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海の都で逢いましょう

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●ビーチでビッグなBBQ!(4)

 クレアや葵がビーチバレーを楽しむ光景を、黙って見つめている姿があった。
 安徳 天皇(あんとく・てんのう)だ。目で白球を追いながら立ち尽くしている。
「やりたいのか? バレー?」
 背後から声をかけられ、安徳はびくっと身をすくませた。緑の髪をクラゲのように、ふわっと回転させて振り向く。
「久しぶり。最近はいろいろあって天学を離れる事が多かったからな……宝剣の一件以来になるか?」
 と微笑するのは神条 和麻(しんじょう・かずま)だった。パーカー姿で腰には水着だ。彼のトレードマークたるツンツン髪が潮風にはためいていた。
「いや、わらわはただ見ていただけじゃ」
 取り繕うように安徳は言うも、その口調がすでに駆け足気味で目も泳いでいるではないか。
「へぇ、それならいいんだけど」
 和麻はわざとらしくそんな言葉で一旦話を終えると、今度は安徳の姿をしげしげと見た。
「それはそうと、水着で来たんだな。似合ってるぜ」
「そそ、そうか……」
 安徳は気恥ずかしに俯いてしまった。意外と、このようにストレートに褒められるのには慣れていない様子だ。
 彼女が着ているのは青と黄色のストライプ、それも、腕と脚もぴったりと包むタイプの水着だ。ちゃんと腰のところにネームタグが縫い付けてあるところを見ると、借り物ではなく家から持ってきたものと思われる。
「ところで、水着でも髪飾りは外さないのか?」
 和麻の言う通りで、安徳は金の髪飾りをつけたままなのである。恐らく純金製なので、豪奢ではあるがどことなく重そうだ。
「うむ……まあこれをしておらんと落ち着かぬでの」
「見たいな」
「なにをじゃ?」
「外したところ」
 和麻が口にするとこの何気ない台詞も、なんだか艶やかなのである。我知らず安徳は赤面してしまっていた。
「見せて、って言ったら怒るか?」
「お、怒りはせん……」
 と言ったあとになにやらゴニョゴニョ、安徳は呟いたがそれを彼は聞き逃さない。
「うん? なんて言った?」
「怒りはせん、と言ったぞ」
「いや、その後にさ」
 まるで臣下のように、彼は彼女の足元にひざまずいた。
「なんて言ったか教えてほしいな。俺の姫様」
 笑みこそたたえているが口調は真摯だ。そんな彼に安徳はますます頬を暑くしてしまう。もし今彼にデートの申し込みをされたら、勢いで「良いぞ」と言ってしまうかもしれない――そんな惑いを抱きつつ、安徳はつっかえつっかえ応えたのである。
「和麻の頼みなら見せてやってもいい、と言ったのじゃ。おぬしには……その……世話になったからのう」
「ありがとう。けど、無理にとは言わないから……」
 しかし和麻が言葉を終えるより先に、安徳はその大仰な髪飾りを外していた。
「どうかの」
「ああ……印象が変わるな」
 けど、と言って彼は彼女の頭を優しく撫でたのである。
「可愛いことに変わりはないな。本当に」
 ところでバレーやらないか、ごく自然に和麻は言った。
「あそこで遊んでる人たちに仲間に入れてもらおう」
「いやしかし……」
「いいっていいって、せっかく重い飾りを外してるんだ。この機会に運動しなきゃ損だろ?」
 と言うそばからもう、彼は安徳の手を取りもう片方の手を南たちに振りながら小山内南たちに呼びかけていた。
「バレー、俺たちもやらせてもらっていいか?」