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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

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第1章 仲秋の一日

 強かった陽射しが、柔らかくなり。
 夜の風は心地良い温度に変わり、過ごしやすくなった。
 疲れた体を休めながら、ほっと息をついて。
 人々は秋の一日を過ごしていく。
 今日は、何をしようか。
 秋の味覚を堪能しようか。
 紅葉を見に出かけようか。
 それとも……。

○     ○     ○


 数週間前に、シャンバラ宮殿近くの野外ステージで、人々の心を奪う旋律が奏でられた。
 心を失った人々は、祈りを捧げる女王のアイシャの元を目指して、シャンバラ宮殿に押し寄せてきた。
 ロイヤルガードや警備兵、契約者達が盾となり、壁となり人々を阻んで、抑え。
 原因を知る者達により、事件は終息へと向かった。
 傷ついた人々が癒えていく中、宮殿の修繕や整備も進められて、秋を迎えた今、随分と落ち着きを取り戻していた。

 大好きなアイシャ
 愛するアイシャ
 君を想う人々や君に捧げる曲が復活して、市民達の暴動は無事に収まったよ
 もう心を痛めなくていいよ
 皆無事だ、大丈夫だ
 アイシャのおかげだよ


 リア・レオニス(りあ・れおにす)は、整備の指揮をとりながら、アイシャに優しい言葉をテレパシーで送っていく。
(俺の祈りで少しでも君を癒す事が出来たらいいんだがな……)
 アイシャからは返事はない。
 彼女が思いの全てを、シャンバラの――パラミタのために使っていることをリアは理解しているので、返事を求めるようなことはしなかった。
 毎日、彼はシャンバラの様子や、他愛無い話をアイシャに送っている。
 返事が欲しいからではない。
 ただ、伝えたいから。
 彼女が愛する世界の様子を、人々のことを。
 彼女の精神集中を乱すようなことはしたくないから、ごく短く、彼女に話しかけていた。
「リア、皆さんお集まりですよ」
 レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)の声に、リアははっとして顔を上げる。
 宮殿の庭園に、空京に住まう人々が集まっていた。
 レムテネルは政府の許可を得て、マスコミも通して人々に伝えていた。宮殿で、修繕作業が行われていること。荒れた敷地の様子を。
 その情報を見聞きした人達の中に、修繕を手伝いたいと申し出る者がいた。
「多くの人が集まってくださいましたね」
 レムテイルの言葉に、リアは強く頷く。
「皆同じ気持ちなんだよな。あんなことは、二度とゴメンだ」
「ああ、殴られたのと違うところも痛かったよな」
 共に宮殿を護ったザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)が思い出してため息をつく。
 だが、今目の前にいる市民達の目は、あの時向かってきた人々のように虚ろではなくて。
 宮殿を整備しようという意欲に満ちていた。
「皆、ありがと! ……ありがとうございます」
 リアは集まった人々に、礼を言って、頭を下げ感謝を表した。
 それから、道具を配って、庭園の整備を始めていく。
 まずは踏み躙られて、枯れてしまった花を回収し。
 土を整えた後は、花を植えていく。
 秋の花と。
 それから、春の花の種や球根も。
 人々と一緒に、丁寧に庭園を整えていく。

「……いや、サボッてるわけじゃないから、睨むなよ」
 ザインが自分を見ているレムテイルに言った。
 ただ見守っているだけのザインを、作業をしながらレムテイルが無言で睨んだのだ。
「土いじりは趣味じゃないからな。けど……っとサンキュ」
 運ばれてきたリアカーを受け取り、そこからザインの作業が始まる。
 庭園に落ちていた瓦礫や石を、ザインはリアカーに乗せてリアの方に向かった。
(この石をアイシャのいる場所に向かって投げたのか。……操られた市民に罪はないと分かってても苦しいな)
 リアは花壇に埋まっていたこぶし大の石を取り出して、悲しげな目をしている。
「ほら、こっちによこせ。遠くに捨てちまおうぜ」
「……ああ、頼む」
 ザインが言い、リアは吐息をついて笑みを浮かべると、リアカーに石を入れた。
 山積みになった瓦礫と石を運んで、ザインは焼却炉の方へと向かう。
「無理に重い物、持とうとするなよ。力仕事なら契約者のオレ達を呼べ。手を貸すぜ」
 そう人々に声をかけると「お願いします」「助かるよ」「細かい作業は任せてくれ」と、人々が答える。
「そうだよな……やっぱり、これが普通だよな」
 リアが安心したように笑みを浮かべる。
「市民の皆さんにも、事情は伝わっていますから……。自分達が操られて起こしてしまったことを、辛く感じている人も沢山います。そんな方々の罪の意識が、少しでも軽くなるといいですね」
 レムテイルがリアにそう声をかけた。
「そうだな」
 そして、そんな人々の姿や思いは、彼女に――アイシャに届けば、彼女の力と、シャンバラの力となるだろう。
(アイシャ、君の大切な人達の心が、君の元に戻ってきたよ)
 額の汗をぬぐい、人々と微笑み合い。
 そして、短く優しくリアはアイシャに言葉を届けた。