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空京センター街の夏祭り

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空京センター街の夏祭り

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【1】ぶらり夏祭り……4


「こんばんわー、うさぎのプーちゃんだよー! 今日は、空京センター街の夏祭りにやってきたよ!」
 うさぎ型ゆる族うさぎの プーチン(うさぎの・ぷーちん)はキラリと星を飛ばしてウインク。
 その姿をカメラを構えたぐるぐる眼鏡の橘 早苗(たちばな・さなえ)が撮影している。
 2人は『パラミタスクープハンター』に投稿する映像の撮影を行っているところだ。パラミタスクープハンターとは、関東ローカルで放送中のニュースバラエティ番組である。ハンターと呼ばれる投稿者が撮影したパラミタの映像を紹介する内容だ。出来の悪い映像は採用されない厳しい番組だが、彼女は同番組にレギュラー出演中とのこと。
 余談であるが、2人の契約者でもある葛葉 杏(くずのは・あん)は、アイドルを目指す自分がADの真似事なんか出来るか、と調子に乗ってるタレントみたいなことを言い出したので残念ながら今回はプーチンと早苗の2人だけなのだ。
「空京だから地球とあんまり変わらないねー。あ、あれを見てー、型抜き屋さんがあるよ!」
「いらっしゃい……」
 ハードボイルドな空気をかもす店主は、何でも屋の斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)だ。
 幾つか並べられた小さなテーブルに、近隣のガキんちょたちが集まって、わいわい型抜きにはまっている。
 相棒のネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)が手伝い、夢中になってる子ども達の相手をしている。
「出来た出来た!おねーちゃん、これ出来たよねー!」
「おめでとう。奇麗に抜けてるわ。ええと賞金は……2ゴルダね、はい、なくさないようにね」
「おねーちゃん、こっちも出来たよー!」
「はいはい。ちょっと待ってね」
 ネルと子どもの絵から……再び邦彦とプーチンの絵に、早苗はカメラを戻す。
「わー、こっちの子ども達にすごい人気ですねー」
「物珍しささ、こちらの世界にはない文化だ。それに型抜きで貰える報酬は子どもには高額と言うのもあるだろう」
 邦彦は焼きそばを食べながら、ぐびぐびと缶ビールをあおる。おっさんである。
「ちなみに私は歯ブラシで型をしっかり擦る派だ。そして割ったら食う、微妙な味なんだが、何故か食っちまう」
「……ちょっと酔ってるみたいだねー。でも、ガンガン成功されたらお店ピンチじゃなーい?」
「まぁシャンバラ人や若者には馴染み無いだろうし、勝ちやすい方が人も来るだろうから多少は甘めにするさ。なにより型抜きは配当金より型をちゃんと抜いてやったという達成感が醍醐味だと思うからな。ただ配当金四桁以上は厳しいぞ」
「ははぁ、なるほどー」
「私も昔、店のオヤジにいろいろ難癖つけられて誤摩化されたが、今ならその気持ちもよくわかる、うん」
「く、邦彦……ちょっと!」
 ふと、ネルが素っ頓狂な声を上げた。
 見れば、子ども達に混じって神守杉 アゲハ(かみもりすぎ・あげは)率いるギャル軍団がいる!
 丈の短いミニの浴衣を花魁風に着ていてとってもセクシー……って言ってる場合ではなかった!
「マジ余裕なんですけどー。おっさん、出来たから30ゴルダ払えよな」
「な、なに!?」
 アゲハをはじめギャル達が出した型は文句の付けようがないほど完璧に抜かれてしまっていた。
 普段、ネイルアートやデコ携帯の制作で磨かれた恐るべき手先の器用さの前に、高額の型もあえなく撃沈である。
 ……ちなみに現在のレートだと30ゴルダは大体10000円前後。大赤字は間違いない。
「ど、どうするのよ。だからこんなリスキーな商売するのはやめたほうがいいって……」
「そんなこと言ったって……」と言いかけはっと「ま、待て。何か不正をしたんだろう。濡らすとかそういう……」
「オメーふざけたこと言ってっと、二度とセンター街を歩けない身体にしてやっかんね!」
「ちょ、ちょっと待て……」
 殺気立つギャル軍団は派手にデコられた野球バットを手に迫る。
「……ええと、大変そうなので、ぷーちゃんは向こうのゴリラさんにインタビューしたいと思いまーす」
 邦彦を見捨て……もとい、取材を切り上げ、プーチンは騒ぎを聞きつけて来たJJに話しかけた。
「こんばんわ、パラミタスクープハンター、ハンターのプーちゃんだよ! インタビューいいよね!」
「あ、その……何かトラブルじゃないんですか? アゲハさんがバット振り回してますけど……?」
「ぷーちゃんわかんない。それより種族は獣人ですか、ゆる族ですか? それとも(ゴリラの)英霊ですか?」
「はぁ。よく言われますけど、僕は純粋なシャンバラ人ですよ」
「ええー! そうなの!? スゴイ、きっと前世でなにかあったんだろうね! で、今日は何しにお祭りに?」
「僕はこのお祭りの運営委員でして……」
「え! そこのとこ出来るだけ掘り下げて、番組的に盛り上がる感じでドラマチックなエピソードをひとつ!」
「え……ええと……」
 とかやってる間に、アゲハはお金を巻き上げていた。酷い目にあったのだろう、邦彦は顔面コバルトブルーである。
 そして、鋼鉄のストーカーブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は一部始終を電柱の影から見ていた。
「ああ、アゲハ……。今日も君は蝶のように華々しく夏をエンジョイしているんだね……」
 指先をガリガリかじる。
「ああ、ボクも思い出が。君との夏の思い出が欲しいよ……、せめて写真の一枚でも……」
 ふと、背後に相棒の悪魔ステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)が音もなくあらわれる。
「なに、容易いことです。店主に根回しは済みました、自由に使える夜店を確保……舞台は整っておりますわ」
「ぐふふ……よくやってくれたね」
 親指をおっ立て、ブルタは魔鎧化した身体をガシャンガシャン言わせ、アゲハに声をかける。
「やぁアゲハ、シボラ以来だね。今日も見事に焼けた小麦色の肌がキレイだよ、ぐふふ……」
「ん、ああ……、誰かと思ったら、キモハガネじゃん」
「センター街のカリスマと見込んで……ちょっと頼みごとがあるんだけど、いいかな?」
「……なんだよ?」
「実は知り合いの紐くじ屋が営業不振なんだ。ほら、紐を引っ張れば色々な商品に繋がっているかもしれない……という例のアレさ。そこでボクは考えた。商品をカリスマである君にしたら馬鹿な男達がたくさん釣れるんじゃないかってね」
「どういうこと?」
「紐の先を君のアクセサリーや衣服に結びつけるんだ。そして紐を引くとはらりと服が落ち……はうっ!!」
 ブルタの顔面をデコバットのフルスイングがぶっ飛ばした。
「なんであたしがそこまで身を削らなくちゃなんねーんだよ、ああ!?」
「ち、違うんだ! ほら、ああいうのって安い景品にしか紐が繋がってないだろ?」
「あ?」
「君はあくまで客寄せ、実際に紐を繋げたりなんてしないよ。安心してポテチでも食べててくれればいい。時間もとらせないし、バイト代もたんまり出すとも。ほら、君、新しいミュールが欲しいって言ってたじゃないか」
「な、なんでそのことを!?」
「君のことならなんでも知っているのさ、ぐふふ……」
 ストーカーってほんとに怖いですよね。
 しかしまぁ楽して大金稼げるなら若い女の子が飛びつかない手はない。アゲハは二つ返事でOKすることになった。
 夜店で紐を括りつけられると、予想どおり昂った男性諸氏たちがわんさか店の周りに集まって来た。
「さぁさぁ。空京のカリスマによる、セクシー紐くじだよ。ぐふっ、そこのお兄さんよってかないかい?」
「ま、マジで? 紐引っ張っちゃっていいんですか??」
「勿論だよ。なんなら今開店半額セール中だからお得だよ、ぐふふ……」
 全ては夏の思い出のため。アゲハの最高の写真を撮るため。
 獲物は上手いこと舞台に上がった、あとは紐を引っ張るだけだが、流石に自分で引っ張ったら怪しまれてしまう……。
「じゃ行きますよっ!」
 そして紐が引かれた……途端に、バリボリ菓子を食べてたアゲハの頭がぐいっと引っ張られる。
「いでででっ! な、なにこれ、繋がってんじゃん! お、おい、ブタ……!」
 文句の暇も与えず、次の客が紐を引く。すると大当たり、アゲハのビキニブラがひらり夜空を舞った。
うおおおおおおおおっ!!
 刹那、ブルタはカッと目を見開き、その光景を目に焼き付け……すかさずソートグラフィーで念写する。
「か、完成だ! とうとうアゲハとの思い出の写真が……ぶへっ!!」
 振り下ろされたデコバットが、ブルタの鋼鉄の頭骨をメキメキとめり込ませた。
 ブッコロス、と心に決めた時には既に相手の頭を陥没させているのが、アゲハ達ギャルサーの流儀である。
 胸を隠すことも忘れ暴虐の限りを尽くす彼女の前に、ステンノーラがズザザザーっと滑り込む。
「お待ちください、アゲハ様。これは大いなる誤解、ブルタは恐るべき陰謀によって操られているのですわ。
「ああ!?」
「ごらん下さい、ブルタの所持品にあるアスコンドリアを。これはアスコルド大帝の細胞の一部、これを所持していると大帝の意思で操られてしまうことがります。ですから全ては大帝の仕業であり、ブルタに罪はありません」
 アゲハは危険な目付きでブルタを一瞥。
「それにしても大帝をも惹き付ける魅力とは、流石カリスマですわ。わたくし感服いたしまし……ぶっ!!」
 しかし次の瞬間、センター街のカリスマは容赦なくステンノーラをバットでぶっ飛ばした。
ミラノ風ドリアにそんな効果ねーし! あたしが馬鹿だからって、テキトーなこと言ってんだろ!」
そ、それはファミレスのメニューだよ、アゲハ。アスコンドリアと言うのは……」
「うるせーっ!!」
 大帝の所為にしようとする小細工も理屈の通じない馬鹿には風の前の塵に同じ。
 夜空にブルタの豚のような悲鳴が木霊する……けれども写真をゲット出来た所為か、どこか嬉しそうにも聞こえた。