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ユールの祭日

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ユールの祭日
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●●● 地獄の黙示録

イルミンスールや空京大学の生徒たちは、この戦いがなぜシャンバラ大宮殿で行われているのか理解をはじめていた。

「ユールの日という時間だけでなく、場所にも意味があるのか」
イルミンスール魔法学校、クトゥルフ神話学科(ク神科)および魔女術学科に所属の瓜生 コウ(うりゅう・こう)はそうつぶやいて、この巨大な塔を見上げた。

コウはリア充どもを滅ぼそうとこの戦いに参加したのである。
たしかにクリスマスシナリオのなかでも、

『クリスマスしたいの』
『はっぴーめりーくりすます。2』

といったシナリオがリア充向けだとするなら、この『ユールの祭日』が若干「リア充爆発しろ」的クリスマスシナリオなのは否定できない。


ベイバロン・バビロニア(べいばろん・ばびろにあ)はこの電飾された屹立する巨塔を見て、よくわからない興奮状態に陥っていた。

「ああっ大きくて太いわ、このバベルの塔……」

『バビロンの大淫婦』ことバイベロンは、クリスマスのリア充オーラと非モテのダークオーラの影響、ついでユールの呪力がない混ぜとなって、キモいテンションとなっていたのである。

「ふふふ……見せてもらいましょうか、英霊の真の力とやらを」
同じくク神科のエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は、英霊ではないが参加した一人だ。
ネクロマンシーとクトゥルフ神話に深入りしすぎたため、アンデッドめいた怪物となってしまっている。


今回の催しで最も衝撃を受けたのは、ク神科であったかもしれない。

イルミンスールは今なお西洋魔術の殿堂であり、古きヨーロッパの流れを汲むルーン魔術、魔女術、ドルイド魔術などが学ばれている。
しかしイルミンスールはだいぶん現代化しており、大多数の生徒・教員にとってクリスマスはクリスマスで問題なかった。

しかしク神科の預言者ともいえるハワード・フィリップス・ラヴクラフトはこの日を特に「ユールタイド(ユールの祭日)」と呼び、これがクリスマスよりも古き『魔宴』の日であることを伝えようとしていたのだ。

「人々はユールの日をクリスマスと呼んでいるが、心のなかではそれがベツレヘムやバビロンよりもいにしえのものだと知っている。そればかりかメンフィスよりも古く、人類よりも古きものだと」
(H.P.ラヴクラフト『魔宴(The Festival)』より)

イルミンスールと特に関係のない小倉珠代がこの語を用いたのは、古典を重んじるイルミンスール生や、ク神科にとって看過しかねる出来事であった。


コウは戦いの行方を占おうとタロットを引く。
一般的に使われる『マルセイユ・タロット』ではなく、『トート・タロット』と呼ばれるタイプのものだ。
引いたカードは『欲望』。通例『力』に当たる札だ。

「さすが大淫婦、男の心を惑わせる美しさだ。
 それではこちらからいきますよ。
 参れ、『這いよる混沌』よ!」

エッツェルは相手を見て、瞬時に戦術を練る。
ネクロマンシーの影響で光輝属性に弱くなっているのだが、大淫婦が光の魔法を使うとも考えにくい。
そこで防御にはあまり注力しないことにして、先手を打つことにしたのだ。

エッツェルの体から粘液めいた黒いなにかが生じ、それが無数に分裂してバイベロンに絡みつく。
バイベロンは不思議と喜悦の表情を浮かべている。
べとつく粘体に絡みつかれた大淫婦の姿を見て、観客の半分くらいが興奮してどよめいた。

勝ちを確信したエッツェルは、骨のような翼をはためかせて一気に接近する。
その右手を突き破って、無数のナイフが生えた触手が飛び出し、バイベロンの体を辱めた。

「他愛ないですね」
そういって振り向いたエッツェルだが、何やら観客の様子が変だ。
止めをさしそびれたかと思い、再度バイベロンに向き直るエッツェル。


眼前で、巨大な『けだもの』が口を大きく開けていた。


黙示録において、大淫婦は「巨大な黙示録の獣」に騎乗していると描かれる。
この黙示録の獣を召喚し、騎獣とするのがバイベロンの秘術であったのだ。
名付けて『アポカリプス・なう』。

がぶり。
ぷらんぷらん。
ぼとり。
むしゃむしゃ。


勝敗は語るまでもなかろう。
そのとんでもない光景に、一部では「エツられる」という謎の動詞が使用されるようになったとか、ならなかったとか。


使用例:
「2組の鈴木が藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)にエツられたらしいよ」


「うわー、大変だよ!
 黙示録の大淫婦にエッツェル君がエツられちゃったよ!!
 どうすんの!?」
と珠代に詰め寄っているのは、これまたク神科のカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)である。

「だいじょうぶ、こんなこともあろうかと医務室に専門家を呼んでおいたから(たぶん)」
珠代はそういうと、エッツェル(だったもの)を引っ掻き集めて医務室に持っていった。