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海の都で逢いましょう

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●ようこそ交流会へ!(2)

 空はこんなに青いのに。
「……」
 海はこんなに綺麗なのに。
「…………」
 海産物だってたっぷりと、獲れたと聞いているのに。
 なのになのに、なぜにこんな雑用をやらされているのか――村雲 庚(むらくも・かのえ)はなんとも不満であった。黒のサーフパンツにパーカーを羽織るという、実にバカンス向けの格好で着ただけに不満もひとしおだ。
 日頃の素行不良の罰として、彼はバーベキュー会場の案内係をやらされているのだった。仕方なく、『BBQ会場』と書かれたボードをだらりと持ちつつ、会場はあっちだ。と親指で会場を指したりして来場者を誘導している。
「カノエくん、さっきから黙って見てたけど、やる気なさすぎ!」
 庚のパートナ−、壬 ハル(みずのえ・はる)が我慢できなくなったように声を上げた。
「そらそうだろ。めんどくせぇし」
 大欠伸して彼は、海京の全体図と施設案内、その歴史等が表示されているディスプレイにもたれかかった。ほんのり生温かいディスプレイは、今の気分にちょうどいい生ぬるさだ。
「だめだってばカノエくん、そんなんじゃ罰にならないじゃない! ほら、あたしも手伝ったげるからちゃんと案内しなさいよ。天学の解説もやるって話でしょ?」
「めんどくせぇなぁ……ま、一応解説もやれないことはないが」
 ちょうどそのとき、
「じゃあ解説頼める?」
 と呼ばわる少女の姿があった。蒼空学園の制服、凛々しい表情、すっくと伸びた背からも、真面目な性格がうかがえようか。彼女は蒼空学園の新入生、夏來 香菜(なつき・かな)だ。口元のほくろが色っぽい香菜はかなりの美少女ぶりだが、それを特に注目するでもなく庚はやはり面倒そうに言った。
「ああ、じゃあ解説な……」
 一応は覚えてきた内容を語る。
「天御柱学院は2011年……日本政府によって契約者とそのパートナーを集め、日本本土に設立された。卒業生は後に設立された蒼空学園の教員を務めたりしている……蒼空学園の山葉涼司校長が良い例だ……」
 さすがによく覚えている。口調はゆったりしているがすらすらと言葉が出てきた。
「その後、契約者とそのパートナーの育成が蒼学メインになってからは、日本に残りつつパラミタの問題に取り組む生徒が多く入学した。海京に移設したのは2020年……今から2年前だ」
 なお、彼の解説にあわせて、3Dディスプレイに次々と写真や絵が表示されていく。このディスプレイ操作を行っているのはハルなのだ。
「それから先は知っての通り……イコンを伴い、シャンバラに属する事になる現状は、イコン操縦者育成が主な役割と言ったところか。現在の校長はコリマ・ユキガール……ッ!?」
 このときスパーンと良い音がして、香菜もぎょっと目を丸くした。
「カノエくんそこ間違えちゃだめでしょ!?」
 ハルがつっこみのローキックを入れたのだ。ピッチングマシーンの投球フォームを水平にしたような、疾風迅雷正確無比なる回転蹴りである。
「ユキガール じゃなくて ユカギール だよ! ていうかユキガールって何!? 森ガール亜種なの? 白いの? まったくもーまったくもーだよ!」
 これで少し目が覚めたらしく、イテテ、と本当に痛そうな顔をして蹴られた脚をさすりつつ庚は解説を再開した。
「そう、コリマ・ユカギール……ユカギールだ。
 後は施設だが……他校に比べ、持ち前の科学技術を生かした施設が多い。美術室にはモーションキャプチャーが……何に使うんだコレ……」
「もー、寝ぼけたこと言わないでしょ。イコンの動作を人間に近づける研究用に決まってるじゃない、っていうか先週の授業で使ったってば!」
「その授業……寝てたからなぁ」
 くるりとハルは香菜に振り返って告げた。
「ごめんねー。こんな不真面目な生徒は天学のごくごく一部だからねー!」
「一部なもんか。そのときは後ろの席一列が揃って……」
「余計なこと言わないのっ!!」
 などとなんだか漫才のような解説になったが、いつの間にやら香菜もペースに引き込まれ、あははと笑った。
「ありがとう。あっ、そろそろパートナーと待ち合わせの時間だわ」
 また会場でね、と香菜は手を振った。
 その後ろ姿を見送る庚は、いつの間にかまっすぐ立っている。
「ほらカノエくん、ちゃんと仕事するといい気持ちでしょ?」
「まあ……そうかもな」
 庚は否定せず、今初めて気づいたようにハルの姿をじろじろと眺めた。
「な、何よ!?」
 朝からこの格好だが、改めて観察されると頬が熱くなるハルだ。黒のドット柄スカート付きビキニ、惜しげもなく長い脚をさらしている。黒が基調だけに肌の白さも印象的と言えようか。
 年頃しては控えめな胸元を隠すようにして、ハルは上目づかいで言った。
「な、なんかついてるの……!? そんなに真剣に見て」
 恥ずかしいじゃない、と、小声でゴニョゴニョ言うが、カノエが見ているのはハルの体ではなかった。
「ところでハル……水着の時ぐれぇ帽子脱げ」
 彼はずっと、彼女のキャスケット帽を見ていたのである。
 再びスパーンと良い音がした。ローキック第二打の炸裂だ。
「どこ見てんのよ!」
 と、言ったはいいが、じゃあどこを見ろというのかと、気になりだしたハルは慌てて付け加えた。
「いいの! これはあたしのトレードマークなんだから!」