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ヴァイシャリー湖豪華クルージング・4

フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)が、
恋人のフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)
ヴァイシャリー湖クルージングに誘ったのは、
地球で名門貴族だったフレデリカに配慮してのことだった。

地球での暮らしの一端を思い出せるようにと、
そう考えてのエスコートだった。

「ヴァイシャリー湖から見えるシャンバラの景色、雄大なんでしょうね」
「フリッカさんに楽しんでもらえるといいんですけど」
胸をときめかせるフレデリカに、フィリップが微笑を浮かべる。

つきあい始めたばかりの2人にとって、
ひとつひとつの思い出はかけがえのないもので、
フィリップに誘われた時、フレデリカは天にも昇る心地だった。

「今日のドレス、とっても似合ってます」
「ありがとう……!」
やや赤面しながら言ったフィリップに、
フレデリカも、頬を紅潮させる。
特別な時間が、始まろうとしていた。

「わあ、すごい……!」
広大なヴァイシャリー湖の水平線の向こうを見つめ、フレデリカは息を飲む。
次の瞬間、左手にぬくもりを感じ、
フレデリカの鼓動が高鳴る。
(フィル君……)
隣にいるフィリップが、手をつないでくれたのだ。
視線を送ると、フィリップも、頬を赤らめている。
彼にとってもそれなりに勇気のいることだっただろう。
だからこそ、余計に、フレデリカはフィリップの気持ちがうれしかった。

やがて、フィリップが、つないだ手を放す。
(あ……)
残念に思い、フレデリカが振り返ると、
フィリップが、緊張した面持ちで言った。

「僕と踊ってくださいませんか?」
「……喜んで!」
差し出されたフィリップの手を、フレデリカが取る。
その姿は、淑女然としていた。

ダンスが始まる。

社交ダンスの心得はあるフレデリカだが、
身体が密着していることの緊張から、実力が出せない。
フィリップも裕福な家の出身なので、社交ダンスの素養はある。
だが、それはフィリップも同様のようだった。

「あっ」
ステップを踏みちがえて、フレデリカがフィリップに倒れ掛かる。
「フリッカさん!?」
フィリップが慌てて、転ばないように支える。
しばらく抱き合うようになっていた2人だが、
すぐに慌てて離れる。

「ふふっ」
フレデリカが、楽しそうに笑った。
「フィル君のこと、好きすぎて……緊張しちゃったみたい」
「……僕もですよ」
2人はくすくすと笑い合い、幸せな時間が過ぎていくのだった。