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【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記

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【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記
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 そんな事情は知らず。
 崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、客として1人でわんにゃん展示場を訪れていた。
「かわいい……」
 素直な言葉が、彼女の口から漏れる。
「これ、里親探しも兼ねてるのよね。もう1日と言わず、何匹か持って帰ってもいいのに」
 ワイバーンや悪魔だって飼えるんだから、犬猫の1匹や2匹、2匹や4匹、5匹だって、全部だって! 飼えないことはないっ。
 そんな強い愛情を抱きながら、展示場内の犬猫を可愛がっていく。
 窓の傍で日向ぼっこをしている黒い雑種の子猫に近づいて、そっと撫でると、ごろごろと喉を鳴らしながら戯れてきた。
「人懐っこい仔が多いわね」
 首輪をした子猫や子犬達は、構って欲しそうに亜璃珠に近づいてきたり、可愛らしい声でアピールしている。
「みんなこっちに来ていいのよ。遠慮はいらないわ」
 言いながら、子猫、子犬達を引き寄せて、亜璃珠は自分の膝の上に乗せたり、寄り添わせたりして、交互に撫でていく。
 首輪をしていない、成猫にも手を差し伸べて。目線の高さと体温に気を配り、ゆっくり安心をさせていき「あなたも、こっちにいらっしゃい」と、普段は誰にも絶対に見せない表情や、声で呼びかけて自分の元に招き寄せる。
「くーんくんくーん! わんっ」
 少し離れた位置から、真っ白なシベリアンハスキーの子犬が駆け寄ってきた。
「わんわんわんっ」
 その子犬――子犬に変身して展示を手伝っていた冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は千切れんばかりに尻尾を振って、亜璃珠に飛びついたのだった。
「可愛い仔ね」
 亜璃珠は腕を子犬の背に回して、頬から背をゆっくりと撫でてあげる。
「きゃうん、わんわん」
 声を上げて喜びながら、亜璃珠が自分に向ける表情がいつも以上に優しげだということに小夜子は気付く。
(あ、私が子犬姿になってること、御姉様は知らないのですよね……。でもそれはそれで、このままでも楽しそうだからいいです)
 そんなことを思いながら、小夜子は亜璃珠に自分の方から積極的にじゃれついて、顔をペロペロ舐めだした。
「うふ……っ。……ここは人目もあるし、奥の部屋借りましょう、奥を」
 亜璃珠は子犬と子猫たちの可愛らしさにたまらなくなって、存分に戯れられる部屋を借りて可愛がることにした。
「きゃうん、きゃんわんわんくーん」
 小部屋に入ってから。
 子犬姿の小夜子は亜璃珠の身体を甘噛みしたり、すり寄ったり、お腹まで見せてじゃれて一緒に転がって、すっごくたのしい時間を過ごす。
「ふふ、ここに入ってみる?」
 小さな小夜子の身体を持ち上げて、亜璃珠は自分の胸の谷間に入れた。
 顔だけ外に出して、頬を寄せて感触を楽しんだ後。ドアを開けて、付近にいた人達に見せる。
「ほら、かわいいでしょ? ちょっとくすぐったいけど」
「うんホント、とっても可愛いっ。お腹は空いてないかな?」
 展示の手伝いをしているクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が、ミルクを手に微笑みを見せる。
「くぅーん」
 声をあげて、シベリアンハスキーの小夜子は口を開ける。
「ミルクをどうぞ」
 クレアはミルクの入った哺乳瓶を亜璃珠に渡す。
「ありがとう。上手く飲めるかしら」
 亜璃珠は椅子に座って、子犬を覗き込み――ふと、首に目を留めた。
「これは……まさか、ね」
 その子犬は、姫百合のロケットの形をした首輪をしていた。
 見覚えのある首輪だ。
「首輪? それともロケット? どういうことかしら」
 訝しげにその首輪を確かめるが、それは間違いなく首輪だった。
 自分が小夜子にプレゼントしたロケットにあまりに似ていたので、盗品かもしれないと思ったのだけれど、そういうわけではなさそうだ。
「きゃんきゃん」
「はいはい、お待たせ。ミルクどうぞ」
 亜璃珠は大きな胸の中に、子犬を抱きながらミルクを与えていくのだった。

(おにいちゃん、帰ってこないなぁ。もう休憩時間はとっくに終わってるはずなのに……)
 クレアは動物達の世話をしながら、少し不安に思う。
 パートナーの涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が、どこかに出かけたまま、帰ってこないのだ。
 心配だけれど、どんどん増えていく子犬と子猫のお世話に追われて、探しに行く余裕はなかった。
「この仔診てもらえる方、いるかしら? 鴉に襲われていたのだけれど」
 そこに、子猫を抱えた女性が駆け込んできた。
「ああっ、鴉に襲われた子猫ちゃん? すぐに手当てするからね」
 クレアは両手で大切に子猫を受け取ると、シートを敷いてあるテーブルの上に乗せて、怪我の具合を見る。
 爪で、体を軽く引っかかれたらしい。
「んと、怪我は大したことないみたい。消毒しておこうね。元気がないのは、お腹が空いてるからかな」
 そして、傷口を消毒した後、ペットフードを選んで、与えていく。
「ニャンニャン」
 子猫の元気が戻ってきて、他の子猫と同じように、来客と遊んだり、気ままにお昼寝したりして、過ごしていく。
「具合の悪い仔は我慢しないでね。お目目は大丈夫かな?」
 クレアは子犬と子猫を1匹ずつきちんと健康チェックをしていく。
 ……そんな彼女の様子を、静かに観察している子猫がいた
 日向ぼっこをしている、黒い雑種猫だ。
 首にはサイコロの意匠のある首輪をしている。
(こんなふうにも、頑張れる子なんだよな)
 その猫の正体は涼介だ。
「あなたは大丈夫?」
 クレアが近づいて、涼介に可愛い笑みを向けてくる。
「にゃーん」
 そう答える涼介の首輪を見て、クレアはちょっと首を傾げる。
 よく知っている形、だ。
「なんだか、あなたのこと良く知ってる気がするっ。よかったら後で遊ぼっ」
 そう言って頭を撫でたクレアに、涼介は「にゃん(終わったらご飯食べに行こうな。好きなものをおごるよ)」と返事をした。
 言葉の意味は分からなかったけれど、クレアは笑顔で頷いて。
 次の子犬を診に、向かっていった。
 涼介は丸くなって眠ったふりをしながら、クレアをそっと見守り続ける……。

「……で、この仔達の多くは、人が変身した姿、だと?」
 散々、子犬と子猫をもふもふして、なでなでして、愛しんで可愛がって、戯れてじゃれ合った後。
 亜璃珠はリーアから薬の説明を受けた。
「くーん……」
 懐の中には、シベリアンハスキーの子犬……に変身した小夜子をまた入れていた。
 見下ろして目が合うと、人だと解っているのに、その愛くるしさにたまらなくなる。
「お正月の時も思ったけど、リーア……ってなかなかクレイジーというか、マッドサイエンティストよね」
「失礼な子ね。とことん楽しんでおいてそんな言い方! 私のどこがマッドだというの」
 ぷっくりリーアは膨れるが、先ほどまで、次の薬の開発について壱与に目を輝かせながら話していたとか。
「ああうん、ごめんなさいね。でもくれぐれもバイオハザードは起こさないでね」
 とりあえず、混乱する頭をふりつつ、亜璃珠は借りていた小部屋へと歩いていく。
(……しかしそうなると、だ。赤の他人にでれでれしてたわけね、私)
 懐の中の子犬と取り出して、台の上に置く。
 じゃれて暴れていたせいで、亜璃珠の胸元がはだけてしまい、下着が露わになっていた。
 そんなことは気にならないが。
 両手で子犬を包み込んだまま亜璃珠は思案する。
(……どうしてやろうかしら。口止め? それとも後で記憶が飛ぶぐらい……)
「わ……」
 尻尾を振りながら、声を上げようとした子犬、だが。
 突如、体に異変を感じて、声を止める。
「あ……」
 薬の効果が切れて、元の姿に戻ったのだ。
 ちなみに、首輪は外されたまま。
「お、御姉様っ、き、きゃーーーーっ」
 裸の小夜子は台の上から逃げようとするが、亜璃珠の両手は彼女を押さえつけたままだった。
「そう。やっぱりあなたは、小夜子だったのね」
「違うんです、御姉様。言葉が通じなくて……っ。あの、ああいう御姉様もとっても可愛かったですっ。ああ、でもどうして私裸なんでしょう」
 小夜子の言葉に、亜璃珠の眉がぴくりと揺れた。
「あっ、私の服、そんなところに……」
 小夜子は自分の服が、亜璃珠の膨らんだポケットの中から落ちていることに気づき、手を伸ばす。
 でも、その手は亜璃珠につかまれてしまい。
 ゆっくりと、彼女のはだけた胸が近づいてくる。
「御姉様、ちょっと、何を……」
 亜璃珠は恥ずかし気に悲鳴を上げる小夜子の口を塞いで。
 もう一方の指で、彼女の素肌に触れる。
「ん……!!??」
 そして、記憶が飛ぶほどの……を、亜璃珠は小夜子に施した。

○     ○     ○


 わんにゃん展示場の裏にある裏庭でも、子犬、子猫と遊べるようになっていた。
「わんわんわん」
 子供が投げたフリスビーへと、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークの子犬が走っていく。
 胴長短足な犬だけれど、とても活発な犬だ。
「わー。おりこうさんなわんちゃんだ〜。ちゃんと持ってきたよ」
「次ボクね、その前にきゅうけいする?」
 フリスビーを咥えて持ってくると、子供達は大喜びで撫でてくれた。
「わん(大丈夫、全然疲れてませんよ)」
 子犬――沢渡 真言(さわたり・まこと)は、ちょっと嬉しくなる。
 撫でられたことも勿論、子供のこの満面な笑顔を、自分が生み出したということにも。
「にゃーん」
「にゃあにゃあ」
 窓の傍では、ボールに抱き着いて、こころ転がったり、子供がもった猫じゃらしにじゃれついて、遊んでいる子猫達の姿もある。
「ママ、あたし、このこといっしょに帰りた〜い」
 丸くなってボールを掴んでいる三毛猫を抱き上げて、子供が母親に尋ねる。
「んー、ママもそう思うけど、首輪がついてるこの子は誰かの家の子だから連れて帰れないのよ」
「えー、えー、えー。ざんねん、ざんねんだよぉ」
 子供は三毛猫――に変身した桜葉 忍(さくらば・しのぶ)をぎゅうっと抱きしめる。
「にゃあ、にゃん(ごめんなー。俺も結構楽しかったよ)」
 忍は鳴き声を上げて、子供の頬にすりすりをした。
「それじゃ、そろそろ帰りましょう。ちゃんとお別れするのよ?」
「はあーい……」
 子供は残念そうに三毛猫忍を下して、頭を沢山撫でた後、手を振る。
「ばいばい、猫ちゃん」
「にゃんにゃー(バイバイ!)」
 三毛猫忍は前足をちょこんと上げてお返事をした。
「にゃん、にゃにゃ(そろそろ、飽きたのぉ)」
 とことこ、猫じゃらしで遊んでいた黒猫――に変身した織田 信長(おだ・のぶなが)が三毛猫忍の方へ歩いてい来る。
「にゃん? にゃにゃー(そう? 最初はちょっと怖いと思ったけど、実際飲んでみると案外あっけなかったかな。意外と順応できたし、結構楽しいし)」
 手伝いをする為に薬を飲もうと提案したのは信長の方だった。
 飲んで互いに無事猫と化した後は、こうして展示場の中や外で、人々を和ませている。
 でもそろそろ、十分役目は果たしたと思われる。
「にゃーにゃにゃ(そろそろ仕事は終わりとし、散歩でもするかのぅ。普段とは違った風景が見られるかもしれんの)」
「にゃーにゃにゃ(そうだね。ほかの子犬や子猫を見るのも楽しそうだ)」
 人間の目では見えないものも、きっとみることが出来るだろう。
 そう思いながら、信長はパビリオンの裏庭からまず、散歩をしていくことに。
 ひらひらと小さな蝶が、草花の周りを飛んでいる。
「にゃんにゃにゃ(綺麗だね。お花もかわいい)」
 並んで歩きながら忍がそう言った。
 普段はほとんど気にも留めないことも、美しく感じる。

「おりこうわんちゃん、またね、またねーーーー!」
 真言と遊んでいた子供達も、母親に手を引かれて帰っていく。
「わんわん!(楽しかったです。気を付けて帰ってくださいね)」
 直後に。
 子供達を見送った真言の身体が――突然、ひょいっと持ち上げられる。
「きゃうん」
 驚いて、小さな声を上げた真言だけれど、その大きな手が誰の手なのか。
 包み込んでくれる胸と腕が、誰のものなのかすぐに解って。
 ほっと、息をついた。
 楽しかったのは本当だけれど、走り回ったせいで、真言はとても疲れていた。
「お前、誰かに似てるな」
 そう言って、その人物……マーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)は、子犬と化した真言を優しく撫でた。
「くーん」
 子犬は嬉しそうな声を上げて、しっぽを大きく振る。
(なんか、すっごい可愛らしいヤツだな。……真言に似てるし)
 このまま、家で飼ってもいい……むしろ飼いたいと思いながら、マーリンはパビリオンの正面に向かって歩き出す。
 真言がわんにゃん展示場で働いていると聞いたマーリンは、彼女をからかいに行こうと展示場を訪れたのだけれど。
 彼女の姿はなく。だけれど、窓からはしゃいでいる子犬が見えて。
 その活発で明るく、子供達に沢山の喜びを与えている子犬がとても気になり。子犬を構う為に、窓から裏庭に飛び降りたのだ。
(誰かって誰でしょうね。犬を飼っている知り合いいるのでしょうか)
 マーリンを見上げながら、真言はそんなことを思う。
(この姿、ですから。私だとは気付きませんよね……もし、も)
 真言は彼の腕に、顔を摺り寄せた。
(もしも、許されるのなら――。いつもと違って、犬ですから……少しだけ、甘えてもいいのでしょうか)
 彼の腕に頭を乗せたまま、真言はそっと目を閉じた。
(ちょっとくらい、眠ってもいいでしょうか)
 貴方の、腕を枕に――。少しだけ、ほんの少しだけ……。
 真言の意識が薄れていく。
(この首輪……)
 マーリンは子犬がしている首輪に目を止めて、そっと触れてみた。
 よく知っている形。よく知っている……魔力を感じる。
「お休み。良い夢、見ろよ」
 密かに顔を近づけて、眠る彼女にささやいて。
 そっと、頬を寄せた。