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【空京万博】オラの村が世界一!『オラコン』開催!

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【空京万博】オラの村が世界一!『オラコン』開催!

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第八章  千客万来


「すいませ〜ん、こんにちは〜」
「あ、陽太さん!」
「陽太くん。どうしたの、今日は?」

 運営本部を訪れた御神楽 陽太(みかぐら・ようた)を、円華御上が出迎える。

「いえ、二子島じゃあんまりゆっくりお話も出来ませんでしたし、折角皆さんがイベントを開いてるんだから、少し寄って行こうと思いまして」
「今日はお一人ですか?」
「はい。は色々と忙しいモノで」
「じゃ、ノーンちゃんたちはお手伝いかい?」
「そんなトコロです。コレ、お土産買ってきました。終夏さんたちのところの、蜂蜜パンケーキ」
「そんな、気を使わなくてもいいのに」
「いえ、少しでも売上に貢献しようかと思って」
「あ〜、じゃあ、全部のブースから買わないと、不公平になっちゃうよ。今コンテストしてるから」
「勘弁して下さいよ……」

 そんな気の置けない会話から、積もる話を始める3人。
 皆の尽力のお陰で、当面のテロの脅威が去ったせいか、円華や御上の声も明るい。
 色々と話している内に、自然と話は、円華の手がけている事業の話になった。
 円華は、日本の企業グループと共同でファッションブランド『マドカ』を展開している。

「私の方は、最近少し行き詰まり感というか……、限界みたいなものを感じてます」
「限界……ですか?」

 円華の告白を、意外そうに受け止める陽太。

「はい。今私がしているのは、日本のデザイナーの方が手がけたモノに、マホロボの呪術的な文様を組み込んだりとか、マホロバの着物を日本の着物のように着こなすスタイルの提案などなんですけど−−」

 その辺りのコトは、陽太も知っていた。以前そうした小物を、妻の{SNM9999003#環菜}にプレゼントしたことがある。
 
「やっぱり、どうしても『借り物』的な感じがしてしまって……。たぶん、私が自分で全てデザイン出来ればいいんでしょうけど……」
「なるほど……」
「それと、前々から薄々は感じてた事なんですけれど、私の今やっているコトでは、救えない人が余りにも沢山いるって事を、この間の二子島の事件で思い知らされたんです。『衣食足りて礼節を知る』。地球には、そういう言葉があるそうですね」
「中国ですよね?」
「春秋戦国時代の中国の政治家、管仲の書いたとされる書『管子』に出てくる言葉だね」

 陽太の言葉を、御上が補足する。

「その言葉とはちょっと違うのかも知れませんけど、ただ『貧しい』というだけで争わなくてはならない人があれほどいるのであれば、葦原島に後からやって来て、支配階級に身を置いている人間として、しなければならないことがあると、そう思ったんです」

 円華の五十鈴宮家は、直接に支配する領地を持っている訳ではないが、歴史ある旧家として、葦原藩から特別に扶持(ふち)を得ている身分である。

「それで、この物産展を……」
「ほとんど、思いつきなんですけどね。結局、マホロバや葦原藩の方はほとんど参加して頂けませんでしたし」

 寂しげに笑う円華。 

「それでも、収穫あったんですよ。次に何をしたらいいのか、見つかりましたし」
「それはどんな?」
「秘密です♪決まったら、またご連絡しますから」
「その時はまた、よろしく頼むよ」

 御上が笑って言う。

「ダメですよ御上先生。陽太さんも、今は社長さんなんですから」
「そうだ、陽太君。今度は、キミの話を聞かせてよ。どうなんだい、鉄道の方は?環菜さんと今、ヒラニプラからヴァイシャリーまで鉄道を敷いてるんだろう?」
「それなんですが……」

 陽太は、現在の事業の進展状況等を、2人に話して聞かせた。
 陽太は、妻である環菜の夢の『シャンバラ横断鉄道』実現の手助けをするため、「カゲノ鉄道会社」を立ち上げたばかりである。

「まぁ、一言で言うと、『まだまだ』ってカンジですね」
「いいですね、でも。お2人で同じ夢を目指してるなんて」
「そんな、それを言ったら、円華さんだって−−」

 『御上先生がいるじゃないですか』と口走りそうになって、危ういトコロで踏みとどまる陽太。

「『絆』を結んだ方が、一杯いらっしゃるじゃないですか」

 咄嗟に取りなした。

「そんな、私の絆なんて……。『夫婦』には、かないません♪」
「か、勘弁して下さいよ、もう……」

 どうも最近、この2人にはこの手の話題を振られてばかりいる気がする。

「陽太君。キミの会社の業務は、あくまで軌道の敷設や、駅の設置、それにメンテナンスなんかがメインなんだね?」
「ハイ。一応、新規路線の試験運行的な事も行う予定ではいますが、それはあくまで一時的なものなんで……」
「そうか。なら、本当は御神楽校長に話しておいたほうがいい事だと思うけど、一応キミも聞いておいてよ。もしかしたら、役に立つかも知れない」

 そう言って御上は、日本の鉄道黎明期の話を始めた。
 要点をかいつまんで言うと、大都市を結ぶ鉄道を国鉄が敷設していったのに対し、いわゆる私鉄には、大都市圏と観光地を結ぶ路線を開拓していった会社も多かったという話である。

「東京圏と日光を結ぶ東武鉄道、箱根温泉を結ぶ箱根登山鉄道。日本発の地下鉄である銀座線は、上野、浅草、銀座。勿論、人口密集地を結ぶ路線展開を考えるのが常道だけど、今のシャンバラはの人口密度は、ごく一部を除けば、産業革命以前の地球と似たり寄ったりだろう?常道を取るのは難しいと思うんだ。それならいっそのこと、観光地を一から開発するつもりで、路線を計画してみるのもいいんじゃないかと思ってね」

「は〜。そういう考え方もありますか〜」
「くれぐれも、アイデア程度に留めておいてくれよ。ボクは、経営の専門家じゃないからね」
「いえ。大変参考になりました。わざわざ来た、甲斐がありましたよ」

『そんな、大げさな……』と言おうとして、御上は口を噤んだ。
 様々な『力』を失ってしまった環菜と、その彼女と共にある陽太。
 彼等にとっての価値は、きっと彼等にしか分からないだろう。
 自分の言葉が、どんな形であれ彼等の役に立てるのならば、それでいいと思う。



「円華さん、御上先生!お疲れ様です!」
「御上く〜ん、来ちゃった♪」
「こ、こんにちわ〜」

秋日子さん、キルティスさん、いらっしゃい!」
「キルティス、今日は女の子なんだね……」
「さっすが御上君、鋭いね♪」
「秋日子さんの、パートナーね?初めまして。五十鈴宮円華です」
遊馬 シズ(あすま・しず)です。初めまして」
「ナニ〜、シズってば。敬語なんか使っちゃって」
「円華さん、美人だもんね〜」
「いや、初対面の人に敬語使うの、普通だろ……」
「初めまして。御上真之介です。秋日子君とキルティスには、いつもお世話になってます」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 差し出された御上の手を、握り返すシズ。

「あ、それじゃ、ボクはこれで」
「あ、もう帰るのかい?」
「ハイ。妻が待ってますから」
「ハイ♪奥様に、よろしく♪」
「そうだよね〜、新妻待たせちゃいけないもんね〜
「い、いや……もういいです……」

 やや辟易した感を見せながら、陽太は本部を後にした。

「しかし、今日は随分とゴキゲンだね。どうしたんだい?」
「どうもナニも御上君、おいしいモノが一杯あってさ〜」
「はいコレ、お土産です」
「この蜂蜜パンケーキ、すっごくおいしいんだよ〜」
「ほっぺたが、落ちそうだったんだよ、ホントに!」
「うん。俺も、誰かに食べさせたいって思ったのは、初めてだったな」

 口々にケーキを褒める3人。

「あら、また終夏さんのパンケーキですね」
「これは、今年のグランプリは決まりかな」
「何の話です?」
「陽太君も、持ってきてくれたんだよ、このパンケーキ」
「え!そうなの!?」
「な〜んだ〜。折角持ってきたのに〜」

「すごい人気で、焼くのが間に合わないんだよ。私たちは予約しておいたから良かったけど、そうじゃなかったら30分待ちだったんだから!」
「そんな人気なんですか!」
「ウン。少し話しようかと思ってたんだけど、あんまり忙しそうだったんで、遠慮した位だったんだから」
「でも、響 未来(ひびき・みらい)がミニライブやってたから、待ってるお客さんもそんなに退屈してなかったぜ」
「うん、可愛かったよね。未来ちゃん。獣人のカッコしてたし」
「なんか、来るハズだった獣人の人が来れなくて、代わりに歌ったらしいよ」
「それであのクオリティか……。パネェな、オイ」
「そうか。終夏君と一緒に、社君も運営してるんだったね」

「ね〜ね〜、御上く〜ん、私の持ってきたケーキ、食べてみてよ〜」
「う、ウン。わかったよ……。しかし今日は、なんかいつもと様子が違うね、キルティス。どうしたんだい?」
「それはね〜。御上クンがメガネかけてないから〜!」

 いきなり、御上に迫ろうとするキルティス。
 それに対し御上は、素早く席を立って、一定の距離を保とうとする。

 御上は結局、あの少女を連れて逃げ回っている内に、メガネを無くしてしまっていた。

「え〜、御上君、なんで逃げるの〜」
「な、なんでってキルティス……って、酒臭いぞ!飲んでるな!」
「ヤダな〜、飲んでるなんて。ほんのちょっと試飲しただけだよ〜」
「途中で『キヌアウィスキー』に寄ったんだけど、なんかキルティスかすっかり気に入っちゃって……」
「そ、そういうコトか……」

「あの〜、スミマセン。こちらに、御上真之介さんはいらっしゃいますでしょうか?」
「は、ハイ。御上はボクですけど……って、き、キミは!?」
「あ!真之介さん!」

 先ほど御上に助けられた少女が、顔を『パァッ!』と輝かせて走り寄って来る。
 
「み、御上クン。ダレ?このコ……?」

 直感的にナニかを感じたのか、途端に不機嫌になったキルティスが、御上に訊ねる

「あ、あぁ。そのコはね−−」
「私、周防 なぎさって言います!よろしくお願いします!」

『ピョンコ!』と擬音のしそうな勢いで、頭を下げるなぎさ。

 ゆるやかにカールしたツインテールの髪が、身体の動きに合わせて揺れる。
 まるでそれ自体が、一つの感情表現器官のようだ。

「周防なぎさね……。それで、そのなぎささんが、一体何の用?」
「ハイ!あ、あの真之介さん!さ、先程は、本当に危ないトコロを有難うございました!これ、お礼です!」

 そう言って少女が差し出したのも、やはり蜂蜜パンケーキ。

「あら、また同じですね♪」
「御上クン……。なぁに、その『危ないトコロ』って」

 にこやかに笑う円華に対し、明らかに剣呑な雰囲気のキルティス。

「あ、あぁ、それはだね−−」

 極力余計なコトを口にしないように、一部始終をかいつまんで話す御上。
 だが、わざわざ御上が端折ったトコロを、話す側からなぎさがフォローするために、ドンドンとキルティスの機嫌が悪くなっていく。

「ふ、フーン……。お、お姫様抱っこね……」
「ハイ♪初めての体験だったので、ドキドキでした♪」
「そ、そう……、良かったわね……」
「ハイ!しかもそれが、真之介さんだったなんて……キャー!」

 その時の情景を思い出して、恥ずかしさに耐えられなくなったのか、自分のほっぺたに手を当てて悶えるなぎさ。

「だ、大丈夫、キルティス……。なんだか、こめかみに青筋立ってるけど……」
「ゼンゼン!まるでダイジョブだから!私、御上クンと抱き合ったコトあるし!」
「じゃ、じゃなんで、そんなに機嫌悪いの……?」
「乙女の勘が告げるのよ。『あの小娘は敵だ』って」
「そ、そうなの……」
「そうよ!」

「あ!そーいえば、おネェさんたちのお前、お聞きするの忘れてました!」

 ふと我に返ったかと思うと、いきなり質問を浴びせてくるなぎさ。
 色んな意味でもマイペースなコなのは、間違いないようだ。

「五十鈴宮円華です。このオラコンの運営委員会の、代表をしています」
「し、東雲秋日子だよ……」
「キルティスよ!」

 一人でやたらと機嫌の悪いキルティス。

「あ!いたいた!御上先生、円華さん、そろそろ来て下さい!グランプリ発表の、打ち合わせをしますから!」
「あ!うん、わかった!すぐに行くよ!」
「それじゃ、皆さん。申し訳ありませんが、私たちは仕事がありますので……」
「ハイ!円華さん、真之介さん、お仕事、頑張ってくださいね!」

 呼びに来た静麻の後を追うように、天幕を後にする御上と円華。
 その御上の背中が見えなくなるまで、なぎさはにこやかな表情で、手を振っていた。

「さて……と。それじゃ、私も失礼しますね」

 ペコリと頭を下げると、『もう用は済んだ』とばかりに席を立つなぎさ。
 天幕を出ていこうとして、不意にクルリと振り返る。

「ところでキルティスおねぇ様。おねぇ様はさっき、真之介さんと『抱き合ったコトがある』って言ってましたけど、真之介さんとは、どういう関係なんですか?」

(うわ……イキナリ直球だよ!)

 一挙に緊迫の度合いを増した状況に、思わずオロオロしてしまう秋日子。
 シズは敏感に危険を察知したのか、いつの間にかいなくなっている。


「どういう関係って……。そうね、アナタみたいなポッと出の女の子には立ち入るコトも出来ないような、『深い仲』ってトコかしらね」 

(うわ、キルティス先制攻撃!?そんな見栄張っちゃって!一応ウソはついてないけど……)

「深い仲……。それじゃ、おねぇ様と真之介さんは、付き合ってるんですか?」

(は、反撃だー!)

「み、御上クンは、そういう恋愛関係の話は苦手だから……」
「それじゃ、お付き合いしてる訳じゃないんですね」

 人一倍大きいなぎさの目が、『スウッ』と細められる。

「そ、それは……そうよ」

 なぎさと目を合わせずに、ボソッと言うキルティス。

「あ!そーなんですかー。良かったー!それじゃ、私にもチャンスがあるってコトですよね!」
「ちゃ、チャンスがあるって、キミちゃんとボクの話聞いてたの!?だから御上クンは色恋沙汰は苦手だって−−」
「そんなモノ、なぎさが治して見せますわ」

(だ、断言!今断言したよ、このコ!!)

「な、治すってキミ、そんな簡単に−−」
「難しいか簡単かは関係ありません。私、なぎさと真之介さんが結ばれるために必要なコトなら、どんなコトだってやって見せます」
「む、結ばれる……?」

 余りの衝撃発言に、思わず絶句してしまうキルティスと秋日子。

「それじゃ、これからよろしくお願いしますね、おねぇ様♪」

 最後にもう一度ツインテールを『ピョンコ!』と揺らすと、なぎさは去って行った。
 
(完璧な返り討ちだ……)

 恐る恐る、キルティスの顔を覗き込もうとする秋日子。
 しかし、キルティスの全身から立ち昇る黒いオーラの前に、秋日子は、声をかける事はおろか、足を踏み出すコトすら出来なかった。
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【橙の村、一人前の蜂蜜パンケーキ】

【基本値】
 6,1,2=9

【修正値】
《MC》(運営)五月葉 終夏(さつきば・おりが)日下部 社(くさかべ・やしろ)(客)御神楽 陽太(みかぐら・ようた)東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)
:2×4=8

《LC》(運営)ガレット・シュガーホープ(がれっと・しゅがーほーぷ)日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)響 未来(ひびき・みらい)(客)キルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)遊馬 シズ(あすま・しず)
:1×5=5

《IC》獣人コス:+1
《MB》設定+1、接客+1、適性(自由設定)+1=3

 8+5+1+3=17
 17+9=26

【判定結果】
 大成功!:PP+2

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