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ユールの祭日

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●●● 月光の女

さてカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)がエッツェルの問題をどうにかすると、ちょうど八坂 トメ(やさか・とめ)讃岐 赫映(さぬき・かぐや)の対決が始まるところであった。

カレンはいそいそと荷物をほどき、巨大な垂れ幕を取り出して観客席に飾りつけた。

「目指せ! 英霊の頂点 八坂トメ」

青地に白文字でデカデカと書かれている。

「いやー、トメさんのことは忘れてたわけじゃないんだけど、ついついお留守番してもらうことが多くなっちゃって……
 でもシャンバラ大宮殿での晴れ舞台だもんね、全力で応援するよ!」

しかしトメさんは恥ずかしそうである。
「うう……トメさんっておばあちゃんみたいな名前だから、あんまり大きく書かれると恥ずかしいよぉ……」


一方の赫映陣営。

「これはあまり無い機会なのでしょう? 多くの英霊達の姿を拝見したいものですわ」

三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)の主たる興味は英霊の存在そのものにあった。
英霊は過去の英雄や偉人の霊魂が、150年以上の時を経てパラミタに再出現したものとされている。
しかしその過程で後世の伝聞の影響を受けたり、あまつさえ分裂することまである。
これは果たしていかなる事象か。

さらにもう一点、のぞみの興味の関心はパートナーである赫映にも向いていた。

赫映の記憶が確かであれば、その素性は竹取物語において描かれた『かぐや姫』であるという。
もともとは月に住んでいたとも。

「かぐや姫って実在した人なのかな?」
医務室から戻ってきた珠代は、たまたま近くを通った宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)を捕まえて、話半分に聞いてみた。

「古事記には『迦具夜比売命(かぐやひめのみこと)』という女性が登場するわ。
 これがかぐや姫伝説の原典のひとつではないかという説があるの。
 他にも何人か、モデルではないかとされる人がいるけど。
 そういうモデルになった人が竹取物語の影響を受けて英霊化すれば、そういう記憶や能力になっても不思議はないわね。
 まあひょっとしたら、ニルヴァーナ人が英霊になったのかもしれないけど……」
「へえ」


両者とも、見たところは古風な日本のお嬢様といった身なりである。
しかし見た目で判断すると、どんな秘技が繰り出されるかわかったものではない。
赫映は相手の出方を見てから反撃にうつろうと、様子見の姿勢だ。

対照的に、トメは日頃のストレス発散とばかり、その必殺技を繰り出した!

「それじゃこっちから行くよ!
 必殺! 御柱カーニバル!!」

トメが叫ぶと、四方から巨木が現れ赫映に襲いかかる!

諏訪神社に祀られる八坂刀売神(やさかとめのかみ)、それがトメの正体である。
建御名方神(たけみなかたのかみ)の神妃であるという存在だ。
その諏訪大社で行われる『御柱祭』を元にした技である。

「また柱か……!」
得体のしれない符合に、白砂司は戦慄した。

襲い来る四本の柱をみて、赫映の心に恐怖が芽生えた。
かつて五人の貴公子に執拗に迫られたときのことを思い出したからだ。

「なに、この記憶は……!?」

恐怖が赫映の精神を超え、トメにまで伝播したのだ!
これが赫映の必殺技「恋のトラウマ」であった。

しかしトメは元人妻である。
恋愛のトラブルはさらにひどいのを経験済みであった!

「その程度で! 必殺の電撃!」
「きゃっ!!」

人生経験の差? でトラウマを乗り越えたトメの勝利であった。