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第12試合

 
 
『第12試合、イーブンサイド、富永 佐那(とみなが・さな)パイロット、北条 氏康(ほうじょう・うじやす)サブパイロットのクレーツェトです。
 オッドサイド、鋼竜。こちらはAI制御となります』
 クレーツェトはイーグリットをベースとしたものだが、かなり極端な白兵戦特化型のカスタマイズが行われている。そのため、動きを重視したフォルムは脚部や碗部が異様に長くなっており、その挙動によるトリッキーな機動が売り物となっていた。四つ目のプルシャンブルーの機体は、人形と言うよりも進化したトカゲのようだ。背中にはレーザーマシンガンの機構を内蔵ギミックとして持たせた大型のバスターソード、爪先に装備されたビームサーベルなど、暗器系の武装が中心となっている。
 鋼竜は対空対地に特化したイコンで、対空ミサイルや近接用のマシンガンやシールドが基本武装となっている。
「作戦地点にしたようじゃな」
「出ます。BGMよろしく」
「了解しておる」
 富永佐那に言われて、北条氏康が何やら指示を出した。とたんに、重厚なクラシックのBGMが大音響で流れ出した。
 飛空艇のハッチが開き、すべり降りるようにクレーツェトが投下される。すぐに富永佐那が姿勢を制御すると、北条氏康が索敵を開始した。
 眼下のビル群の陰に敵機の反応がある。同時に、対空ミサイルがクレーツェトめがけて飛んできた。
 素早く回避行動を取るが、律儀にミサイルが追尾してくる。
「ウラァー!」
 雄叫びをあげて、富永佐那がミサイルを蹴った。足先のビームサーベルが、ミサイルを真っ二つにする。爆炎を飛び退るようにして急降下すると、クレーツェトが、ビル屋上を四肢で掴むように着地した。
 即座にマシンガンの銃弾が浴びせられる。跳躍するかのように、クレーツェトが別のビルに飛び移った。
「敵は……」
「移動中……。背後のビル陰に移動しようとしているようじゃな」
 富永佐那の問いに、北条氏康が答えた。
「なら……」
 ビルの上で、クレーツェトがすっくと立ちあがった。絶好の的だ。当然のように、鋼竜が姿を現して銃撃してくる。
 だが、その瞬間ジャンプしたクレーツェトが伸身の宙返りをした。抜き放ったバスターソードの刀身が左右に開いて、内装されていた銃口が露出する。パルスレーザーが降り注ぎ、鋼竜の動きが鈍った。そこへ、降り立ったクレーツェトが閉じたバスターソードを叩きつけた。背部からコックピット部を破壊された鋼竜がそのまま倒れて動かなくなる。
 
    ★    ★    ★
 
『勝者、クレーツェトです!』
 
 
第13試合

 
 
『第13試合に参りましょう。
 イーブンサイド、織田 信長(おだ・のぶなが)パイロット、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)サブパイロットによる、六天魔王
 オッドサイド、フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)パイロット、十七夜 リオ(かなき・りお)サブパイロットによる、メイクリヒカイト‐Bstです』
 六天魔王は、ヴァラヌスをベースとしているが、そのシルエットは二足歩行の人形である。まだまだ日々魔改造を加えられているこの機体は、漆黒の巨体の各所にビーム砲を備え、大型のヴリトラ砲を背負っている。マントに蛇腹の剣という出で立ちは騎士のようでもあるが、そのシルエットは異形の戦士というところだ。
 対するメイクリヒカイト‐Bstは、ジェファルコンをベースにしている。こちらも、日々改造を加えられている発展途上の機体だ。肩のビームウイングを腰部に移し、ヴァリアブルスラスターとして機動力を上げ、イコンホースを改造したブースターを肩につけて推力を強化している。最終的には宇宙での運用を目指しているらしい。
「各部モニタリング開始。駆動部エラーなし。FCSエラーなし。エネルギー伝達エラーなし。出力安定。さて、――準備はできている、フェル?」
『――万端』
 機体チェックを終えた十七夜リオに聞かれて、フェルクレールト・フリューゲルが短く答えた。
「出します」
 フロントゲートを開いて、メイクリヒカイト‐Bstが格納庫からフィールドへと出た。
「霧!?」
 外は一面の白い世界だった。おそらくは、タシガンあたりのデュエルスクエアのステージであろうか。
 その霧の中に、赤い輝点がいくつか浮かびあがる。
『――先手必勝だよ!』
 十七夜リオにうながされて、フェルクレールト・フリューゲルがメイクリヒカイト‐Bstに腰だめに構えさせたツインレーザーライフルを発射した。霧の中に、鮮やかな二本のレーザーの軌跡が浮かびあがる。その一つが、クンと角度を変えた。
「いきなりか!」
 奇襲を受ける形になって、桜葉忍が叫んだ。
「なんの。このときのための、モーションパターンだろうが」
 アンチビームファンで攻撃を弾き返した織田信長が言った。だが、弾かなかったもう一本のビームは、機体ぎりぎりの所をかすめている。
「手加減などしたら相手に失礼じゃからな、どんな相手だろうと全力で相手をするぞ! 反撃じゃ!」
 六天魔王の機体各所の結晶体からビームが発せられる。だが、攻撃後にすぐに回避行動へ移っていたメイクリヒカイト‐Bstは、易々とそれを回避していた。
「これじゃ、敵の正確な位置がつかめないな」
「ならば、分かるようにするまで」
 六天魔王が、軽く交差させた腕を広げてメイクリヒカイト‐Bstのいる方向にむかって突き出した。嵐の術式によって、周囲の霧が激しく渦巻いて消し飛ぶ。だが、それを追い風とするかのようにメイクリヒカイト‐Bstがブースターを全開で六天魔王にむかって来た。
『――ダメージ軽微。今だよ、フェル!』
 加速したメイクリヒカイト‐Bstが、かすめるようにして六天魔王の横をすり抜けた。即座に回頭した六天魔王が蛇腹の剣を抜く。そこへ、メイクリヒカイト‐Bstの突撃前にミサイルポッドから後部へと放出されたミサイルが追いかけるようにして命中していった。直撃をくらった六天魔王が誘爆を起こして吹き飛ぶ。
「馬鹿な!?」
 完全に虚を突かれた織田信長が、シミュレータの中で呻いた。
「うーん、負けてしまったか。……でも、楽しかったじゃないか」
 言いつつも、少し残念そうに桜葉忍が織田信長に声をかけた。
 
    ★    ★    ★
 
『勝者、メイクリヒカイト‐Bstです!』