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空京センター街の夏祭り

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空京センター街の夏祭り

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【1】ぶらり夏祭り……2


 しかし、カキ氷と言えば粗利益率80パーオーバーと言われるボロイ商売……いや人気商売。
 リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)もセンター街の中程にフラッペ屋さんを構えている。
 所属コミュ『T・F・S』による出店のため、夏の花々で彩られ、女性に優しい雰囲気が出てる。
 メニューはイチゴやメロンと言ったスタンダードなものから、レモンやブルーハワイなど、マンゴーなんてものまで揃えてある。そして長身美形のリュースの紡ぐフラッペは見た目も麗しい。フリーズドライの季節のフルーツ……桃やメロン、マンゴー、飴細工の薔薇とソフトクリームが細氷の山を鮮やかに飾り、女子もおもわずハァと吐息を漏らす。
 そんな乙女達を誘うのはシーナ・アマング(しーな・あまんぐ)の歌声。
「あれ……どっかで見たことあるよ。もしかして芸能人じゃない?」
「やっぱそうだよね。あたしも見たことあるなぁと思ったんだよねー。折角だから写メっとこーっと」
「渋谷なう。ディーバ発見……と」
 歌姫として名声が、彼女の前に人垣を作る。すこし緊張しつつもお店のため歌う。
「シーナが頑張ってる間に……コホン。夏の暑いひと時を涼しくさせるフラッペはいかがですかーっ」
 歌う彼女に代わり、ブルックス・アマング(ぶるっくす・あまんぐ)が呼び込みをする。
「写メはいいですけど、ロープの内側には入らないでくださいねー。あと今歌ってる曲は店頭でも販売してますー」
「……なんだ、この人だかりは?」
 椎名 真(しいな・まこと)はふと足を止め、一画に出来た人垣を見つめる。
 いや、真……ではない。彼は奈落人椎葉 諒(しいば・りょう)、顔に浮かんだ火傷痕が憑依状態を示している。
「しかし、あっさり身体を明け渡したかと思えば、祭り散策とはな……」
『たまには、ね。ここのお祭りは日本の感じが出てるなぁ……、日本のお祭りってのはいいもんだよ。縁日の屋台ってやたらおいしく感じるんだ。今日は俺のおごり、好きなもの食べていいよ。あ、常識的な範囲でだからね、一応』
 頭の中で囁く真。諒は口の端を歪め、フッと笑う。
「おめでたいヤツだな。くくく……俺がこの身体で好き勝手するとは考えなかったのか?」
『え? いや、考えたこともないけど……だってそんなつもりないでしょ?』
「…………」
『諒?』
「……まぁいい。今日はセンター街の祭りとやらをせいぜい楽しませてもらおう。貴様の金でな」
 着替えるヒマがなかったのか、彼は執事服、しかしタイを外し白シャツ一枚で涼しげだ。
 諒はボタンを外し胸元を緩めると、人垣にずんずん向かう。とにかく食い気、フラッペの存在に気付いたようだ。
『あ、いきなりそっち? ほらあそこおから! おからドーナツあるよ体にいいよおから!』
「やかましい。却下だ、却下。俺は冷たいもんが食いたいんだよ」
『ええー……せめてお土産にぃ……』
 そんな彼にリュースは気付き、点描も舞うような笑みを見せる。
「いらっしゃい、真……ん?」と眉を上げ「……ああ、椎葉さんでしたか。今日はお祭り見物ですか?」
「くくく……そんなところだ。それより、そのマンゴーフラッペをひとつもらおうか」
「かしこまりました。真は『SxSxLab』の仲間ですから、フルーツをサービスしましょう」
「ほう。それはいい心がけだ」
『……あんまり失礼なこと言うなよ、諒』
 それからものを受け取り、諒は真夏の雪をほおばる。
「なるほど。繁盛してるだけのことはあるな。しかし、薔薇の花びらが入ってるが……異物混入か?」
「違います。それは当たりです。飴細工の薔薇をもうひとつ差し上げますよ。さぁどうぞ」
 とその時である、シーナたちのほうからどうも穏やかではない声が上がった。
 如何にもパラ実生な若者が「このあとヒマ? 俺たちとデートしない?」などと質の悪い絡み方をしている。
「げっ……。た、大変だ!」
 接客担当のワルター・ディルシェイド(わるたー・でぃるしぇいど)は叫んだ。
 同時にリュースと諒の武闘派野郎2人が、危険過ぎる目付きでチンピラ達に凶悪な視線をバシバシ飛ばし始める。
「ガキが……、祭りだからってなんでもゆるされると思ったら大間違いだぞ……」
「俺と貴様で十分だろう。五秒で片がつく。くくく……」
「ちょ、ちょっと待て、そこの2人! あんたらが出てくと街が一瞬にして血に染まる!」
「おいおい、どした?」
 裏で氷を切っていたリクト・ティアーレ(りくと・てぃあーれ)がひょっこり顔を出す。
「ちょうどいいところに……、おまえも(この2人を止めるのを)手伝ってくれ」
「え? 俺も販売のほうを?」
「そっちじゃない。つか、おまえは金回りに絶対触るな。九九を二の段で投げるヤツに任せられるか
「ちぇ。ひでぇなぁ。そんなこと俺が一番よくわかってるって。で、何を手伝えって?」
「ああ、それは……」
 ワルターはそこで言葉を止めた。
 フラッペを宣伝してたレイ・パグリアルーロ(れい・ぱぐりあるーろ)がチンピラに話しかけてるのに気付いたからだ。
 どう言いくるめたのか知らないが、彼女は彼らを連れてこちらにやってくる。
「……手伝いはいらなくなった。さっきの作業に戻ってくれ、さっきと同じように、な」
「えー、なんだよそれ。俺だけ仲間外れかよー。いいよいいよ、俺は寂しく氷と戯れてるよ。ちぇ」
 文句を言うリクトが引っ込むと同じくして、チンピラ達も裏に連れて行かれた。
 その瞬間、ぎゃーと悲鳴。リクトと言えば極度の音痴、その歌声は家中の鼠を退避させるとかなんとか。
 作業しつつの鼻歌でも威力は十分、耳から脳を粉砕されたチンピラ達は気分が悪くなってその場に倒れていく。
 そしてようやく一同はほっと胸を撫で下ろす。
「……なんとか平和的に解決できましたね」とリュース。
「くくく……穏便に済んだか。俺としてはひと暴れしても良かったんだが……、まぁいい」と諒。
……いや、全然平和的でも穏便でもない気がするんだけど……
 ズレた2人を前にして、真の頬を汗がたらりと流れる。