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【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記

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【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記
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第3章 わんにゃん展示場

「にーにー」
「くぅーんくぅーん」
 可愛らしい鳴き声に、振り向き、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は自分の足下に目を向けた。
「ん? 子犬と子猫……」
 アキラはひょいっと子犬と子猫を抱き上げて、ベンチに座って自分の膝の上に乗せた。
「どーしたんだおめーら。迷子にでもなったんかー?」
 頭を撫でながら尋ねると子犬と子猫は「にー」「くぅーん」と、甘え声を上げる。
「隣からきたのかな」
 アキラは『パラミタの動物たちと触れ合うコーナー』の展示を運営している。
 このコーナーはペットの貸し出しをしているわんにゃん展示場の隣にあるためか、子犬、子猫を連れて訪れる客が多かった。
「とりあえず、うちで遊んでいきな。隣には連絡入れておくからな」
 言って、特徴をメモに記すと、子犬、子猫を動物たちの遊び場へと連れて行く。

「申し訳ありません。香水の匂いに敏感な仔もいますので、こちらからご覧いただけますよう、お願いします」
 セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)は、化粧の濃い女性客に少し離れるようにお願いをする。
 動物達が彼女の匂いを嫌悪していることがわかったから。
「おっと、この仔は餌はもう十分食べたんじゃ。こっちの仔ならあげてもいいが、こちらで用意したものだけで頼むぞ」
 ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)は、食べ残しのお菓子をあげようとしている子供を急いで止めた。
 人間の食べ物は、動物にとっては害になるものもある。
 それに、過度の食事を与えることは当然、良いことではない。
 ここ、パラミタの動物たちと触れ合うコーナーには、パラミタに生息する様々な動物達が集められている。
 隣のわんにゃん展示場では、容器に入った子犬、子猫の姿が楽しめるが、こちらではティーカップに入るくらいの大きさのパンダやわたげうさぎなどのふれあいが楽しめて。
 触ったり、餌を与えたりすることも出来るのだ。
「触れた後は、手を必ず洗ってくださいね」
 セレスティアが客達に水道のありかを教える。
 ハンドソープやアルコール消毒液も、十分用意してある。
 虫が寄ってこない様に虫除けのお香が吊るしてあるお蔭で、虫もあまり寄っては来ない。
「噛まれたりしないかな」
 女の子のグループが、ポニーを前にエサを持ったまま躊躇していた。
「大丈夫ですよ。穏やかな気性の仔ですから。念のため、手綱握っておきますね」
 セレスティアが女の子達を安心させる為に、フライングポニーの手綱を掴みながら、餌を与えてくださいと、促す。
「それじゃ、私から。……あ、食べた」
「私もー。美味しい美味しい?」
 少女が餌をあげて、ポニーの頭を撫でる。
「乗ることもできるんですよ。交換で如何ですか? それとも代表で誰かお一人乗ってみますか?」
「乗りたい!」
「私も〜」
「じゃ、交換で……あ、でも皆で乗ったらお馬さん疲れちゃわない? 代表で一人だけ乗ろうよ」
「そうだね」
 少女達の間でも、動物を気遣う声が上がっていき、結局、一番体格の小さな子が1人だけ代表で試乗させてもらうことになった。
「では、行きますよ」
 セレスティアが手綱を握りしめて、フライングポニーを歩かせていく。
「うわっ、動いた」
 少女達は当たり前のことに、感動し、明るく楽しげな声を上げていく。

「ただいまー、おぉ、賑わってますね」
 展示に戻って来たヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)が、ルシェイメアに近づいた。
 ヨンは今まで、ペットのペンギンやイルカを連れて、小さなパレードを行っていた。
「なんか、隣からくる仔達も多くてのぉ。賑わうのはいいんじゃが、時々トラブルも起こるし楽じゃないぞ」
 セレスティアの言葉に「そうですね」と頷きながら、ヨンは撮って来たばかりの写真を壁に貼り付けていく。
「カーカー」
 鴉が数羽、衝立の上に止まっている。まるで、チャンスを伺っているかのように。
「うーん、可愛い」
 しかし、アキラはあまり気にしていないようで、先ほど保護した子犬と子猫を展示の隅っこで遊ばせて、見守っている。
 鴉も、人間には近づいてこない。動物達から目を離さなければ大丈夫そうだった。
「ね、もし飼い主が見つかんなかったらこの子ウチで飼ってもいい?」
 アキラは突如、ルシェイメアにそう尋ねる。
「ダーメーじゃ。大体今家に何匹いると思っておるのじゃ。その世話だけでも大変じゃと言うのに」
 ルシェイメアは腕を組んで、首を左右に振って却下。
「いまさら一匹二匹増えた所でたいして変わりゃーせんだろ」
 だけどアキラは諦めない。
「誰がその世話をしてると思っておるのじゃ」
「俺もちゃんと面倒みるから!」
 退かないアキラにルシェイメアは深いため息。
「私達は増えても大丈夫ですよ、ね」
「はい」
 セレスティアとヨンは笑顔で頷き合う。
「もしも、見つからなったらだからさ、いいだろ?」
 アキラは子犬と子猫をたまらずまた抱き上げて、なでなでもふもふしながらルシェイメアにお願いを続ける。
「仕方ないのう……。貴様もちゃんと面倒をみるんじゃぞ」
「勿論! やったな、お前たち……って、俺達が引き取るのは、飼い主が見つからなかったら、だけどな」
「くぅーんくん」
「にゃんにゃんっ」
 “ありがとう”
 そんな風に、動物達の鳴き声はアイラに礼を言っているかのように聞こえた。
「この仔達ってもらえるの? ティーカップパンダちょーかわいいよね。飼いたいな〜」
 女性客が尋ねてきた。
「すみませんが、こちらの動物たちはお譲りできないのです」
 即、ヨンが丁寧に断る。これに関してはアキラも他の皆も、同じ気持ち。ここにいる動物達は自分達の『家族』なのだ。
「ん? また迷子猫?」
 にゃーんと小さな鳴き声を上げて、通路を子猫が1匹で歩いている。
 このままでは踏まれてしまいそうだ。
 アキラは急いで通路に出て、その猫を保護する。
「くぅーん」
 と、今度は一匹で歩いている子犬が目に移った。
「……みんな、みんな、うちで遊んでいくかい!?」
 おいでおいでと手招きすると、1匹で歩いている子猫、子犬達が尻尾を振りながら近づいてくる。
 アキラは全て受け入れるつもりだった。
「疲れている仔は後ろにどうぞ。お休みもできますよ」
 ルシェイメアはそんな子犬、子猫達に気を配り、健康状態をチェックして、体調がすぐれない仔や、疲れているような仔は優先的に控室の方へと連れて行き、看病を始める。
 それでも、回復の兆しが見えない仔のことは、わんにゃん展示場に連絡をして、指示を受けるつもりだった。

 アキラの展示は、不可抗力で変身してしまい、どう過ごしたらいいのか分からなく彷徨っている子犬、子猫達の憩いの場ともなっていく。

○     ○     ○


「新しい写真、持ってきたよ」
 パラミタの現在のコンパニオン衣装をまとった小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と共に、わんにゃん展示場へ戻って来た。
 今日彼女達は、わんにゃん展示場に展示をするための写真撮影を担当している。
「このあたりに飾ってもいい?」
「うん、是非この辺りにお願い」
「了解っ」
 主催のリーア・エルレンの承諾を得て、美羽は写真を展示場の入口近くに飾っていく。
 今日、会場を回って撮った写真は――。

『ワンちゃんとワンちゃん』
 こちらには、不良そのものの格好の王 大鋸(わん・だーじゅ)が野良猫たちにエサを上げている姿が写っている。

『お鍋はいかが?』
 教導団員が作った鍋料理――そう、子猫や子犬、目を回した鴉が入った鍋を映した写真。

『猫まみれの帝王』
 足には十数匹の猫。テーブルの上に猫。膝の上に猫を乗せたラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)の姿。

『女の子なら猫にでも優しい青年』
 子猫をぎゅーっと抱きしめてちゅーしているゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)の姿。

 それらの、動物達と、触れ合う人間の姿を映しだした写真だ。
「ワタシも撮ってきたわ」
 アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)も、わんにゃん展示場に戻ってきた。
「パレードの写真と、お散歩している子猫、子犬達の写真、飾らせてもらうわね」
 プリントしたばかりの写真を取り出して、アルメリアも展示スペースに貼り付けていく。
「あ、これは……。ま、いっか。可愛く撮れてるし」
 小さく黒い羽根が映ってしまっているものもあったが、やむを得ない。あの場にいた人じゃなければ、気にならないだろう。
「他に何か手伝えることある?」
 貼り終えたアルメリアがリーアの元に戻ると、撮影用に用意された部屋の中に、子猫と子犬達が集められていた。
「一緒に、この仔達の撮影、お願いできるかしら?」
「うん、コハク、お願いね。私はお客さんに声かけてみるね」
 美羽はコハクを残して、声掛けに展示場の外へと向かう。
「可愛い子犬と子猫達ね。とっても大人しいし……ということは」
「そう、薬で変身をした子達よ」
 にこっとリーアは微笑んだ。
 アルメリアも微笑み返して、それからコハクと共に撮影を始める。
「にゃーん(どんなポーズを取ればいいのかな?)」
 撮影室で小首を傾げた子猫は、葦原 めい(あしわら・めい)だ。
「にゃん(猫の視点だと獣人の気分ですね)」
 隣の子猫はめいのパートナーの八薙 かりん(やなぎ・かりん)
 展示用の写真を撮るという話を聞いて、モデルの協力をすることにした。
 自然な姿もいいけれど、動物の展示用の可愛らしい写真を撮るのはプロのカメラマンでも大変だ。思うように動いてはくれないし、変わったポーズをさせたのなら、虐待だと動物愛護団体から非難されることさえ、ある。
「それじゃ、アップを撮らせてくれる? 合図をしたらにゃーと鳴いてみて」
 コハクはそう言って、デジタル一眼POSSIBLEを構えて、2人に近づいた。
「はい、チーズ」
「にゃーん」
「にゃ〜ん」
 2匹はつぶらな瞳で、カメラを見詰めながら可愛い声を上げる。
 パシャリとコハクは2人を映して、画像を確認する。
「うん、可愛いっ。思わず抱きしめたくなっちゃうね……。それじゃ、表情を変えてもう2、3枚いい?」
「にゃんにゃん(いいよー、折角だからとっても可愛くとってね)」
「にゃん、にゃー(もう少し近づいた方がいいかしら?)」
 めいは上目使いで可愛らしさを出してみたり。
 かりんはめいにすり寄って、仲の良さを表してみた。
「うわー、とっても可愛い。皆にもこの愛らしさが伝わるような写真にしないと」
 コハクは気合を入れて、連続写真で2人の可愛らしさを収めていく。
「にゃあん(あとは、この花に埋もれてみるっていうのはどう?)」
 めいが花瓶を前足でちょんちょんと叩く。
「にゃんにゃん(カスミソウが似合いそうですね)」
 2人は花瓶に前足をつけながら、じっとコハクに目を向ける。
「ん? お花と一緒の提案かな? そうだね。上手く撮れるかな」
 コハクは、花瓶の中から細かな花をとりだして台の上に乗せて、その上にコスモスを乗せる。
「後で、この写真、2人にもプレゼントするね」
「にゃん!(おー、いい思い出になりそうだねっ)」
「にゃーん(部屋に飾っておきましょうね)」
 コハクの言葉に、めいとかりんは喜びの声をあげて。
 花の中に入り込んで、可愛らしく戯れる。
「この可愛らしさは、罪よねホント!」
 言いながら、コハクと共にアルメリアも2人の姿を写真に収めていく。