依頼かね?」
「いえいえ。今日は普通にお祭りに来たんですよ。それより、前は新年会にお邪魔しちゃってすみません……」
「なに、医の道を志した時から、休息とは無縁と覚悟している。人を救うのが我々の仕事だ。いつでも相談に来なさい」
「あ、はい。また懲りずに相手してやって下さい。あ、そうだ。良かったらこれもらってくれません?」
 袋に入った大量の水風船を差し出す。
「ちょっと取り過ぎちゃって……。ファン子さんとか病院の女の子たちへのお土産にでもしてください」
「夏らしい差し入れだな。彼女達もきっと喜ぶ。ありがたく頂戴しよう」
「良かったです。ではまたドクター、良いお祭りを!」
 手を振り2人は別れる……とそのすぐあと、羨望の視線をドクターは背中に感じた。
「見てたぜ、ドクター……。あんなカワイイ子とよろしくやってるなんて、クソ、やっぱ医者ってモテんだなーっ」
 ドスドスと電柱を殴りつける彼は、恵まれないナンパの申し子鈴木 周(すずき・しゅう)である。
「ま、待ちたまえ、それは誤解だ」
「何言ってんだ、梅やん。俺に隠しごとはナシだぜ。どうせ梅やんも祭り見物と言う名の女子観察に来たんだろ」
「な、何故それを……。つか、馴れ馴れしい……」
「やーでも、男としては浴衣よりバスタオル一枚とかのほうがいいよなー……」
 と言って、周ははっとする。
「……ってそんなこといいに来たんじゃねぇ! なぁ、聞いてくれよ。『ハロー、ゴリラ!(第1回/全1回)』の14ページみたいなことがあってさ。大活躍したのに、どういう訳か味方したはずのギャルたちにモテねぇんだよ!」
「……どんなナンパをしたんだ?」
「いや『俺の水鉄砲で射的をしようぜ! 俺が鉄砲、的はキミ!』とか『先日可決した法案で、浴衣に下着装着は軽犯罪になってさ、確認するぜ!』なんて渾身の口説き文句だったんだぜ。警察を呼ばれた理由がまるで見当もつかねぇ」
 社会平和の為に見当をつけて欲しいところである。
「シボラじゃ戦いだけじゃなく、エコに対してもすげぇいいこと言ってんのに……。普通なら『マジすごくない!? 超好き! 抱いて!』な展開になっていいと思うんだよ。それが結果がこうってことは……やっぱ俺に何か問題があるのかなーってガラにもなく悩んじまってさ。やっぱあれだよな、これ病気じゃねーかなーってよ。そう『積極的になれない症候群』とか『奥ゆかしさ過剰症』とか。きっとそーゆー病気に違いねぇ」
「なるほど。その可能性も否定出来ないが……しかし、私には違う原因があるように思えてならない」
「と言うと?」
「よく考えてみたまえ。あれだけ偉そうに裸の大切さを説いていた男が、何故服なんて言うものを着ている!」
「はっ!?」
「これではまるで説得力がない。きっとギャル達も発言と行動が一貫しない君に幻滅しているんだろう」
「そ、そうだったのか。俺ってばなんてドジを……」
 意を決し、周はベリベリと衣服を破り捨てる。無論、周りから悲鳴が上がるが、彼の顔はむしろすがすがしい。
「目が覚めたぜ、梅やん。俺、ありのままの自分でもう一度トライしてみるよ」
「がんばれ。あと、警察によろしくな
 元気に送り出される周。きっと数分後拘束されることになっても笑顔を絶やすことはないだろう。